第16話
食事中は、僕の周り以外とても静かだった。僕は大いに焦っている。何で雅があんなことを言ったのか。
セシリィにも見られてしまった、どう何を言っていいのかわからない。先ほどから僕に怒号を浴びせてくる王の話も耳から抜けていく。
頭が真っ白になり、何も考えれなかった。
そうこうしているうちに、夕食を食べ終えた僕、セイリィ、リリナさんは半ば無理やり、城の外へと放り出された。
「……」
誰もしゃべろうとせず、視線も合わせず、呆然と立ち尽くしていた。
セシリィは、何か言いたげだが、ただじっと立ち尽くしている。リリナさんは涙目で僕を睨んでいた。彼女が僕を睨む理由は無いはずなのだが、そこまで頭が回らなかった。
僕はとにかく歩き出した。セシリィ達も僕について来た。
まずは宿の確保だ。その分のお金は渡されているので、どこでも良いそうだ、ならば少々高くても良いのだろうか? まぁ、一応どこでも良いと言われたから良いのだろう。
なるべく清潔な所……。
僕はそれを見つけて立ち止まる。
店の名前は『ソーニャの宿』、なんて胡散臭い名前なんだ。
そんなことも思わずに、僕は二人を一度見てから、宿へと入る。
中はとても綺麗だった。紫の絨毯、橙色に光る灯。若そうなサラマンダーの女性。
「いらっしゃい、何名だい?」
「三名で」
「Ok、三人同室で構わない?」
僕は目で二人に確認する。二人とも軽く頷き、目を伏せた。
「構いません」
「二万オンロだよ」
オンロとは、この世界でのお金の単位だ。
お金はメダルで払う。メダルが金色だったら五万オンロ。銀色だったら一万オンロ。銅だったら五千オンロ。紙でも支払い可能だ、金色の紙は二千オンロ。銀色の紙は千オンロ、銅の紙は五百オンロらしい。お金の価値は僕の前世と同じなので、さほどお金に苦労したことが無い。
僕は銀色のメダルを二枚だし、部屋のキーを貰う。
部屋は二階にあるらしい。僕たちは二階に上がり、指定された部屋へと入る。
部屋の中は、ロビーと同じ紫色の絨毯が敷いてあった。ベットが三つで、僕は一番左のベットへと歩み、倒れこむ。
大きなため息をつき、目を瞑る。
すると、僕の右のベットに誰かが座った。僕はそちらを見る、案の定セシリィだった。リリナさんもセシリィに倣い、一番右のベットへと座る。
僕たちはしばらく何もしゃべらずにいた。
僕の存在をこの二人に言った方が良いのか、言わない方が良いのか。僕にはわからなかった。
言っても彼女たちは誰にも言わずに黙っていてくれるだろう、言わなかったら僕たちの関係はずきずきするだけだ。……言った方が良いのか。
僕は決心して起き上がる、すると急にこの部屋の扉が叩かれた。
「すみません」
その声はサラマンダーの声だった。なんだろうか、ルームサービスか何かか? 僕は立ち上がり、扉まで歩んでゆく。
そして鍵を開けドアノブに手を置き、捻り此方側に引っ張る。
扉は簡単に開いて、サラマンダーの女が顔を覗かせた。
「はい、何か?」
僕はその時に気が付いた、サラマンダーの後ろに二人のノームの夫婦らしき者が立っていた。
僕は不思議に思い、その夫婦を凝視する。全く見覚えのない人たちだった。
「そちらの方は?」
そうサラマンダーの女性に僕は尋ねる。
サラマンダーの女性は、困惑気味の顔をしていたが、やがて決心したのか、僕の顔を意のこもった瞳で見つめてきた。
「あの、この二人は貴方の両親と名乗っておりまして……」
その言葉に僕は硬直する。
何だと? その二人が僕の親というのか?
部屋で絶句の声がする。セシリィの声だった。リリナさんは僕の生まれた環境を知らないので、微動だにしていなかった。
僕はさらにその両親と名乗る二人のノーム族の男女を見据える。
「僕には親なんていません」
そうきっぱり言い放ち、扉を閉めようとする。
が、ノームの男が、僕の腕を掴み、閉めさそうとしなかった。その力はノームというだけあって、とても強い。僕の腕なんか簡単に砕けてしまいそうなほどだった。
「ッ!!」
「あぁ、すまん……。話だけでも聞いてくれないか?」
ノームの男は僕の腕から手を離し、頭を下げてからそう言った。
「話を聞くだけなら……」
僕は、自分の腕を見る、握られていた部分は少し赤くなっていた。まぁさほど痛くないので気にしないでおこう。
僕は、店の前で待っていてくださいとだけ言い、部屋の扉を閉めた。
セシリィを見ると、その表情には焦燥感が帯びていた。何に対して焦っているのかは判らないが、今は別にいい。
「ちょっとあの人たちのトコに行くから。すぐに戻ってくると思う、外に出ないでいてくれ。あと鍵も閉めておいてくれ」
僕は子供に言い聞かせるかのようにそう言い、扉に手をかける。
「ま、待って!」
だが、後ろから掛けられたセシリィの声に、僕は手を止め、後ろを振り返る。
セシリィの顔は、先ほどと同じ表情のままだった。
「何?」
「あの人たちについてかないよね!?」
「さぁ? 多分ついては行かないだろうな……」
僕はそう言い残し、この部屋を出た。




