36話 ヘルベルクへ
ヘルベルクに向かうメンバーが決定する前。俺は襲撃してきた内の一人を解放して国に返しておいた。
三人を縛り上げたままにして日程も知らせずにいきなり交渉に行くのは、向こうも対応に困るだろうと思ったからだ。
そこで俺は話を聞き出した鬼の青年が事情を一番を説明できると考え、そいつを開放しておいた。
そしてメンバー決定から旅立つ準備をした次の日の朝。
俺達は皆に見送られていた。そんな時、ウルが俺に近づいて来た。
「ジンの配下に加わりたいって狐人族が来てるわ」
狐人族。ウル達の進化前の種族である。
詳しく話を聞いてみた。
どうやらウル達以外にも狐人族はこの森に幾らか纏まって住んでおり、その中の一つの集落の者が俺達の村作りを目撃して何事かと尋ねたそうだ。
そこで俺の存在を知り、自分達も加わりたいと。
なんでも【災害竜】の出産による森への影響で、魔物が強くて困っていたらしい。
「私達の集落と関係があった集落なのよ。加えてくれない?」
ふむ。知り合いが苦しむ姿は辛いだろう。
まあ、それ以前に信用出来る奴なら配下に入れるくらい全然構わない。
「信用出来る奴等なら良いぞ」
「ありがとう。信用に関しては大丈夫。付き合いの長い人達だから。それじゃあ許可が出たって言っておくわ。しばらくしたらこの村に来ると思うわ」
「分かった」
話を終え。俺達は出発した。
移動手段は空飛ぶ石版を俺が引っ張る方法である。俺が空を飛ぶと、鬼の二人は驚いていた。
因みに、捕まえてすぐの時、[畏敬]を喰らった女は俺を見る度に震えていたのだが、今で俺をキラキラした目で見つめてくる。
どうやらヘルベルクにまで布教しようと考えたバル達によって信者に変えられてしまったようだ。あいつらはどこまで俺を祭り上げるつもりなんだ。
今回は急ぎでは無いのでゆっくりのんびりと移動中である。
速く行って連絡役の青年を追い抜いても意味ないしね。
とはいっても恐らく走るくらいの速度はあると思う。鬼の青年も同じくらいの速度だとしたら、俺達とは丸一日差くらいでヘルベルクに着いているだろう。
森を移動していると夜になり、野宿になった。
とはいっても俺が石版を引き続けるので移動は問題なしである。
出発した次の日の夕方。俺たちはヘルベルクに辿り着いた。
「案内させて頂きます!!さあ、こちらへ!!」
信者になってしまった鬼の女が笑顔で先導する。
俺達は頷いて付いて行った。
もうひとりいた男は到着を知らせると言って先に行った。
辺りを歩く人を見れば、ウルと似ている和服のような服装だった。ウル達は時々買い物に来ていたらしいので、こういった服を着ていたのかもしれない。
大きな城が見えてきた。形は日本の城を連想させる物だ。町の建物も昔の日本を連想させるものなので、どうやらこの国は古い時代の日本に似た作りのようである。
城に向かう大通りを歩いていると、辺りが段々と暗くなって来た。すると、所々提灯のような物が光り始めていき、夜になる頃には淡い光で包まれた道が出来上がっていた。
どうやらあの提灯は普通の提灯では無いようだ。光量が全く違う。電球の提灯版のような物のようだ。
辺りを見てみれば、屋台の前に数人で集まって酒を飲んでいる人や、家族で食事をしている人がいる。皆仕事終わりで気を抜いている状態なのだろう。
進んでいくと、次第に町並みが豪華になってきた。城に近づく程立派になるようだ。出ている店も高そうである。
そう思って見ていれば、なんと寿司屋を発見した。テンションがガッツリ上がった。まさか異世界で寿司が食えるとは思っていなかった。和食が期待できそうである。
