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現代ダンジョン黎明期  作者: つくしー
第一部 どこにでもいる高校生
6/40

第6話 弱者、再び


 階段を降りた先は、だだっ広い草原だった。

 いや、草原というより、ちょっと草木が多い荒野だろうか。乾いた地面がただひたすらに広がっている。テレビの世界不思議旅とかでよく見る景色だ。


 夢かと、そう思った。


 ……太陽、眩しい。


 痛いくらいの日光に、自然と涙が溢れてくる。

 久しぶりの太陽はやけに熱く、大きく感じた。それが強烈に、俺にここが地上であることを実感させてくれる。泣いてしまうのも仕方ないだろう。


 ……外だ。外に出た。


 階段を降りたのに地上だとか、降りたら階段が消えたとか、そんな不思議現象本気でどうでもいい。だから何だって感じである。というか頭にさえ入ってなかった。


 俺は外に出た。戻ってきたんだ。

 あの地獄のような環境から、戻ってこれた。

 帰ってきたんだ。


「やっっったっ!」


 思わず叫ぶ。

 声が枯れるくらいまで叫びたくなる。

 思うだけでは飽き足らず、叫んだ。そして荒野を走り回った。


 ……ここはどこだろう。日本にこんな荒野は無いから外国かな。


 大丈夫、今の俺ならどこからだろうと家に帰れる。


 レベル3に上がった体は凄まじく、荒野を走る俺の背後は土煙が上がっている。自分でもどこまで出来るか分からないが、少なくとも地球の生き物に負ける気はしない。


 ここがアフリカのサバンナだろうと、俺は楽勝で帰れるだろう。


「ははははは……ん?」


 いけない、はしゃぎ過ぎたか。

 俺の声に釣られてやってきたのか、遠くから土煙が激しく上がっているのが見えた。恐らくこの荒野で生きている動物だろう。驚かせて悪かったという気持ちになるが、嬉しかったのだから許してほしい。


 俺は上がった視力で土煙を遠視する。動物によってはここがどこかの指標になるのだから確認は大事だ。まぁ何でもいいけどな、帰って来れたことが一番大事なのだから。

 

 ……ライオン? やけに大きいけど、俺が知らないだけで実物はあんなもんか?


 いや、待て。何か乗ってないか。

 乗っている。間違いなくライオンに乗っている。

 目を疑う。俺は認めたくなくて何度も確認した。

 だって、そいつは人型だったのだ。

 そして何より、そいつは緑色の肌をしていたんだ。


「……」


 ……ゴブリンじゃん。


「ちくしょぉぉおおおおおっ!」


 帰ってこれたと喜んだ、俺の涙を返してほしい。


 ……だが、嘆いている暇はないようだった。


 奴らは一直線に俺に向かっている。間違いなく俺を視認していた。

 速い。速すぎる。遠目だったのが、もう普通に見える所まで迫っていた。数は三匹……いや、ライオンに乗っているのだから三騎だろうか。


「――卑怯だろ!」


 言っている場合ではなく、俺は逃げた。

 初見の敵を三騎同時とか冗談ではない。やってられるか。

 どこに逃げればいいのか分からないまま、俺は走った。


 後ろを見る。まだいた。それどころか距離が縮まっている。レベル3の全力はさっきにも増して速いが、やはりあのライオンみたいな化け物相手にスピード勝負は分が悪すぎる。


「ギャッ!」


 ゴブリンの憎たらしい声も聞こえるほどに近づかれた頃、何かが飛んできた。反射的に右に避けると、その何かが俺の頬を掠めそうになった。


 ……それを見て、俺は思わず顔を青褪めた。


 矢だ。

 あいつら、矢を撃ってきやがった。


「冗談じゃない!」


 弓矢とか、飛び道具とかずるい。俺にも寄越せ。

 使える気は全くしないが、そう思わずにはいられない。

 こっちは生身でこん棒だぞ。原始人か俺は。


 愚痴を言っている暇はなく、ゴブリン共は俺で的当てでもするように矢を撃っている。蛇行して避けるのにも限度があった。というか避けてるのかこれは。


 ……いや、あいつら遊んでやがる。


 ライオンのスピードを考えれば、とっくに追い付かれてもおかしくない。なのにまだ俺の後ろにいるということは、つまりそういうことだろう。あくまでも俺を的にしたいようだ。いや狩りか?


 ふざけやがって。


 ……どうする? どうする!


