23話 ローレンvs竜夫婦討伐隊
朝が開け、シギムラガン竜夫婦討伐隊は洞窟へと踏み込んだ。
この隊は、大盾を使った接近戦を得意とする第一師団。魔法での大規模攻撃を得意とする第二師団。魔法陣の生成速度と素早い身のこなしを得意とする第三師団。この三つの師団の師団長とその中で将来性がある者をそれぞれ十人づつ選ばれている。
ここで、優秀な者ではなく、将来性がある者が選ばれたのには理由がある。それは称号の獲得だ。強大な力を持った竜を倒した者達は、国に帰ってから盛大に賞賛が送られる。そして、国の人々に力ある者達として認められれば、それは称号となってその者達の力に変わる。【強者】、【竜殺し】、【英雄】。どのような称号が付くかは分からないが、ほぼ間違いなくプラスに働く力を手に入れる事ができる。そうやって将来有望な者をこの機会に育てようというのだ。
なので、今回の竜夫婦討伐隊は若い者ばかりである。唯一違うのは第一師団長のみ。彼は長い経験を活かして彼らを導くようにまとめ役として隊長にされたのだ。
現在、洞窟を進むのは二十七人。残り六人、それぞれの師団から二人づつは洞窟の大穴から竜が逃げ無いよう。または、情報を知るフェアリーと謎の人物が来た時に殺すため、大穴付近に待機させてある。
洞窟を進む三人の部下達は内心不安を感じていた。理由は、前日に第三師団長が敵襲を受けて負けた事と、洞窟の厄介さだ。
第三師団長が負けた事は意外な事であった。まだ若いというのに師団長に上り詰めた者であり、第三師団の特徴である魔法生成速度と身のこなしはかなりのものだ。その師団長が負けたのだ。不利な点はいくつもあった。装備は外して服を着ただけ。暗闇での視界不良。木々の乱立によってもうひとつの特徴である身のこなしを殺された事。相手が複数おり、隠れていた事。羽も無しに空を飛んだ事。頭に血が登っていた事。だが、それでも師団長が負けるというのは少なからず同様をもたらした。
洞窟の厄介さは想像を超えていた。事前に受けた報告では、この洞窟は入り組んでいるが竜の元までそれ程時間はかからず、むしろ何度も竜の元まで辿り着いてしまう構造と聞いた。それはおそらくフェアリーの[幻覚]によるもので、今回も同じくそうなると思っていた。だが、今回は違った。フェアリーが一匹もいないのだ。[幻覚]による誘導は無く、自力で洞窟を探索することになっている。第三師団長が戦ったフェアリーが言うには、族長の遊びに付き合っていたいたらしい。つまりは、集団で行動するフェアリーが族長に連れられて全員外にいるのではないかと竜夫婦討伐隊は考えていた。
「ちっ!タイミングが悪いな。フェアリーが出払っているとは……」
野太い声の第一師団長は仕打ちして洞窟の壁に剣の柄を叩き付けた。
「まあまあ。大穴は見張ってますし、後ろから誰か来ても足音ですぐにわかります。ゆっくり行っても問題ないですよ」
気楽な声で若い男の第二師団長がそう言った。
「いや。許せませんね。不意打ちして逃げるなど。今すぐにでも剣で切ってやりたい」
ムスッとした様子で第三師団長が剣を振る。
苛立つ者、気楽な者、怒る者。三者三様の上司を見て部下たちは反応に困りつつも、黙って付いて行った。
昼を過ぎた頃、竜夫婦討伐隊はとうとう目的地に辿り着いた。
洞窟の最奥。【災害竜】の称号を持つ竜夫婦の住処である。そこには横になっている女と、そのすぐ近くに座る男がおり。更にその周りを大量のフェアリーが囲んでいた。
「フェアリー!!」
第三師団長が怒りの籠った眼差しを剣と共にフェアリー達に向ける。今にも飛び出して行きそうな彼女を止めたのは第二師団長だった。
「おいおい。作戦を忘れちゃいけませんよ。別にあなたがフェアリーを殺そうが文句はありません。ですが、それで竜夫婦を殺す戦力が減るのは迷惑ですからね」
「くっ……すいません。血が上っていました」
息を吐き、落ち着く第三師団長。それを確認して、この隊をまとめる第一師団長は、黙ってこちらを睨みつける【災害竜】達に話しかけた。
「よお。早速で悪いんだが、[竜化]してくれないか?俺達はお前達の竜としての素材が欲しいんだ。黙って死んでくれるなら痛みも無く殺してやるぞ」
気軽に死ねと言われた【災害竜】達は、先ほどと違って殺意を明らかに濃くした眼差しで睨んでくる。それだけで隊の数人が一歩後退る。明らかな格上の視線に恐怖を感じ、逃げの体勢を思わずとってしまったのだ。
「おい、人間共。僕等を舐めるなよ?今なら許してやる。死にたくなければ速く出て行くといい」
雄の【災害竜】が立ち上がり、フェアリーや雌の【災害竜】の前に立つ。
「ははは。強がるなよ。お前等は弱りきってるだろうが。雌に関しちゃ動けないみたいだしな。足手まといのいるお前なら、我等なら簡単にひねりつぶせるさ。ああ、それとも───」
第一師団長は口を大きく横に裂き、雄の【災害竜】の奥に女を見て、
「お前の女を先に殺してやろうか?」
「ふざけるなっ!!そんな事はさせない!!」
この時、第一師団長は顔に貼り付けた笑顔を本当の笑顔に変えた。
