13話 それぞれの動き
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「やっぱりきついわね……これは……」
フィアは屋敷の宝物庫の中で倒れ、そう呟いていた。
ジンが結界の破壊に向かってから、フィアはずっとこの部屋に籠っていた。何故なら、結界が破壊された後は自分が無防備な状態になることが予想出来ていたからだ。
宝物庫は中の物を守る為に頑丈な作りになっており、外側に掛けてあった大きな南京錠を内側に掛ける事で安全性はかなり高くなっている。
もし、フィアを狙うものや魔物が殺しに来たとしても、簡単には宝物庫には侵入できないのだ。
こうして安全を確保した上で、フィアは倒れていた。
魔女は魔力への依存が強い亜人である。その為、魔力の枯渇は普通よりも厳しい物となる。
魔法が使えないのは勿論。体中のあちこちが重く、座ることさえ厳しい。いきも荒くなり、鼻血も出てきている。
ゆっくり顔を傾け、今では何もない状態だが、つい二週間程前まで黒くて禍々しい鎧があった場所を眺める。
すると苦しい表情は変わらないが、笑いが零れた。
「ジンの奴。うまくやった……みたいね……速く……会いたい……な……」
長かった孤独な時間で癖になってしまった独り言を、途切れ途切れで呟いて、フィアは体を休める為に眠りについた。
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空に三日月が昇る頃。
国の九割が鬼に関わる亜人が住み、和風の建物が立ち並ぶ国。ヘルベルク王国。
この国は小さいが故の軽い動きで、国内の問題を解決し。普段は大人しいが、いざとなれば鬼の強力な力で周りの国の侵攻を打ち払う事で生き残ってきた国である。
そこの王城では緊急の会議が開かれていた。
「【無限多重の魔女】が開放されただと!?本当なのか?」
「ああ。ネイロンの森の龍夫婦の様子を見にいった兵士が偶然確認し、飛んで帰ってきた」
「どうする?今すぐに討伐隊を編成するか?」
「待て。先ずは竜夫婦を討伐し、武装を充実させるべきだ」
「確かに、竜の素材があれば武装は良くなるだろう。しかし、それで【無限多重の魔女】へと向ける兵がいなくなっては意味が無いだろう」
「ならどうする?我等以外のネイロンの森近隣の国の動きを待つか?」
「フィローナ王国とシギムラガン王国か。だがどちらも人間の国だ。シギムラガンに関してはそれなりの規模ではあるが、勇者も持っておらんようだし、小規模戦闘にはむかんだろう」
「我等が行くべきか……」
貴族と高官が集まり、話し合いをしている中、玉座に腰掛ける者は目を閉じ。考え込んでいた。
今この国の為にするべき事は何か、と。
やがて、その者は目を開いて立ち上がった。それだけでその場にいた者達はさっきまで熱くなって話し込んでいた話を止め。自分達の仕える王をただ見つめる。
その人物は艶のある黒髪を背に流し、目は宝石のように赤く透き通っている。何よりも目に付くのは、鬼としての種族の象徴と言えだろう、額から伸びた角である。真珠のように綺麗で真っ直ぐに上に向かって伸びている。
そして王───そう呼ぶには幼さを感じさせる少女は、決断を伝える。
「我等は確かに強い、けれど数が少ない。故に数が減ることは可能な限り避けたい。その為、【無限多重の魔女】にもネイロンの森の竜夫婦にもこちらからは手を出さず、周りの国に好きにさせておけ。しかし、もしもの為に警戒は怠るな」
亜人はそれぞれが強力な力を持つ事が多い。しかし、出生率が人間や魔物に比べて低く、数の増え方が少ないのだ。
それ故の決断。攻めに出て数を減らし、弱まった所で周りの国からの攻撃を受けないようにするための考え。王は種の存続が最優先と判断したのだ。
この指示に皆は従い。会議は国に被害が出た際の対応策を考える方向に進んだ。
そして、魔女開放の知らせはネイロンの森近隣の二つの国にも知らされた。
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太陽が真上に到達し、熱が増していく真昼。
