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空っぽ鎧の黒騎士様!!  作者: ken
二章 竜生誕編
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22話 夜の森での連携

 宝石を散りばめた様な星空の下。二匹のフェアリーを引き連れた美しいエルフが森の中の岩に腰掛けていた。


「やっぱり星空は綺麗ですね~。ほれぼれします」


 「ふう~」とうっとり息を吐くリディア。頬に手を当て、美しい光景に見蕩れている。


「族長。もう帰ろうぜ?皆が心配しちまうよ」


 声をかけたのはリディアと長い付き合いの世話役二人の内の一人である。もう一人は基本的に無口であまり話したがらない。


「もう少しいいじゃないですか」


 リディアは子供の様に頬を膨らませ、駄々をこねる。フェアリー二人はそれに困った様子で先程のリディアと違う意味で息を吐く。


「あのな、族長。いくら族長が進化したって言っても、洞窟を出ると危ないんだからさ。外出は控えてくれないか?」

「これはミュリエル様の為ですよ。仕方無い事です」


 片手に提げている籠を持ち上げ、意地悪な笑みを浮かべる。籠の中にはたくさんのアオマの実が入っている。

 産卵によって魔力が減少しているドラグ夫婦の為に、リディアは魔力回復効果のあるアオマの実を送ろうとしているのだ。


「それなら毎日送って、食べきれずに余らせていたじゃないか。ただ遊びに出たいだけだろう?」


 ドラグ夫婦はリディアからアオマの実をすでに余る程貰っているのだ。ただでさえ酸っぱくて食べづらいというのに、どんどん増えていくので、実を受け取る二人は最近青い顔と苦笑いで受け取っている。


「いいじゃないですか。日々族長として今まで頑張ってきた私が、進化して森を気楽に歩き回れるようになったのですから。少しくらい遊ばせてください」


 フェアリーだった頃は、森を出歩こうと思えば身を守る為に集団行動は必須だった。だが、進化した事により、[幻覚]の力が増したので、たとえ一人でも逃げる事が可能になったのだ。


「まあ、確かに族長は頑張ってた。遊ばせやりたいとは俺も思う。だけどな、族長がいないと不安がる奴は多いんだ。そこを考えてやってくれ」

「分かりました~」


 語尾を伸ばして面倒そうにリディアは返事を返し、立ち上がって伸びをする。


「仕方無いですね。それじゃあ帰りましょうか」

「仕方無しかよ。まあ、帰ってくれるならいいが」


 こうして三人は洞窟に向かった。そして、洞窟の少し手前で異変に気付いた。


「あれは……火ですか?」


 リディアが見る先、森の木々の間に灯りが見えたのだ。この森には冒険者等が入って来る事があり、稀に寝泊まりしているのを目撃する事はあった。だがそれらが火を焚くとしても一つだ。今目の前に五つはある。何事かと、[幻覚]で姿を騙しながらこそこそ近付いて行く。

 するといきなり大きな笑い声がした。思わず声を漏らしそうになったが、三人ともなんとか堪えた。その位置からでも声が聞き取れそうなので、耳を傾けてみた。




「……と言う訳で我々は英雄の称号を手にする機会を得た訳だ。いや~実に幸運だ。強大な力でこの森を我が物顔でのさばる竜夫婦は産卵期で弱っている。さらには調度国が経済的に潤っている時期。装備も新調して貰った。負ける気がしないな。はっはっはっ」