(そこがお前の怒りの琴線か。もっと怒れ。俺を憎め。殺すために[竜化]しろ)
竜の素材を多く手に入れる為には[竜化]させた状態で殺す必要がある。だが、中途半端に[竜化]して襲って来て所を殺しても素材が少なくなる。だから怒りによって本気で殺す為に全身を[竜化]させようというのだ。
ここが攻め時とばかりに、第一師団長はさらに続ける。
「なら、お前を半殺しにしてからそいつをじっくり殺そう。先ずは目を抉って何が起こるか分からなくする。次に爪を全部剥ぐか。ああ、鼻を切り取るのもいいかもしれんな」
「黙れ」
第一師団長の言葉を遮るように、冷たい声で男は言う。しかし、それを無視して第一師団長は続ける。
「それとも腹に棒を突き刺して臓物をかき回すか?意識のあるままかき回されるってのはさぞ気持ち悪いだろうな」
「聞こえないのか。黙れ」
再度男は口を閉じろと要求する。しかし、第一師団長は続ける。
「ああ、そうだ。手足を縛ってから少しづつ刻むなんてどうだ?出血が少ないから簡単には死なずに痛みが───」
「その舌を今すぐ引き千切る!!」
第一師団長の言葉を遮り、男は叫んだ。そして自らの身体を膨らませながら鱗で覆う。背中からは大きな翼が生え、口の中には鋭い刃となった歯が並んでいく。
そこにいるのは力の塊。緑に近い色をした鱗で全身を包み、人間に近い骨格をした巨大な竜。腰の辺りからは長い尻尾を生やしている。頭はほぼ爬虫類と近く、額からは大きく立派な角を一本生やしている。
男が完全に[竜化]し、竜夫婦討伐隊は行動を開始する。
「討伐目標、目の前の【災害竜】。第一師団は前にでて盾を構えろ。第二師団はそのすぐ後ろで三重の拘束系魔法を用意。第三師団は散って遊撃。指示は第三師団長に任せる。かかれ!!」
戦いは始まった。
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怒りつつも、ローレンは内心焦っていた。
現在この場で戦力になりそうなのは自分一人のみ。リディアなら戦力になったかもしれないが、何故か昨日から帰ってきていない。
そして、自分の後ろにはミュリエルとフェアリーの部族。フェアリーたちは最近ずっとここで世話をしてくれている。もし洞窟にいれば今攻めてきた人間に殺されていたかもしれないので、ここにいたことは幸運だっただろう。
おまけに今、自分は弱っている。
正直言って状況はかなり悪い。
相手は自分達の竜としての体が目当てのようなので、[竜化]せずに襲わせないようにしようと思ったが、このままだとミュリエルを襲いかねない。なのでローレンは自分に気を張らせる為に全身[竜化]により、相手の目を自分に向けた。
敵は統率のとれた人間である。正面で盾を構える九名。そのすぐ後ろで魔法陣を生成する九名。そして、素早く左右に回った九名。
ローレンにとって一番不味いのは、最後の左右に回った者達だ。ローレンの勝利条件はミュリエルとフェアリーを守りつつ敵を退ける事。相手の実力は、生成速度が遅いものの、魔法陣を三重で作っている盾の後ろの者達からしてある程度は出来る。少しなら後ろの全員でどうにか出来るかもしれないが、負傷者が出る可能性は高い。よって通す事は避けたい。
ローレンは標的を定め、両腕を左右に振った。すると、腕から出た風が大きくなり、竜巻となって左右から通り抜けようとする者達を襲った。しかし、
「魔法陣を使用し、全員加速して下がれ!!」
そのままなら数人は葬ったれるはずだった。しかし、左右にいたものは遊撃の中で指示を出す者に従い、後ろにバックステップしつつ、空中で移動速度を上げて避けたのだ。
(魔法装備か……)
装備をよく見ると、来ている軽鎧には魔法陣が幾つか彫られており、加速したものは魔法陣を光らせていた。
逃げられはしたが、情報を得た。それならばと、今度は羽で広範囲に風を起こし、かまいたちを伴った風を吹き荒れさせた。竜巻に比べれば攻撃面が限られ、致死率は下がるが広範囲に攻撃できる。
正面の十八人は盾に隠れてやり過ごしたようだが、他の九人はそうもいかない。魔法で結界を張って防御するが、急だった為に大概の者が魔法陣が二枚までしか出せず、強度が低い結界を切り裂いて術者を襲った。体を風の刃が裂き、傷口から血が流れる。死んではいないが、九名で一つも傷の付かなかった者はおらず、三名程の動きは封じられたようなので十分な成果である。
もう一度同じ攻撃を出そうとした時、体中を九本の黒い鎖に締め付けられた。
「ぐあっ!!」
「ははは!!気を取られすぎたな!!」
この方を見れば、先ほど話しかけてきた野太い声の男が笑っていた。その後ろを見たところ、どうやら魔法を発動されたようだ。
「第二師団。師団長を含めた五名で攻撃系魔法陣を七重で生成。残りは三重の拘束系魔法陣をかけ続けろ。第三師団は負傷者を第二師団の後ろへ。残りは遊撃続行」
指示に従い。人間たちが動き出す。
大盾の後ろでゆっくりと七枚の魔法陣が描かれていく。
(今の僕に七重は不味い!!)
