14話 小さな訪問者
ひとしきり俺を殴ったルインと一緒に、文句を言われながらも洞窟を出た。ウル達に中で起こった事とフィアの事をだいたい説明。ついでにそれぞれの紹介も終わらせた。
フィアは有名人らしく、三人共名前を聞いて驚いていた。
そして現在。洞窟を出て屋敷に向けて移動中である。ヤーちゃん。つまりは片手槍のゴーレムの肩に俺以外は乗っている為、速度はそれなり。その間も俺はずっとゴーレムの事を責められ続けていた。
「全く……あの数全部壊すなんて馬鹿としか考えられないっすよ……」
「……はい。馬鹿です」
現在。洞窟を出て屋敷に向けて移動中である。その間も俺はずっとゴーレムの事を責められ続けていた。
「まあ確かに、あの数を相手にしようって考える時点で馬鹿よね」
ウルまでもが俺を責め始めた。
やめて!!色々とグサグサ来てるから!!もうやめて!!
「皆さん逆の発想ですわよ。アレだけの数を短時間で殲滅できる存在が味方と思えばいいのですわ」
エリーナお前って奴はなんていいやつなんだ。
心の中で褒めちぎっていたが、すぐに辞めることになった。何故なら、「例え馬鹿でも」とエリーナが付け加えたからだ。
「まあ……そうっすね。馬鹿でも頼りになる馬鹿っすね。その馬鹿力で馬鹿なりにも頑張ってくださいっす」
「……はい」
短時間で『馬鹿』って四回言われた。凹むけど悪いのは俺だから大人しくしていよう。
しかし、安らぎは欲しい。ここまで一度も馬鹿と言っていないチャノに求めてみようと思う。ジッとチャノの顔を見る。
「え~っと。馬鹿でも強いです!!大丈夫です!!」
慌てながらそう言った。
あ~。必死のフォローなんだろうな~。そういえば、洞窟出てから俺とまともに話していないだけだったっけ……。ここに安らぎは無いのか。
その後、ゴーレムが不眠不休で四日程かけて走り、屋敷まで辿り付いた。因みに、一日目はまるまる責められていた。精神的には結構厳しかった。
さて、屋敷の周りだが、結界は綺麗に無くなっていた。
結界のあった部分と無かった部分で植物がくっきりと違う。結界内はフィアの魔力濃度が高かったので、草はその魔力に耐えられるように進化させられたのだろう。そういえば前に調べた時は薬草ばっかだったな。
そして、屋敷からは結界が無くなっても結構な量の魔力を感じる。きっとまだ残っているのだろう。
結界も無くなって晴れてフィアとご対面である。約十日ぶりの再開だ。元気にしているだろうか。
少し早足で屋敷に向かって歩き。中に入ってすぐに叫んだ。
「フィアーーー!!帰ってきたぞーーー!!」
俺の呼びかけに対して、フィアはすぐに返事を───しなかった。どころか音一つ聞こえてこない。
「あれ?おかしいな……」
もしかして屋敷で待っているのが我慢できなかったのか?う~ん。そうだ。エリーナの[気配察知]で調べてもらおう。
「エリーナ。この屋敷のどこかに誰かいないか?」
エリーナの[気配察知]は常に発動しているが、魔力の消費を抑える為にこちらに近づいて来る者限定で調べている。
なので俺はこの屋敷の反応を調べてもらえるように頼んでみた。するとエリーナは頷き、すぐに答えてくれた。
「二箇所に反応がありますわよ」
「二箇所?」
「ええ。三つの纏まった反応と、一つだけの反応がありましたわ」
魔物でも紛れ込んだのだろうか?一つしか無い反応がフィアとして、三つの纏まった反応がそうだとしても……魔力が濃すぎて普通の魔物は入れないはず。そう考えて上位、しかも俺を襲うレベルで考えると、集団行動するような奴はいなかったはずだが……もう少し弱いレベルか?
