第2話
セシリィの料理を食した後僕は再び外へ出た。森を散歩するためだ。
木々の葉っぱが擦れあう音は中々良いものだった、落ち着く。僕はゆっくりと歩きながら音を楽しみ、周りを眺めていた。
緑一色に日の光が当たり薄く黄色に変化していた。
「ふぁあ~」
僕は大きな欠伸をして腕を伸ばす。
すると、大きな風が吹いた。
「あれ」
この風の威力は自然ではあり得ない、とても不自然な光景だが僕には魔法が効かない、なので僕の髪は風に靡かない、ということは僕の周りの草などは揺れ、飛んでいるのに僕髪などは揺れていない。不自然にもほどがある。
誰が魔法を使っているのだろう。僕は先ほどより細かく周りの状況を知ろうとした。
「げ……」
僕は苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。
必然的に反射的にそんな顔になってしまう。なぜなら、その風を発動したエルフは僕が十歳の頃喧嘩をした女エルフだったからだ。
あちらも僕に気付いたのか、心底嫌そうな顔をした。
だがその後何かに気付いたのか顔を真っ赤にして踵を返した。しかしその娘は何かに躓いたのか、こけた。
「……」
僕は無言で彼女に近づいて行った。
彼女の下に来ると彼女は涙目で顔を真っ赤にしていた、そして近づいてきた僕に気付いたのか、キッと睨んできた。
「笑いなさいよッ! えぇ、私は風系魔法が苦手ですよ、エルフなのにっ」
「い、いや、僕はそんなこと思ってないよ……」
僕がそう言うと彼女は数秒間固まった。
「~~~~~っ!!」
彼女は顔を真っ赤にして足をバタつかせた。
数秒の後足を止めて彼女は立ち上がった。
「久しぶり、リリカさん」
「ふん……」
僕だって君の事は苦手なんだ、君も無視しないで反応してくれよ。と言えないので心の中でそう呟く。
彼女は『リリナ・スピカ』。確かエルフの森の良家のお嬢さんだ。
今思えば皆が僕を叩いたのは彼女の家柄のせいだろう。
「にしても、何で練習場でしないの?」
この森には『練習場』、というものが存在しており、その場所では魔法だけではなく、身体も鍛えれる場所だ、その場所では魔法バトル、肉弾戦もできるので、半年に一回魔法・身体の実力を決定するランキング戦がある。
僕もたまに身体派に筋トレをしに行く。
「別に、私が何処で練習しようが貴方には関係ありません」
「ねえ、僕年下だから敬語止めよう、ね」
「……私の家は敬語を皆使用するので中々敬語から離れられませんの」
そっか、と僕は言う。
別に敬語でも何でもいいが一応言っただけだ。
リリナさんは良家だから敬語になっちゃうのか……。
「で、本当は何で此処でなんか魔法の練習してたの?」
「ふんっ」
意外にも意地っ張りだった。
僕は一瞬、絶対、確実の違うであろう仮の理由を思いついた。
「まさか、ですけど、風系魔法が苦手だから、ですか?」
この考えに至った理由は簡単。
まずこの場所に、人目につかない場所で練習するのは、皆に知られたくない新しい自分の魔法を編み出した場合か、何かしらか恥ずかしいから、だ。
リリナさんは意外にも優しいので魔法を独り占めすることは、万が一無い。
なら残った理由は恥ずかしいだけだ。
というのが僕の考え。
はたしてリリナさんの顔がだんだんと紅潮してきた。
「なっななななっ!?」
「図星ですか?」
その言葉は余計かなと発言した後に思った。いや反省。
「も、もももももも目的は何っ!?」
「へ?」
「だっ、誰にもこのことは言わないなら、それと同等の報酬が……」
リリナさんは顔を耳まで真っ赤にして分けのわからぬ事を口走っている。
別に報酬が必要というわけじゃないのだが……。
もらえるのなら貰いたいのもまた事実、と。
「えーと、じゃあ僕には敬語なしで」
「へ?」
僕は真っ先に思いついた要求を出した。
今度はリリナさんがそんな声を発した。
予想していた返答と異なっていたのだろうか。
するとリリナさんは顔を何故かさらに赤くする。
「敬語なしで」
もう一度再確認する。
「そ、それだけですの?」
まだ他にも要求できるのか。
ならお言葉に甘えてまた何かを要求させてもらおう。……何も思いつかない。
第一にリリナさんはこんなことを言うこと自体無防備すぎる。そうだ、それを何とかしたらいいんだ。
「じゃあ、もう一つ、すぐに「なんでもするから」とか言わないことで」
「へ?」
リリナさんは再度そんな声を発する。そんなにリリナさんが思っている要求と違うのか僕の要求は。