 野太い男の声が愉快そうに響いた。次には若い男の若干高い声がした。


「ええ。ええ。全くその通りですね。しかも師団長が三人集まっている。過剰戦力じゃないですかね?あはははははは」


 陽気に笑う二人に不機嫌そうな女の声がした。


「お二人は竜夫婦を甘く見すぎでは?いくら平均ランク5-の兵士が三十人いると言っても、相手は二桁ですよ?」


 女の言葉を聞き、男達は少し間を置いてからまた笑った。野太い声が女に話しかける。


「体は二桁でも魔力が無いさ。雌は戦力にならんだろうし、雄にしてもせいぜいランク8-が限界だろうよ」


 さらに若い男が繋げる。


「僕ら師団長三人は全員ランク7で、後少しで届く範囲。その差は数で埋めれば問題無いですし。僕等が英雄の称号を手にするのも充分可能と言う事ですよ」

「ですがしかし……」


 二人に説明されたが、納得出来なかった女がまた何か言おうとした。だがそれは遮られた。


「もしかすると、怖いのですかな?」

「ああ。なるほど。無理せず僕等の後ろで隠れていてくれて良いですよ」


 若い男が言い終わると、男二人は楽しそうに笑った。

 それに女は苛立ちを含みながら二人に言う。


「何故そうなるのですか。私はただ、警戒心が足りないと言っているのですよ。戦闘に勝った後の事ばかり考えず、目と鼻の先にある、明日の夜明けからの戦闘を考えるべきではないですか」

「ははは。もう勝ちは決まっているんだ。君達より経験のある私が保証してあげよう」

「それは自信が湧きますね。今日はゆっくり眠れそうですよ。あははは」


 また聞こえる男達の笑い声に、とうとう嫌になったのか、女は一言伝えて、その場から離れたようだ。




(これは……不味そうですね)


 リディアは表情に焦りを浮かべ、世話役二人に声をかける。


「すぐに帰って皆に知らせますよ。全員で逃げないと……」

「そうだな。確かに奴等は強そうだ。今すぐ逃げる準備を―――」

「貴様等何者だ?」


 話している最中、火の方向から先程の女の声がした。

 何も言えず、ただ汗が流れていく。


 リディア達は今、[幻覚]によって周りの草木と同じように見えているはず、それが声をかけられたのだ。

 きっと自分達ではなく、近くの虫にでも言っているに違いない。そう願う。だが、その願いはかき消される。


「幻覚系の魔法。いや、本体から魔力が発されているようだから称号能力か?魔力の気配を感じて来てみれば、まさか人とはな」


 そう言いながら、女は草むらを此方に向かって進んでくる。


(どうすれば……先程の話が本当なら、私達に勝ち目は無いですし……)


 逃げたいが、[幻覚]の効かない相手から逃げきる自信が無いのだ。

 自分の弱さに歯噛みしていると、女がまた声をかけてきた。


「もしや近隣の国の者か?ならばこそこそせずに我等の所に来れば良い。今回の戦闘は我等の兵力を見せる事も兼ねている。遠慮は要らない近くに来れば良い」


 そこでリディアは気付き、内心で舌打ちした。相手は今、自分達が見えていないと。ただでさえ暗い夜の森。それを灯りのある方向から見ているのだ。普通なら見えない。つまり、相手は視覚を使わない方法で自分達を探している。恐らく相手は自分が使っている[幻覚]によって居場所を確認しているのだ。保険として使った[幻覚]がこの状況を招いたのだ。

 しかし、これが原因ならまだやりようはある。


 リディアは[幻覚]を解き、一気に魔力を抑えた。


[無駄だ。一度捉えた魔力はそう簡単には見逃さんぞ。これ以上こそこそと隠れるなら、敵として容赦無く殺す。嫌なら今すぐ出てこい]


 女が目の前に魔方陣を四枚ながら叫ぶが、返事は返さない。


「無駄なようだな。ではこれで―――っ!!」


 手を振り上げ、女が魔法を発動しようとした。だが、左右に急に出現した魔力の反応に驚き、発動を止めた。

 実は、[幻覚]を使っていたのは力が強いリディアのみ。世話役二人は初めから魔力を抑えており、[幻覚]を解いたり、魔力を抑えたりするリディアに女が気を奪われている間に、左右に周りこみ、魔力を体から放った。小さい魔力といっても、突然現れたので女も驚いたのだ。


