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現代ダンジョン黎明期  作者: つくしー
第一部 どこにでもいる高校生
22/38

第20話 探索者制度


 ダンジョンから帰還すると、常駐している自衛官に装備や戦利品を引き渡す流れが待っている。


 魔石を集めたリュックに装備の貸与品、俺の大斧。最初は覚束なかったが一月も経つと向こうも慣れたもので、今では俺達用に大きなかご台車が用意されていた。顔なじみの自衛官さんと軽く挨拶を交わし、俺達はぽいぽいとその中に荷物を入れていく。

 

「な、なんか今日は一段と重いですね……」

「すみません、ちょっと色々ありましたので」


 色々あったというか、色々持ち帰っている。具体的にはボスゴブリンの鎧とかその辺。


 ちなみにだが、ボスゴブリンの股間を守っていた鎧は朱音も雪村さんも触るのを嫌がった。なので俺が回収している。魔石を抉り出す為に死体は漁るのに、股間は嫌らしい。


 ……中身は、まぁ、負けを認めてやるよ。


 かご台車を重そうに押していく自衛官さんを見送っていると、奥から真壁さんが姿を見せる。すぐに朱音の肩を見て、眉をひそめた。


「ご苦労様、三人とも。九重君、その肩の傷はどうした?」

「少し掠っただけなのでお気になさらず。もう応急処置も終えていますので」

「そうか。大事がないなら良いのだが」


 俺達が負傷したところをこれまで一度も見たことがないせいか、真壁さんが深刻そうに顎に手を置いている。リジェネで治るから見せたことがないだけで、俺は結構怪我を負ってたけど、まぁ言うまい。


 ……それにしても珍しいな。


 真壁さんが俺達の探索を見守っていたのは最初の一回だけ。あとは基本的に常駐している自衛官さんだけだ。それ自体は別に気にしていない。お偉いさんなのだから暇なわけがないし。


 確か肩書きが「異常領域対策室室長」から「異常領域対策庁長官」になったんだっけか。どっちにしろ長いからこれからも真壁さんで通すけど。


 どちらにせよ、何か用があって来たのかもしれない。

 その考えは当たっていたのか、真壁さんが俺達を見回して口を開いた。


「少し時間をいいだろうか。相談したいことがある」

「相談ですか」


 真壁さんから相談。なんだろうか。

 全く想像が付かないが、ダンジョン関連なのは間違いない。

 俺がいいですよと口を開きかけると、朱音が先に言った。


「すみません。少し疲れているので、また後日でいいですか」

「後日か。確かに配慮が足りなかったかもしれないな。少なくとも負傷したあとにする話ではないか」


 少し間を置き、真壁さんが言う。


「失礼した。では明日の午後、ここで時間をもらえないだろうか」

「……ええ、先輩がよければ」

「俺は別に構いません。どっちにしろダンジョンに潜る予定だったので」


 そうするとよりダンジョンに長く潜れるよう午前にしてほしかったけど、ここは真壁さんの都合を優先した方がいい気がする。今日は土曜日なのにスーツ着てるし、忙しそうだからな。俺たちが折れた方がいい。


 そうして真壁さんと約束を交わして別れたあと、俺達はいつものように駅前に出た。このあとは拠点に戻って反省会という名の軽い打ち上げが行われるのが常だが、今日は朱音の様子が少しおかしかった。


