第14話
それを見た瞬間僕は声を失った。
声が出せずに、僕はそれを見据えた。それも僕を見て声が出せないのか、ずっと固まっている。
何故、何故お前まで。
僕は声が出せなかったので、心の中でそう呟いた。
僕が開けた扉から、数メートル、大きな高級そうなベットに腰を掛ける彼女の姿は、艶のある美しいこの世界では珍しい腰まである黒い髪、髪と同じ色をした黒い瞳、肌は透き通るほどに白く、脆そうで。
その可憐な美少女には見覚えがあった。
彼女も僕に見覚えがあるのか、涙を目に溜め僕をまじまじと見つめる。
僕は一歩、その娘に歩み寄り、もう一歩と、もう一歩と。しだいに近づく彼女の顔は、やはり僕の見覚えのある少女だった。
僕は震える手を押さえながら、ついに彼女の目前まで迫った。彼女の目から一滴の涙が流れ、頬を伝い絨毯へとポツリ、と落ちる。しかし涙は絨毯に吸収され跡形もなく消え去る。
僕からも涙が頬を伝い、絨毯へと落ちる。
彼女の柔らかい頬へと震える手をやる。その感触はもう二度と味わうことのできないと思っていた感触だった。今度は両者から大粒の涙が流れ始める。
その顔、その声、その感触。その全てが幻覚、幻聴なのかとも思った。しかし彼女は此処にいる。僕の目の前に。存在している。
「み、みや……び……」
僕は震える声を発し、彼女の名を呟く。
「まこ……と……」
彼女も美しい声で僕の名を呟き僕を見つめる。互いの視線が交錯し、僕は涙を流す。
彼女の名前は『白草雅』、今の本当の名前は違うが、僕にとっては雅なのだ。
白草雅は、僕の幼馴染であり、智と共によく行動をしていた仲間で、そして僕の地球での人生の大切な人物だった。昔から仲が良かった僕らはいつも隣を一緒に歩いていた。しかし次第に僕たちの間の想いは変化していき、いつしか恋人となっていた。
だが僕は命を何らかの理由で落とし、彼女と離ればなれとなってしまったと思っていた。
僕は雅が生きていれば良いと思っていたが、本当はもう彼女は死んでいたんだ。悲しいような、また会えて嬉しいような、複雑な気分だ。
雅は急に僕を自分へと引き寄せた、かと思うと僕はベットへと寝ころばされ、雅に抱きしめられた。僕は嫌と思わず、逆に微笑みながら、雅を抱き返した。
次第に雅の嗚咽が聞こえ始めた。時折彼女の口から僕の名前が聞こえてきたり、会えて良かったと聞こえたり、僕も目から大きな水が零れはじめた。
声だけは押さえるも、彼女の口から漏れる僕の名、喜びの言葉で、僕は耐えきれなくなり、雅をもっと強く抱きしめ、大泣きしてしまった。
・・
僕と雅ことフリスは、抱き合いながら十分ほど泣き続けた。僕は次第に涙が止まり、雅が泣き止むのを抱き続けながら待った。
僕が泣き止み、三分後に雅も泣き止み僕にしがみつくかのように、しばらく抱きついていた。
鼻を啜る音もじきに止まり、雅が僕を上目遣いで見上げてくる。目元は赤く、頬は紅潮しており、とても魅力的で、幼くも見え、脆そうで。とにかく、美しかった。
雅は僕を再び強く抱きしめ、胸に頬を擦り付けた。
「もう、もうわたしの前から居なくならないでっ!」
雅は大きな声で、そう叫んだ。
その言葉は僕の胸に深く刺さり、彼女との別れてしまって部屋に閉じ籠っていた頃の弱気自分を抉っていた。
僕は強く抱かれた雅の頭を、片方の手で撫でて、もう一度強く抱きしめた。
雅から吐息が聞こえ、僕は再度、雅の愛おしさを認識する。
僕は雅の叫びには返答せず、目を瞑りながら抱きしめた。
しかしあることに気付いた。何故彼女、雅は死んでしまったのか、何故彼女が死ななければならなかったのか。
僕は雅の肩を持ち、僕の体から引き離し、一旦ベットに座らせる。
「あ……」
雅から名残惜しそうな声が漏れる。
僕は雅の目を捉えて、口を開く。
「雅、何でお前はこの世界に居る?」
僕の声はまだ震えていたが、雅はそれを全く気にせず、一旦考え込む。
「……死んじゃったから」
雅は悲しそうにそう呟く。
いや、質問の仕方が悪かったか、僕は一度、他の質問の仕方を考える。すぐに思いつき、僕はそれを口にする。
「何でお前は死んだんだ?」
雅は黙りこみ、再び考え込む。
しかし彼女はすぐさま首を横に振った。
「……わからない、いつの間にか真っ白な空間に来て、黒髪の女の人がわたしに向かって“連続で人間が来るなんて珍しいわね”って言って……」
「白い空間!?」
僕は雅の発言に大きく反応する。
白い空間は、僕の推測では、転生者が前世の記憶を残したまま新たな世界に転生する唯一の方法が存在する空間、と考えている。
その転生方法は貴重なため、その空間に行く人間はまず少ない。
「うん、そのあと急に真っ暗になって、わたし怖くなって、真の名前ずっと呼んで、そしたら急に門が出てきて、入ったら光に包まれて……」
雅はその時の恐怖を思い出したのか、目を瞑り、軽く肩を震わせる。僕はそんな雅を抱き寄せ、落ち着かせる。
「……僕と同じか」
僕はそう呟き、雅の頭を優しく撫でる。
雅は昔から撫でられるのが好きで、僕はよく雅を撫でさせられていた。雅曰く、僕の撫で方はとても好みらしい。
そんなことはさておき、不可解な点がある。
何故、地球時代の頃仲の良かった三人組が、この世界に揃って転生したのか。
これが一番不可解な点だ、三人の意見だと、僕たちは多分ほぼ同時に死んでしまったということが考えやすい。みんな一緒の年くらいで、智の歳は判明していないが、雅に至っては僕と同い年だ。
死んだ原因は一体何なのだろうか。
そう言えば、魔王は一体何が目的なのだろうか。僕は知識が無さすぎる。
すると、急にこの部屋の大きな扉が開かれた。
僕は驚いて扉の方を見ると、そこには、
驚愕したような、セシリィと、リリナさんと、エメナ様が立っていた。
僕と雅は硬直した。