俺以外のメンバーも辺りに気を惹かれ、顔をあちこちに向けている。フィアやルインは分からないが、クロナやセキトはほぼ確実に初めてのはずだ。気にもなるのも当然だろう。
しばらく歩き続け、城に付いた。
中に足を踏み入れると右側に浴衣姿の女の人。左側に刀を腰に付けた男の人が並んでおり、一斉に頭を下げて来た。
突然の事で少し戸惑っていると、奥から数人を引き連れた少女が出てきた。
シンプルでありながら、気品を感じる着物を羽織っている。身長は低めの150cmくらいだろう。手足は細いが、不健康という印象は受けない程度の細さで、筋肉もある程度はあるように見える。
髪は艶のある緑の黒髪で、膝ほどまで伸びている。顔は小さいが、クリンとした大きな目をしている。パーツは上手く顔に配置され、頬はほんのりと赤い。
額には鬼の証である角が見える。周りの物に比べて大きく、まるで真珠のように真っ白で綺麗な光を放っている。
大きく言って、幼さと愛らしさを感じる美少女だった。
信者の鬼がその姿を確認して頭を垂れた。
何者かと思いながら少女を見ていると、少女は微笑みを浮かべながら口を開いた。
「ようこそお越しくださいました。私はこの国の王。ベニバナ・ヘルベルクです」
ふむ。王様か。こんな小さな子が?う~ん。まあ、色々あるのか。歴史で言えば摂政とかあるしね。
しかし……いきなり王様か。どうやって返事しようかな。やっぱり威厳ある感じかな?こう……「我はジンである!!」みたいな?なんだか恥ずかしいな。一歩間違えば黒歴史になりそう。気合入れすぎずに威厳ある感じ。これを目指そう。
だが、その前に……。
俺は少女を見る。パッと見怯えていない。周りの奴等は少し警戒気味な所が見て取れるから分かるが、俺を初見で怖がらない奴は滅多にいないため、少し気になる。
自分で考えておいて虚しくなるな……。
とりあえず足から見てみる。何も無し。そこから少し視線を上げる。と、すぐに発見できた。手に爪を食い込ませている。
おおう……痛そう。血とか滲んで無いけど、結構力が入っている。これは止めるべきだな。
「空の黒騎士。ジン・ミクモだ。力を抜いてくれ。そのままだと血が出てしまうぞ?」
しっかりと空の黒騎士と言っておく。称号が出ないのは知名度が足りていないからだと、フィアに教わったのでアピールしたのだ。
俺は王。ベニバナに忠告した後、手を指さす。
するとベニバナは気付いていなかったのか、ハッと少し驚いて手を後ろに回した。
「お見苦しい所を見せてしまい。申し訳ありません。他の方のご紹介もして頂けますか?」
「ああ。構わない」
俺はそう言ってフィアに顔を向ける。順番で行けば次はフィアの紹介で良いだろう。
フィアが頷き、口を開く。
「フィア・ネイロン。【無限多重の魔女】よ」
そう紹介した瞬間。辺りがどよめいた。
小さな話声が聞こえる。
『ま、まさか本物なのか!?』
『あれが伝説の魔女か』
『殺され……ない、わよね?』
『あ、当たり前よ。ここには騎士達が大勢いるのよ?』
『そ、そうよね。きっと……きっと大丈夫よ』
ざわめきの中、ベニバナがフィアに言う。
「む、【無限多重の魔女】様でしたか。よく来てくださいました」
目が少し泳いでいる。
これだけ驚かせるって……お前昔どんな奴だったんだよ……。
そんな騒がしさを無視してルインも自己紹介する。
「私はフィア様の使用人。ルイン・ネイロンっす。【人形掌握の魔女】って呼ばれてるっすよ」
おい、使用人。王に向かってその話し方で大丈夫なのか。
またもや話声が聞こえる。
『あの人形の軍隊を作り出すと言われる魔女か?』
『ああ。死を恐れない兵士の軍団だ』
『そんなものが暴れでもしたら……』
