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空っぽ鎧の黒騎士様!!  作者: ken
二章 竜生誕編
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29話 関係と笑い声

 空もすっかり暗くなり、星が煌めく夜になった。この世界は元の世界と違って光が少ないので、星がとても綺麗に見える。

 その星を見るために屋敷の二階。ほぼ俺の部屋となった客室の窓を開けて縁に寄りかかり、頭を出して見上げていると心地よい風が吹いてきた。

 この地域の季節の巡りは、元の世界ととても似ている。今の季節は梅雨の少し前ほどだろう。温かい風が頬を撫で付けていく。こちらに来てから出来た角にも勿論当たる。異世界に来てからそれなりの時間が経ったので角の違和感も無くなってきた。元の体で言うと歯のように触覚は無いので、普段はさほど気にするものでも無かった。それでもぶつけた時の衝撃等は初めは違和感が激しかった。


 思えばこの世界に来てから色々なことがあったものだ。何と言っても来てすぐに死を体験したに近いのだから。貴重な体験をさせてもらったものだ。もうしばらくは体験したくないが。後は満足しきった人生の最後だけにしたいものである。


 ふと、下から笑い声が聞こえてきた。釣られて目線を下に移すと、小屋で囲まれた広場の中で余った木くずなど燃やしている所だった。仙狐人による炎なので火事の心配は要らない。その燃え盛る炎の周りを色んな種族が取り囲み、談笑していた。これが笑い声の正体だろう。少し前までは奪い奪われの争いをしていた三種族に、今はフェアリーも加わっている。

 命の奪い合っていた事など感じさせない眩しい笑顔で。食べ物を奪い合っていた事を感じさせない笑い声で。生きる為にたくさん奪い合っていた事を感じさせない距離感で。


 思わず目が優しいものへと変わっていく。皆を見ていると何だかこっちまで楽しくなってきた。気分良くしていると、部屋の扉が小さく二回ノックされた。


「リディアです。今よろしいですか?」


 特に用事も無いので、俺は「いいぞ~。入れ入れ~」と軽く返事をした。鍵は掛けていないので、俺は窓際で体勢を変えずに顔をだけを後ろに回した。

 小さく音を立てながら扉が開き、リディアが入って来た。扉を閉めた後に俺を見つけ、静かな足音で歩んで横に並んだ。

 動作が綺麗なので無駄な音がほとんど立たず、下からの笑い声の方が良く響く。

 俺は窓の中央から端に寄って場所を開けてやった。窓は両開きでそれなりに広いので、一人で幅を取らなければ二人並べる。リディアが出来た隙間に入り、今度は二人で下を眺めた。


「楽しそうですね……」


 呟くようにそう言って、顔を綻ばせるリディア。この景色はやはり良い物に見えるのだろう。俺も同意見である。


「そうだな~。簡易ではあるけど村は順調に作られてる。むしろうまく行きすぎて怖いくらいだな」

「きっと皆ジンさんの為に一生懸命なんですよ。あの人の為に~って思ってるんです」

「そうか?俺はそれ程凄い奴じゃ無い。少なくとも俺だけの力で皆を纏めきれていると思えないしな」


 過大評価を受けた気がしたので訂正してみた。俺は確かに慕われているとは思う。だがそれは慕われているだけであって、うまく人を扱えている訳では無いのだ。人を何処に動かすか等はクロナが中心となってうまくやってくれているようだし、細かい問題の対処は他の側近がなんとかしてくれている。俺はおおまかに指示を出すだけで、あまり力になれていない気がする。むしろ指示出しよりも小屋を建てて働いた方が力になれる気さえする。まあ、側近達に「主は大きく構えておけば良い」なんて言われてとめられるのだが。


 俺の言葉を訊いたリディアはゆっくり首を横に振り、否定を示した。


「いいえ。ジンさんは凄いです。だって他の人を引っ張っているじゃないですか。だから皆が頑張ろうって、支えようって思えるんですよ。全員に頼られて、その全部を一人で出来る人なんていません」