「それだけです」
「え、あ、はい」
しばらく僕たちは無言で向かい合っていた。
リリナさんは気を取り直したのか、一度咳払いをして僕を見た。咳払いがお嬢様のリリナさんの雰囲気にちょうど合っていた。
「そ、それじゃあ村に戻ろう……ね?」
「フフッ」
「な、何笑ってるんですの!?」
あまりにもリリナさんに似合わなかったのでついつい笑ってしまった。
リリナさんは僕を数秒真っ赤になって睨む、が。
「フフフッ」
リリナさんも一緒になって笑い出した。
・・
僕は今練習場に居る。
僕がいるのは練習場の魔法派だ、僕は此処に来る予定は週に一回セシリィと練習に来る時だけであまり来ない。
しかも一緒に居るのはセシリィではなくリリナさんだ。
あの後遅すぎる仲直りをして、此処に来た。
僕は身体派行こうとするも、リリナさんが恥ずかしいから一緒に居てくれ、と可愛らしいことを言ってきたので何故か体が向こうに行かなかった。
ある意味の魔法だ。
それにしても周りの視線が痛い。嫌というほど僕達に注がれている。それもそのはずだ、僕は元々皆と違い魔法が使用できないので此処に来る機会は全くないのに来ているから注目される、その上今、僕はリリナさんといる、彼女との喧嘩説は今でも有名だ、何故なら僕が『魔法拒否体』と判明した時なのだから。
魔法拒否体、それはそのままの意味を持つ、魔法を受け付けない存在。魔法で風を吹かせても僕の髪は靡くどころか微動だにしない。炎を魔法で放っても僕は掠り傷すらない。
僕は全世界の魔法使いに魔法である意味負けない。
魔法は自分自身のエネルギーとなる核、心臓をも使う。生命力を奪うのではない。魔法は心臓に掛かる負荷を増加させる。元々掛かっている負荷をほぼ倍増させるほどの負担を抱えなければならない。
日常で使用するレベル2以下の魔法は心臓に掛かる負荷も皆無と言っていいほどしか無い。しかし戦闘用のレベル3以上となると危険だ。鍛錬を積んだ魔術師なら論外だが、日常系しか使用しない軟弱な魔術師、もとい、魔術師の卵に成り得るかも知れぬ者がレベル5の魔法を使うと死んでしまう恐れが大いにある。
この理論は魔界の力にも関する、魔界の住人は全てレベル3以上の戦闘用魔法を使用できる。だがこの国はどうだろう、この国の女性の四割はレベル2以下の魔法しか使用したことが無いとわかっている。
これでもう魔界との力量差は一目瞭然だ。
魔法を使用できぬ者は生き残れない。それは別の意味で、魔力無き国は亡びる運命、と言っているみたいなものだ。
第一、僕が魔法を受け付けないのは僕が地球の人間の能力、魔法の存在しない世界の住人だからなのかもしれない。これは誰にも言っていない。
この世界では人間は架空上の存在に等しい、存在はしている、だが人間はこの世界の南の南のさらに南の果てに穏やかに生きているという。
しかしどうだろう、この世界の人間は魔法を受け付ける、ならこの世界の人間は僕のような人間ではなく、この世界のちゃんとした人間だ。ならば僕は異世界から転生した不完全な人間。
この世界の人間も浅ましいものだ。不完全な人間に劣るとは。
「どうしたの、難しい顔をして?」
「え? あぁ、考え事してて」
僕はリリナさんに声をかけられて意識を考え事から意識を戻す。
何か、リリナさんもやっぱり優しいな。
「誰の?」
「え?」
「誰の?」
急に声に怒りが感じられた、何かリリナさんの機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか。はて。
「人間の事」
僕は別に隠すことではないのでさらりと答える。
「そ、そうですか!」
するとリリナさんは機嫌を良くしたのか笑顔になった。一体何でなのだろうか。
「人間は本当に存在しているのかな」
「存在しているでしょう、姿は判明していませんけど……」
「敬語、忘れてるよ」
僕は微笑みながらそう指摘する。
リリナさんはそんな僕を見て顔を赤くする。
「存在はしていると思うわ、だってエルフの祖が昔確認して紙にそれを記しているのだから」
「だよね」
その紙は縁国の国立図書館に保管されてるとか、前に一度それを縁国の方が此方へと公開しに来てくれた時があった。
人間は限りなくエルフに似ていると記されていた。僕はその時大いに焦ったが皆その姿が思いつかないのか僕は疑われることが無かった。
「まぁいいや、はやくリリナさん、もう一回」
僕たちは再度リリナさんの風系魔法の強化に励み始めた。




