19話 魔方陣の枚数
リディアを背負って帰って来ましたよ。お屋敷に。背中が幸せでした。
現在は昼前で、太陽がもうすぐ天辺に登るだろう。
帰って一番に俺を迎えたのは―――
「あ。お帰りっす」
「「「ぜぇ、はぁ。ぜぇ、はぁ」」」
土塗れの四人だった。そして何故かその内三人はボロボロになっており、仰向けで息切れしていた。
「何してんだよ……」
「模擬戦っすよ」
随分激しい模擬戦だな……大丈夫か?いや、ダメかな。ゆっくり休め。我が部下達よ。
「よし!!充分休憩したっすね!!逃げないと痛い目に合うっすよ!!」
「何処が!?立ち上がる事すら厳しそうだけど!?」
「え?障がいも残らないレベルの傷で、もうちゃんと呼吸も出来てるっすよ?」
「してなかったの!?」
模擬戦怖い!!
「ジン。ぜぇ。だい。ぜぇ。じょうぶ。ぜぇ。よ」
途切れ途切れの呼吸で、ウルが声をかけてきた。
「本人もこう言ってるっすよ?」
「いやいやまともな判断出来て無いだけだろ」
目が回ってる状態で大丈夫とか言われても信じられない。
「あら。ジン。帰ったの?」
上からフィアの声がした。
「ああ。今さっきな。所でこれ何だよ」
これ。つまりは土塗れの四人を指差す。
「ああ。修行よ。進化してから日が浅いから慣れさせる為にね」
「激しすぎないか?」
「そこは四人の意地よ。効率悪いから休めって言っても聞かないし。私は関係無いわ」
手をヒラヒラと振って関係の無さをアピールしてくる。
「そんな投げ遣りな……」
「ならジンが止めなさいよ。ルイン以外なら屋敷に引き摺って終わりだけど、代わりに戦う魔力今の私には無いもの」
「いや、代わりに戦わなくても良いだろ。なあ?」
そうしてルインに話を振る。
「ダメっすね。滾った血が納まらないっす!!さあ、戦って沈めるっす!!」
「ね?ダメでしょ?」
「あ~。うん」
目がギラッギラである。
「じゃあ俺がやるから。三人は屋敷に頼む、リディアも屋敷に入っていてくれ」
「分かりました。運んでおきますね」
「私が魔法で運ぶから、あなたは休んでいて良いわよ」
「お気遣いありがとうございます。フィア様。それでは休ませて頂きます」
「ええ。ジンは気を付けてね」
フィアがリディアに声を掛けた後、俺に向かって注意を促してきた。
「ああ……」
割と本当に危ないかもしれない。気を付けよう。
「フィアさん!!ジンさんが相手なら本気でも良いっすよね?」
「周りに被害ださなきゃ良いわよ」
「ひゃっほーーーっす」
「『気を付けてね』は何処に行ったの!?」
身を気遣っておきながらも難易度を上げる。ツンデレ。いや、デレツンか。表面上は優しく見せて甚振る。怖いよ!!
「ジンが強くなれる様に本気を許しの。気を付けて欲しいのは本当よ」
「え?そうなの?」
あれ?やっぱツンデレ?
「ぶっちゃけ、大変な事にならずに面白い戦いが見れれば大概はどうでも良いけどね」
「ぶっちゃけ無いで欲しかった!!」
ツンもデレも無かったよ!!
「も、もう我慢出来ないっす!!行くっす!!興奮を抑えられないっす!!」
とうとうルインが待ちきれ無かったのか、突っ込んで来た。
「待て!!まだ三人が―――」
「もう魔法で回収したわよ」
パッと素早く見てみれば確かに誰もいなかった。
「さあ!!思う存分行くっすよ!!」
ルインがゴーレム化した両手でラッシュして来た。
「どりゃああああああ」
「うおおおおおお」
人狼と一体化し、俺の出せる最大の力を使って腕でガードする。
雄叫びは上げたものの、まだ余裕があった。だが痛い。
「あはははははは!!良いっすね!!まだまだ行くっすよ!!」
笑いながら後ろに飛び退き、ゴーレム化を解除する。そして地面に大き目の魔法陣を三枚重ねて出し、殴って割る。
すると、魔方陣のあった場所の周りが一気に抉れ、中央には全長五メートル程の筋肉ムキムキの右腕の彫像が一本生えていた。
「何だよそれ!?」
「潰しちゃえっす!!」
そう言って、パチンッと高い破裂音を指で鳴らす。それと同時に腕の彫像が拳を握り、俺に向かって振り下ろしてきた。
慌てて横に飛び退いて回避する。
「危ねぇな!!本当に潰れたらどうするんだよ!!」
「頑丈さは洞窟で殴って確認済みっす。潰れないっすよ」
「痛みはあるからな!?」
そんなやり取りの最中にもルインは指を鳴らし、巨大な拳は襲ってくる。全部躱しているが、殴られた地面には拳の形が付いている。当たればかなり痛いだろう。
そうしながらも近づいて行くと、警戒したのかルインが両手の側に魔方陣を出し、割って両手をゴーレム化する。
よし!!これで指は鳴らせない。あの腕は止まるはず。
腕を相手するより良いと思い、ゴーレム化を解かせない為一直線に走って接近する。
しかし、それをいきなり五メートルの腕が遮った。
「どうして!?」
勢いを殺せずに掌にぶつかってしまい、俺は握って掲げられた。