海に面しているために幾つも水路があり、美しい建築物と装飾が多い都を持つ、漁業と鍛冶が盛んな国。フィローナ王国。最近では曲芸などの見世物をする者が多く出入りして賑を見せている。
この国でも緊急の会議が行われていた。
「怒り狂い、たった一人で国を滅ぼしたと言う。あの【無限多重の魔女】が復活したと……」
「そのようだ。ヘルベルク王国から緊急の通達があった」
「どう動きますか……竜夫婦の事もありますしな」
「そうですな。奴らを討伐すれば、我が国の技術も活かして兵士の武具は潤う。狙うなら産卵期に入った今しかないが……正直、損害がきつそうですな」
「確かに、二桁レベルの竜の素材は惜しいが、我が国は軍事は向いてませんからな。少ない兵を投入するのはあまり良くない」
「ならば、守りを堅めるか……」
「それが懸命であろうな。王よ。よろしいですかな?」
向けられた視線の先、真っ白な髭をふんわりと生やした優しい顔の老人は、
「ああ、いいとも。私が望むのは一人でも多くの者が笑って暮らせるような、そんな日々だ」
王の了承を得て、会議は防衛強化の方針を決定し。兵士の配置などを考えるのだった。
会議が進む城の別室。金髪碧眼で西洋人形のように美しい少女は、いつもと同じように言った。
「つまらない」
その一言で、目の前で行われていた道化の格好をした男の玉乗りは、控えていたメイド達によって中止された。
乗っている玉をメイドによって転がせられ、男は無理矢理に出口へと連れて行かれる。
その道化は器用な事に、玉の上を歩きながら少女に向かって礼をする。
「笑わせられず。申し訳ありません、姫。でもきっと、誰かがあなたに笑顔を戻しますよ。何故ならあなたは、多くの国民から愛される素晴らしい御仁なのですから」
哀れむようにそう言って、道化は扉から外に出された。
人形のような姫は思う。もう何日笑っていなかっただろうか、と。
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夕日が空を赤く染め上げる頃。
観光事業が盛んな国。シギムラガン王国。
この国にもヘルベルク王国から連絡が来ており、緊急会議が開かれていた。
「【無限多重の魔女】……か。あの伝説の魔女がねぇ。実感が湧きませんな」
「ええ。確かに。しかし、これは困った事になりそうですな……竜夫婦の討伐準備がもうすぐ終わるというのに。中止しますかな?」
「いや、逆に好機だ。【無限多重の魔女】が開放された今。我等以外のネイロンの森近隣の国は、そちらで手一杯。兵の多い我等がだけが討伐に向かえる。そうなれば竜の素材が独占可能となる。これは大きな利益となるだろう」
「なるほど。確かにその通りだ。我等のみが出来る事。これを活かさなくては損ですな」
「どうしますか?王よ」
その言葉で王は瞑目し、考えをまとめる。
現状、観光事業と貿易がこの国の金庫を支えている。だが、季節によって入ってくる量に変化が激しく、安定した収入源が欲しいと思っていた。
そんな時、ネイロンの森の竜夫婦が産卵期に入ったと知らせがあった。この機会に軍事力を強化し、領土を広げて特産物でも手に入れば、国の金庫を安心して見ることが出来る様になるだろう。
【無限多重の魔女】に関しては心配もあるが、所詮は伝説。滅ぼしたと言われる国の規模は明確には伝わっていないし、おそらく誇張表現では無いだろうかと予想している。この国は突出した強さを持つ者こそ少ないが、兵士の数は多い。それに加えて竜の装備まで揃えれば、倒すのにさほど苦労も無いだろう。
龍の討伐は二つの問題を解決させる。ならば迷わずとも良いだろう。
「ネイロンの森に棲まう竜の討伐を優先する。【無限多重の魔女】への対策はその後だ。今は軍事力強化に力を注ぐのだ!!」
王としての経験がまだ浅い、三十代中盤ほどの男はそう言った。
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ジンの配下である、仙狐人族、猫人族、犬人族が集まり、今ではすっかり賑やかになった集落。そこで信者を纏め上げるバルは、声を大きくして叫ぶ。