 このままではジリ貧だ。いつかは矢で撃ち抜かれる。


 かといって倒そうにも自信が無い。ゴブリンはどうにでもなるだろうが、ライオンの強さは未知数だ。地球にいるライオンだって怪しいのに、あんなデカいの三頭はリスクが高すぎる。


 ……いや、このまま一方的に殺られる方が無いか。


 リスクというなら、そっちの方がリスクだ。

 俺は走りながら呼吸を整える。一瞬で頭がクリアになった。

 こん棒を強く握り、立ち止まろうとして――見えた。


 ……崖?


「ギャギャ!」「グガガ、ギガ!」


 ゴブリン共のスピードが上がり、一気に俺との距離が縮まる。

 まるで俺を逃さないとでも言うように。

 俺は悩み、それでも速度を落とさなかった。

 高さは分からない。底も見えていない。

 安全かどうかなど、もちろん分かるはずもない。


 それでも俺は、一切の躊躇なく崖から飛び降りた。

 長い滞空時間のあと、一瞬の浮遊感。

 そして、落下。

 飛び降りてから気付いた。普通に死ねる高さだと。


「ぁぁぁぁああああああああっ!?」


 俺は悲鳴を叫びながら、なす術もなく落ちていった。





「痛ぇ……」


 崖は相当な高さを持った大きな渓谷だった。

 下から見上げる崖は、断崖絶壁という言葉が相応しい。

 崖と崖の間には大河が流れている。


 川幅も広く、そして深い。お陰で運よく助かったが、それだってレベル3の肉体でなければ粉々だったろう。もちろん無傷という訳ではなく、それ相応の怪我を負った。


「MP切れか」


 覚えたばかりのリジェネを使って回復していたが、完治前にMPが切れた。まだ普通に痛い。骨折がヒビになった程度の変化だ。二度と紐無しバンジーなどしたくない。

 

 ……不味いな。寝たら回復してくれるといいんだけど。


 MPの回復にはアイテムがいるとかだったら俺は詰む。

 こればっかりは祈るしかないのが歯がゆい。


 ともあれ、少しは動けるようになった。

 俺はバッグの中を確認し、水浸しになっていることを確かめる。

 それは仕方ないからいいとして、ライターが濡れても使えたのは嬉しい限りだ。むしろ使えなかったら泣く。


 とりあえず冷えた体を温めるか、もしくは安全地帯を探すか。

 追手が来る気配は今のところ無い。奴らもわざわざ崖を下ってまで俺を探さないだろう。そうだといいな。

   

「……」


 太陽を見る。前より確実に日は落ちていた。

 あるか分からない安全地帯を探す間に夜になる。

 その危険を考えれば、実質一択のようなものだった。


 焚き火を作り、火に温まる。

 流石大自然というべきか、洞窟と違ってすぐに準備は整った。

 だがそうこうしている間に日没し、辺りは真っ暗になっている。

 ここは洞窟と違って光源が月明かりしかない。どっちかというと洞窟の方が明るかったのが不思議な気分だった。


 ……ここは異世界なのかな。


 炎を見ながら考える。 

 洞窟の階段を降りたら荒野だった。数百段は降りたのに。


 それはいいとしても、降りた途端に階段が消えたのが謎過ぎる。正確には降りた先には扉があって、扉を開いて荒野に降りたらいつの間にか扉が消えていた――だが、そんな違いは些細なことだ。どっちにしろ消えているのだから。


 洞窟にいたゴブリン。ボス的存在だったホブゴブリン。

 今度は化け物に乗った弓矢を扱うゴブリンまで出てきた。

 そしてレベルに、ステータス。


 ……異世界なのは、間違いない。


 なら果てまで歩けば、いつかは人里にたどり着けるのだろうか。

 とてもじゃないが、そうは思えなかった。


 いや、止めよう。

 ひとまず夜を安全に過ごすことだけ考えよう。

 ここの夜は、洞窟と違って開放的で、広い。

 襲撃を警戒しながら過ごすには、厳しい夜になりそうだった。


 木々のざわめきや虫のさえずり、獣の遠吠え、風がうねる音。

その全てに邪魔されて、俺はろくに休むことができなかった。

 俺はまた、弱者だ。




 ……朝日を浴びて、ほっとする。


 結局一睡もできなかったが、嬉しいことにMPが2ほど回復していた。リジェネは体をちょっとずつ治癒し、一定時間ごとに1ずつ減っていく。


 たったMP2つ分しか回復しなくても、今は十分有難い。痛みがマシになったお陰で急に眠気が押し寄せてきたが、今は寝るわけにはいかないだろう。

 

