第24話 樹海
一層二層を準備運動代わりに突破して、三層への階段を降りた。
最初に見える景色は緑と茶色。その二色しか無かった。
巨木が立ち並ぶ原生林。それが三層を見た俺の感想である。
「ついにきたな、三層に」
独り言のように呟いた言葉は、すぐに宙へとかき消えた。
二層が雄大な大自然だとすれば、三層は人を拒む生命の壁だ。見上げても空は見えない。幾重にも重なった枝葉が陽光を遮り、光すら満足に届いていなかった。昼間のはずなのに森の中が薄っすらと暗い。
落ちている葉っぱや枝も大きくて、まるで自分が小人にでもなったような錯覚を覚えた。
「来ちゃいましたね、三層に」
俺の呟きを拾ったのか、それとも朱音も独り言なのか。朱音はどこか「やってしまった」という空気を漂わせて、階段があった後ろを振り返っていた。
当然ながら、俺達が全員降りた時点で階段は霞のように消えている。
「なんだ、後悔してるのか?」
「していないといえば嘘になりますよ。だってどう考えたって私達が攻略するより、自衛隊が攻略するのを待った方が安全じゃないですか」
それはもっともだが、今更過ぎる。
もう退路は断たれたのだから、後は突き進むしかない。
そう元気付けようとしたら、朱音が手を前に出した。
「でも、大丈夫です。覚悟はしてましたよ。それこそ、先輩のパーティに入れてと言ったあの日から、ね」
「その言い方だと、俺が戦闘狂みたいに聞こえるな」
「そこまでは思ってません」
そこまではって、じゃあどこまで? 近いとこまでは思ってるってことなんじゃないの?
……怖いからこれ以上聞くのは止めておこう。
「それにしても、大きい木ばっかりですね。密林? いえ、三層は樹海エリアなのでしょうか」
「さぁな。二層にも荒野だったり滝があったりしたし、そう単純だとは思わない方がいい」
むしろ樹海にこそ色々なエリアがあってもおかしくない。いや、もっといえば三層だ。ダンジョンの三層なのだ。
単純だと思える方がどうかしているが……とりあえず樹海か。
「雪村さん。マッピングは機能していますか?」
そう聞くと、雪村さんはすぐにスマホを取り出して確認した。
「問題ありません。特に誤作動も起こしていないかと」
「よし。じゃあまずは拠点に向いた場所を探そうか。体を休める場所がないとそのうち詰むからな」
「おお、先輩めっちゃそれっぽいです」
朱音の素直なのか分からない称賛に、俺は苦笑した。
「茶化すなよ、当たり前だ。それと絶対に逸れるなよ。ここは二層みたいに見通しがよくない。一度逸れたらもう二度と会えないと思った方がいい」
朱音と雪村さんが神妙に頷いて、二人で手を繋いで俺に続いた。
そうしていると姉妹みたいだが、俺とは何も繋いでないけど?
……まぁ別にいいけどさ。
三層は本当に何もかもが大きくて、俺達の一歩が蟻のような歩みに思えた。全く行く宛がないのだから余計にそう思う。
地面は落ち葉と湿った土に覆われ、その下には太い根が複雑に張り巡らされている。普通に歩いているだけなのに何度も足を取られ、油断すると転びそうになった。避けようにも今度は倒木のような枝が進路を塞いでいる。
……コンパスがなかったら本当に詰んでたかもしれないな。
真っ直ぐ進んでいるつもりでも、実際には右へ左へと迂回の連続だった。時には俺が先に倒木を持ち上げ、二人を潜らせる。どうにもならない場所では大斧で蔦を断ち、最低限の道を作った。
その蔦さえ、俺の腕ほどの太さがある。
「これ、もう道を作ってませんか」
「言うな。俺も同じことを思ってたんだから」
俺達のステータスを持ってすれば、その気になれば木から木へと跳び移るように移動することもできる。だがどうしたって体力を使うし、何かあるか分からない以上、最初は慎重に歩くことを選択していたのだが……。
……もうこっちの方が疲れてきたな。諦めて跳ぶか?