「ジン・ミクモ様は崇高なる神!!我等を導く神!!素晴らしき神!!さあ、言ってみろ!!」
バルの指示に従い。今では三種族で合計四十人近くにまで増えた信者達は叫ぶ。
『『『ジン・ミクモ様は崇高なる神!!我等を導く神!!素晴らしき神!!』』』
「もっと心を込めて!!もう一度!!」
バルに言われた通り。更に心を込めようと考えた信者はそれぞれがそれぞれのやり方で心を込めながら叫ぶ。
『『『ジン・ミクモ様は崇高なる神!!我等を導く神!!素晴らしき神!!』』』
「良し!!掛け声はこの辺りで終わりにして、今日も拝もうぞ!!」
信者が膝を付き、ジンが向かった方向を向いて拝み始める。勿論バルもそうしようとして膝を付いた。しかし、そこで声が掛かった。
「おじいちゃん。お姉ちゃんがあんまりこういう事をしちゃダメって言ってたんよ。怒られるんよ?」
「ふん!!ウルは崇高なるこの行為の素晴らしさが分かって無のだ。さあ。トトも一緒に拝もうではないか」
バルは若返った事で口調を改め、ジンへの信仰を更に厚くしており。ウルの注意は無視して熱心に信者としての行為を行っていた。
「え~。遊びに行きたいんよ」
「何!?遊びの為にジン様へ拝まぬと言うのか!?私の孫なら拝まぬか!!」
「お姉ちゃんもしてないけどおじいちゃんの孫なんよ」
「くっ!!いらん影響を受けおって……第一、最近は前よりも遊びに行く頻度が増しておらんか?」
そうなのだ。トトはジンに集落まで送られてから友達とよく遊びに行く。バルはそのことが前々から疑問だったのだ。
「ふっふっふ。今、お兄ちゃんみたいに強くなる為に、皆で遊びながら特訓してるんよ!!それでいつかはお兄ちゃんが何かあったら手伝ってあげるんよ!!」
「なんと!!ジン様を手本に!!」
バルは衝撃を受けた気分になった。
自分達はジンに対して縋っているばかりで、実質ほとんど役に立てていない。しかし、子供達はジンのように強くなり、手助けをしようと考えている。与えてもらうばかりではなく、役に立つように、とバルはそう思った。
勿論。子供達は唯体を動かす遊びをよくやるようになったというだけなので、考え過ぎなのだが、バルはトトの言葉にひどく感心した。
「トトよ。さすが私の孫だ。ありがとう。私は考えが足りていなかった」
「え?ああ、うんなんよ?」
トトはよくわからないがとりあえず返事をした。それを聞いてバルは大きく頷き、立ち上がって声を上げた。
「信者達よ!!我等はジン様に縋るばかりでは無く。ジン様の役に立つべきだ。拝み終わった者から体と技を磨き、ジン様の命令を完璧にこなせるように鍛えあげるのじゃ!!」
ゆっくりと、噛みしめるように信者達は頷いた。そして続々と外へ向かって走りだし、特訓を始めた。
外で狩りを終えたクロナ達は、中に入った後、若干呆れながら信者を見ていた。だが、先ほどのバルの言葉で衝撃を受けた。
「そ、そうか……私は与えられた力で満足し、自分を磨くことを忘れていた。正直信者のやることは疑問が残ることが多いが、今の言葉は納得だ。私も配下として役に立たねば。そうと決まれば……行くぞ!!セキト!!三馬鹿!!」
クロナの掛け声にセキトは目を閉じ、涎を垂らしてコクコクと頷く……眠っているのだが、無視して腕を引っ張る。
そして三馬鹿と呼ばれたエリーナの腹心である猫人三人組は、一人を除いて嫌そうな顔をしていた。
「馬鹿ってひどくないですか……」
「そうだぜ……馬鹿は一人だ」
「もっと罵って!!」
二人の男は、顔を赤くしてくねくねしている女を呆れ顔で見る。そしてため息を吐いてから立ち上がった。
「まあ、確かに役に立たなければなりませんよね」
「ああ、そうだな」
「もっと強くお仕置きしてもらう為にも鍛えないと!!」
面倒になって来たのか、最後の言葉に特に誰も反応しないで外に特訓に向かった。
こうして集落にいた信者以外の戦闘に参加する者も、触発されて特訓を始めだした。
ジンの知らぬ間に、配下達は強くなるべく努力を開始したのだった。
『一章 魔女開放編』はこれで終わりとなります。