「そりゃあ一人で出来る奴なんていないだろうけどさ。俺が皆を引っ張って行けているか?そんな事出来て無いだろう?」


 やはりそうとは思えないので質問を返してみる。するとまたもやリディアはゆっくり首を振り、笑い声が響く方向へを指差した。


「皆楽しそうでしょう?聞いた話では昔とは大きく変わったらしいじゃないですか。怖がる事が減って、笑うことが増えたって。これはジンさんに出会って、貴方に付いていこうと決めた時から変わった事だと思いますよ。当事者でない、第三者である私からはそう見えました。だからきっとジンさんが引っ張っているからなんです。ジンさんは凄いんですよ」


 リディアはどこか羨ましそう下を見ながら笑った。


「そう……か。俺って凄いのか。実感無いな~」


 ここまで褒められるとちょっと恥ずかしい。俺は頬を掻いて照れながらもそう返した。


「そうなんです。凄いんですよ。だから、羨ましい」

「……羨ましい?」


 何が羨ましいのだろうか。少し疑問に思って訊いてみた。


「ええ。羨ましいんです。貴方に引っ張ってもらえる皆さんが。私達は当事者では無く、第三者ですから……」


 自分の言葉を噛み含めるようにリディアは目と口を閉じた。そして、大きく深呼吸して続けた。


「だから、私達を配下にしてください。一生懸命頑張りますから。どうか……!!」


 喉から絞り出すような、そんな少し掠れた、けれど力強い声。そんな声を出しながら頭を下げてリディアは頼み込んできた。


「……何言ってんの?」


 俺は驚き思わずそう言った。すると、リディアは悔しそうな顔で、悲しそうな顔で俯いていた。


「そう……ですよね。私達なんかが……一緒になんて……」

「へ?いや、そっちはいいけど。むしろ歓迎するぞ?」

「……ふぇ?」


 ポカンと口を開けて、普段に比べるとらしくない可愛らしい声を上げた。


 いや、ふぇって……敬語ばっかのきっちりした人が言うと違和感あるな……。


「だから、配下だろ?いいぞ。それよ───」

「本当に!!本当にですか!!」


 俺の言葉を遮りって確認を迫り、ちょっとした興奮状態で詰め寄ってくる。美人の顔が間近である。普通なら喜ぶ所だが、どうやら泣きかけだったらしく、瞳が潤んでいるのそんな気分に慣れなかった。


 近い近い。何?そんなに思い詰めてたの?俺が今更仲間に入れないとか言う意地悪に見えた?俺が泣いてやろうか?


「本当だよ。本当。じゃあ今日からフェアリーは俺の配下な」

「は、はい。はい!はい!!ありがとうございます!!」


 はいと言う度に頭を縦に振り、最後に綺麗な動作でお辞儀するリディア。顔はとても嬉しそうである。


「さて、配下になってそうそうだが、ちょっとお説教な」


 そう言ってリディアの方を向いて、両手を腰に当てる。するとリディアは真面目にしたいのだろうが、嬉しさが収まらないのか顔を少しニヤけさせながら床に正座した。


 正座の文化があるのか……。


「え、ええと。その……なんでしょうか。我が主よ……うふふ」


 主という言葉に反応したのか、遂にニヘラ~っと笑顔になって笑った。美人が抑えきれなくなって思わず出た笑顔。半端ないです。ありがとうございます。笑顔っていいよね。

 思わずお礼を言いながら頭を下げそうになりかけたが、何とか押さえた。説教する人がその前に『ありがとうございます』とか言いながら頭下げたら威厳も何も無いよね。いや、笑顔向けられてる時点で威厳無いかもだけど。