そう俺が嘆息していると、朱音が不意に声を上げた。
「なんです、あれ」
「……なんだ、糸?」
朱音の視線を辿っていくと、白い糸が宙に浮いているように見えた。限りなく細くて絹糸のように綺麗に見える。よく気づいたな。
糸の出どころを探そうと頭上を見上げても何も見えない。正体不明の糸がただ垂れ下がっているのみだ。
「いいですねこれ。ちょっと欲しいかも」
「あ、ちょ、待てっ」
俺の制止が間に合わず、朱音が矢の先をちょこんと糸に当てた。
その瞬間――ボトッ、と。
俺達の体長と同じくらい大きな蜘蛛が、上から降ってきた。
「――ぎゃああああーーっ!?」
朱音が乙女らしからぬ絶叫を叫び、探索者の身体能力でもって全力で飛び退る。捕食者の本能かそれを追いかけようと蜘蛛の脚が僅かにたわんだ。
俺は反射的に、極めて自然に大斧を振るい、蜘蛛を叩き潰した。
「……ッ」
蜘蛛の鳴き声、というあまり聞いたことのない声を上げ、崩れる。
虫というやつは意外としぶとい。死んだと思っても生きていることが多々あった。地上ですらそうなのだから、ダンジョンでは尚更警戒すべきだろう。
俺は念のために頭を再度潰すと、魔石が体液と共に跳ねるように落ちてきた。蜘蛛の体が溶けるように消えると同時、俺の頭に例の声が響いてくる。
『レベルアップをお知らせします』
……ほらやっぱ生きてたじゃん。死んだふりとは味な真似を。
それにしてもこいつ一匹でレベルアップか。それほど経験値が多いモンスターには見えないが、死んだふりまでしてたし意外と小賢しかったからどうだろうか。
いや、階層ごとにレベルキャップが定められていると考えた方が自然だな。三層に来たことで制限が解除されたと思った方がしっくりくる。
俺は転がる魔石を見ながらそう結論付けると、軽く息を吐いた。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫じゃないです!」
めっちゃ遠いところから朱音が叫んだ。見れば木の枝にいる。
……どこまで逃げてんだよ。
朱音が怒り心頭という風に降りてくると、鳥肌を立たせて身震いした。
「なんですあのでっかい蜘蛛は。もしかして虫? 三層は虫がメインの階層なんですか? 最悪ですっ!」
「落ち着けよ、虫なんて地上にもいるだろ。それにゴブリンの方が気持ち悪くないか?」
「あんなでっかい蜘蛛はいませんし、ゴブリンの方がいくらかマシですよ!」
……マジかよ。女の子的にはゴブリンの方がマシなのか。
一時期ゴブリンに思考が寄ってた俺には朗報だな。
朱音が矢についた糸を必死になって取り除こうとしているが、異常に頑丈なのか全く取れる気配がしていない。
欲しいとか言って手に入れようとしたのに、いざ蜘蛛のだとわかると途端に汚らわしいものに変わるらしい。見れば雪村さんも表情には出していないけど若干青い顔をしている。
……二人とも虫が苦手だと思って間違いなさそうだな。
「覚悟してたんだろ。ダンジョンなんだから虫くらい我慢してくれ。それより雪村さん、あの蜘蛛の気配、感じましたか」
「っ」
そう聞くと、雪村さんがはっとしたように目を開いた。
「……いえ、お恥ずかしながら、全く」
「そうですか。俺も同じなので気にしないでください」
雪村さんは事の重大性に気付いたらしい。虫に対する嫌悪感を殺して周囲の警戒にすぐにあたった。
俺はまだ矢を擦っている朱音に軽くチョップを食らわせる。
「真面目にやれ。いいか、ここはもう敵地だ。虫だろうが何だろうが敵は敵、油断するな。大声を上げるなんて以ての他だぞ」
