15話 重なる恐怖
あれからフェアリー達と自己紹介等、色々話した。女のフェアリーが族長で、後の二人は世話役だそうだ。そしてまたもや名前がないとか……魔物とかって名前が無いのが当たり前なのかな……。
「その竜二匹ともが暴れているのか?」
「はい……雄と雌の竜がいるのですが、その内の雄の竜が『食われたくなければ出て行け』と言ったんです。その時に群れの大半は近くの湖に逃げましたが、洞窟のひび割れなどに入って隠れてしまった子もいるんです。その子達もどうにかなりませんか?」
「う~ん。フィアの様子しだいだな。俺は友達優先だから」
友達の少ない俺にとって、その数少ない友達はかなり高い優先順位にある。
そういえば、友達を殴って笑っていた不良五人組にいきなりドロップキックして一人で喧嘩売った事もあったな。あの時はかなり切れていてよく覚えていないけど、終わる頃には全員土下座+財布を出す事になってたな。因みに財布はとってない。警察官の息子がカツアゲは良く無いしね。
とまあ、友達の為に頑張ったわけなのに、その子にビビった顔で「友達だなんてもう言いません!!軽く呼んじゃってごめんなさい」って言われて泣きながら帰って三日寝込んだな。
その後、なんとか復帰して学校に行った日、その子が俺の前に来て「部下にしてください!!」ってクラスで言って来て大変だったな。思えばあいつも信者みたいなもんだったな~。
手を額に当て、ため息混じりで過去の思い出を振り返っていると族長が俺を心配してきた。
「大丈夫ですか?すいません。守ってもらう上に竜の暴れる洞窟に助けにまで行って頂こうだなんて迷惑でしたよね」
どうやらため息等を自分のせいと勘違いしたようだ。手を振って誤解だと示してやる。
「ああ、違うんだ。ちょっと昔の事を思い出していただけだから」
「そうですか。それなら良かったです」
ニッコリと笑顔で安心してから、質問してきた。
「そういえば、フィア・ネイロン様は何処に?」
そういえばそうだ。この屋敷が広いと言っても時間がかかり過ぎでは無いだろうか。もしや一つの反応がフィアではなく強力な魔物だったのではないだろうか。
不安が心の中に渦巻いていき、心配で仕方が無くなってきた。
「わからない。少し見に行ってみよう。チャノ、臭いでエリーナ達の居場所は分かるか?」
「はい。こっちです」
チャノは嗅覚が良く、臭いが残っていればそれで追跡が出来る。
俺達はチャノの案内に従ってついて行った。
そして辿り着いた場所には、
「あら。どうかしましたの?」
元気なエリーナと、
「もうちょっとなんで、声かけないでくださいっすよ」
壁に手を当てて汗を流すルインがいた。
二人の無事を確認し、体に入っていた余計な力が抜けた。
「なあ、エリーナ。あれ何やってんの?」
そう言って俺はルインを示した。
ルインは膝立ちになり、魔法陣が浮かび上がる扉に両手を当てて何かしているようだ。
「ああ、あれは扉にかかっている魔法を消しているらしいですわ。なんでもあれのせいで開けられないらしいんですの」
「力技でどうにかならないのか?」
少なくともルインのいた洞窟の扉は俺の力のみで何とかなった。ここはダメなのだろうか。
「試してみたのですけれど、私達二人共傷一つ付けられませんでしたわ」
エリーナは力が無いので分かるが、ルインで傷一つ付かないとは凄まじい強度である。
ルインは体の一部をゴーレムに変える事が得意な魔法の一つらしい。そして変化した部位は強度と威力のどちらもが、俺の倒した巨大ゴーレム並に高くなる。それが傷一つ付けられないのだ。俺でも壊せるかわからない。とんでも無い防御力だろう。
「出来たっす!!」
俺が扉の防御力に関心していると、ルインが喜びの声を上げた。
見てみると、扉にあった魔法陣が消えていくところだった。やがて光っていた魔法陣は綺麗に消え去り、残ったのは唯の両開きの扉だった。
「では!!開けるっすよ!!」
ルインが魔法にて両手をゴーレム化し、扉を無理やり押し開こうとする。扉はギチギチと音を立て、やがて蝶番ごと外れ、大きな音を立てながら床に倒れた。
その部屋の中には高そうな鎧や装飾品が置かれており、おそらく宝物庫だろうと予想できた。その部屋の中央、ポッカリと空いたスペースに一人の少女、フィアはいた。
体には力が入っておらず、だらりと地面に仰向けになっている。血でも吐いたのか、顔の辺りは血塗れになっており、息は浅い。
この光景を見て、俺はあることを思い出した。
俺が死ぬ寸前に見た晴彦の顔を。
俺は慌ててフィアに飛びつき、アリガタ草との一体化で手当たりしだいに治癒していく。
「おい!!しっかりしろ!!死ぬな!!おい!!」
裏返りながらも、叫ぶように声を掛ける。
「ジンさん。そんなに心配しなくても──」
「何言ってんだ!!こんな状態なんだぞ!!速く、速くしないと!!ああ、そうだ。魔力、魔力が無いなら渡せねぇのか。おい、ルイン!!魔力を渡す方法は無いのか!!」
「いや、だからそんなに慌てなくてもだいじょ──」
「こんなに苦しそうじゃねぇか!!速く教えろよ!!おい!!聞い───」
金属が響く音と共に頬に衝撃が訪れ、俺の視線がフィアからそらされた。衝撃が加えられた方向を振り向き、何が起こったのか確認する。
