17話 洞窟奥からの叫び
目の間には美しい女性が立っていた。
優しさを感じる垂れた目を持ち。その目は琥珀の色をしている。鼻は高く、整った顔をしている。髪は眩い金色で洞窟上部に空いている穴から差し込む光りに当てられ、綺麗に輝いている。
肌は透き通る様に白く、手足はすらりと伸び、胸も並程度はある。
そんな彼女には普通と違った特徴がある。
尖った耳だ。動かす為の筋肉でもあるのか、ピクピクと動いている。
そんな美しい女性、リディアは満面の笑顔で喜んでいた。
「凄いです!!本当に進化しましたよ!!」
そう言ってからリディアは自分の体を確認するように見回す。
そんなリディアを、全身が見える位置まで退いてから俺はガン見していた。鎧になっていなければ、きっと今頃はだらしない顔になっていたただろう。
犬、猫、狐の亜人という素晴らしい種族を見れた。そして次は妖精人ですか!!異世界来てよかった!!
モフモフは出来ないさ……だが!!エルフにはエルフの良さがあるのだよ!!
頭の中でエルフに会えた感激を噛み締めていると、リディアがこちらに近付いて来た。
顔は変わらないが、目は光で表現されてしまう。近付いて下心がバレないよう、真面目な顔をしてみる。
「ありがとうございます!!」
どうやら下心は隠せたらしい。リディアが笑顔のまま頭を下げてきた。
近付いて見てみて思うが、かなりの美人ではなかろうか。ほんわかとした顔は凛々しいタイプのウルとは違うものの、美しさで並ぶレベルだろう。
「おう。竜に会いに行くんだこれ位しないとな」
そう。これから二人は竜に会いに行くのだ。安全性は高めた方が良い。
「私頑張ります!!では行きましょう!!」
そう言って勢いのままに、リディアがフェアリーだった時と違って羽も無いのに、何故か宙を浮いて飛んで行こうとするが、
「ちょっと待て」
と俺が下を向きながら、足を掴んで止めた。
「どうしました?」
不思議そうにリディアが訊いて来た。
それに対して俺は、少し気まずい気分になった。だがここは言っておくべきだろう。
「……服……いるだろ?」
そうなのだ。フェアリーは小さな服を着ていた。だが進化によって大きくなった為入らない。なので、リディアは現在全裸。わざわざ全身が見える位置まで退き、見たくもなるというもの……俺、体が無くなってから欲求が高まってる気がする。昔はこんな神経してなかったのにな……。
クロナ達の時は驚き、立ち止まっていた。だが今となってはわざわざ全身を眺められる位置まで動くように。成長とは恐ろしいものである。
だがしかし、流石にこの位置から見るのは気が引けた。恥ずかしくなってしまったのだ。
「え?……あ。そ、そうですね……」
顔を真っ赤にしたリディアは、地に足を付けると体を丸め、羽と手で隠した。
「俺が作ってやるから待ってろよ」
今更ながら気を使い、俺はリディアに背を向ける。そして、いつもの様に服を作り始める。
こうしてまた発揮される俺の裁縫能力。サイズは既に頭に焼き付けてある。問題は無い!!
そうして数分後。
「よし。出来たぞ!!」
目の前に掲げるは、ホノサウルスの皮によって作られた服である。
今まで配下達に作ってきた服は、タンクトップと半ズボンで、尻尾の穴は各自で開けさせていた。だが今回は関係ないのでそのまま着ることになるだろう。
俺は振り向かない、後ろを向きながら服を投げて渡してやった。
「ありがとうございます」
そう言ってリディアが服を受け取った。
「もう大丈夫ですよ」
着替えが終わったようで、リディアが声を掛けてきた。振り向いて見てみると、服のサイズは丁度良さそうだ。
「何処か動きにくい所はないか?」
「大丈夫ですよ。とても動きやすいです。御上手なんですね」
「まあな。好きなんだよ」
褒められるのは嬉しいものだ。鼻が高い。
さて、落ち着いた所で調べておくか。
「ちょっと調べたい事があるんだがいいか?」
「調べるとは、何をですか?」
「進化して色々と出来る事が変わっただろうから、能力を調べるんだ。いいか?」
「そんな事まで出来るんですか!凄いですね。是非お願いします」
承諾も得たので、遠慮なく調べさせて貰う。
進化は見た目が変わる楽しみがあるが、能力を知るのも楽しみなのだ。今回もワクワクしながら進化させて、見た目はエルフだった。とは言っても狼と思ったら犬だったり、虎と思ったら猫だったりした事もあったので、信用は出来ないが。さて、
能力はどうなっているのだろうか。
頭に手を翳して[理解]を使ってみる。
個体名:リディア
称号:【妖精人】「飛翔」……空を飛ぶ事が可能
「魔方陣」……魔法陣を空中に描く事が可能
「幻覚」……認識を誤認させる事が可能
ふむ、遠距離形だな。空を飛んで魔法を使う。かなり強いのではないだろうか?
