第9話
僕は恐怖に目を瞑ってしまう。
しかし数秒経っても轟音は鳴り響かなかった。
恐る恐る目を開けていくと、リリナさんに襲い掛かろうとしていた雷は、直撃を恐れ目を瞑っているリリナさんも、リリナさんの命を奪おうとしていたキャルメも、全てが止まっていた。
一瞬理解ができなかった。
「え……?」
僕は次にセシリィを探す、セシリィは顔色を悪くし、呼吸を荒げて足を震わせながら何とか立ち上がっていた。
分かった。これはセシリィの時間停止魔法だ。
「セシリィ!!」
僕はセシリィに駆け寄る。
セシリィを急いで抱き上げる。
「大丈夫か?」
「うん……。でもお姫様抱っこは……ムード……考えて……欲しかったな……」
僕はセシリィがまだ元気があることに安心し、胸を撫で下ろす。
セシリィを木に凭れ掛からせ、安静にしているように伝えて立ち上がる。
「あの野郎……ッ!」
精一杯キャルメを睨みつける。だがアイツにかまっている暇もない、セシリィの命に係わる魔法だ、速急に事を済ませなければ。
僕はリリナさんの下に行く。そしてリリナさんを持ち上げ、後方に下がる。
その時、
魔法が解除された。
雷が僕の目の前に落ちる。
「うわっ」
僕は焦ってもう一度後方へと飛び跳ねる。
「キャアアァア!!」
急にリリナさんとセシリィの悲鳴が響いた。
「セシリィ!?」
リリナさんを抱きかかえながら、僕はセシリィを振り返る。
そこに居たのは、
「なっ……!? お前……!?」
そこに居たのは、僕と同じ種族、人間だった。
しかもその男は、
「やぁ、久しぶりだね、真」
その男は、僕の名前を知っている。僕の本当の、地球での名前を。僕の正体を。
僕は焦りながらリリナさんを降ろす。
「レムナ?」
こいつは誰……。
僕がそう考えていると、奴が抱きかかえている人物が目に入った。
セシリィだ。
「テメェ!! セシリィを離しやがれッ!!」
僕は叫びながら、男へととびかかる。
腹部へと殴りを入れようとすると、その男はセシリィを僕の手の行く先へと、セシリィを盾にした。
この野郎ッ。
僕は急いで男の後方へと回り込み、背中を殴ろうとするも、そいつは僕の殴りを避け、振り返りセシリィの首にナイフを突きつけた。
一瞬にして血の気が引いた。
「お前は誰だ!?」
僕は何とか声を振り絞り、男の機嫌が損なわれないようにそう叫ぶ。
男は一瞬、ぽかんとする。
「あれ、僕のこと覚えてないの、真?」
何故僕の名前を?
僕はその男の顔を見る。
ナイフは玩具だったようで、男はポケットに戻す。
「お、お前!?」
こいつは、こいつは……、僕の本当の名、地球人の時の『藤原真』の友人、『明井智』だった。
「そうだよ、久しぶりだね」
「何でお前が此処に……? ……それよりセシリィを返せ」
僕は安心し、そう言う。
「別にこの娘は君の気を引くために持ったからね、うん、良いよ」
その言葉に苛立ちを覚えるも、返してもらえるということで、気にしないことにした。
「にしても何でお前が此処居るんだ?」
僕はセシリィを抱きかかえてそう訊く。
「君こそ何で此処にいるんだい?」
「知らない」
「そっか、でもこの土地に居るんだから僕の敵だよね」
刹那、腹部に激しい痛みが僕を襲う。
「がっ!?」
僕は予期せぬ痛みに手を緩めそうになるも、セシリィを落とさぬように気を付ける。そして後頭部に猛烈な激痛が走る。僕は大木に衝突した。
セシリィは急な魔法発動、解除したため気を失っている。
「僕はね、魔界の王様なんだよ」
頭から血が流れる。
僕には何が何だか分からなかった。
智が魔王?
「ゲホッ……、テメェ……」
僕は一度咳き込み、奴を睨む。ティアよりも数倍強い蹴りだった。
「知ってるよな、僕の目的」
「ウルセェ」
「ん? やんのか? 掛かってこいよ」
その言葉に僕は、いや、俺は切れた。
今の俺にはいつも通りの冷静さがかけている、だからあんな安い挑発に掛かったのだ。
自分に舌打ちをする。
「リリナ、セシリィを見ててくれ」
俺はそう言い捨て、奴に突進する。
地球での記憶は、死に際以外全て鮮明に覚えている。
奴との記憶、他の皆との記憶。
こんなもの自分の力を鈍らせるだけだ、だから俺は奴との記憶を切り捨てる。