「落ち着いてください。ジン様。そんな状態じゃ、まともに治療もできませんよ」
そう言って拳を握るチャノがいた。どうやら俺は殴られたらしい。
「……すまん」
そこから俺は黙ってルインの指示に従った。治療が終わるまでの間は一切言葉を発さず、頷き、ただ言われた通りに動く。そんな事しか出来なかった。
治療は終わり、フィアは寝室のベッドにて寝かされた。
今、俺は案内された客室で一人でいた。部屋の隅で三角座りになり、両手で頭を抱え込む体勢。カチカチと金属をぶつけ合いながら震えていた。
同じ映像が何度も頭を流れる。
倒れたフィアの顔。それに重なるように最後に見た晴彦の顔が浮かび上がる。
嫌だ。嫌だ。もう嫌だ。死なないでくれ。頼むから。何だってするから。だから、死なないでくれ。
ルインの診断では、放っておいても死ぬことはない状態だったらしい。魔女は魔力の枯渇が酷くなると死に到るらしいが、そこまで魔力量が減りさえしなければ魔力を取り込んで勝手に再生して元気になるらしい。
そう言われた。だが、俺の中は今、不安で覆い尽くされている。
ゆっくりと首を締められているような。心臓に向かって針を徐々に打ち込まれているような。そんな錯覚さえしそうな恐怖が俺を襲う。
怖い。怖い。もう無くしたくない。もうあんな気持ちを味わいたくない。もう……もう…………。
心に疲労が溜まっていく。今のこの体では安らぎを求めて眠りにつくことさえ出来ない。時間と共に痩せていくばかりの心。
フィアを見に行きたい。そう思う。だが、それは止められている。何故なら見に行けば俺はもっと苦しむから。どうすればいいかわからず自分を殴りだすから。だから皆に止められた。『ここにいてはいけない』と。
もう何日たっただろうか。いや、もしかしたらまだ数分だった気さえする。フィアはもう治っただろうか……。
気を逸そうと別の事を考えてもすぐに思い出し、僅かな時間だけ緩んだ震えがまた戻る。
一緒に過ごした時間はたったの一週間。だが、この世界に来てから一番濃い付き合いの人物だ。俺を救ってくれた、よく話した。そんな人物。その人物と重なって見えた、いなくなった親友。
怖い、怖い、嫌だ、嫌だ、死なないで、死なないで。
そんな恐怖でがんじがらめの俺に、一つの声が掛かった。
「もう大丈夫だから。ごめんね。心配かけて」
この世界で初めて聞いた声。聞き慣れた優しい声。再開を約束した声。そんな声が俺に聞こえた。
これで何度目になるか。また幻聴と思うものの顔を上げる。だが、今度は幻聴ではなかった。いや、もしかすると今度は幻覚が見えているのかもしれない。
そう思いつつ、震える手を伸ばす。すると、目の前の人物が手をとってくれた。温度は高くないが、確かに感じるぬくもり。
いる。本物がいる。目の前にいる。生きている。死んでいない。生きている!!
「ぐ、うあぁぁぁぁぁぁ」
とってくれた手を両手で包み込み、俺は泣いていた。涙も出せずに泣いていた。安心しきって。手を包む以外の力を抜いて。俺は泣いていた。
そこから数十分間程。俺はフィアに慰め続けられた。俺はフィアにのみ元の世界での事を告げている。だからこそ俺の恐怖の理由はすぐに察してくれたのだろう。欲しい言葉を言ってくれた。
「落ち着いた?」
無言で俺は頷いた。
今になって考えればかなり恥ずかしい状態だったと思う。死なないと言われた女の子の命を心配して震え。その女の子に声を掛けられて手に縋りつく。おおぅ。これは黒歴史になってしまいそうだ。
しかし、俺はここまで晴彦の死がトラウマになっていたのか。正直な所、友達が死ぬって事になったら切れるだろうな~くらいで考えてた。聞いてみたら丸三日ガクブル状態だったらしいし、かなりのものだな。軽い気持ちで友達を増やすのはダメかもしれない。
「落ち着いて良かったっす~」
部屋の中央から気の抜けたルインの声がした。
え?ちょっと待って。何時からいたの?どこから見てたの!?
さっきまでとは違う意味で恐怖が襲ってくる。
「い、何時から見てた!?」
「え?半日前からっすよ」
フィアが来てからの全部どころか、震えてる所から見られてただと!?ぐがぁぁぁ。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしいーーー!!
俺は頭を抱えてプルプルと震えた。
「因みにフィア様が来てからは皆見てたっすよ」
そう言ってルインが指さした先。皆、つまりは配下三人+フェアリー三人がこちらを見ていた。
俺は顔を両手で覆いながら床を転がり回った。
見ないでーーー!!もう恥ずかしいから見ないでーーー!!
そして、ひとしきり転がり回ってから気付く。今、第二の黒歴史じゃね?と。
立ち上がり、体の埃を払う仕草をする。そして如何にも何も無かったという風を装う。
「そんな事しても無駄っすよ?」
「触れるなよ!!今敏感なの!!大事な所が敏感なの!!」
絆創膏で応急手当てした傷口を叩かれた気分。あれする人って何考えているんだろう。
その後、それぞれを紹介し合わせてから騒いだ。少し前までの事を忘れるくらいのつもりの勢いで話をしてやった。だが、感情のコントロールは簡単ではないようで、まだしばらく手の震えが収まらなかった。




