26話 チームジンvs竜夫婦討伐隊 下
「俺が君の相手をするのか……」
「ん?まあ、そうなったからそうだな」
心底嫌そうな顔をする若い男にラジオ体操を簡略でしながら俺は答えた。
「そんなにやる気出さなくてもいいんじゃないかい?準備運動なんてさ……」
「え?今すぐ始めたいの?」
大袈裟にファイティングポーズをとる。両手を高く掲げ、片足を曲げて上げる。俗にいう荒ぶる鷹のポーズである。
「いやいや。違うんだよ。そうじゃ無いんだよ。むしろ永遠に戦いたくないくらいだよ」
「じゃあ大人しく帰る?」
「そうしたい。すっごくそうしたい……でもなぁ……一人逃げ帰ったらどんな目に遭うかわからないんだよな……」
両手の指をツンツンと合わせて上目遣いしてくる。
「キモイ」
「酷い!!」
いや。男からやられても全然嬉しくない。むしろ鳥肌が立ちそう。鎧だからつるつるだけど。
「ほら、ここはわざとやられた振りして逃してくれるとかさ?」
「よし分かった。全力で相手しよう」
「俺の話聞いてたの!?」
手を前に突き出して頭をブンブン振る若い男。必死である。
「黙りなさい。世の中舐めてるのかね?ん~」
教師風に言ってみる。するとノリよく敬語で返してきた。
「いや、えっと……だってですね……痛いの嫌じゃないですか?」
「いや。もうまじで黙れよ。竜と戦いに来ておいて痛いの嫌とか」
呆れるように俺は溜め息を吐いた。
「お願いだからさ。俺を待ってる人がいるんだ。格好付けさせてくれよ」
「待ってる人?婚約者か?」
殺す気は無いが、『俺、この仕事が終わったら結婚するんだ』とか言い出す死亡フラグでは無いことを確認したい。
「いや。付き合ってる女の子が四人」
「今お前は俺の逆鱗に触れた。覚悟しろ」
俺は頭に角を生やし、ゆらりと前に進み出た。因みに角はホノサウルである。妬みで生えたりしたわけじゃない。別に妬んでないよ?本当だよ?
それを見た男は涙目で走りながら叫んだ。
「どうして!?」
「四股してるからだ!!この野郎!!」
四股男は足元に魔法陣を作っては割って加速しながら壁に向かって走って行く。だが、俺の速度の方が断然速い。もう少しで壁との挟み撃ちで捕まえられると思った時、壁に四重の魔法陣を作り出して足で蹴った。すると───
「壁走るとかありか!?」
「俺のとっておきの技!!重力操作によって長時間壁の歩行を可能にする魔法さ!!はっはっは!!」
くっ!!格好良い!!いいな!!
調子に乗ったのか手とか振っている。
「舐めやがって!!お、俺だってーーー!!」
そう言って俺は、人狼との一体化で[剛力]を使い、力を増して壁に足を踏み込んだ。すると壁にくるぶし辺りまで足がめり込んだ。
「凄い力だけど無理だって。諦めたほうがいいんじゃないか?格好悪いぞ。ぷぷぷ」
笑われた。だが、俺は笑顔で返した。
「舐めんなよ?バーカ」
俺は壁に埋まっていない足を壁に突き刺し、壁に垂直に立った。そして───
「うらぁぁぁぁぁぁ!!」
「そんな走り方ありかよぉぉぉ!!」
壁に足を突き刺しては抜くという繰り返しによる力技で壁を走った。
数分後。
「ちょ……ぜえ。はあ。休ませて……ぜえ。はあ」
「はーっはっはっは!!後ろに硬く握りしめた拳が迫っているよ!!さっさと走り給え!!はーっはっはっは!!」
俺の方が速いので、地面に降りられないように追いかけまわし、息切れする四股男を無理やり走らせているのだ。四股してるんだから多少は苦しめばいいのだ!!