 どこか上の空で、考え込むように黙っている。


「どうした、本当に疲れたのか?」

「いえ……まぁ、はい。そうかもしれません」

「怪我のせいか? 熱はあるか?」


 すぐに雪村さんが朱音の額に手を当てた。


「熱はありません」


 その言葉に少し安心した。

 朱音が猫みたいにうざったそうに雪村さんの手を払う。


「別に体調は悪くありませんよ。ただ、今日はちょっと、先に帰りますね」

「ああ。大人しくしてろよ」

「拠点に行くなら冷凍庫にチャーハンありますよ。ちゃんとチンしてから食べてくださいね」

「食べねーよ。早く帰れ」


 俺はシッシと追い払うように朱音を帰した。

 軽口を叩けるなら本当に体調は問題ないのだろう。




 その日は俺も家に帰ったが、なぜか俺の晩飯だけ作られていなかった。

 ダンジョン帰りはいつも朱音達と打ち上げをしていたから、今日もそっちで食べてくるものだと思っていたらしい。むしろ帰ってくるなら先に連絡しろと怒られてしまった。


 ……チャーハンだけでも食べにいけばよかったよ。






 翌日の日曜日。


 いつもならもうダンジョンに向かっている時間だが、午後は真壁さんとの約束がある。中途半端にダンジョンに潜る気が起きず、午前中は丸々時間が空いてしまった。


 いつもより遅い時間に起床し、寝坊が得意な妹を起こす。前まで休日は俺が起こす係に任命されていたけど、ここ最近はダンジョンに潜ることが増えてこの役目も久しぶりだ。前は毎回不機嫌そうだったのに、今日は少し機嫌がいいらしい。


 そうして唯愛と一緒に朝食を食べながらテレビをつけると、画面には真壁さんの姿が映っていた。『異常領域対策庁長官』という肩書きとともに、『政府臨時記者会見』というテロップまで表示されている。


 ……なにごと?


 俺がそう呆けた直後、画面の中の真壁さんが口を開いた。


『政府は本日、『異常領域探索者登録制度』の創設を決定いたしました』

「ぶ――!?」

「きたなっ! 兄ちゃん汚いっ!」

「ゴ、ホッ」


 あまりの驚きに朝食(コーンフレーク)を噴いてしまった。隣の唯愛に当たらなかったのは救いだが、固形物を噴き出すよりも被害が酷い。ちくしょう鼻にも逆流しやがった。


 というか――探索者だと?


 その疑問に答えるように、真壁さんは制度の説明を淡々と始めた。


『本制度は、異常領域への立ち入りを希望する方を探索者として登録し、活動の支援および安全管理を行うことを目的としております。ダンジョン発生から約四か月。政府はこれまでの調査結果を踏まえ、本制度を創設する判断に至りました』


 俺は画面を食い入るように見つめ、その後も説明に耳を傾けた。


 探索者は国への登録制。一定期間の訓練を受けた上でダンジョンへの立ち入りが許可され、装備や情報の提供といった支援も受けられるらしい。その代わり、探索中に得た情報や発見物については一定の報告義務が課される。


 もちろん誰でも好き勝手に潜れるわけではない。最初は人数を絞って運用し、実績を見ながら段階的に規模を広げていく方針だという。 


 制度自体は筋が通っているし、政府がここまで慎重に進めてきた理由も理解できた。記者達も納得しているのか、会場は妙に落ち着いて見える。


 そして、最後に真壁さんはこう締めくくった。


『――本日より、第一期探索者の募集を開始いたします』


 フラッシュが一層多く焚かれ、記者から矢継ぎ早に質問される。真壁さんは一つ一つを丁寧に答えていたが、最終的に「詳細はホームページにて告知する」と告げ、会見は終わった。


 終わったあとも、俺はまだテレビから目を離せない。


「探索者募集だってー。兄ちゃんみたいな人が増えるってことかなぁ?」

「……かもしれないな」


 辛うじてそう答えると、俺は椅子に深く座った。


 ……探索者制度、か。


 全く知らなかったせいで文字通り噴くほど驚いてしまったが、冷静に考えるとそれほどおかしな話ではない気がする。そもそも俺達がダンジョンに潜ることを許されているのは、ダンジョン資源が圧倒的に足りないからだ。人手を増やそうとするのは当たり前だろう。


 ただ、探索者募集だけは分からない。


 俺はやるとしても警察とか自衛隊とか、とにかくそういった組織の人だと思っていた。もしくは新しく組織が作られることも考えていた。映画の見過ぎかもしれないけど。


 ……ダンジョンに一般人を入れるとか、あっていいのか?


「探索者かぁ。なんか強くなれるらしいし、兄ちゃんもいるし、唯も目指してみちゃったり?」

「絶対駄目だ」


 反射的に強い口調が口を突いて出る。

 唯愛も冗談のつもりだったのか、「やっぱやーめた」と肩を竦めた。


「でも明日の学校がちょっと楽しみかも。みんな絶対この話するよね。男子とか絶対『俺も探索者になる!』とか騒ぎそうだし」

「……そりゃ騒ぐだろうな。それがなんで楽しみなんだ?」

「え? うちの兄ちゃんはもう探索者なんだよ、て悦に浸れるじゃん」


 ……それでいいのか妹よ。


 少しでも自慢できる兄になれていることはちょっと、いや正直かなり嬉しいけど、俺は唯愛の将来が心配になってきたよ。


「俺がダンジョンに潜ってることは、誰にも言っちゃ駄目だぞ」

「わかってるよそれくらい。だから内心ちょっと優越感持つだけでいいの」


 それなら別にいい……のか?