結果を伝えてみた。なんと能力は全く変わっていなかったらしい。但し、代わりに身体能力が大幅に上がったようだ。恐らく進化によって本人の弱さをカバーしたのだろう。フェアリーは小さくて握り潰せそうだったしね。
そうして身体能力が上がった結果。魔法も強くなったようだ。試してみたのだが、今まではフェアリーの中で優れた個体で二重の魔方陣が限界だったらしいのだが、今では三重の魔方陣が割と楽に出来るとか。
だが、俺には凄さが分からない。一枚でどう変わるのさ。
取り敢えず調べる事は出来た。進化して出来る事も分かったので何かあれば活かして貰おう。
「それじゃあ行こうか。場所わかる?」
「はい。付いてきて下さい」
俺達二人は竜に会うたに洞窟を奥へと進んだ。雑談をしながらも進んでいると女性らしき凄まじい叫び声が聞こえてきた。何か言っているようだが、よく聞こえない。分かるのは苦しそうだという事くらいだろうか。
「竜……か」
「恐らくそうでしょうね。大分心が乱れているのでしょう。今までこんな声は聞いた事がありません」
やはり会うのは危険そうだ。行くかどうか悩んだが、やはり他に手掛かりは無いので進む事にした。
その後も何度も叫び声が聞こえ、それの叫びは洞窟を進む度に頻度が上がってきた。
「もしかして気付かれているのでしょうか?警告として叫んでいるのかも……」
「そうだとしたら、警告するって事は理性があるって事だ。話が出来るかもしれない。何ならここからは俺一人で行こうか?」
「……いえ。ジンさんに押し付ける訳にはいきませんし、仲間の為にも頑張ります」
「分かった。行こう」
更に進み、俺達は声を微かに聞き取る事が出来る位置まで来た。
「……リン。……そう」
二人で耳を澄ましてみたがこの距離ではこれが限界だった。
その後も似たような叫びが聞こえてくるが、意味は分からなかった。
少しして、やっと聞き取る事が出来た。その内容は「死んじゃう」と叫ぶ声だった。少し動揺したが、俺達は急いで向かうことにした。
そしてとうとう、俺達は洞窟の一番奥。竜の住み処へとたどり着いた。
そこは直径三、四百メートルはありそうな空間があった。天井手前半分程がポッカリと大穴を開けており、青い空が広がっている。
その奥。天井によって影になっているそこに木の枝が幾つも置かれており、その上に枯れ葉等をおくことでキングサイズ程のベッドのような物があった。
そしてなんと、それを取り囲む様に数人のフェアリーがいた。だが、今注目すべきはそこではないだろう。自然素材のベッドの上。そこにはお腹の大きな若い女性と、慌てふためく若い男性がおり。
「ダーリィィィィィィン!!産まれるぅぅぅぅぅぅ!!」
「ああああああ!!どうしたら……が、頑張るんだハニーーー!!」
出産中でした……。
予想外の出来事に思わず硬直。頭の中は状況理解に忙しなく作動中である。
え?え?竜は?え?産まれんの?今?産婆は?ぬるま湯とタオルは?いや待て。まずどうなってんだよ!?そうだ。リディアなら何か分かるかもかも知れない。
思考の渦から何とか脱し、首から上のみを油を指していない機械の様にぎこちなく回す。その先には―――
「あわ。あわわわわわわ」
意味も無く両手を激しく上下に振っている、分かりやすく慌てたリディアがいた。
ダメだ!!俺以上に慌てている!!くっ……どうするべきか……。
「死んじゃうぅぅぅ!!ダーリィィィン!!」
「あぅあ……どうしたら……」
「ダーリィィィン。手、手握ってぇぇぇ」
「分かった!!こ、こうか?大丈夫だからな!!」
心配そうに眺めながら妊婦さんの右手を両手で包み込む男。
お、落ち着け俺!!兎に角今は目の前の命だ!!出産に必要な物と手順を思い出せ!!
俺は思い出しながら二人に走って近付き、叫んだ。
「ぬるま湯と拭くもの用意しろ!!生まれる前に早く!!」
俺の叫びに驚いたのか。男と回りのフェアリー達は一斉に俺の方を向いた。男は警戒して、手を握りながら身構え。フェアリー達は俺に怯えて散っていく。
「お前は誰だ!!ハニーに手出しはさせ―――」
「一大事だろうが!!俺に構うぐらいなら嫁さんを構え!!いいな?周りの奴らは分かったらさっさと動け!!」
「あ、ああ……」
無理矢理に男を納得させ、俺は妊婦さんの頭の上に回った。
「呼吸はひっひっふーだ!!楽になるはずだ!!ほら、ひっひっふー。ひっひっふー」
「ひっひっふー。ひっひっ、ぐぁあああ、……くはっ!!ひっひっふー」
数十分後……大きな卵が出てきました。
「元気な卵が……卵!?」
「ハニー!!卵が産まれたよ!!頑張ったね!!」
「う、うん……私、頑張ったよ。ダーリン……」
よくわからんが異世界だ。異世界の子供は卵からなのかもしれない。
とりあえず、俺の叫びで正気に戻ったリディアの統率力の元、フェアリーが持って来た布っぽい物と俺が高熱化でちょっぴり水を温めて作ったぬるま湯で卵を綺麗にする。
キュッキュッキュッ
……合ってんのかな……これ……
唯でさえ怪しい知識で不安だったというのに、卵になって余計に不安が増した。
卵となると胎盤とかどうなるんだろ?無いのかな?……まあ、とりあえず。
「ほら、お子さんですよ~」
二人の間に卵を持って行って上げた。二人は片手を握り合ったまま、もう一方の手で卵を優しく撫でる。
「ダーリンと私の……子供……」
「ああ、そうだよ。ハニーと僕の子だ」
卵を挟んで二人は見つめ合う。うっとりと愛しい人とその人との子供を見つめて―――
「甘い空間から解放して下さい」
二人が撫でる卵を支えている俺はそう言った。
「あら。ごめんなさい。ダーリンが格好良い顔するから、つい」
「ハニーの瞳が輝いていたからだよ」
「もうっ!!ダーリンったら!!」
「ははは」
出産か産卵かよく分からない事の後だから我慢しようかと思ったが、孤独感が凄い。お願いです。今すぐ解放してください。
願い叶わず。そこから十数分の間、俺は甘い空間に閉じ込められた。