「ぅ……っ」
騒ぎ過ぎた自覚があるのか、朱音が涙目で言葉を飲み込んだ。
しかしすぐに落ち着こうと深呼吸を繰り返している。
……いつもは朱音の方が冷静だからな。もう大丈夫だろう。
虫嫌いな女の子にはちょっと刺激が強かったかもしれないが、こればかりはもう慣れてもらうしかない。朱音の言うように本当に虫メインの階層ならレベルを上げるにも避けては通れない敵なのだから。
……この緊張感、懐かしいな。
三層に来て初めて未知のモンスターを倒したせいか、俺もようやく実感が湧いてきた。一層二層ばかり潜っていたせいかダンジョン感が鈍っていたのかもしれない。緊張で肌がひりついてくる。
前は毎日がこうだった。もっと早く来れば良かったな。
とりあえず、また襲われる前に拠点くらいは確保するか。
慎重も結構だったが、あまり悠長にしてる時間もない。
「ちょっと上を見てくる。早いとこ安全地帯の目星も付けたいし、どれだけこの森が広いのかも確認したいしな」
「お待ちください。それでしたら私の方が適任かと」
俺が大樹を眺めてそう言うと、雪村さんから待ったが掛かった。
確かに雪村さんの方が敏捷値は高い。木登りでも跳ねるように頂上に登ることができるだろう。
任せようかと一瞬考えたが、結局首を振った。
「いえ、そう時間も変わらないだろうし、俺がやります」
そう言って、俺は返事を聞かず大樹に跳び移った。
何となくだが、こういうのは男がやるべきだと思ってしまう。それに雪村さんの服だと色々引っかかって危なそうだし。
……というのは建前で、俺が真っ先に三層の景色を見たいってのもあるけど。
木登りのやり方など知らないが、とりあえず上へ上へと目指せばいい。枝から枝に飛び移り、そういった足場がないところは力任せによじ登った。
そうして頂上から顔を出すと、視界は一面緑に染まった。
見渡す限りどこまでも森林が続いている。地上からでは壁のように見えた樹冠が、今は波打つ大海原のように広がっていた。
その中でも一際大きな大樹は、周囲の木々から頭一つどころか二つも三つも突き抜けている。幹は遠目にも塔のように太く、枝葉の一部は低く垂れ込めた雲の中へ消えていた。
どうやら三層は、本当に樹海を中心とした階層らしい。
ただ、これほど広大だと断言するのは早いかもしれない。緑の果て、その更に向こうには、また別の景色が広がっている可能性もある。
少なくとも一つだけ、はっきりした。
俺達が今まで歩いてきた距離など、この樹海全体から見れば誤差にもならない。
……ん? あれはなんだ。
遠くに見える光景に目を眇めた瞬間――音がした。
ギィ、ギィと金属をこすり合わせた時のような音が連続している。それも一つ二つどころではなく、一秒ごとに音が大きくなっていった。すぐに耳を塞ぎたくなるほどの不快な爆音に変わっていく。
遠目に黒い物体が飛来している。
そう認識した次の瞬間には、もう眼前まで迫っていた。
「なっ!?」
「ギギギギィッ!」
大量の鉄みたいな鳥に囲まれ、俺は一瞬で八つ裂きにされた。
肩を抉られ、背中と脇腹に幾筋も傷が刻まれる。ありとあらゆる箇所を羽根で切り裂かれて、俺は応戦する間もなく枝葉の中へ逃げ込むように身を投げた。
途中で何度も枝にぶつかり、最後に樹木を蹴って最低限勢いを殺すと、そのまま地面に衝突する。
勢いを殺したとはいえ、高所からの落下も中々のものだ。だがさっきの方がはるかに受けたダメージが大きい。
……や、ヤバすぎる。なんだ今のは。鳥か?