「おや?知らなかったっすか?魔法は発動さえすれば、制御自体はイメージだけで良いんすよ。指を鳴らしていたのはイメージを固める為の補助っすよ」
「何だよそれ!!」
「ま。勉強不足が敗因っすね。潰れない程度に締めて上げるっす」
バカにする様に鼻で笑ってきた。
イラッとする。
「舐めんなっ!!」
俺は人狼との一体化をホノサウルスに切り替え、高熱化で右肩から右手までを順に周りを溶かして自由にした。[剛力]が無い分苦しいが、すぐに終わるだろう。右手の手刀を高熱化して、俺を掴む指を全て落とした。
「なっ!?そんなの有りっすか!?」
拘束から逃れ、重力に従って地面に降りる。
「仕返しだ!!喰らえ!!」
一体化をジトカ草に切り替え、背中から六本の蔓を出す。ルインの力は、恐らくゴーレム化した部分のみの力の強化と考え、二本ずつでゴーレム化していない部分の腕を掴む。そして一本で足を掴む。
予想は当たっていたようで、ルインを中吊りに出来た。
「どうだ。魔方陣割れないだろ。何も出来ないだろ」
どや顔をしてやる。鎧なので目だけだが。しかし、それでも伝わった様でルインは悔しそうである。
「う~~~。悔しいっす。もう一回!!もう一回やるっす!!さっきは舐めてただけで、本気出せば勝てる自信あるっす!!」
「嫌だ。得もないし疲れる」
「なっ!!うぅ……あ。じゃあ次勝ったらフィアさんの恥ずかしい昔のお話を教え―――痛いっ!!ちょっ!!痛いっすよ!!」
地面から礫がルインの尻に向かって飛んでいた。フィアを見ると、小さな魔方陣を一列に大量に出し、指で次々に潰している。
「まったく悪い子ね。お仕置きしなきゃ」
「ご、ごめんなさいっす!!許して下さいっすーーー!!」
結構痛いのか、ルインが涙目で謝罪する。するとフィアの前から魔方陣の光がスッと消え、礫が止んだ。少し可哀想に見えたので、蔓を外して優しく下ろしてやる。
「うぅ……お尻がヒリヒリっすよ」
「人を勝手に取引に使った罰よ」
ゴーレム化を解き、尻を擦るルイン。それを見てフィアは満足そうだ。
「なあフィア。今のが【無限多重の魔女】の力か?」
魔方陣が何枚も重なっていた。あれがそうなのだろうか。
「今のは違うわよ。一枚一枚独立した物を重ねただけ」
「ん?重ねれば良いってものでも無いのか?」
『魔方陣は重ねると強くなる』と聞いていたが、簡単な話では無いのか。
「詳しく話しだすと大変だから簡単に言うとね。ジンが言ってる重ねると強くなる魔法は、一枚が魔法を発動させる物で、残りは全部その一枚を強化する魔方陣なの」
「一枚が火で残りが油みたいなもんか?」
「そうそう。それで、強化する為には隣の魔方陣と連結させなきゃいけないから、魔方陣の式を隣と繋がるようにしなきゃいけないの」
「だから一枚壊すと全部一緒に壊れるのか」
フィアやルインから聞いた話だが、この世界の魔法は魔方陣によって発動し、方法が主に二種類ある。魔方陣を地面や紙等に描いて魔力を流して発動するもの。称号の能力で空中に魔力で魔方陣を描き、それを破壊して発動するものである。
屋敷に戻る最中。ルインが重なった魔方陣を使う事があったが、手前の一枚を壊すだけで発動していたのだ。
「更に言うと、この魔方陣を連結させる作業が数を増す度に一気に難しくなるの。称号の能力を使った光の魔方陣じゃなきゃ、位置調整が難しいから尚更難しくなるわ。どう?出鱈目に重ねれば良いって訳じゃ無い事がわかった?」
「まあ、何となくだな」
魔法って難しそうだ。
「因みに、何枚でどのくらい強さなんだ?」
今までは魔法を見てもどの位の強さか良く分からなかった。基準が欲しい。
「そうね。大きさでも変わるけど、一枚で駆け出し。三枚で一人前。五枚で上級者って所。七枚出来れば一流って言えるかしら。まあ、ここに本人の技量とかが混じって来るから、あくまでも基準だけど」
ふむ、つまりリディアは三枚が楽に出来るらしいから、一人前レベル。ルインは舐めてて四枚だから上級者以上は確定だろう。
「因みフィアって何枚まで出した事があるんだ?」
「確か二十枚ね。魔力が一気に無くなって倒れたわ」
一流の約三倍。もしかして一流は結構いるのだろうか?
「一流ってどのくらいいるんだ?」
「そうね……小国なら一人いるかいないかって位じゃないかしら」
小国最強の魔法使いの約三倍。ぶっ壊れた性能である。
「お前って凄いんだな……」
感心して声を漏らすと、フィアが照れた様に頬を掻いた。
「純粋に褒められるとちょっと恥ずかしいな。まあ、今は頑張っても七、八枚が限界と思う」
結界の破壊で弱っても、まだ一流並、凄いものである。
「取り敢えず屋敷に上がったら?疲れたでしょう?」
「ああ。そうする。ほら、ルインも行くぞ。さっさと歩け」
「待って下さいっすよ~。まだ痛いんっすよ~」
尻を擦りながらフラフラと歩くルインと共に、俺は屋敷に戻った。