「初めに言った事は違うと思ったが、二回目は確信した。当事者じゃ無い?第三者だ?何言ってんだよ」

「え、でも……私達は配下ではありませんし……」

「その考えが間違いだな」


 下にいる皆を指差す。するとリディアが釣られて顔を向けるが、正座中なので見えなかったからか、すぐに俺に視線を戻して。


「リディア。お前楽しそうって言ったよな?」

「はい。言いました。だから私達も一緒にいたいんです」

「見方を変えてみろ。考えを変えてみろ。前提を変えてみろ」


 差していた手を広げ、リディアに向けて促してみる。割とすぐに分かりそうだと思ったのだが、リディアは本当に分からないといったように困った顔している。

 溜め息を吐き、やれやれと肩を竦める。


「あのな。楽しそうだろ?嘘偽り無く楽しそうに見えんだろ?」

「ええ。本当に心から楽しそうです」

「じゃあさ。配下じゃないフィアやルイン、ローレンやミュリエルは楽しく無さそうか?言い方を変えれば、引っ張って無いか?頑張って無いように見えるか?支えて無いか?」


 そこでリディアは気づいたのか、目を見開いた。


「いえ、皆お互い助けあっています」

「よーし、よし。もう、分かったみたいだな。お前が言ったようになんでも一人で出来やし無い。だから助けあってる。お互いに助け合いたいって関係にリディアはもう入ってるんだ。俺はお前を助けたい。引っ張りたい。頑張りたい。支えたい。それが出来るのは俺だけじゃない、お前にも同じことをして欲しい。だから関係無いなんて事は無い。他人みたいな事言うなよ。寂しいじゃじゃないか。友達なっただろ?もっと仲良くなりたいんだよ」


 そうなのだ。俺は多くの人を引っ張っていると言っていた。だが、それは俺だけではない。皆がそれぞれに引っ張りっているのだ。俺はその中でもたくさん引っ張って目立っているだけなのだから。だから、他人扱いするような事はやめて欲しいのだ。友達になれたのだ。もっと仲良くなりたい。そこは欲深くなっても許して欲しい。


「そう……ですね。ジンさんと私は友達ですもんね。一人では出来ないでは無く。皆だから出来る。視点が変わるだけで見えるものは大きく変わるんですね」

「そう。一方的じゃ無い、お互いってのが重要だ」


 リディアはゆっくり大きく頷いて、肯定を示した。疑問が晴れてスッキリしたのか、顔も晴れやかである。だがしかし、次の俺の言葉でリディアの表情は一気に変わった。


「だから、配下取り消しでもいいぞ?」

「ええ!!ま、待ってください!!それはそのま───ふぐ!!」


 顔を一気に焦りに塗り替え、立ち上がって止めようとした。しかし、正座で足が痺れていたのか。足をもつれさせて顔面から床にダイブである。少しうつ伏せで呻いた後、一気に起き上がる。すると、涙目で真っ赤な額を両手で押さえながら女の子座りになった。かなり痛そうだ。だがしかし、リディアはそれでも訴えを続けた。


「うぐぅ。ど、どうか配下に……ジンさんの配下に……もっと仲良くなりたいのは私もおなじですからぁ」


 リディアが話している間に額に手を伸ばし、治療を始める。それを進めながらも俺は返事をした。


「俺とリディアは主従関係だから離れる気がするんだが……まあ、配下になりたいならどうぞ」


 言い切り、治療を終える。範囲が額と狭く、傷も大したものでは無い為にすぐに終わった。リディアは確かめるように額を擦ってから話し始めた。


「ありがとうございます……でも、配下になっても離れませんよ。ジンさんはそれで距離を置いたりしないでしょう?」

「ああ。配下になったって距離を取るつもりは無い」


 そんな事で友達を減らすなど、俺には論外である。


「私もありません。だから離れませんよ」

「確かにそうだな。よく考えたら問題ないな。クロナやウルだって公私分けてるけど、距離取られてるわけじゃないもんな」

「はい。それに、配下になるのは分かりやすい繋がりが出来て便利です。強い人の配下は安心出来ますから」

「そういうもんか?」

「ええ。分かりやすいもので例えれば、何かあったらジン様の部下だって言っておけば解決したりします」

「利用されてる感半端ないな。まあ、俺も違う所で利用するからお互い様。これも助け合いの一部だな」

「そうです。こういう形の助け合いだってあります」


 リディアがそう言うと、外から聞こえる笑い声と重なるように二人で小さく笑いあった。

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