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現代ダンジョン黎明期  作者: つくしー
第一部 どこにでもいる高校生
18/38

第16話 それぞれの役割


 新宿ダンジョン第一層。


 洞窟がアリの巣のように複雑に入り組む階層で、下に降りるほどゴブリンが知的に、狡猾になっていく階層だと認識している。あとは芋虫が結構おいしい以外に特筆するようなことはないだろう。


 だが、ダンジョンに入った瞬間、俺は得も言われぬ感覚になった。


 ……ああ、本当に久しぶりだ。


 青白い光を放つ苔も、それに群がる芋虫も、全てが懐かしい。

 帰ってきた。

 また来たではなく、俺は自然とそう思った。

 

「ついに来ましたね、ダンジョンに」


 朱音がやる気に満ちた声で言った。

 俺が懐かしさを感じる横で、朱音と雪村さんは早速警戒を始めているらしい。とはいえどちらも緊張している様子はなく、いたって冷静に周囲を見回している。

 懐かしさを覚えてほしいとまでは言わないが、感覚を共有できないのはちょっと寂しい。


「あ、見てください。自衛隊がいた痕跡がありますよ」

「……本当だ。明らかに人工物だな」


 朱音が示した先には、確かに自衛隊の痕跡らしきものがあった。


 固定されたLED照明。そこから伸びる電源ケーブル。足元には白いスプレーで進行方向を示す矢印まで描かれている。ここまでやるのは、もう自衛隊の仕業と考えて間違いない。


 ……なんだろう。言っていいかな。


 せっかくダンジョンに帰ってきたのに、色々台無しだよ。


「……ケーブル、引き千切られてますね」

「なに?」


 朱音のその言葉に、俺も我に返った。

 愚痴を言ってる場合ではなく、すぐに俺も観察に移る。

 朱音の言った通り、ケーブルが力任せに引き千切られていた。


「ゴブリンの仕業でしょうか。感電しましたかね?」

「……感電してるところ、ちょっと見てみたかったな」

「笑わせるような想像させないでください」


 朱音から先に言ったんだろ。


「それにしても、ダンジョンの入口はここで固定でしょうか。私の推測ではランダムだと思ってたんですけど。ねぇ綾?」

「そうですね。遭難者がそれぞれ別れてダンジョンにいたことを思えば、それが自然かと。自衛隊の痕跡がすぐ見つかったのは、それだけ捜索を繰り返した結果でしょう」

「そうだよね、ズルを嫌うダンジョンならランダムスタートでも違和感ないし。先輩はどう思います?」

「さぁ。次潜った時に分かるだろ」

「先輩、たまには頭使わないと力しかステータス伸びませんよ」


 十分だろ。俺はそのお陰で生き残ったんだし。

 後で分かることを考えても仕方ない。今はこっちの方が重要だ。


「それより、俺はケーブルの長さが足りないことの方が気になるな。反対側も引き千切られてる。ゴブリンが持ち帰ったと考えるのが自然だ」

「それがどうしました? 何か問題でも?」

「一層のゴブリンにも道具を扱う知恵がある。ケーブルはどうでもいいけど、武器や道具を自衛隊が落としていたら厄介だろ」


 朱音と雪村さんが目を瞠った。


「……確かにそうですね。弾が込められたライフルとか拾っていたら最悪です」

「ライフルを扱うゴブリン……あまり考えたくありませんね」


 ライフルはともかく、自衛隊員は色々便利な物を持ち込んだはず。

 俺がいた時は石斧、石ナイフ程度しか持たなかったが、今は何を使われるか分かったものではない。

 その可能性を考えて、俺はそっと息を吐いた。


「自衛隊がゴブリン相手に死者を出したとは聞いてないし、まだそう大したものは落としてないかもしれない。けど、少し警戒を強めようか」

「そうですね。一層だからと舐めないようにしましょう」

「ご安心ください。いざという時は私が盾になります」


 いや雪村さんを盾にするつもりはないけど。

 この人結構危ないこと言うな。

 

「よし。話はこれくらいにして、そろそろ動くか。どうしましょうか、雪村さん。指示に従います」


 とりあえず、年長者の雪村さんに従うべきだろう。

 そう思って聞いたのだが、雪村さんはゆっくりと首を振った。


「私に敬語は不要です、三橋様。それと私は確かに現場責任者ではありますが、指揮者ではありません。いざという時に責任を負うのが役目です」

「……つまり、どういうことですか?」

「お嬢様の判断を優先します」

「あ、私は先輩の指示に従いますよ」


 すかさず朱音がそう言ってくる。

 勘弁してくれ。

 