「まずは水と、寝床の確保か」


 ここの川は汚れている。飲料水にするにはもう少し綺麗じゃないと不味いだろう。上流にいけば多少はマシになるだろうか。安全には気を配りたい。

 腹を壊している最中に化け物に襲われるとか、最悪だ。


 俺は馬鹿正直に川を上ろうとはせず、森に紛れて上流へと移動することにした。


 少し観察した限りだが、川付近には他の生き物の臭いや足跡が大量に混在している。恐らく水を飲みにきているのだろう。小動物だったら構わないが、あのライオンみたいな化け物と鉢合わせるのはごめんだ。


 森には木の実や果物っぽいものなど食べられそうなのがそれなりにあったが、俺はその全てを無視する。一層と同じだ。安全を確認するまで口には入れられない。


 正直腹が減ったから、そうでも思わないと食べてしまいそうだ。

 そう思っていたら、樹の根本に何かの種のようなものが落ちていることに気付いた。


 次いで、がさごそと頭上から音がする。


 ……猿? デカいな。


 こん棒を構えて襲撃に備えたが、特に襲ってくるようには見えない。

 猿もどきは俺をじっと見たかと思えば、素早い動きであっという間に樹を飛び移っていく。敵対しなくて何よりだ、地上でも猿は普通に強いし。


「これはあいつが食い散らかしたものか?」


 見た感じ、その辺に成っている果物っぽい。銀杏に似ている。猿はネズミより人に近いというし、この果物も芋虫よりは見た目が安全そうなのは間違いない。


 試しに一つ食ってみると、瑞々しくて仄かに甘い。

 めっちゃ美味かった。

 俺の主食に決定だ。






 俺に食べられる物を教えてくれた猿にありがとうと思ったが、撤回する。

 奴はなぜか、俺の後を付いてくるようになったのだ。


「キキ、ウキキキ」


 猿は俺から一定距離を保ち、こん棒を向けるとすぐに樹上に逃げた。そして俺の攻撃範囲から逃れたことを悟るや、厭らしい笑みを向けてくるのだ。


 おちょくられている。ウザすぎる。


 ……落ち着け。こっちにだってメリットはある。


 猿はつまみ食いをよくしている。

 果物や木の実を食べては落っことしていた。


 すなわち、それらは俺にも食えるということ。勝手にこの森の食い物が知れるのは悪くない。利用するだけ利用したら、後は本気で追い払うなり、殺すなりすればいいのだ。


 ……デメリットは、ウザいことだけ。


 俺は深呼吸して頭を振った。音を鳴らさないよう気を付けていたのに、足元からパキッと枝が割れる音がする。苛立っている証拠だ、頭を冷やせ。


 そうして猿に付いてこられて、数時間が経った頃だろうか。

 川水の濁りが少しはマシになってきたかと思った所で、ふと臭いがした。


 ……獣の臭い。次に水の跳ねる音が聞こえる。


 俺は即座に姿勢を低くし、藪に隠れた。

 草木の隙間から覗くように川を見て、息を止める。


 ……ゴブリンと、ライオンもどきか。


 ゴブリンは川で立ちションしたあと、その川水を飲んでいた。ライオンはお預けを食らっているのか、寝そべったまま何もせずに動かない。


 ……一匹と、一頭だけ。他には居そうもない。


 獣なら、俺より先に俺の臭いを嗅ぎ取りそうなものだが、運が良い。風向きが俺に味方をしてくれている。今後はこういうことにも気を付けないとな。


 ……どうする。俺がどれだけ通用するか試すべきか?


 いや、MPが無い。怪我を負う訳にはいかない。

 ここはやり過ごし、まずは飲み水と寝所の確保を優先し、


「キー! ウキキキー!」


 ――……は?