考えていると、エリーナが俺の側に来て小さな声で言った。
「動きが普通の魔物に比べて不自然ですわ。敵がいない事を確認しながらに近づいてますし、知能の高い敵の可能性が高いですわ。大きな声だと聞かれてしまうかも知れませんし、警戒したほうがいいかもしれませんわ」
普通の魔物じゃないのか……一体何だろうか。まあ、面倒だしパパッと始末しちゃうか。
「面倒だし、始末しちまおう。一緒に来てくれるか?」
「わかりましたわ」
こうして臨時で討伐パーティーを組み、俺とエリーナで敵を倒す事にした。
声の調子を元に戻して、俺は皆に話しかけた。
「皆、少し待っててくれ、俺とエリーナで一つだけの反応っていう所に行ってみるから」
話は聞かれていると考え、敢えて嘘を付く。
「なら私達は三つの反応がある方に行って来るっす」
「いや、それは待っててくれ。距離が離れすぎると、何かあった時に俺が駆けつけづらい。屋敷の中央のここにいてくれ。あまり離れるのは危険だろ?」
「う~ん。フィア様には速く会いたいっすし、メンバー的に大丈夫とは思うっすけど……まあ、慎重に行って悪いことはないっすからね。わかったっす」
「ありがとう」
予想としては、ルインがフィアに会いたがって急ぐと思っていた。だが、まだ久しぶりの外の世界に慣れていないからか。慎重になってくれてよかった。これで会話の内では集団の方には誰も向かわない事になった。森の魔物の強さから言って、たぶん余裕で勝てるだろうけど、慎重に行ってもいいだろう。
「よし、エリーナ。魔力の放出押さえとけよ」
「分かってますわよ」
お互いに魔力の放出を押さえ、存在感を薄くする。屋敷内の魔力の濃さのお陰もあって、魔力による存在感はかなりわかりづらいはずだ。
エリーナは走っても足音がほとんどわからないくらい、忍び足が上手いので問題なかった。だが俺は鎧なので結構煩い。なので蔓を出し、体を吊るすように持ち上げ、床を這わせる。これによって音を殺して移動できた。
こうしてこっそり移動した先は、屋敷二階の廊下の曲がり角。エリーナが指し示して敵の存在を教えてくれた。俺は頷き、壁からニョキッと顔をだけを出してみた。
すると目の前、こちらを見て目を見開き、狼狽える三人の小さな人間。否、羽の生えた小さな妖精がいた。
無言でしばらく見つめ合う一人と三人。途中でエリーナが参戦して二人と三人。
しかし、その均衡は途端に崩れた。三人が一斉に俺たちと逆方向に走りだしたのだ。
「女を捕まえろ!!」
「はい!!」
短い遣り取りで誰を狙うか定め、俺は男二人を狙う。
床を壊さぬよう手加減をしつつ走り、難なく両手で捕獲。その俺の横をエリーナが走り、残りの一匹を捕獲。
とりあえず捕まえたが……どうしよう。
俺が悩んでいると、女の妖精が叫びだした。
「殺さないでください!!私達はフィア・ネイロン様にお願いがあって来ただけなのです!!」
「……フィアに?」
「はい。もしやお仲間の方ですか?でしたらお願いです。話だけでも聞いてください」
う~ん。まあ聞くだけならいいかな……。でもその前にこいつらの正体が知りたい。
「こいつらの事知ってる?」
俺は両手の妖精を突き出し、エリーナに訊いてみた。
「いいえ。知りませんわ。ウルなら知っているかもしれませんわよ」
ウルはこの森の事は結構詳しい。戦闘に向かない種族なので、情報でカバーしていたのかもしれない。確かにウルなら分かりそうだ。という訳で「後で聞いてやるから黙ってろ」と妖精に言い、ひとまず玄関に戻る事にした。
玄関に戻ると、ルインとウルが俺達の手の中を見て驚いた顔をしていた。
「フェアリーっすか。少数で行動なんて珍しいっすね」
「やっぱりあれがフェアリー……普段は洞窟から出てこないのに……」
はやりウルは知っていたようだ。そしてルインも知っていた。長生きしているだけはあるんだな。
洞窟から出ないという事は、おそらくこいつらが竜と一緒に住んでいる妖精だろう。しかし、竜と一緒に住んでいるような奴らがお願いだと?そんなものは竜にお願いして終わりじゃないのか?一体どんなお願いやら。
ひとまず皆に、こいつらを捕まえる為に嘘を付いた事など、少し前からの俺の行動を説明した。
「で。こいつらはフィアにお願いがあるって言ってるが、どうする?」
「そうっすね……ひとまず、私はフィア様を探してくるっす。返事が無いのは心配っすからね。ジンさんはピクシーの相手をしていてもらえるっすか?」
確かに、返事が無いっていうのは結構心配だ。残り一つの反応はおそらくフィアなので心配もないだろうし、ルインには先に行ってもらうのがいいかもしれない。
「分かった。先に行っててくれ」
「はいっす。では、エリーナさん。道案内をお願いしてもいいっすか?」
「ええ。勿論」
エリーナは捕まえていたフェアリーをチャノに渡し、こうして二人はフィアを探しに行った。
「で?お願いって何?」
黙っているように言っていたフェアリー達にもう一度話をさせる事にした。すると女のフェアリーが待ってましたとばかりに一気に話し始めた。
「洞窟の竜が最近になって急に暴れだし、私達は追い出されてしまいました。ですが私達は弱いために森では襲われてしまいます。そんな時に結界が消えた事に気づき、フィア様に助けてもらおうと考えたのです。どうか私達の一族を救って頂けませんか!!」
ふむ、頼み事なら竜にすればいいのにと思っていたが、その竜が暴れだしたのか。で、フィアに縋って来たと。そのフィアも結界の破壊で今は大分弱くなってると思うけど。
「う~ん。フィアに頼むのは希望が薄いと思うぞ?」
「な、何故ですか!?こちらも無償で頼もうというわけで──」
「そういうことじゃ無くってだな。今、フィアは弱っているはずだ。お前達を助ける余裕は無いと思うぞ?」
俺の言葉に焦って返してきたが、それを遮って説明してやった。するとフェアリー達は驚いたような声を上げた。
ルインが言っていた所では、酷ければ手足を動かすことさえ辛いだろうという話だった。そんな状態で人助けなど出来ると思えない。
「そんな……本当なのですか?」
「ああ」
フェアリー達は一斉に暗い顔をした。本人達にとっては希望が無くなった状態だ。そうなっても仕方ないのだろう。だが、希望が無いだなんて決まっていない。
「俺が助けてやろうか?」
その言葉でフェアリー達は顔を上げ、驚いた表情をした。
「俺は結構強い。暫くの間、フィアを守ってやるつもりだ。だから、お前らくらいなら増えたって構わない。どうだ?」
「ほ、本当ですか?」
フェアリー達は目を輝かせ、現れた希望に頼っていいのか確認を取る。
「ああ。いいぞ。その代わりしっかりとお礼はしろよ?」
「はい!!勿論!!」
嬉しそうにそう言い。フェアリー達は喜んだ。