「つまり、俺がリーダーということですか? あの、向いてないので任せたいんですけど。オンゲーでもギルドは平隊員として頑張るのが好きだし……」

「私と真逆ですね。私は真っ先にギルドを立ち上げる派です」

「なら代わりにやってくれ」


 そう本気で言うと、朱音が困ったように苦笑した。


「今はゲームではなく現実なので、流石に身の程を弁えますよ。先輩以上に相応しい人はいないので諦めてください」

「いや、ほんとに向いてないんだって。そういうの一回もやったことない」

「大丈夫ですよ。一回もやったことないなら向いてる可能性もあるじゃないですか」


 何を根拠に言ってるんだ。


「それに私達も命が掛かってるので、意見くらい言います。先輩一人に全てを任せるわけではないので安心してください。だからそう気負わずに。綾もそう思うよね?」

「はい。三橋様は先達ですので、お任せするに足る方かと」

「……分かったよ」


 押し切られた形だが、俺は渋々頷いた。

 でも本当に嫌だな。責任重大だし、もっと気楽な立場でいたい。

 けど、俺が気楽な立場になるということは、雪村さんか朱音のどっちかが皆の命を背負うということになる。

 雪村さんはただでさえ責任者だし、朱音はまだ中学生だ。


 ……俺しかいないか。

 

「……じゃあ、先に進もう」


 諦めにも似た俺の言葉に、二人は同時に頷いた。


 しかし、この後はどうすればいいのだろうか。

 リーダーを請け負ったはいいものの、方針らしい方針が考え付かない。一人の時はどうしてたっけ。


 ……とはいえ一層だしな。危険はあるけど、焦るほどでもない。


 そもそも魔石集めと行方不明者の捜索が仕事だし、そう張り切っても仕方ない気がする。いや、魔石集めじゃなくてダンジョン物資だったか。

 ということは、洞窟に生えている雑草だって持ち帰った方がいいのかもしれない。


「……あの、先輩。なぜ急にそんな奇行を?」


 雑草をむしり取る俺を見て、朱音が失礼なことを言ってきた。

 笑っているが、目は笑ってない。怖いよ。


「俺達の仕事はダンジョン物資を持ち帰ることだろ。これだってダンジョン物資だ」

「いえ雑草ですよ。何言ってるんですか」


 もしかして知らないのだろうか。

 その可能性の方が高い気がする。俺が知った時も偶然だし。


「こいつは天然の治療薬だぞ。ゴブリンが使ってたから間違いない」

「マジですか!?」

「マジだ。朱音も知らなかったなら、自衛隊も雑草だと思って放置してるかもしれないな。持ち帰る価値はありそうだ」

「全然あります。普通の人なら雑草としか思いませんよ。持ち帰ろうなんて考えないでしょうし、まだ研究もされてないかもしれませんね」


 ……遠回しに俺が普通じゃないと言われた気がしたんだけど。


 特に他意はなかったのか、朱音が素で嬉しそうな声を上げた。


「それにしてもよくそんなこと分かりましたね。さすが先輩です」

「いや、俺もたまたまだ。拠点を奪うために、ゴブリンに重傷を負わせて帰らせてたからな。その時に知った」

「へ、へぇ……」


 朱音が愛想笑いを浮かべている。軽く引いていた。

 効率が良かったのだから仕方ないじゃないか。


「と、とにかく、これは収穫ですね。研究次第ですが大きな成果を得られるかも。先輩、この雑草の扱いですが、私に任せてもらってもいいですか?」

「いいけど、どっちにしろダンジョンで得たものは全部提出する必要があるぞ」

「そのくらい話し方次第で何とでもなりますよ。大丈夫、悪いようにはしません。どのみちその辺に生えてますし、自衛隊が気付けばいくらでも採取できます」


 朱音が悪い笑みを浮かべている、気がする。

 よくわからないが、程々にしてほしい。


「効果はどれほどなのでしょう。先輩は使ったことありますか?」

「俺は結局使わなかったな。一層ボスと戦うまで大した怪我もしなかったし、ボスから受けた怪我もリジェネで治ったから」

「リジェネ?」


 首を傾げる朱音に、俺はリュックからナイフを取り出した。

 指先を少し切って見せると、朱音が「うわ」と慌てて声を上げる。


「こんなところで何して――へ?」


 俺の切り傷は、瞬きの間に完治している。


「……マジック?」

「リジェネだ。リジェネレーション。俺のスキル」

「すごい! 貸してください!」


 朱音は返事を待たず、俺の手からナイフをひったくるように奪うと、俺と同じように指の腹を少し切った。そして「うーん!」と唸りながら力を込めている。


 ……何してんだ?