 耳障りな甲高い声が辺りに響いた。

 ゴブリンとライオンが何事かとこちらを向く。俺も驚いて振り返ると、そこには猿もどきが憎たらしい顔で俺を指差していた。


「このクソ猿がァッ!」


 俺は怒りに任せてこん棒を振るう。

 当然猿もどきに届くわけもなく、代わりに太い幹にぶち当たる。

 幹を多少傷付けただけで終わった。猿もどきを揺らして落とそうとしたのに、素知らぬ顔なのが余計に腹立つ。


「ギャッ!」


 最早慣れ親しんだ鳴き声のあと、すぐさま矢が飛んできた。

 目で追える。俺は難なく避けた。判断が早いことから洞窟のより数段上だが、化け物に乗っていなければゴブリンなんてこの程度だ。放置してもいい。


 今は、あのクソ猿を、


「キーッ!」


 戦闘が始まった瞬間、猿もどきは嬉しそうに鳴きながら木々の奥へと消えた。あっという間に見えなくなる。

 何がしたかったんだあの野郎は……。


 ……落ち着け。ペースを乱されるな。


 俺は乱射される矢を避けながら、ライオンにのみ集中する。

 今にも飛び掛かってきそうだ。二対一はしんどい。

 となれば、こいつは邪魔だ。


「ギャッ!?」


 飛び道具には飛び道具。

 人類最古の武器である投石で、俺はゴブリンの頭を抜いた。器用のステータスのおかげか難なく当たる。というか、弓を構えた状態で静止するとか無防備にもほどがあるだろ。


 猿もどきにもこうすれば良かったと一瞬思ったが、あいつは直接ぶち殺したいからまぁ良しとする。


 騎手を殺したというのに、ライオンは怒りも見せずに俺を睨む。

 低い唸り声が聞こえる。見れば轡を噛まされていた。

 瞬間――飛び掛かってくる。


「クソ、速いなホントに!」


 爪を掻い潜るようにして避ける。間一髪だった。

 デカい図体に見合わない俊敏な動きはそれだけで脅威だ。猫パンチ染みた攻撃ですら、掠っただけで致命傷になり得る。少なくとも痛いでは済まないだろう。


 右、左、と順に繰り出される爪に気を取られ、俺は最も警戒すべき攻撃への反応が一瞬遅れた。

  

「グルルルルッ!」

「っ!」


 体当たり。

 圧倒的な質量と面でぶつかるだけの純粋な攻撃。

 それだけに避けることができず、俺は川まで跳ね飛ばされた。

 鼻の中にまで水が入り込む。苦しい。


 ……だが、大丈夫だ。


 対処できない動きはない。さっきの体当たりも自分から飛んだ。痛いは痛いが、ダメージは最小限に抑えられている。この程度ならすぐに治る。


 俺は水中ごとかき回すように蹴り上げ、ライオンの顔に大量の水飛沫をぶっかけた。

 目潰しに面食らうライオン。

 俺はその隙を逃さず、渾身の横薙ぎを振るった。 


「ぁぁあッ!」

「ッ!?」


 ズン、と骨身に響くような感覚が手に返る。

 手応えあり。


「グルルルゥァッ!」


 だが今ので止めとはいかないらしく、お返しとばかりに反撃してきた。見え見えの体当たりだったので跳んで逃げる。

 強くて硬い。なんでこんなのがゴブリンなんかに従ってるんだ。

 

 ……けど、そろそろだな。


 さっきの一発がよほど効いたのか、動きが鈍っている。

 それに戦ってみて分かったが、こいつはただの獣だ。戦闘における駆け引きなんてものはまるでなく、馬鹿正直に突っ込んでくることしかできない。


 これならまだ、ホブゴブリンの方が全然強いだろう。

 だが、油断はしない。


 俺は隙を狙って、確実に攻撃を入れていく。

 ライオンは轡から溢れる涎が滝のように落ち、荒く息を繰り返していた。もう少し。

 少しずつ弱っているのにそれでも愚直に突っ込むことしかせず、ついには力尽きたように足を引きずる。


 俺は止めを刺すように、大上段からこん棒を振り下ろした。

 

『レベルアップをお知らせします』


「……早いな」


 俺は聞こえた声に思わずそう返した。もちろん返事はない。

 俺がここに来てから倒したのはゴブリン一匹とライオン一頭だけ。まったく全然倒してない。


 経験値的なシステムがあるのだとしたら、ゴブリンの分はたかが知れているだろう。それだけライオンの分が大きかったということだろうか。


 いや、多分ホブゴブリンの分が大きく効いている気がする。

 あいつは強かった。運で勝ったと言えるくらいに。

 レベル2から3に上がり、更に4に近づくほど経験値を貰っていてもおかしくない。


 ……まぁ、考えても仕方ない。


 俺は更に上がった力でライオンの死体を引きずり、水中から陸地に上げた。

 その気になればニメートル近い巨体を持ち上げられそうなほど強くなっている。どんどん人間離れしていくな。

 そのことに若干怖くなりながらも、今は頼もしいと思考を止め、ライオンの死体に集中した。


「噛めないように轡……足には何かで縛った跡か」


 それ以外にも色々と鋭い裂傷がある。俺が付けた傷ではない。

 俺は傷に詳しい訳ではないが、どうも自然に付いたものとは思えない。

 考えられるとすれば、ゴブリンが付けた傷か?


