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第15話

 わたしとリリナさんは、レムナについて行ってはならないということで、別室で待たされていた。

 リリナさんは落ち着きながら、お茶を啜っている。音沙汰なかった。

 だからこそ、なんか心配になってしまう。音沙汰ないからこそ。

 わたしは、隣室から何か音がしないか、聞き耳を立てて、壁に耳を当てて聞いていた。

「セシリィさん……、行儀が悪いですよ」

 リリナさんはわたしに、ジト目で注意してくる。

「でもっ、レムナが何かされたらどうするのっ?」

 わたしの心の叫びにリリナさんは、大きなため息をつき、わたしを見据える。

「……何でレムナが何かされるんですか?」

 わたしはその返答に大きく頷く、そして再び壁に耳を当てる。

 リリナさんはそんなわたしを見て、再度大きなため息をついて、紅茶らしきものを口に運び、のどに通す。

 よく冷静に居られるんですね、と言いたかったが、先にある疑問が生まれたのでそちらを聞くことにした。

「そう言えば、どうしてリリナさんは今日ついて来たの?」

 何気なく尋ねるわたしに、リリナさんは予想以上に大きな反応をして、カップを落としそうになる。

 しかし、その動作の際、のどを通りかけていた、紅茶でリリナさんは大きくむせ始めた。

「けほっ、けほっ……」

「だ、大丈夫ですか!?」

 わたしは驚きながら、リリナさんへと駆け寄る。

「けほっ……、大丈夫です」

 一安心し、わたしはリリナさんの隣に座る。高級そうなソファだったので、わたしが座ってもいいのか迷ったが、リリナさんも座っているのでいいや、と思い、恐る恐る座った。

 座り心地は最高だった。私が座ったところが、少し沈み、座るのにもってこいだ。

「それで、どうして今日は来たんですか?」

「……レムナに誘われたから」

 大体そういうことだとは予想がついていたわたしは、今やっと気づいたことがあった。

「な、何でレムナの事呼び捨てなんですか?」

 わたしは大きく動揺しながら、リリナさんに顔を寄せる。

 リリナさんは驚いたのか、再度紅茶を零しそうになるも、それは何事もなく、リリナさんは、カップを机の上に置いた。

「そういえば、わたしには敬語ですよねっ!?」

 もう一つ追加、そして距離を縮める。

 わたしから視線を逸らし、紅茶へとリリナさんは目をやるも、わたしはそんなのお構いなしにリリナさんを見据える。

「えと、その、レムナがそうしろって言ってきたから……」

「やっぱり……」

 レムナは女心を知っているのか知っていないのかよくわかりません。はい。

「貴女にも敬語を外した方が良いのでしょうか?」

 リリナさんはわたしに向き直ると、おずおずとそう尋ねてきた。

「わたしは、リリナさんの呼びやすい方で良いですよ」

 わたしは微笑んで、リリナさんにそう告げる。

 リリナさんも、そんなわたしを見てか、微笑んでくれた。

「じゃあ、頑張って敬語なしにするわね」

 そしてウィンク。意外にもリリナさんはおちゃめっぽい、ということが只今判明しました。

 しかしそれはあまりにもサマになっていなくて、わたしはとうとう笑いが込み上げてきた。

「ふふふ」

「なっ? あっ貴女も笑うんですの!?」

 リリナさんは顔を真っ赤にしながらわたしに向かい、そう抗議してきた。リリナさんの発言から察するにレムナもリリナさんの発言に笑っていたようだ。

 だが、リリナさんも次第に顔がゆるみ始めていた。

 しかし、リリナさんが笑い始めようとしたとき、この部屋のゆっくりと扉が開かれた。

 わたし達は驚いて、扉へと目をやる。そこに居たのは、エメナ様だった。エメナ様は微笑しながら立っていた。

「すみません、貴方達、まだ夕食を食べていないでしょう? うちで食べていかない?」

「……へ? 良いんですか?」

「もちろん、レムナ様もお呼びしましょう」

「はい!」

 わたしは笑顔で、大きく頷いた。

 一度だけ、一生に一度だけでもいいから、高級な料理を食べてみたかったわたしには、とても喜ばしいお誘いだった。

 わたしはリリナさんの手を取り、笑顔で、レムナとお嬢様のいる隣室へと向かった。

 扉を開くまでは。


・・


 わたしはただ呆然と立ち尽くしていた。目の前の情景が受け入れられなかった。受け入れたくなんかなかった。信じたくなかった。

 何で、何で、この二人が抱き合っているのか意味不明だった。

 隣に立っているリリナさんも、状況が呑み込めていないようで、呆然と、その二人を眺めていた。

 そう、今わたし達の目の前では、レムナとフリス様が抱き合っているのだ。

 レムナは、驚愕の眼差しでわたし達を見ていた。驚きたいのはこっちだ。

「……フリス、どういうことなの?」

 そう、フリス様に問うたのは、当然の如くエメナ様だった。その顔は、憤怒と、驚愕と、哀愁を帯びていた。

 フリス様は、悲しそうな顔で、レムナの腕の中から出て、ベットから降り、ふらふらとエメナ様の前へと歩み出た。

 エメナ様は、フリス様をじっと見つめていた。

 フリス様は、数秒の後、覚悟を決めたのか、エメナ様と向き合った。

「お母様、私、レムナ様とお付き合いすることになりました!」

 ……。

 今なんて言ったの? 聞こえなかった、聞きたくなかった。

 嘘だ、嘘よこんなの。

「どういう事ですの!?」

 リリナさんがそう叫ぶ。

 対するわたしは、ただ呆然と、レムナとフリス様を交互に見ていた。

 この二人がどうやったらそんな関係になるのだろうか、わからない。

「……そう」

 しかしエメナ様は、哀愁の帯びた声音で、そう呟き、フリス様を見つめていた。

 何で貴女もそんなに冷静にいられるんですか? レムナも何とか言ってよ。

 声にならない心の叫びが、わたしの中で響き渡る。

 だが、あることがさらにわたしの心を打ち砕く。

 わたしは自分に刺さる視線に気が付き、そちらをを見ると、それはフリス様だった。

 わたしに向けられたその顔は、その表情、その目が笑っていた。わたしを嘲笑うかのように微笑んでいた。憎らしい表情だった。

 しかしそれは一瞬の出来事で、フリス様はすぐにエメナ様へと向きかえった。

 わたしは心底驚き、何故かそのままレムナを見た。

 レムナは、わたしから顔を逸らすかのように、何もない方向を見ていた。

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