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第8話

「はぁはぁ……」

 僕は倒れたティアを見下ろしながら、息を整える。

 先ほどの殴りの力をあと少しでも緩めていたら、完全に僕の敗北だっただろう。一安心し僕は周りを見渡す。

 もうとっくに敵を倒していたのか、心配そうに僕を見つめてくるセシリィにリリナさん。キャルメは普通の表情で僕を見る。

 リリナさんは敵を完全に凍りつかせて、身動きを取れないようにしていた。これ生きているのか? キャルメは敵を拘束、痛めつけをし気を失わせていた。こちらも酷い。

 セシリィは我慢が出来なくなったのか僕へと歩み寄ってきた。

「大丈夫……?」

 僕を上目遣いで心配してくれるセシリィに、ぐっとくるのは僕だけなのだろうか。

 可愛らしい。これを見ただけで僕の疲れはぶっ飛んで行ったみたいに感じられた。今から再び頑張れる。

「平気さ」

 僕は平常心を保ちつつ、セシリィの問いに微笑んで答え返した。

 リリナさんを見ると、彼女もまた目がおろおろしていた。目線が合い僕は微笑んだ。

「……あと、少しで基地です」

 キャルメはそう言い僕たちが進むべき方向を睨む。完全に復讐の為に向かっているな。この人は。

「言っておくけど、復讐の為行くんだったら、止めといたほうが良いよ」

 僕はそんなキャルメに忠告をする。しかしキャルメは僕を睨み気味に一瞥し、再び基地の方向を睨む。

 完全に怒ってやがる。

 そんなんじゃ逆に自分が酷い目に遭うだけだというのに。

「レムナ、行こう……、キャルメさんも」

 リリナさんはこの状況を好ましく思わなかったのか、そう僕たちを促した。

 セシリィも僕の前で頷いている。

「うん、行こうか」

 僕たちの間にはぎこちない雰囲気が漂っていた。


・・


 襲い掛かる敵は問答無用に潰しにかかり、セシリィを護衛する僕たちは、そろそろ基地に辿り着く頃だった。

 今回の目的は、敵の司令官の討伐、森の安全の確保。その為にセシリィの時系魔法を使用する。

 行動の流れは、セシリィが時系魔法を使用し、敵の時間を停止させる。僕がその間に司令官を確保する、そしてそれを攻撃隊本部へと受け渡し、だ。

 セシリィが時間停止を発動しても僕には効かない。時間停止の対象は選べない、その魔法を発動したらこの世界の時間は一時停止する。僕は対象に含まれることは絶対に有り得ない。時間停止はいわば僕とセシリィの空間だ。

 その効果を用いて敵を叩く。

 しかし何故か嫌な予感がする。

 だんだん基地が近づくにつれ、キャルメの表情がそれに伴い固くなっていく。暴走だけは起こして欲しくない。起こしたら形勢逆転で僕たちが負ける可能性もある。

 すると僕の右方から魔獣が跳びだしてきた。

 僕はそれを一度避け、間合いを取り、その後一気に突進し殴り、蹴りを喰らわす。

 その魔獣は呆気なく倒れる。手応えが全くない、先ほどのティアが強すぎた。

 僕はそう心の中で愚痴を零しつつ、周りに気を配る。

 ……、違う、この場所には敵が来ることを予想していなかっただけだ。ならば敵の戦力が集結しているのは……攻撃本部へと続く道だ。

 僕は一瞬にして焦る、あそこを落とされたら、エルフは危機に追いつめられる。あの場所には食糧、飲み水が置いてある。あの場所を落とされ長期間戦に持っていかれたらこちらは完全に負ける……。

「キャルメッ!! 本部へ戻れ! 落とされるぞ!!」

 僕は焦りながらキャルメへと呼びかける。

 しかし応答が無い。完全に無視している。

 リリナさんが訝しげな目でキャルメを見る。

 危険だ、キャルメは確実に自分で敵を潰そうとしている。

「キャルメさん?」

 リリナさんが呼びかけるも完全に無視している。

 コイツ……ッ。

 僕は軽く舌打ちをして、キャルメの目の前へと立ち塞がる。

「……どいて」

「無理だね、早く回れ右をしてくれないか、エルフが潰れるぞ?」

「そうね、……リリナさん、戻って頂戴」

 リリナさんは唖然とキャルメを見る。

「待て、アンタの拘束は集団を一度に確保できる、しかしリリナさんの氷は一体を確保するのに適しているんだ。だからアンタが行ってくれ」

「嫌よ」

「復讐の為だけにエルフを潰すつもりか? アンタたちは僕たちにそんなことを訊いてきただろ」

 キャルメは鋭い眼差しを向け、僕の横を通り抜けようとした。

「待ってくれ」

 そう言い僕はキャルメの腕を掴む。

「嫌って言ってるでしょ!! 離して!!」

 キャルメは叫びながら僕を押し退けようとする、しかし僕は退けもせずただ焦りながらキャルメを見据える。

 セシリィは何か言いたげだが、僕は目でリリナさんにセシリィを止めておくように伝える。

「僕も私情を挟めないように、アンタも私情を挟めないはずだ」

 僕はキャルメを鋭く睨む。

 アンタたちのせいでセシリィの生活が危うくなっているんだ、アンタたちもそれと同等の損をすべきではないのか。

 キャルメはいったん僕の眼差しを受け怯む。

「でも、私の兄は殺されたんです!! 邪魔するというなら振り払います……!!」

「止めなさい!!」

 そう叫んだのはリリナさんだった、リリナさんはそのまま氷系魔法を放ちキャルメの足を凍らせる。

 一瞬の痛みに顔を歪ませたキャルメは、リリナさんを睨む。

「離しなさいッ!!」

 刹那、雨雲が僕たちの真上を覆い隠した。キャルメの雷系魔法。キャルメは雷系魔法も得意としており、その実力はエルフのトップ5に入るほどだ。

「なっ!?」

 驚きだった、発動されたのはレベル5の人の命を奪いかねぬ魔法だった。

 僕は反射的にリリナさんの前に飛び出ようとした、しかし間に合わない。出遅れてしまった。

 そしてついに雷はリリナさんに直撃……。

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