第5話
わたしは目を覚ました。
いつも通りの朝、いつも通りの自分の欠伸、いつも通りの新鮮な空気、いつも通りの目の前にレムナ……。レムナ!? 何でレムナがわたしのベットに!?
「~~~~~ッ!!」
わたしは顔に熱が帯びるのを感じながら声にならない声を発する。
ベットから飛び降り周りの状況を確かめる。ただのわたしの部屋。他に変化はみられない。
昨日はレムナと喧嘩しちゃって、仲直りして、そのまま二人で……。
「ん~」
「わっ」
わたしは肩を震わせて声の発信源の方へと目をやる。
レムナが可愛らしい顔で伸びをしていた。
そのまま起き上がり、目を擦る。
……かっ可愛い。
「ふぁあ~、おはよう、セシリィ」
「おっおはよう」
いつも違う部屋で寝てるし、起きているからわからなかったけど。寝起きのレムナはこんなにも愛くるしかったのね。
今すぐ、お持ち帰りしてるけどお持ち帰りしたいほどに可愛いレムナに顔の緩みがバレぬように努めて返事をした。
「じゃ、じゃあわたしは朝ごはん作ってくるね」
「うん」
わたしは急いで自室から退室する。
扉にもたれて吐息を漏らす。
「良しっ、今日一日、いつも以上に頑張れるぞっ!!」
「頑張れ~、……ふぁあ~」
「をう!?」
わたしは嬉々とした声を大声で叫びそうになったけど、何とかそれを堪えてる。
レムナの寝起きってあんなにも可愛いんだ。他の人の寝起きなんて知らないけど、あんなに可愛いのかな。
わたしはそんな事を、主にレムナの事を考えながら料理に挑んだ。
・・
「あの、これは……?」
僕は当然の声を漏らす。
目の前に並べられたセシリィの料理は真っ黒に焦げていたのだ。
いつもの綺麗で美味しい料理を思い出すと悲しさは倍増する。しかも今日はもしかしたら魔界の軍団との戦闘になるかもしれないのに……。
「りょ、料理です……」
セシリィは僕から慌てて顔を逸らす。
何でこんな悲惨な姿に為ってしまったんだ。惨い、酷すぎる。
「何でこんな姿に……」
「えっと、考え事してて……、そしたら火力間違って……」
「レベル2の簡単な家庭用魔法をミスるほどの考え事は何なんだ?」
僕は思ったことを口にして、演技だが、冷徹な眼差しをセシリィに当てる。
セシリィはその言葉に大きく反応した。体がビクリ、と震えたのだ。
「そ、それは……、プップライバシーに関わるのでっ!!」
顔を真っ赤にしてセシリィは僕に言い放った。
そしてセシリィは自分の料理を持って自室へと逃げ込んだ。
階段を上る音……、こける音。料理が落っこちる音。何とかセシリィは落ちなかったようだ。
「キャアァアアァ!!」
壮大な悲鳴に僕は一瞬身を震わせる、家の周囲にのんびりと住んでいる鳥たちが数羽逃げて行った。
「さて、食べるか」
僕は覚悟を決めて箸を手に取り料理を口に運んだ。
「……あれ?」
意外にも味にはさほど支障が無かったのか、美味い。見た目だけを失ったようだ。可哀想に、自分の料理を無くして。
後で半分あげるか。
僕はそう決意した。
・・
無慈悲な隊長に、攻撃隊のメンバーが皆呼び出された。勿論僕とセシリィもだ。
他にも知っている実力者が無数に居た。
その実力者たちは僕を見てか、目を丸くしていた、多分僕が魔法を使えないのに何故此処にいるのか見当がつかなかったのだろう、しかしそんな輩は少なかった。僕の魔法拒否体の情報はこの森では公になっているのだから。先ほどの輩は僕の特異体質のことを忘れてたのだろう。
僕とセシリィが固まって一定の場を離れずに既に三分経過していた。
……遅い。自分で呼び出しておいて、何様のつもりだ。
セシリィもそれが気になるのか僕の顔を何度も見てくる。
それからまた五分が経過した。周りからは不満の声が聞こえ始めた。
どうしたのだろうか。あまりにも遅れすぎではないのか。僕もそろそろ痺れが切れ始めていた。
「レムナ」
不意に声が後方から掛けられた。セシリィの声ではない。
僕は声に聞き覚えがありまくりだったので振り返る。
「おはよう、リリナさん、君も攻撃隊?」
そこに立っていたのは案の定か、はたまた当然か、リリナさんが立っていた。
セシリィがわずかに警戒する。何で仲間に警戒する、と無性にツッコみたかったが、自制心でなんとか抑えた。
「ううん、私はヒーリング隊よ」
『ヒーリング隊』、傷ついた仲間を回復させる部隊の事。治癒系魔法使いには何故か昔から女性の方に偏っている、理由は不明だが。
彼女の得意魔法は確か、炎系と治癒系と、土系だった気がする。この歳では普通二種類の魔法を扱うのが良い所なのだが、リリナさんは三種類だ、さすが魔法関係の良家と言ったところだ。
治癒系魔法は、傷の回復、術の破壊のみ出来る。死者を黄泉がえらせるのは不可能だ。骨折やヒビほどの怪我なら、子供でも一分と掛からず回復できる。ただし術に掛かっている状況から回復するのは少し手目が掛かる、大人の女エルフで二分を費やす。
リリナさんの場合術からの回復は一分ほどだ、とても優れている、よって彼女がヒーリング隊に入ることは当然だ。
「それよりも遅すぎない?」
リリナさんは怪訝そうに僕にそう言う。
そういえばリリナさん、もう敬語なしをマスターしている。覚えが良いな。
「そうだね、あまりにも遅すぎる、何かあったんじゃないのか?」
尤も、あの兄妹には何があっても平気だろうが。多分。
だがそんな僕の予想は直ぐに裏切られた。
「レ、レムナ!! あれ!!」
急にセシリィが叫んだ。
僕とリリナさんも会話を中断しセシリィの指差す方向を見る。
そこには、血相を変え此方へと向かい走ってくる、キャルメの姿があった。
「おい、兄の方はどうしたんだ?」
僕は不思議に思ったのでそうキャルメに問いかける。
だが彼女は息を切らしていて、まだまともにしゃべれなさそうだった。
彼女は何か言っていたがそれは上手く言葉になっておらず、誰にも理解不能だった。
リリナさんが回復魔法をキャルメにかけた。ただのスタミナ補充魔法だが。
「兄が、兄がッ!!」
キャルメはそう言うと泣き崩れた。
二十代後半の女性とは思えなかった、同年代にも思えた。だがこの状態からして予測されるのは……。
「死んだんですか?」
動揺の雰囲気が漂った。周りから理解不能、とでもいうかのような声が漏れる。
「レ、レムナ?」
「どういう事?」
セシリィとリリナさんが僕にそう尋ねる。
僕は二人にキャメルさんを指さし、続きを待つように促す。
キャルメは大粒の涙を零しながら、じきに大きく頷いた。
同時に動揺が緊迫に変化する。
「魔界の軍団がもう、侵入してるの……!!」




