第4話
魔界の住人はほぼ全員が戦士に成り得る可能性、実力がある。ならば魔界は縁国以外なら何処でも落とせる。
縁国はエルフの国、エルフは世界一の魔力を所持している。そしてそのエルフの少しはゾネルに移住している。もしゾネルのエルフが縁国に助けを求めたら多分やってくるだろう。
だが、もう遅すぎた。間に合わない。
魔界の軍政がエルフィティの目の前に来ている。
こんな時にセシリィの瞬間移動を使えばいいのだが、使えるのは一度行ったことのある地域のみ、セシリィは縁国に行ったことが無い。此処で産まれ、過ごしたのだから。
ゾネルの軍団も此方に向かって来ているが、はたして戦力になるのだろうか。
エルフィティの住人もエルフだ、この数でも魔界に太刀打ち出来るだろう。
だが確実に僕とセシリィの能力が公になってしまう。
僕とセシリィの能力はエルフィティだけの者が知っている。公になってしまえば僕たちの穏やかな暮らしが無くなってしまう。皆僕たちの暮らしに害を与えないと承知している。だからといってこの戦いに参戦しないのも虫が良すぎる。
「なら、僕たちはどうしたら良いんですか?」
僕とセシリィは今攻撃隊本部に居る。
無数の身体派、魔法派のエルフが僕たちの前に立っていた。
「叩けばいいのだろうが」
「なら僕たちの生活が……」
「甘ったれるんじゃねぇぞ、テメェらの生活の為にこの森を潰すつもりか!?」
この口の悪い男は『ガルメス・エルバ』、攻撃隊リーダーだ。彼は身体的には僕に劣るが魔法はとてつもなく強い。
僕からしてみれば意味のないことだが、立場は彼の方が上だ。
「お兄様、もう少し落ち着いてはどうです?」
そうエルバを落ち着かせようとしているのは、妹の『キャルメ・エルバ』だ、彼女もまた魔法を得意とする。立場も僕より上だ。
「貴方たちも僕たちの生活に口を出さないと言いましたよね」
「そんなもん知るか、それはそれだ」
僕の言い分には耳を貸さないってか。
……仕様が無い。
「わかりました、ならセシリィは攻撃隊に入れないでください」
「どういうこと? 彼女の戦力はたったの五分でも絶大なものよ?」
キャルメは時間停止魔法のことを言っているのだろう、確かに時間を停止させるのは大いに有利だ。だが。
「彼女がそのためなら死んでもいいのですか!?」
僕は声を荒げる。
僕の隣ではセシリィが俯いている。
「それは……」
「僕には魔法は効きません、これだけでも大いに有利です。苦労するのは僕一人で十分です」
僕は早口でそう告げる、隣でセシリィが驚いたように僕を見る。
そして数秒の後。
「わかった、二人を家に届けろ」
僕は一安心して胸を撫で下ろす。
「待ってください!!」
が、セシリィが急に叫んだ。
「セシリィ?」
「わたしも、わたしも戦います!」
「なっ!? 待て!! どういう事だ!?」
どういう事だ、なぜ彼女はそこまで命を懸けるんだ。
「ほう、良いのか?」
「はい」
「……わかりました、お帰りなさい」
「おい!! 待てよ……!! 待てよ!!」
僕の声は、叫びは誰にも届かないままで、僕とセシリィは半ば強制的に家へと帰された。
・・
鈍い音が響いた。
「どういう事だよ!?」
僕は声を荒げて殴った壁から手を離さずにセシリィを睨む。
理由がわからなかった、何故彼女は自分から火に飛び込みに行くのか。彼女の能力が公になればこの国の王たちは彼女を確実に利用するだろう。
それだけは耐えられない。
「だって……」
「だってじゃねぇだろ!? 何で攻撃隊に入ろうとした!?」
「だって、レムナが死んだら嫌だよ!!」
「僕は死ぬはずがないだろう!! 魔法が効かないんだぞ!!」
最低だな、こんなの只の八つ当たりじゃないか。
でも心配しているのは本当だ。彼女を失ったら僕は一生立ち直れそうにない。
「でも……、でも……っ!!」
セシリィは俯きながらそう呟く。
「レムナが居なくなっちゃったら……、わたし、どうしたら良いの!?」
大粒の涙で頬を濡らしながら、セシリィは僕を見つめる。
僕はその姿を見て頭に上っていた血が引いた気がして、冷静さを取り戻す。
一体僕はなんてことをしているんだ……。
「セシリィ……、ごめん……」
散々怒鳴っておいて、相手が涙したら許すなんて虫が良すぎる。それでも謝りたかった。
「うん……、良いよ……、わたしもごめんね、勝手なことして……」
「セシリィは何もしてないよ、僕を心配してくれたんだろう?」
「うん……、うんっ!」
僕は再び泣き始めたセシリィを優しく抱いてやった。