 なんだか更に心配になりそうなことを言われた気がするけど、今は言うまい。後で母さんにでも相談しよう。

 

 ……けど、実際そうなるよな。いや唯愛のことじゃなくて。


 行方不明者もほぼ全員身元が判明している。世間の自粛ムードも薄れてきたのか、ネットを中心にダンジョン情報が続々と表に出てきている。レベルアップすらもはや周知の事実だ。

 

 この状況で一般人募集などすれば、色々なところが騒ぎ立てるのは目に見えている。それこそ唯愛の小学校どころか、俺の高校でも『探索者になる』とか言う奴が出てきてもおかしくない。


 ……なんかめんどくさくなりそうだな。


 俺がそう疲れたようにため息を吐くと、スマホが震えた。

 送信元は朱音。メッセージだった。


『今すぐ拠点に来れますか?』


 俺は朝食を手早く片付け、急ぎ家を出た。






 拠点に着くと、既に朱音と雪村さんが俺を待っていた。


 朱音に整備を任せたせいか、拠点も凄まじく様変わりしている。一月前はパイプ椅子が三つしかなかったのに、今ではソファ、大きなテーブル、冷蔵庫、テレビ等、家具や家電まで揃っていた。ダンジョンらしいものといえば朱音特注の武器ロッカーに、A1サイズ並みの二層地図が壁に貼られているくらいだろうか。


 あと、内装が全体的に薄暗い。どこの秘密結社だよ。


「なんか、マジで秘密基地染みてきたよな……」

「なにか言いました?」


 朱音が『本部長』と丸文字で書かれた机に座りながら言ってくる。俺は黙って首を振った。

 パーティリーダーは俺でも本部長は朱音らしい。別にいいけど。


 俺がソファに座ると、雪村さんがいつものようにホットコーヒーを淹れてくれた。毎度のことだけど、この本職のメイドさんらしさは未だに慣れない。


 俺がコーヒーに口を付けるのを待ってから、朱音が口を開いた。


「先輩、朝のニュース見ました?」

「見た。驚いたな」

「ええ、探索者制度の発足に第一期探索者募集。私も綾と一緒に見てコーヒー吹きましたよ。先輩は?」

「……雪村さんはどうでした?」


 華麗なスルーパスを決めると、雪村さんは平然と「特には」と答えた。さすが大人の女性だ。

 朱音が訝しむように半目で見てくるのを無視して、俺は言った。


「それで、わざわざ呼び出してどうした。午後からじゃ遅いのか?」

「遅いですね。その件で私なりに色々推測してみたので、ちょっと聞いて下さい」


 そう言って、朱音は手ずからホワイトボードを持ってくる。

 『ダンジョン=民間企業参入』と、女の子らしい丸文字で書いていた。


「昨日、あの長官から話があると言われたでしょう? 何となく嫌な予感がしたので、パパに思い当たることがないか聞いてみたんです。そしたらこれ」

「……もう参入してるだろ?」


 朱音ん家の九重グループだって民間企業のはずだが、もうダンジョン関連の研究に関わっている。その他にも大企業がいくつか入っていると聞くし、今更だろう。それがどうして探索者制度と関わってくるのだろうか。


 そう思って言ったら、どうやら別の意味があったらしい。

 朱音がゆっくりと首を振った。


「ある意味ではそうですが、少し違いますね。うちも含めてですけど、今は政府から依頼された仕事を請け負っているだけです。企業が自分達の利益のために動けているわけではありません」

「……つまり?」

「自分達だけで好き勝手に動くためには、自前でダンジョン物資を集める必要があります。ですが、今の制度ではそもそも誰もダンジョンに入れない。だから、そのための探索者制度ということですよ」


 そう言って、朱音がホワイトボードに更に文字を書き足した。


 『ダンジョン=民間企業参入→探索者制度→探索者雇用』。


「……そうか。こうして見ると、確かに探索者制度が必要に見えるな」

「ええ。企業を参入させるなら、まずはダンジョンに潜れる人を作らなければなりませんからね。本格的にダンジョン関連を事業にするつもりなら、こうした制度は必須だと思いますよ」