[剛力]の制限時間はまだまだある。よって俺は壁をまだまだ走り放題だ。だが、息切れしながら走る四股男は四重魔法の長時間の使用で魔力は大きく減り、走り続けて体力も無い。正直もう戦えないんじゃ無いだろうか。途中で地味に魔法を打ってきたが、壁を走りながらなので威力は大したこともなく、傷は付かなかった。
「も、もう負けですからぁ。許してくださいよぉ」
「ん~。聞っこえ無いな~♪」
更に数分後。
「ひゅほぉひゅほぉ」
「いや~。頑張ったね四股君」
地面に仰向けになり、目を見開いて必死に息をする四股男。楽勝であった。
ジン・ミクモvs第二師団長……ジンの勝利
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「貴様……昨日の夜、私を襲ったものか」
第三師団長はギラギラとした鋭い目でリディアを睨み付けた。その目に恐怖を感じ、リディアは黙って後退った。そして目を逸らしながら自分の体を擦って必死に堪える。
「その反応……やはりそうか。よくも姑息な真似をしてくれたな。今回は装備も揃い、戦場も広い。私も全力だ。容赦せず、殺してやる」
そう言って腰の細身の片手剣。半身になってレイピアを構え、飛び出すために体を屈める。
「残念ながら、貴様の相手は我等だ。一人では無い。簡単には抜かせんぞ」
リディアと第三師団長の間にクロナが入り込む。無手ではあるが[剛力]での身体強化で一撃が大砲を放った様に重い。十分な力を持っている。
「はっ。貴様ら等、亜人であっても私が全力を出せば数など大した問題でも無い。今のうちにそいつを差し出せば生かしておいてやるぞ?」
第二師団長がさもくだらないといった様子で小さく笑い、顎でリディアを示す。
「黙れ。そんな言葉は聞き入れん。簡単にあしらえると思うなよ?」
忠誠心の強いクロナは不機嫌そうに眉を歪める。
「私達も行きますわよ」
エリーナがウルに戦闘準備を促す。
「そうね小刀でいいかしら?」
「ええ。火もお願いしますわ」
ウルは頷くと、[炎呪]を巻き込んで刀身に炎を纏う小刀へと姿を変えた。エリーナが地面に突き刺さるウルを引き抜く。
第三師団長は横目でそれを確認した。
「全員渡す気は無いという事か。まあいい。全員殺してくれる!!」
叫ぶと同時、屈めていた体をバネのように一気に伸ばして前方。クロナの方へと恐ろしい速度で目の前まで迫った。
「まず一人!!」
「なっ!?」
レイピアでの突きがクロナの喉元へと迫っていく。だが、それは届く前に小刀によって弾かれた。第三師団長は武器が弾かれ、使えない間に追撃を喰らわない為に、エリーナの反対側に飛び退いた。
「ほう……速いな。魔法の気配は無い。まさか純粋な身体能力では無いだろうし、称号か?」
「ええ。そうですわよ。あなたはその靴かしら?」
エリーナが第三師団長の靴にある、光続ける魔法陣を小刀で指し示す。
「ああ。そうだ。だが、私の速度はまだまだ上がるぞ」
「あら、楽しみですわね。私もまだまだ上がりますわよ」
お互いを挑発しあうと、二人は一気に距離を詰めて斬り合いを始めた。
第三師団長のレイピアがエリーナを貫こうとすれば、それを小刀で逸らす。エリーナの小刀が第三師団長を切り裂こうとすれば、第二師団長がギリギリの所で躱しす。
素早い攻防が繰り広げられるが、段々とエリーナが押され始めた。エリーナの速度は第三師団長をわずかに上回っていた。だが、第三師団長は技量において圧倒的に上を行っていた。エリーナは亜人になってから日が浅い、ルインとの模擬戦で訓練したとはいえ、武器の扱いなどにまだ慣れていないのだ。
エリーナの肌に浅い傷が何本も浮かんでいく。
「どうしたどうした!!」
「くっ!!」
傷は徐々に深く刻まれるようになり、レイピアが過擦って血が飛ぶ。自然、焦りの表情が浮かぶ。第三師団長がこのまま押し切ろうとした時、横から拳が迫っていることに気づいた。左手で受けて切りつけようと考えたが、その考えは間違いだった。
拳を受けた左手ごと体が吹っ飛ばされたのだ。
宙を放物線を描きながら飛んで行き、地面に右肩から落ちそうになったが体を捻って背中に変え、どうにか利き腕の負傷を避けた。背中が付いても勢いはなかなかやまず、地をしばらく滑ってから止まった。
拳を受けた左手の甲の骨は折れており、使えそうに無い。怪我はそれだけではなく、左腕からは血が流れ、いくつもヒビがはいっていた。
「おいおい……どんな馬鹿力だ……」