 ……もしかして、従ってるんじゃなくて、調教されてるのか?


 調教であれば、それは支配だ。

 俺の頭に騎手を殺した時の記憶が蘇る。ライオンは我関せずだった。欠片も気にした様子が無かった。

 支配であれば、それは仲間ではない。むしろ潜在的な敵だ。


 ……俺の耳が、ゴブリンの耳障りな声を捉えた。


 かなり遠い。レベルアップしたお陰で聴覚も更に鋭くなっている。

 声は一つ。足音までは聞こえないが、十中八九ライオンに乗っているはずだ。

 小休憩に行ったゴブリンが戻ってこないから探しにきたのか。やけに仲間意識が強いと思ったが、都合が良い。


 俺は自然と口元を歪ませると、再度藪に隠れた。もちろんクソ猿が戻ってきていないことを念入りに確かめる。

 いないことにホッとしたような、残念なような気持ちになりながらも、頭を振って息を殺し、死体を注視する。


「ギャギャ!?」


 ……きた。


 ゴブリンは仲間の死体に気付くと、ライオンを駆使して猛スピードで駆け寄ってくる。慌てて降りては躓いて、八つ当たり気味にライオンのケツを蹴っていた。


 そして仲間の死体を前に顔を手で覆い、さめざめと泣いている。

 ちなみにライオンの死体もそばにあるが、そっちは無視だ。ゴブリンだけではなく、新たなライオンも特に気にしていない。

 

 ……本当にただの獣だな。ゴブリン同士の絆には涙が出るけど。


 なんて。

 冗談だ。


 俺はライオンの意識がそっぽを向いた瞬間、仲間の死体に気を取られているゴブリンを投石でぶち抜いた。


「ギ……ッ?」


 細い悲鳴を上げてゴブリンが倒れる。

 ここまでは順調だ。想定通りに進んでいる。

 さて、どう出る。


「グルゥ?」


 ライオンはいつの間にか、死体になっていたゴブリンに気付く。

 そして、その死体を喰らい始めた。

 轡を噛まされているせいでろくに食えていない。啜っていると言った方が正しいか。


 相当ゴブリンが憎かったのか、それとも飢えていたのか知らないが、凄まじい食べっぷりだ。血の一滴も残さないという執念を感じる。


 ……はは、ビンゴじゃん。


 思った通り、ライオンはゴブリンに仲間意識など欠片も感じていない。わざわざ確かめた甲斐があった。

 ならば次だ。俺もゴブリンと同じことをすればいい。


 ……ゴブリンにできるなら、俺にだってできるだろ?


 俺は息を殺してライオンに近付き――勢いよく飛び乗った。


「グルゥァ!?」


 突然の騎乗に暴れるライオン。

 その暴れっぷりは凄まじく、飛んだり跳ねたりひっくり返ったりと大忙しだ。レベルが上がってなければ潰れていた。


 ……おいこれ大丈夫かよ。このあとは?


 乗ったは良いがどうすればいいか分からない。

 とりあえずと、俺はライオンのケツをこん棒でぶっ叩いた。


「静かにしろ!」


 一発。まだ暴れている。

 だが前より少しだけ暴れ方が弱くなっていることに手応えを感じた俺は、更に二発、三発と連続してぶっ叩いた。

 結構本気で殴っている。かなり痛いのか声が悲鳴染みてきた。


 動物相手にやり過ぎか。いや今更だ。

 ここで舐められたら終わりだ。ゴブリン以下だ。


 ケツが真っ赤に腫れ上がり、うっ血するまで殴ってようやく。

 ライオンは低く唸ったあと、諦めたように腰を落とした。


「俺に従え」


 言葉が理解できるのか分からないが、獰猛な目つきで俺を睨んでくる。

 試しに走れと鬣を引くと、嫌々ながらも従った。

 これで良いのか分からないが、とりあえずは良しだ。


 俺は乗り物を手に入れた。





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