「駄目みたいです、私にはできませんね。綾もやってみる?」

「いえ、私は結構です。それよりお嬢様、水で洗ってください」


 朱音は傷付いた指をおしゃぶりみたいに咥えている。

 雪村さんは呆れたように小さく息を吐くと、水筒の水でその指を洗ってやった。

 主従というより姉妹みたいだな。


「スキル、リジェネですか。どうやって覚えたんですか?」

「どうって言われてもな。死ぬかと思うくらい痛かったから、文字通り死ぬほど願ったとしか言えないよ」

「強い願いで覚えられるのでしょうか。それとも他に条件が? 何にせよ羨ましいです。私達はスキルゼロですよ、もちろん魔法も覚えていません」

「俺だって魔法はゼロだよ。魔力も一桁だし」

「それは何となく察してます」


 なんで?


 それにしても二人のスキルはゼロか。

 俺はレベル3でスキルを覚えた。二人はレベル4なのだから、俺と同じく一つくらい何かを覚えていてもおかしくない気がする。朱音の言う通り何か条件があるのだろうか。


 ……あ。そういえば二人のこと何も知らないな。


 趣味とか好きなものとかそういうのではない。ちょっと興味あるけど今は違う。

 今は互いの実力を把握するべきだろう。

 逆にいえば、二人も俺がどれだけ動けるのかを知らない。


「……それは不味いな。よし決めた」

「なんです? 何を決めたんですか?」


 きょとんと首を傾げる朱音に、俺は言った。


「一層は交代でゴブリンを倒そうか。お互いを知るためにな」


 どんな戦い方をして、何ができるのか。

 それすら知らないと、いざという時に背中も預けられない。





「――はっ!」

 

 朱音の大弓から放たれた矢が、ゴブリンの眉間に命中した。

 ギャ、という鳴き声を残して一匹倒れる。朱音はすぐに第二射を放った。


 俺は弓を一度も使ったことがないから分からないけど、見事な腕前なのは分かる。戦闘中に狙いを定めて弓を引くのだから集中力も相当だろう。少なくとも俺にできる芸当ではない。


 その戦闘を見守りながら、俺は朱音のステータスを脳裏に思い浮かべた。

 

【名前】 九重朱音

【レベル】 4

【ジョブ】 無し

【種族】 人間

【称号】 無し

【MP】 16

【力】 22

【敏捷】 18

【器用】 23

【精神】 15

【魔力】 10

【スキル】

【魔法】


 俺の【力】のように特筆して高いステータスは無いが、力と器用がよく伸びている。他も満遍なく高いと言っていい。特に器用さは戦闘を見れば一目瞭然だ。

 