危機感を感じ、急いで止めようと暴れる。鎖を数本引き千切り、何とか片手を自由にする。新しく出る鎖や打ち込まれる魔法に手間取ってしまい、もうすぐ七重の魔法陣が完成する。
慌てて腕を大きく振り、最初よりも大きな竜巻を一点に集中してぶつける。
複数人で行う魔法は全員の集中力がいる為、一人でも風で動かせば消える。だから一点を選んだ。しかし、
「なめるなぁぁぁ!!」
最初に話しかけてきた者。恐らく隊長が大盾を構え。三重の魔法陣を盾を突き出して突進しながら割り、強度を上げる、更に大盾に刻まれた魔法陣を使用して半透明の結界を盾を中心に展開し、防御範囲を拡大して竜巻を受けた。
わずかに耐えた後吹き飛んだが、盾を斜めに構えていたため竜巻は上空に逸らされた。その攻防の間に七重の魔法陣は完成した。
魔法陣を中心になって作っていた者が結界を割り、一本の柱となった千度を超える炎がローレンに向かう。
ローレンは身を固めようとしたが、後ろにいる妻を思い、頭を俯かせて顔を守りながら翼と手足を広げて庇った。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
ローレンの後ろから叫びが聞こえた。その叫びを聞きながら、ローレンは攻撃を炎を真っ直ぐに受けた。体で防いだ後方、ミュリエルとフェアリーは無事だ。しかし、そのすぐ横の岩は赤くなり溶けている。そんな、攻撃を受けたローレンは───
「しぶといな。竜」
「愛する、妻の為にも……簡単、には、死ねないさ……」
体の前面の鱗を溶かし、身を焼け爛れさせながらも、目の輝きはまだ死んでいなかった。鎖ごと焼き払われた為、体は自由だ。しかし、満身創痍であり、力なく前のめりの倒れる。
「第二師団長。攻撃系五重魔法陣で止めを」
「はい」
短く返事をした物は五重の魔法陣を展開していく。
「やめて!!殺さないで!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにし、ふらつきながらもミュリエルがローレンへと近づく。
「ハニー……来る、な……」
「嫌!!嫌よ!!子供はどうするのよ!!先に逝かないで!!」
ミュリエルは声を上げ続ける。だが、魔法陣は完成してしまった。
「最後に何か言うかい?」
魔法陣を展開する第二師団長と言われた若い男がローレンにそう言った。顔には哀れみの表情がかすかに浮かんでいた。気を使ってくれたのだろう。
大盾を持った隊長も目を瞑って止めず、時間を与える。
「ハ、ニー……大、好きだよ」
「私だって……私だって大好きよ!!私が死ぬから!!何日か待ってくれれば[竜化]も出来るはずだから!!だからダーリンは殺さないで!!お願いだから!!」
「……悪いけど、僕らも国の為なんだ」
ミュリエルの願いを断ち、第二師団長は魔法陣を割る。先程よりも威力は弱いが、既にボロボロのローレンを殺すに十分な炎が生まれる。
「やめて!!」
炎がローレンに向かっていく。命を断つ炎が。そして、───
上空から黒い物体が間に割り込んだ。それは地面を割り砕きながら着地し、炎はその物体に受け止められ、消えた。
粉塵が舞って見えなかった視界が、段々晴れていく。
まず中から出てきたのは黒い籠手。
「何が起きた!?」
隊長が叫ぶ。
次に出てきたのは頭から出た巻き角。
「角……角がある。竜にしては小さい……鬼か?」
第二師団長が見えた部分から推測を始める。
そして、次に出たのは……
「ひぃ!!」
誰かが小さな悲鳴を上げた。その者は見えたのだ。恐ろしい者が。
「こ、これは……」
遊撃する者の中で指示を出していた者が、その禍々しさに驚き、目を見開く。
「第三師団長!!何か分かったなら報告を!!」
隊長が声を聞き、何かを見て声を上げた第三師団長に報告をさせる。
「中に……黒くて、禍々しい───」
そう、中にいるのは黒くて禍々しい。恐ろしい者。
「……鎧の者が歩いて……」
「鎧だと!?中身は亜人か?しかし、この高さをあの速度で落ちて来て無事など……」
中身は空っぽ。見た目は黒くて禍々しい、恐ろしい鎧。それは───
「ジン!!」
「ギリギリ……か?」
ジン・ミクモ、参戦。
読んで頂きありがとうございます!!
やってみたかったピンチにやって来るヒーローといった展開が出来ました!!嬉しい!!
パソコン復活しました!!電気屋さんありがとう!!これで指が痛くない!!