「なんか資格みたいだな」

「まさにそうです。先輩冴えてますね」


 ……なんか、朱音にはあまり言われたくない言葉だな。


 けど、ここは素直に受け取っておこうか。


「多分ですけど、政府はダンジョン物資の収集や研究を民間企業に担わせたいんだと思います。公共事業から民間事業に移行するようなものでしょうか。いつまでも政府主導では限界がありますからね」

「政府だけだと、お金や人手も足りないってことか」

「はい、きっと」


 ……まぁ、俺たちだけで全ての物資を賄えるわけがないからな。


 ただ、制度を聞く限りだと『探索者登録』は政府が主導しているように思える。朱音が言ったことが正しいとして、まだそこまで話は進められていないのかもしれない。とりあえずは半官半民というやつだろうか。電気や水道みたいな。ちょっと違うか。


「それにしても、向こうも思い切ったことをしてきましたよね」


 そう言って、朱音が呆れたように口を開いた。


「既に海外での前例があるとはいえ、こういったのはもう少し先だと思ってました。少なくとも制度の発足と募集は時期をずらすと。あの長官の暴走でしょうか」


 ……暴走って。


「その言い方だと、朱音はこうなることが分かってたみたいだな」

「当然でしょう。ダンジョンは未知の物質の宝庫です。魔石一つとってもその価値は計り知れません。いずれこうなることは目に見えていました」


 その辺りのことはよくわからないが、どうやらそういうことらしい。そういえば前に魔石一つで発電機が十倍の効率になるとか言ってたし、世間的にはそれこそダンジョンが宝箱みたいに見えているのかもしれない。

 

 ……だけど、それでも普通の人が潜るのはどうなのよ。


 不安が顔に出ていたのか、朱音が軽く嘆息した。


「先輩、余計な心配は要りませんよ。自分の意思でダンジョンに潜るのですから、何があろうと自己責任です。先輩が思い悩む必要は一ミリもありません」

「いや、でもな。俺だって辛かったし、朱音と雪村さんも辛かったろ? それを自己責任の一言で片付けるのはちょっと……」

「辛かったって。私達と新たに潜る人、まぁ一期生と呼びますけど、私達と一期生じゃ前提が違いますよ」


 朱音は指を立てて、一つ一つ折っていく。


「一期生は事前情報がある上に、聞けば自衛隊から専用の訓練を受けるそうじゃないですか。それに比べて私たちはどうです? 突然放り込まれた上に、装備ゼロ、情報ゼロ、先輩に至っては仲間ゼロ。これでどうして同じ物差しで測れますか。はっきり言って羨ましいですよ。私達の時とは比較にもならないほど安全です」


 ……確かにそうかもしれない。


 俺は何も持っていなかった。もはや丸腰……いやダンジョンからすれば全裸と言ってもいいほど無防備だった気がする。それに比べてこれから潜る人たちはあまりにも恵まれていた。


 そう考えると、朱音の言う通り羨ましくすら思えてきたな。


「それなら確かに、まぁ大丈夫か」

「分かってもらえたようで何よりです」


 朱音がにっこり笑うと、壁掛けの時計に目を向ける。


「もう時間がありませんね。方針だけでも決めましょう」


 そう言って、朱音は真面目な顔で俺を見てきた。


「あの長官は、政府の正式発表前に私達に話を持ち掛けようとしていました。もちろん別件の可能性もありますが、十中八九それ絡みだと思います」

「まぁ、そうかもな。聞いてみないと分からないけど」

「ええ、わかりません。なので方針も簡単に伝えますが、何を言われても安請け合いはしないでほしいんです」

「安請け合い?」

「はい。さっき言った民間企業参入の話ですが、それもまだ決定ではありません。いつ頃正式にうちがダンジョンに関われるか分からない以上、先輩には安易に返事をしてほしくないんです。例えば……政府専属になってほしいとか」


 朱音の切羽詰まった顔は珍しい。

 その顔に触発された訳じゃないが、少し自分でも考えてみる。


 今はまだどこまで民間企業が参入――つまりいつ企業が探索者を雇えるようになるのかは分からないが、探索者制度が正式に発足されれば時間の問題だろう。その中にあって、今のところ俺達がどう扱われるのか全く不明だ。


