35話 初の首脳会議
ヘルベルクと交渉をする事になったが、向こうの目的である俺の勧誘を受けるつもりは今の所無い。俺は今の皆で頑張っている生活が結構好きなのだ。
だが交渉では、こちらに迷惑をかけてきた事を理由に何かもらっておこうと思う。
出来れば建築技術が欲しい。今村には小屋が大量にあるが、嵐でも来ればほとんど吹き飛びそうだからだ。速く立派な家が欲しいものである。
縛り上げた奴等から交渉をする場所はヘルベルクにしてくれと言われた。なんでも、王をここまで外出させる許可が降りないだろうからという事だ。一国の王ってそんなものなのかな?
まあ、そういうことで俺がヘルベルクに向かう事になった。
そしてその事を報告するべく、この村初の首脳会議を開いた。俺はこの村の主なので、皆に伝えるべきだと思ったからだ。
会議の開催場所は屋敷の広間である。大きめの丸いテーブルを全員で囲むように座っている。
メンバーは幹部とその補佐。そして力のあるフィア、ルイン、ローレンである。
本来ならミュリエルも加わるのだろうが、子守で欠席である。因みに、赤ん坊が暴れれば嵐、赤ん坊が泣けば洪水。小屋の中はそんな事が起こるとんでも無い空間に化しており、最近二人は少しやつれた。だが笑顔だ。頑張れご夫婦。
そして現在。会議中なのだが───
「ジン!!私絶対行くからね!!」
「私もフィアさんに付いて行くっすよ!!」
身を乗り出して手を上げるフィアと、それに続くルイン。
「ヘルベルクなら行った事があるわよ。案内して上げる」
「ふん!!ヘルベルクなら私の方が知っている!!崇めるものとして私とチャノが案内する。もっと布教せねばならんしな」
「そうですよ!!私達にお任せください!!」
得意げに言い放つウル。そしてそれに反論するバルとチャノ。
「何があるか分からない場所ですのよ。私の力で反応を探っていれば不意打ちを防げて安全に過ごせますわ。だから私も行きますわよ!!」
「それならば言い争いから手が出た時、私の力の方が戦えるぞ!!それにお前はジンと旅をしたじゃないか。私は部下を纏め上げていて一緒に旅をしていない。今度は私の番だ。」
「私も魔法で補助出来ます。だからぜひ私も!!」
エリーナが理由を述べ、クロナが張り合い、リディアが二人に入り込む。
「……ハニーと子供達が待ってるんだ。帰っていいかい?」
困った顔でそう言うローレン。
とっても騒がしい会議になった。
……う~ん。どうしてこうなった。順番に思い出そう。
初めの方は、初の首脳会議と言う事で緊張感のある静かな空間だった。
そこに俺が襲撃の事を伝えた。皆は色々と考えるような素振りをしていた。
次に、俺が交渉に行って、出来れば帰りに何か買ってきたりすると言った。
ああ。ここからか。うるさくなったの。一気に表情変わったもんな。そこから誰が行くかって話で熱が入り、このぐだぐだ感。初めの緊張感を返して欲しい。
がやがやと煩いのでとりあえず止めてみる。
「は~い。静かに~」
ドラマとかで見る教師のように手を叩く。だが皆聞いてくれず、無視して自己主張を止めない。
反応があまりにも無いので、一発逆が滑ったような気分になった。なんだか恥ずかしい。
もう面倒なので、俺は[畏敬]をかなり手加減しながら全員に使ってみる。
[畏敬]は変化元の[人気者]よりも効果のある、人の意識を引き寄せる能力である。こういった時でも使える。ただ、その方法が恐怖によるものだが。
結果。皆が口を閉じて一斉に俺を見た。いきなりの大量の視線に、ちょっと驚いた。
「皆落ち着けよ。な?」
俺の言葉で皆は自分達が熱くなっていた事に気付いたようだ。身だしなみを整えつつ席に座った。そんな皆に俺は提案してみる。
「ここままじゃ拉致が開きそうに無いから、もう俺が決めていいか?」
実力者が一気に抜けると、何かあった時に不味い。ここはもう俺が決めてしまおうと思う。
そう思って尋ねてみると、フィアの手が上がった。
「なんだ?」
「結界にいた間に増えた魔法を知りたいのよ。私達を行かせてくれない?」
「なるほど。封印されていた間の魔法の知識か。けど、どうやって魔法を調べるんだ?」
「国の図書館に魔法についての本があると思うの。それを見たいのよ」
ふむ。ローレン達のように襲ったりされる事がこの先あるかもしれない。魔法に詳しいフィアが知識を更に深めるのはいいかもしれない。
それに、折角結界から開放されたのだから、色々したいのだろう。ここはフィアは連れて行こうと思う。
「じゃあ一緒に行くか」
「やった!!」
小さくはしゃぐフィアとルイン。
そこで俺は、気分の良い二人にお願いをしてみる。
「魔法に詳しい二人にお願いなんだけどさ。今度エルフ達に魔法教えてくれない?」
実は、エルフは全員魔法が扱えるというのに、防御と幻惑系以外は使えない者が多い。どうやら洞窟に住んでいた為、戦わずに逃げたほうが速かったからそうなったようだ。だが、エルフ達は住む場所をここに移したので、強くなって貰いたいと思っていたのだ。
