第13話
何とかお腹を壊さずに全てを食し、無理やり笑顔を作って、リリナさんに美味しいと言った僕は、その後十分ほど意識がなくなってしまった。
そんなこんなで、やる事もなく、景色にも飽き飽きしてきた、森を出発して一日と六時間ほど、やっとゾネルの大都市ヴァイラが見え始めた。
まず最初に目に飛び込んできたのが、此処からでもわかるほどに大きな城壁に囲まれた城だった。あれが王たちの住まう家だ。
この都市は僕たちの森よりも範囲は広く。森が二つ分、収まりそうな広さだった。
次第に近づくにつれ、聞こえ始めるヴァイラの喧騒、見え始める、住人の家、音楽館、図書館、料理屋など。
これが、ゾネルの大都市ヴァイラ、か。
「凄い……」
僕は無意識に感嘆の声をあげた。
すると急に馬車が立ち止った、多分もう門に着き、入る準備をしているのだろう。僕は顔を窓からだし、それを確かめる。
案の定、今馬車を運転していた、ケンタウロスが門番に何か話していた。
その前方では、王たちを乗せた馬車が街へと入って行った。
「これが、大都市ヴァイラか……」
セシリィがそう呟き、僕と同じ窓から顔を出し、街を見る。
「こら、貴方たち、おとなしくしていなさい」
しかし、それをリリナさんに制され、僕たちは渋々窓から顔を引っ込めた。
すると馬車が動きだし、門をくぐり始めた。
リリナさんを見ると、リリナさんはもじもじしていた。
「リリナさん、どうしたの?」
「え!? いや、こ、これは決して、この街に来てそわそわしているわけじゃ……」
「やっぱり、リリナさんもなの?」
僕の問いに、リリナさんは顔を真っ赤にして、硬直してしまった。
しかし、それにセシリィが追い打ちをかける。
「あ、あ! ほ、ほら城が見えてきた!」
僕は気まずい雰囲気を逸らすために、ぎこちなくそう叫ぶ。
セシリィは僕の言葉に反応し、窓から顔を出す。
リリナさんはというと、そわそわしながら、僕たちを見て、その後床を見る行為を幾度もしていた。
「ほら、リリナさんも」
僕はリリナさんの、手を取り、窓に寄せた。
「わぁ」
リリナさんは感嘆の声を漏らし、街をまじまじと眺めはじめた。
僕たちは今まで、森でしか暮らしていなかったため、こんな都会に来るのは初めてなのだ。とても興奮してしまう。
僕とセシリィは顔を見合わせ、リリナさんの子供っぽさに軽く笑った。
・・
「此処が城の門ね……」
セシリィが顔を強張らせながら、僕に言う。
「だね……」
僕も顔を強張らせてセシリィに返事をする。
「私の家の門なんて比べ物にならないわ……」
リリナさんも顔を強張らせながら、僕たちにそう言う。
僕たちは三分前ほどにこの場所についてから、動けずにいた。この城の馬鹿でかさに気を当てられたのかもしれない。
しかし早くしなければ、完全に不審者扱いを受けてしまう。すでに門番の二人が僕たちに不審な目を浴びせてきている。
僕は気を引き締め、門番の前へと進み出る、が。
急に門が開かれた。そして、城から出てきた人物は。
「レムナ様? まだお入りになられていないのですか?」
エメナ様だった。
「え? は、はい! 只今入らせていただきます」
僕は緊張して言う。
エメナ様はそんな僕を見てか、ニコリとほほ笑み、三人に入ることを促した。
入った途端に目に入ったのが、大きな階段。階段の横にそれぞれ高価そうな像が二体。階段も、ほとんどに紅い絨毯が引かれており、その絨毯も高級そうだった。
靴で歩いていいのかな。
僕は不安に思い、エメナ様の足を見ると、これもまた豪華そうな綺麗な靴を履いていた。
やばい。
この城と、僕たちじゃ、リリナさん以外釣り合わない。分かり切っていたことだけど、改めてこの城に入ると、凄い悲しい。
しかしエメナ様は全く気にしないで、歩を進める。
「フリスはね、私達ノーム族とは違う姿をしているの」
ノーム族、四精霊の一つの種族。他にも、ウンディーネ、サラマンダー、シルフが存在している。四精霊とは、四大元素を司る精霊たちである。ウンディーネは水、サラマンダーは炎、シルフは風、ノームは土。シルフとエルフは同じ種類の魔法を得意としているが、違う種族だ。
この四精霊は、エルフと同様の魔力を持っているが、個人の得意系魔法が必ずと言っていいほど自分の種族が得意な魔法なので、多種の魔法を操るエルフには敵わなかったのだ。
しかし、土系魔法でノーム族とエルフが戦えば、必ずエルフは負ける。他の種族もそうだ。
ゾネルは四精霊の中、ノームとサラマンダーが多く見られる国だ。ウンディーネは縁国の手前に在る大きな湖周辺に住んでいる。シルフが得意な魔法は風系魔法ということで、縁国近くに住んでいる。
考えてみれば、エルフが多種な魔法を使いこなせるのは、周りに住んでいる種族が四精霊ばかりだったのかもしれない。
ノーム族の容姿は、見た目は他の種族の肌と一緒なのだが、より頑丈な肌と、少し黒い肌などだ。
「僕みたいに耳も尖っていなくて、肌も頑丈そうでないと」
「えぇ、その通りなの。でもね、すっごく可愛いのよ、もう食べちゃいたいくらい」
エメナ様、美人の顔で、そこまで顔を崩れさせずにニヤつかないでください。
「は、はぁ」
僕は若干引きつつ、話を聞く。
階段を上り始め、僕は像を見る。手入れを細目にしているのだろう、汚れ一つすらなかった。しっかりしているお手伝いさんたちだ。
「フリスの部屋は二階なの」
「この城は何階建てなんですか?」
セシリィがエメナ様に質問をする。
「うーん、覚えていないわ、ごめんなさい」
「い、いえいえ」
この城は覚えられないほどに、階があるのか。と思いつつ、階段を上りきる僕。リリナさんは少し緊張しているが、見慣れているのか、あまり顔に出ていない。それに比べて僕とセシリィは顔に出まくりであった。
階段を上りったので、振り返ると、思った以上に階段の段が多かったことに気付く。
「こちらよ」
エメナ様が僕たちを呼ぶ。
僕達はそれについていき、今度は少しだけの階段を上る。
上り切り、真っ直ぐな廊下を歩きだす。
「フリスの部屋はここから真っ直ぐよ、レムナ様以外はフリスの部屋の前で待っていてください」
「え?」
エメナ様はそう言い残し、階段を下がって行った。
「一人で行くの?」
「だそうだ、ごめんだが少しの間待っていてくれ」
駄々をこねるセシリィにそう言い、僕たちはまた歩き出す。明るい橙色の灯に当てられて、さらに豪華さを増す絨毯。やばい、本当にこの靴で踏んでいいのか。
靴は新しく買った少し高い靴で、服装も普段よりももっと高い服を買ってきた。しかし僕とセシリィには場違いにもほどがある。リリナさんはお嬢様だから、不自然ではない。
そんなことを考えていると、お嬢様の部屋の前に到着した。
「じゃあ行ってくる」
「うん、すぐ戻ってきてね」
「お嬢様に何もしないこと」
僕はセシリィとリリナさんの見送りの言葉に微笑みで返し、扉を開けた。