 その隙にリディアは素早く魔方陣を二重で展開。手を横凪ぎに振って割る。すると女の足元から、囲むように四角形の半透明の壁が出現し、一秒もかからずに包みこんだ。


「なっ!?」


 その中は外の世界と隔離されたように、音と魔力の気配が外と遮断されていた。

 女は突然視覚以外に外からの情報が無くなった事に少し狼狽えたが、すぐに気を取り戻し、準備の完了している魔方陣を叩き割った。

 割られた魔方陣からは真正面に向かって大量の大きな氷の礫が飛んだ。氷が半透明の壁を容易く割り、木を抉り、地を抉った。女の正面は木を薙ぎ倒した事により視界が開けていた。そしてリディアは―――


「くっ!!空を飛ぶだと!?」


 上空に舞い上がり、攻撃を避けたのだ。


「喰らうといいです!!」


 そう言ってリディアは自分の限界である四重の魔方陣を展開しようとする。だが、


「遅いな!!実践で使えるレベルではない」


 リディアは四重の魔方陣を使えはするが、まだまだ実践レベルではない。

 女がまたリディアに向かって四重の魔方陣を展開し始める。明らかにリディアより早く完成は恐らく女の方が速い。そして、もう完成しようという時。女の背後から水が打ち付けられた。突然の衝撃に前のめりになって倒れ、作りかけの魔方陣が消えていく。


「何が!?」

「あなたが相手しているのは一人ではありませんよ?」


 無理をして魔方陣を半分程作りあげていたリディアは、息を荒くしながら魔方陣を作る事を止めた。

 女が言葉の意味を即座に理解し、血が上って忘れていた二つの魔力を思いだす。

 体を反転させ、水が飛ばされた方を見る。そこには二人のフェアリーがおり、片方は魔方陣を割ったばかりで、もう片方は二重の魔方陣を発動出来る状態で待機していた。


「フェアリーが何故洞窟の外に!?」

「族長の遊びに付き合ってたんだよ。それじゃあしばらく眠ってな」


 世話役の一人が魔方陣を叩き割る。そこから放たれるのは小さな稲妻。本来なら当たった部分が十数秒痛む程度、しかし今は水浸し、身体中を痛みが駆け巡る。


「きゃああああああ!!」


 全身を襲う痛みに白眼を向き、体をピクピクと震わせながら倒れる。


 普通なら勝つことなどまずあり得ない格上の相手に、リディア達は勝ったのだ。

 洞窟の暗さで夜の暗さに慣れていた事、話し合いも無く互い動きを見るだけで成功させた見事な連携、相手が頭に血を上らせて冷静でなかった事。この三つが三人を勝利に導いたのだ。

 だが、勝利の余韻に浸る暇は無い。騒ぎを聞き付けてすぐ近くまで敵が来ている。


「あれは……フェアリーだ!!竜夫婦に情報を与えぬよう洞窟を塞げ!!」

「入口に第一隊!!大穴に第二隊!!急げ!!第三隊は包囲して今すぐ殺せ!!」


 叫びが後ろから聞こえ、洞窟には逃げられそうも無いと苦い顔をする。どうやら先程の戦闘で見晴らしが良くなって見つかったようだ。


 リディアは二人を掴み、出せる限りの速度で逃げる。後ろから魔法による攻撃が飛んでくるが、三次元の動きで上手く躱しながら逃げる。


(このままではフェアリーの部族もドラグ夫婦も殺されかねません。状況を変えるには、あいつらを追い払うには…………ジン。ジンならもしかして……)


 障害物の無い空を飛び、敵は巻いたがスピードは緩めない。


「このままジンの所まで行きますよ」

「確かにそれが良さそうだな。移動は俺達じゃ力になれそうも無い。頼むぜ族長」

「ええ。任しなさい。離れないでね」


 そう言ってリディアは二人を両手で抱える真っ直ぐ屋敷の方向へと向かった。

 14話と15話で間違えていたピクシーをフェアリーに書き換えました。

 何だか今回は名前の無い人が多い話に……。

 と言っても。名前付けすぎるといつか困りそうな気がするので、まあいいかと思ってます。

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