「っ!」


 以降も朱音は迷いなく弓を構え、放つたびにゴブリンを射抜いていく。

 派手さは無いけど、確実に数を減らしていた。

 一層は下に降りるほどゴブリンの数も増えていく。しかも隠れたり隙をついてきたり狡猾になるのが奴らの特徴だ。

 それを百発百中。凄まじい。


 とはいえ、俺は弓の腕前も器用さも正直気にしていない。技術やステータスは後からどうにでもなる、とまでは思わないけど、あまり大切だとは思えなかった。


 それより目を引くのは、朱音が十メートル圏内に一度もゴブリンを近づけていないこと。

 狙っているのは一番近い奴ではなく、一番先に間合いへ入りそうな奴を優先して射抜いている。

 接近役が落ちるたび、後続のゴブリンは足並みを乱されていた。

 だから奴らの足は自然と止まっていた。

 朱音に止められている、と言った方が正しいかもしれない。


 ……空間認識能力が高いのだろうか。


 戦場全体を把握している。鷹の目というやつかもしれない。

 実に後衛向きで、頼りになる。


「ラスト!」


 最後のゴブリンが倒れ、都合七匹目。

 朱音の戦闘が終わった。





 次に雪村さんだが、ステータスはこうだった。


【名前】 雪村綾

【レベル】 4

【ジョブ】 無し

【種族】 人間

【称号】 無し

【MP】 14

【力】 12

【敏捷】 30

【器用】 18

【精神】 14

【魔力】 9

【スキル】

【魔法】


 見てわかる通り、敏捷が特筆して高い。

 その数値の伸び率は俺の【力】に迫るものがある。というか全く同じだった。

 このステータスを先に見たあと、そして武器を何も持っていなかったことから、俺は雪村さんがどう戦うのか興味津々だった。

 だというのに、雪村さんは戦わなかったのだ。

 いや、違う。言い方が悪かった。

 戦うというか、暗殺していた。


「……」


 ゴブリンが俺達に気付くより早く懐へ潜り込み、首筋へナイフを滑らせる。悲鳴すら上げさせずに絶命させていた。

 どうやらナイフを太ももに付けたホルダーに隠していたらしい。

 暗器メイドだ。本物の暗器メイドだ。俺はちょっと感動した。

 

「……先輩。私の時より明らかにテンション高いですね」

「黙ってろ。暗殺中だぞ」

「は? ああ、はい」


 朱音の不機嫌そうな声を聞き流し、俺は雪村さんに集中した。

 メイド服という誰が見ても目を引く格好だというのに、暗殺という手段を取るのがもう評価高い。いやいや真面目にやろう。

 

 雪村さんは一匹目を仕留めると、すぐに二匹目に取り掛かった。

 隠れ、襲い、また隠れる。

 それを都合三度繰り返し、全て一撃で仕留めている。

 急所を狙う技術や敵に気付かれない動き方もすごいけど、俺はもっと別のことが気に掛かった。

 

 ……もしかして、俺と同じくらい聞こえてる?


 俺は一層をレベル3で後にしたが、最後まで隠れるゴブリンを見つけることができなかった。場当たり的に対処するしかできなかったとも言える。

 今はもうゴブリンの位置など手に取るように分かるが、雪村さんも俺と同じように把握している気がした。

 

 ……俺はレベル10で、雪村さんはまだ4だぞ。


 しかし、流石に俺と同じくらい聞こえているわけではなかったようで、最後の一匹だけは見逃した。それでも見つかった後は危なげなく始末している。

 十分だ。この索敵能力は頼りになる。


 その後も何度か戦闘を繰り返し、互いの認識を深めていった。

 俺が近接。朱音が後衛。雪村さんが索敵兼遊撃になる。

 総評すると、バランスの取れたパーティになりそうだ。

 一点突破の破壊力は無いけど、どんな場面でも対処できるだろう。

 俺は一つ頷き、二人に言った。


「二人とも強いな。正直思ってた以上だった」


 そう素直に褒めると、二人はお互いに顔を見合わせ、苦笑した。


「……なんか変なこと言ったか?」

「いいえ、特に。ねぇ綾?」

「はい。何もおかしなことはございませんよ」


 ……なんだよ。お前が言うなって意味か?