「それでも片方の能力は失敗したんだぞ?まあ、どちらも誇れる能力に変わりは無いがな。私もいる事を思い出したか?」
第三師団長の見つめる先、拳を振りぬいたクロナがいた。
クロナは[剛力]を使った上に、ここで新しい称号を使用しようとしたのだ。だが、慣れていないために失敗してしまった。成功していれば勝負はここで決まっていかもしれない。
「ああ、思い出した。お前の一撃は危険だ。近寄らない為にも手段を変えさせて貰うよ」
第三師団長はそう言って自分の前に横に並べて五枚の魔法陣を素早く出し、横薙ぎに割った。すると薄い半透明の五枚の結界に包まれた。そして次に四重の魔法陣を作り出した。
「魔法か。だが、その前にもう一撃喰らわせる!!」
クロナが叫んで走りだす。エリーナも走りだし、クロナを追い抜いて結界を切りつけていく。だが、クロナが結界まで辿りつけず、エリーナも後一枚という所で魔法陣を完成されてしまった。
第三師団の得意とする部分は素早い身のこなしと魔法陣生成速度である。第三師団長はその中でも特に魔法陣生成速度が速い。フィアの魔法陣書き換えの影響を受けなかったのも、フィアが来るより速く作り終えていたからだ。
「喰らえ!!先ずはお前だ!!」
魔法陣を割ると、自ら作った結界さえ切り裂いて、クロナに向かって小さな氷の刃がいくつも飛んだ。
範囲が広いため逃げ切れないと判断したクロナは、頭を両手で抱えて体を小さく縮め、耐え切る事にした。氷の刃が体を襲い、腕や足に幾つも突き刺さる。そして最後に大きな刃が片足に突き刺さり、思わず呻き声が漏れた。
クロナが刃を受けている間に、エリーナは第三師団長を切りつけようとするが、転がって躱されてしまい、足に過擦らせる程度だった。
そこでリディアがエリーナに叫んだ。
「エリーナさん!!離れてください!!」
リディアが魔法陣を割り、十を超える炎弾が第三師団長に向かって飛んで行く。
実は、リディアは戦闘中に時間を掛けながらも四重の魔法陣を完成させていたのだ。
しかし、エリーナが躱せるであろう範囲に放ったそれは、第三師団長にとっても服を軽く焦がす程度で何とか躱せるものだった。足に傷がなければ───
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
第三師団長はすでに使えないと判断していた左腕を盾に前に突き出し、右半身と顔を庇って攻撃を受けた。身を焼き焦がされる痛みに堪えきれずに声が漏れる。燃える左腕、髪、左足に二枚の魔法陣を割って前進に水を被せて消化するが、痛みに顔が歪められている。エリーナに付けられた傷は若干動きを鈍らせたものの、酷い傷では無かった。しかし、焼かれた左足は酷い痛みのせいで素早い動きは封じられたに等しい。
「また……また貴様かぁぁぁ!!」
炎弾の跳んできた方向からリディアが放ったと判断し、痛みとは別の理由でさらに歪められる。
怒りに焚き付けられ、レイピアを構えて、五重の魔法陣を作り出す。
「私の最大の魔法だ!!これで貴様を焼き殺す!!」
第三師団長の魔法陣生成速度は速い。それは五重であっても同じだ。だが、枚数が増えれば完成までにかかる時間が増える事は変わらない。彼女は怒ってしまった。冷静さを欠いてしまった。彼女が相手する者はリディアだけではない。その中には、速さを得意とする者もいるのだから。
「ねえウル。落ち着きって大切と思いません?」
「全くそうね」
魔法陣を展開しようとする第三師団長の後ろから、小刀が投擲された。それは右手に刺さり、姿を拘束具へと変えた。
両手両足を枷に嵌め、それを更に背後で連結させて正座に近い体勢に変えられる。枷からは重い鉄球へと繋がる短い鎖が伸びている為、範囲内から動くことは出来ない。
そう、分かってはいても、彼女は魔法陣を描く。枷など知らないと。作り終え、破壊し、殺すんだと。
だが、作り終えて気付く。届かない。腕は前に伸ばせない。立ち上がれない。噛み割る事さえ出来ない。
条件が揃い、負ける事は無いという自信があった。だが、今の状況を冷えてきた頭で考えれば、認めるしか無いだろう。格下の者に負けたという部下からの疑いの目を取り消す方法が、目の前に自分の誇りを取り戻す方法は用意されているのに、出来ないという事を。
「私の……負けだ……」
目を伏せて静かに泣きながら、そう第三師団長は呟いた。
クロナ&ウル&エリーナ&リディアvs第3師団長……クロナ&ウル&エリーナ&リディアの勝利
四対一は書くの大変だった……。