あの殺意の塊みたいな大群とは、しばらく相手にしたくないな。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃない。空は鉄みたいな鳥の縄張りになってる。この通り、一瞬でズタズタだ。木に登って位置を確認するのは金輪際止めた方がいい」
「ま、マジですか。いえ、それは驚きですが、先輩の怪我は?」
朱音が心配そうに覗き込み、雪村さんに至ってはリュックから消毒や包帯を取り出している。
俺は大丈夫だとアピールするように立ち上がった。
「問題ない。もうすぐ治る。雪村さんも、そういうのは俺以外が負傷した時に使ってください」
「……かしこまりました」
「まぁ、大丈夫ならいいのですが。先輩のそれ、相変わらず反則染みてますね」
朱音が呆れたように言っているが、何を今更だな。
むしろ、リジェネはこういう未知の階層でこそ効果を発揮する。一層二層のように見知った場所では、そもそも大怪我を負うような場面が少ないのだから使う機会がなくて当たり前だ。
……しかし、登ったのが俺で良かったな。雪村さんだったら今頃どうなってたか分からないぞ。
敏捷値に任せて逃げていた可能性もあるが、そうでなかった場合はあまり考えたくない。索敵能力は雪村さんの方が高いけど、やはり怪我を負った時のリスクが俺と比にならないし、これからもこういった役目は俺が担うべきだな。
それに気付けただけでも、俺が登った甲斐はある。
とりあえず一歩前進かと、俺は息を吐いた。
「それより上で見たことを聞いてくれ。基本は緑、樹海しか見えなかったが、一部変なところがあった。石の塊……いや、多分建物かもしれない」
その言葉に、朱音と雪村さんが息を呑む。
「建物、ですか。それはまさか、人が住んでいるとか?」
「まさか。そんな綺麗なものじゃ……いや、分からない。なにせ遠目だったし、よく確認する前に鳥に落とされたしな。外観が汚くても別に人は住めるし」
「モンスター、という可能性もあるのではないでしょうか」
雪村さんの言葉に、俺と朱音は確かにと頷いた。
二層ではゴブリンですら家を建てていたのだから、三層では石造りの建物をモンスターが建てていたとしても不思議ではないし、むしろその可能性の方が高い。
……だが、行ってみる価値はあるだろう。
このまま当て所なく三層を彷徨うよりも、何かしら目印となるものを目指した方がいい。それに建物というなら近くに水場がある可能性もある。
「どうします、先輩」
見れば、二人は俺の答えを待っていた。
迷う理由はない、か。
「ひとまず、そこを目指そう」
俺の言葉に、二人は同時に頷いた。
俺が半殺しにされながらも得た情報を頼りに進み続け、およそ半日が経った。散発的に大蜘蛛が現れたが、全て殺している。その度に朱音が泣きそうになっていたけど、もう慣れてほしい。
ただ、やはり三層は恐ろしく広い。目印にした建物にたった半日で着くわけもなく、俺達は暗くなる前に野営の準備を余儀なくされた。
「今日はここで夜を明かすか」
俺が選んだのは、巨大な樹木の根元だった。幹から張り出した根は壁のように高く、三方を囲むように地面を走っている。根の間にはちょうどテントを張れそうな空間があり、周囲と比べて下草も少なかった。少なくとも背後から不意打ちを受ける心配は減る。
「上に蜘蛛の巣はありませんね」
「折れそうな枝も見当たりません」
二人にも周囲を確認してもらい、ようやく荷物を下ろした。
……が、野営の準備に取り掛かってすぐに問題が発生した。
「……おい、テントが二人用しかないんだけど」
三層への準備は全て朱音と雪村さんに一任していたので、俺に文句を言う筋合いはない。だがあえて言わせてほしい。
……ひどくない?
「何か問題でもありました?」
「いや問題というか……はぁ、もういいよ。俺は外で寝る」
一人用のテントがないのなら、当然そうなる。
だが、朱音の次の言葉に俺は固まった。
「はぁ? 何を勘違いしているのか知りませんけど、先輩も同じテントですよ?」
「なん……だと?」
……嘘、だろ?