 別にいいだろ褒めるくらい。思ったことくらい言わせてくれよ。

 雪村さんまで温かい微笑みを浮かべていて、何だか少し居心地が悪かった。


 さて。


 交互に戦闘を繰り返しながら進んだお陰か、それともスタート地点が近かったのか。朱音のリュックが魔石で一杯になる頃には、見覚えのある洞窟が見えてきた。


 ……ホブゴブリン。一層ボスの根城である。


「懐かしいな。俺の時は寝込みを襲ったけど、そっちは?」

「私達は出てくるゴブリンを順番に殺しましたよ。かなり時間を掛けました」

「順番に? ホブゴブリンも外に出てくるだろ?」

「ホブ? ああ、それいいですね。今度からそう呼びましょうか」


 朱音が納得したように頷いて、雪村さんが口を開いた。


「三橋様。私達は本当に時間を掛けたのです。三回に一回ほどは、配下のゴブリンだけで外に出ることもありましたので」

「なるほど。それだけ待てるなら確かに有効な作戦ですね」


 俺はそこまで待てずに襲ったが、二人でいればその分取れる作戦も増えてくる。単純に人手が増えるだけでも有難い。

 今は三人もいるからもっと楽な作戦がとれるけど……。


「今回は別にいいよな?」

「……はい。先輩にお任せします」

「いざという時は私を置いてお逃げください」


 またそういうこと言う。

 俺は苦笑しながら、少しでも安心させるように言った。


「俺一人でも何とかできる相手です。今回は三人で戦う練習だと思ってください」

「油断は禁物です、三橋様。殺し合いである以上、何が起きても不思議ではありません」

「そうですね。なのでしっかり気合を入れましょう」

「気合、ですか」


 あまりピンと来ないのか、雪村さんが小さく呟いた。

 そう難しく考える必要はない。


「大丈夫です。油断をせずに自分のできることをしっかりやる。それができれば、負ける理由はない相手ですから」


 普通に準備して、普通に勝つ。

 それだけだ。


「今回は先輩もいますからね。大丈夫だよ、綾」

「……そうですね。少し気負っていたようです」


 雪村さんから緊張が抜けたのを確認して、俺はホブゴブリンの根城へ視線を向けた。

 初めて潜った時はいつ死ぬか分からないサバイバルだったし、ここに来るまでに一ヶ月近くも掛けていた。

 ホブゴブリンを殺すと決めた時も、思えば心のどこかで死ぬ覚悟をしていた気もする。


 ……いや、してたっけか。殺す気満々だったような。


 まぁいい。今は違う。


「行こうか」


 俺の言葉に、二人が同時に頷いた。


 根城には、ホブゴブリンを中心に配下のゴブリン達が揃っていた。

 ホブゴブリンがいなくてせっかく固めた気合が空回りになる、なんてことにならず安心した。 

 ホブゴブリンは俺達の姿を見るなり、顔を真っ赤にして口を開く。


「ゴギャアアアアアッ!」


 号令一下。

 ゴブリン共が四方八方から押し寄せてくる。

 俺も腹の底から咆哮した。


「ぉぉぉぉおおおおおーーーーッ!」

「ギャ!?」


 洞窟の空気が震えた。

 俺達三人への警戒が、一瞬で俺一人に向けられる。

 俺は大斧を構え、全力で正面から迎え撃った。


「右!」

「はい!」


 俺の指示と同時に矢が走る。俺の死角へ回り込もうとしていたゴブリンが、一匹、また一匹と倒れていく。

 正面から迫るゴブリンだけに集中できる。

 それだけで随分と戦いやすかった。


「……」


 雪村さんは姿が見えない。

 気付けばゴブリンが一匹減っている。

 また一匹減っている。

 俺が相手をしていない奴から順番に消えていく。


 ……いやどこにいるの?


「ギャッ!?」


 俺は大斧を振り抜いた。

 骨が砕ける感触と共に、一匹が吹き飛ぶ。

 返す勢いで横薙ぎに振るい、二匹目を叩き潰した。


 あっという間だった。

 配下のゴブリンは瞬く間に倒れていき、気付けば立っているのは俺達三人と――ホブゴブリンだけだった。


「先輩、私達にやらせてください。少しでも経験値を稼ぎたいので」

「ああ。頼んだ」


 ホブゴブリンがこん棒を握り締め、低く唸る。


「ゴギャアッ!」


 踏み込みは速い。

 けれど、もう俺には遅く見えた。


「……ッ!」


 朱音の矢がホブゴブリンの肩へ突き刺さる。

 怯んだ隙を逃さず、雪村さんが死角へ回り込んだ。

 首筋を狙った一閃。

 しかし、ホブゴブリンは咄嗟に身を捻り、致命傷だけは避けた。


「ギャアアッ!」


 怒り狂ったようにこん棒を振り回す。

 その一撃を雪村さんは紙一重で躱し、大きく距離を取った。


「やっぱりボスだけありますね!」


 朱音は叫びながら次々と矢を放つ。

 腕。

 足。

 腹。

 急所ではない。

 それでも確実にホブゴブリンの動きを鈍らせていく。


「綾!」

「はい」


 短いやり取りだけで十分だった。

 雪村さんが正面へ姿を見せる。

 ホブゴブリンがこん棒を振り上げた瞬間、雪村さんが横へ飛んだ。

 雪村さんの動きで死角が生まれ、そこに矢が通る。

 今度こそ、ホブゴブリンの脳天を貫いていた。


「ゴ……ギャ……」


 巨体が大きく揺れ、そのまま崩れ落ちる。

 戦闘終了だった。


 ……十分だな。


 俺は二人のホブゴブリン戦を眺めて、そう判断した。




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