そこで魔法に詳しい魔女二人に指導役をお願いしようと思ったのだ。
「別にいいわよ♪」
「私もいいっすよ。鍛えてあげるっす」
上機嫌のフィアはその美しい顔を満開の花畑のような笑顔に変えてそう言った。そこで見惚れてしましそうになったが、横にいるルインがちょっと悪い顔でニヤニヤしていたので正気に戻った。きっと修行として模擬戦等をする事を楽しみにしているのだろう。頑張れエルフ達よ。
「さて、後はどうするか……」
そう言って辺りを見回す。すると、激しく無言で自己主張する人物が目に入った。
「おお……なんだか久しぶりだな……」
セキトである。現在の立場はクロナの補佐である。
クロナの後方。部屋の隅の方にいる。両手を高く掲げ、ジャンピングスクワットのような事をし続ける。だが、着地などの音は全て上手く吸収しているのか音はない。恐らく緊張感を壊すまいとした努力だろう。
目に入れさえしなければ気にならないが、目に入るともの凄く気になる。主に声出せよとか、よく音出ないなとかそんな所で。
「セキト。そんなに来たいのか?」
質問に縦の激しい首振りで答えるセキト。整った良い顔がぶれまくりである。
「そうかそうか。まあ、お前とは一緒にいる時間とか少なかったしな。一緒に行くか」
セキトは派手にガッツポーズしてから、爽やかな顔で連続バク宙した。またもや音無しで。新体操選手も真っ青ではなかろうか。
驚き半分、呆れ半分でセキトを見ていると、クロナから声が掛かった。
「ジン。私の補佐が行くんだ。勿論私もいいよな?そうだよな?」
確かに。それもそうかもしれない。クロナは強くなったし、何かあれば上手くやってくれそうだ。
「いいぞ」
「やった!!」
クロナは鋭い顔から一気に緩んだ顔になった。真剣な顔がいきなり柔らかく美しい笑顔になり、少し驚く。
クロナは時々、いきなりこういった良い笑顔を見せる。これが結構驚かされるのだ。良い意味で。
さて、メンバーはもう五人だ。もう十分では無いだろうか。
「結構な人数になったし、今回はこのメンバーで行こうと思う」
そう言うと、選ばれなかった者は少し残念そうだった。
こうして、ヘルベルクへ向かうメンバーは決まった。
◆◇◆◇◆◇
襲撃から二日後の夜。
鬼の国。ヘルベルクの王の間。
そこには、正座した老人を見据える少女の姿があった。
「……ねえ。爺や」
「……」
「私言いましたわよね。極悪人って」
「……」
ベニバナの冷えきった視線を向けられ、顔に塗った黒い塗料が溶けて流れる程の汗を吹き出させる。
「ねえ、爺や。……いえ、シリュウ」
あえて親しみのある呼び方では無く、名前を呼ぶ。
「……はい」
消え入りそうな。そんなか細い声で答える。
「どうしてこうなったのですか?言ってみてくれますか?」
「そ、それは……」
「言わないと本当に怒りますよ」
貼り付けたような笑顔を一切変えずにそう言ったベニバナに、シリュウは俯きながらも報告する。
「……ベニバナ様と交渉の話をした後、交渉がしたのでこちらに来て頂けるように頼めと部下に言ったのです」
「ほ~う。そ・れ・が。どうして襲撃だなんて事をしてしまったんですか!?」
いい加減限界だったのか、顔を崩して立ち上がり、大声を上げた。
「その……ですな。笑い話として人質でも取ったら楽かもなしれんと部下に言ってみるとですな……」
そこで言い淀むシリュウ。
「つまり。笑い話を真剣に取られたと?」
「…………」
無言が肯定を示していた。
「本っっっっっ当に馬鹿じゃ無いんですか!?怒りを買って大物達に束で攻撃でも受けたらこの国は終わっていたかもしれないんですよ?今回は交渉に乗って頂けるからまだ良かったものの。一つ違えばどうなっていたかわかりませんよ?分かっていますか?ねえ、爺や!!」
「本当に申し訳ありません!!」
シリュウ。百五歳。少女に向かって全力で頭を打ち付ける勢いで土下座である。
それを見てベニバナは大きな溜め息を吐いた。
「まあ、やってしまった事は仕方ありません。全力でフォローしますよ。宴です。ご馳走にお酒に舞。普段の来賓よりもランクを上げてもてなすのです」
シリュウは少しだけ顔を上げ、ベニバナに問いかける。
「……しかし、それでは他の来賓から苦情が出るのでは……」
「私個人客人としてもてなします。それでなんとかなるでしょう」
シリュウはその言葉に頷いた。
「わかりました」
「では速く準備を、来るのは明後日ですね?」
「はい。なんとかベニバナ様の予定も開けておきます」
「多めに取っておいてくださいね。慎重に動かなければいけない相手ですからね」
「わかりました」
シリュウは身を縮めながら王の間を出て行った。それをベニバナは見届け、大きな溜め息を吐く。
「ああー!!どうしよう!!」
その日、ベニバナは眠る寸前まで対応を考えるので必死だった。