「一人は必ず外で見張りなので、二人用です。本当は三人用にしたかったのですが、荷物が嵩張るのでそうしたんですよ。それなのに、男女だからって先輩用のテントを持ってくるわけないじゃないですか」
「い、いや、だけど、それはちょっと」
「それにテントを分けた時、片方の襲撃に気付けない可能性もあります。私達はなるべく一塊であった方がいいでしょう。違いますか」
違わない。全く合理的だ。全面的に正しい。
だがあえて言わせてほしい。
……俺、健全な男子高校生だぞ。
「い、いや、やっぱり駄目だ。見張りが必要というなら俺が大半の見張りをする。二、三時間くらい寝かせてくれればいい。その間は、二人が同時に見張りしてくれ」
「馬鹿なこと言ってますね、見張りは交代制です。睡眠時間をケチって肝心な時に動けなくなる人は要りませんよ」
呆れた顔を隠そうともせず、朱音がテントの中に入っていった。ガサゴソと音がするところからも荷物を整理しているように思える。話は終わったということだろうか。
俺は妙に居心地が悪くなって、平然と焚き火の準備をしている雪村さんを見た。
「その、雪村さんはいいんですか、同じテントなんて。普通嫌だと思いますけど」
「そうですね」
雪村さんは少し考えるように止まったが、すぐに準備を再開した。
「私としてはご遠慮願いたいかと。私はもちろん、お嬢様と同じ空間で男性が寝るなど耐えられません」
「ですよね。いや、いいんです。全然傷ついたりとかしてないので、当たり前なので。やっぱり俺は外で寝、」
「ですが、それは見知らぬ男性が、の話です」
そう言って、雪村さんは薄く笑みを浮かべた。
「これまで三橋様のことは、近くで見てきたつもりです。お嬢様の従者としても、仲間としても。ですので、三橋様であれば特に思うところはありません」
「……」
「信頼していますよ」
そう真正面から言われると思わず、俺は顔を逸らした。
なんだこれ。めっちゃ嬉しい。普段物静かな雪村さんだからこそくるものがあるな。
……ヤバい。顔がニヤけてて我ながら気持ち悪い。
「ですが、お嬢様に手を出そうものなら、」
「絶対にないので安心してください」
最後まで言わせずに遮ると、雪村さんは「そうですか」と作業に戻った。危ない。ナイフを見せないでほしい。
……もう俺が耐えるしかないか。
どっちにしろ朱音の言うことは合理的だ。命が掛かっているのだから性差だけで分けていい話じゃないし、準備に参加していない俺が文句を言う筋合いもない。
それに、信頼されているなら答えないといけないしな。
その後は、焚き火を囲んで早めの夕食を摂った。食糧として持ってきた大量のカロリーメイトを消費する。
夜は思った通り、それこそスイッチを切ったように一気に真っ暗になった。恐ろしいほどの静寂に包まれながら、俺達は見張りの順番を決めて早々に寝入る。まずは雪村さんが見張り、次に俺、最後は朱音と三時間置きに交代する形を取った。この順番は日ごとにローテーションされる。
今日はよく寝て、明日は朝日が出ると同時に行動開始だ。
……二人用のテントとは、思った以上に狭い。
寝返りを打つ度に体が当たる。むしろ何もなくてもどっか当たってる。
……全然寝れねぇよ。
翌朝。
鳥の鳴き声に起こされる、なんて爽やかな朝ではなかった。
頭上の枝葉がわずかに明るくなったことで、ようやく夜が明けたと分かったくらいだ。相変わらず空は見えず、森の中には夜の名残のような薄暗さが残っている。
「先輩、酷い顔ですね」
「誰のせいだと思ってる」
……いや朱音のせいでもないし単なる八つ当たりだけど、言いたくなる気持ちもわかってほしい。
ろくに眠れなかった俺を笑う朱音を無視し、簡単に腹を満たしてテントを片づける。周囲に昨夜と変わった形跡がないことを確認し、俺達は出発した。
進路を塞ぐ根や蔦を避けながら森を進む。あまりに厄介なものは飛び越えて先を急ぐ。そして、体感で昼を過ぎた頃だろうか。
俺達は、目的地へと到着した。