『私達死なないわよね?ね?』
『……いざとなったら私達は王様の盾になりましょう』
…………大丈夫なのね。
「に、にに、【人形掌握の魔女】様まで……、ありがとうございます」
あー。王様の顔がみるみる青く……頑張れ。
流れでクロナが自信とセキトの紹介もする。王は対応しているが、周りの奴等は魔女二人の話題でいっぱいだ。
「少し……いいですかな?」
こちらの紹介が終わった後、ベニバナの後ろにいた老人が手を上げた。
「何だ?」
「空の黒騎士様は【無限多重の魔女】様と【災害竜】様達と協力関係にあるとお聞きしました。どれほどの実力なのか気になりましてな。出来れば少しでも良いので、見せて頂けませんか?」
今、俺は魔力を押さえて存在感を薄めている。
体内の魔力は測る事が難しく、体から放出されるもので判断する事が多い。
因みにフィアは色々な手段で魔力量は騙しているらしい。全開の戦闘で少ないだろうと言われていたが、実はまだ結構あったらしいのだ。
「爺や!!失礼ですよ!!」
「しかしベニバナ様。お三方に並ぶ実力ですぞ。確認せずしてどうしますか」
「ですが無礼ではありませんか」
「言い争うのはやめてくれ。まあ、少しくらいなら見せても良い」
相手にタダで情報を晒す。これはやりたくない事だ。だが、今回は交渉に来ている。フィアとルインで既にこっちに流れは来ているが、主に交渉をする俺の強さを示す事で更に有利になるかもしれない。
「……いいのですか?」
「ああ。少しだけなら良いぞ」
「では、お願いできますか?」
「分かった。対象はこの場の全員。始めるぞ」
そう宣言し、俺はほどほどの魔力を出す。
普段、俺は魔力を押さえて存在感を薄めている。
体内の魔力は測る事が難しく、体から放出されるもので判断する事が多い。
そのため、俺は魔力の放出によってこれほど出せるという力のアピールをしているのだ。
因みにフィアは色々な手段で魔力量は騙しているらしい。全開の戦闘で少ないだろうと言われていたが、実はまだ結構あったらしいのだ。
さらに魔力の放出と同時、俺はこの場の全員に[畏怖]を使用する。
魔力の放出は存在感を出す。それと同時に[畏怖]で恐怖による存在感も出す。二つを同時に受ければ、[畏怖]を知らない奴は大量の魔力が出ているように感じるかもしれないと思ったからだ。
結果で言えば成功したと思う。ただ、思ったより驚かれた。
『ひ、ひぃぃぃ』
『うぅぅ』
『ぐ、はぁ。はぁ。』
『ぐっ……何と……』
『凄まじい威圧……』
並んでいる男たちの数人が腰を抜かし、立っているものは刀の柄に手を添える。
女の人達は酷かった。大半が座り込み、吐いている者までいた。
俺は少しやり過ぎたと思い。魔力を押さえながら[畏怖]を解いた。
「もっと抑えるべきだった。悪い」
「い、いえ。こちらが頼んだことですのでお気になさらず……」
そう言ったベニバナの顔は青を通り越して白くなりつつある。その後ろの者達は目を見開いて俺を捉え、それぞれ武器を構えている。
「構えるのをやめてくれないか?」
「へ?……あっ。皆止めるのです!!」
驚いてボーッとしていたベニバナが、俺の言葉で皆の状態を理解し、止めに入る。
「し、しかしベニバナ様……」
「スザク。止めるのです。頼んだのはこちらですよ」
ベニバナに言われ、スザクと言われた青年は背中の太刀の柄を握るのを止めた。
「申し訳ありません」
「良いさ」
「ありがとうございます」
そう言ってから、ベニバナは奥に向けて手を向けた。
「奥に出迎えるための準備が出来ております。来て頂けますか?」
「ああ。分かった」
俺達は警戒されながらも奥へと進んだ。