 しかし、朱音は自分ん家がダンジョン関連を扱っているせいか、こういった話題には人一倍食いつき方が違う。雑草一つ持ち帰るのにも真壁さんの許可を必要としていたし、できれば自分で取った物資くらいは自分のところに持ち帰りたいだろう。内心、渡りに船だと思っていても不思議じゃない。


 そこで、ピンときた。


「なるほど。つまり、朱音は俺に手伝ってほしいわけか」

「……はい。その通りです」


 図星を刺されたのか、朱音が苦笑した。


「先輩の言う通り、これはうちが大々的に関われる絶好の機会です。逃す手はありませんし、先輩には是非私達の側でいてほしいと思っています」

「……事情は分かったけど、素直にお願いされた方がいいな」

「お願いですか?」


 少なくとも、変に誘導されるよりずっといい。

 そう思っていたら、朱音がきょとんと首を傾げた。

 そして、いかにもわざとらしい上目遣いで俺を見る。


「先輩、お願いっ。手伝って?」

「……まぁいいけど」

「やった」


 釈然としないが、ちゃんとお願いされた以上は仕方がない。

 そもそも同じパーティだし、俺の方が朱音に色々頼っている部分が多いからな。


 ……まぁ、まだ真壁さんに何を言われるのか分かってないけれど。





 午後になったので、俺たちは昼食を食べてから真壁さんの元へ向かった。


 拠点用に共同購入した黒いミニバンに乗り込み、雪村さんの運転でダンジョンへと続くゲートを潜る。案内されるままいつもの応接室へと入ると、既に真壁さんが中で椅子に座っていた。


 軽い挨拶を交わして、早速本題へと移る。

 本題は――やはり『探索者制度』に関わる内容だった。


「第一期探索者だが、およそ百名ほど採用することになるだろう」


 だが、朱音の予想とは違って俺たちのことはまったく話に上がらなかった。


 それどころか、真壁さんから朝のニュースの内容を繰り返しのように聞かされる。ちょっと変わったことと言えば、『探索者は成人済みの者のみとする』とか、『災害時の協力要請への応諾義務』を課すとか、そういった細かい細目を見せられたくらいだろうか。


 探索者は常に『探索者証』を携帯し、毎年必ず更新制。いくつかある禁止事項を破れば一発で資格停止らしい。人道に悖る行為は絶対禁止、国外に資源を持ちだしたら駄目、とか目が回るほど書かれている。


 俺としてはゲームの説明を聞いているみたいでちょっと楽しかったが、どうやら朱音は違う感想を抱いたらしい。


 朱音は机に身を乗り出す勢いで、焦れたように口を開いた。


「それで、私達はどういう扱いになるのでしょうか」

「ふむ、というと?」

「これは第一期探索者の話ですよね。私達にはあまり関係ないかと。それとも、私達にも探索者証を発行するという話でしょうか」


 朱音の少し踏み込んだ問いに、真壁さんが面白そうに眉を上げた。


「君達は未成年だ。雪村君がいるとはいえ、正式な探索者証は発行できない。これまで通り政府の管轄下でダンジョンに潜ってもらおうと思っている」

「……ということは、これまで通りダンジョン資源も回収されると?」


 朱音が気圧されたように呟くと、真壁さんがふっと笑った。


「そこは条件次第だな。察するに君は九重グループという立場で話をしたいのだろう。だが、探索者証を発行できない以上、第一期探索者と同じ扱いにはできない」


 そう断言されて、朱音が悔しそうに唸る。

 しかし諦めもついたのか、軽くその場で嘆息した。


「わかりました。では、また後日うちの代表を連れてきます」

「ああ、そうするといい。その話は企業と政府で詰めるべき話だ。君はまだ若いのだからね」


 真壁さんのその言葉で、どうやら話は終わったみたいだ。

 なんだかよく分からないけど、難しいことは勝手にやってほしい。


「さて。最後に一つ、君達に頼みがある」


 そう前置きして、真壁さんは言った。


「三週間後、第一期探索者の試験を実施する予定だ。君達には是非、その試験に立ち会い、率直な意見を聞かせてほしい」


 俺達は思わず顔を見合わせて、それくらいならと頷いた。

 どうやら相談したいこととはこれだったらしい。

 

 ……気負って損した。




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