第15話 巡礼の理由
「王妃殿下、今回の突然の巡礼という行為の理由を、吐いていただきましょうか」
私は暗い馬車の中で、ベールを被った王妃殿下と向き合っています。
フェルアランも理由を知らないとなると、本人とその横にいる侍女しか知らないということです。
一応、予定というものは知らされています。どういうルートを通って、どこで泊まるのかなどは知っています。
ただ理由がわからないのです。
暗い王都内を馬車が通り抜け、見送る者もなく、どこかに逃げるかのように人目を避けているなどおかしなこと。
普通であれば、王都中から見送る者たちが駆けつけてもいいのです。
王妃殿下の巡礼。
それが御忍びする理由です。
「う……」
「キュレア様!」
突然キラキラエフェクトを袋に吐き出す王妃殿下。
いや、私は本物を吐けとは言っていません。
「本当に吐いたな」
私の肩にくっついているトラにゃんに、私が悪いという感じで言われてしまいました。
え? これ私が悪いのですか?
「王妃様を……キュレア様を王城から遠ざけるためです」
侍女の言葉に、私はこれも従兄妹殿の策略かと、ため息を吐く。
巡礼というのは建前で、本当の理由は王妃殿下を今いる環境から遠ざけるということですか。
「はぁ、一ヶ月ほどで何が変わると?」
巡礼の行程はかなり短縮されて往復一ヶ月にとなっている。本当であれば、巡礼地を巡る順序というのがある。
それをすっ飛ばして、隣国オステーラ聖王国の聖都への直行。そして帰還です。
一ヶ月という時間は、長いようで短いですよ従兄妹殿。
「少々騒ぎが起きて、収まるまでです」
「それで、騎士団団長殿と魔導師団の団長である私を排除した理由は何です?」
「排除とは決してそのようなことではなく、キュレア様の護衛をお頼みできるのはお二人のみだと、陛下が申しておりました」
「はぁ、御者をしている者が国王陛下の影であるのは?」
正確には従者であり、国王陛下の影武者をしているのです。
因みに私の弟と同じ三歳年下ですね。
「信用できる御者でございます」
侍女の言葉にため息しかでません。
簡単に言えば、王妃殿下はご懐妊されているということです。
ただ、これが初めてではなく三度目。
一度目と二度目の懐妊は流産という結果でした。
ただ流産した理由は不明なのです。従兄妹殿は周りの者たちの関与を疑っているようですね。
それで王妃殿下を王城から遠ざけて、何かしらをやろうとしているというのでしょう。
そして王妃殿下の護衛として、地位も名声もこれ以上望むことがないフェルアラン・ディロメルデと、地位も名声も興味がないリュクシオン・ヴァスディスをつけたということなのでしょう。
御者に自身の従者をつけ、身内で固めると言ったところですか。
従者のカインディールは見た目は影武者を務めるほど国王陛下に似ています。それも姿替えの魔法ということはバレバレです。
本人はバレていないと思っているようですが、だいたい魔法が雑なのですよ。
それにあの者の魔力は淀んでいて、好みではありません。いったいどこで拾ってきたのか。
「わかりました。護衛の仕事はいたします」
私はそう言って、王都から出て街道を走るのにスピードを上げた馬車の扉を中から開けました。
「ひっ!」
「きゃ!」
外から入ってくる風に驚く侍女と王妃殿下。
いつまでも魔導師団長が馬車の中にいるわけにはいかないでしょう。
そして、私は馬車の外に身を翻しました。
地面に付く前に、魔法で浮こうとしていたのに、何故か捕獲されています! まるで麦袋を小脇に抱えるようにです。
「フェルアラン。騎獣を召喚するから離せ」
離すように言っているのに、フェルアランの前に座るように移動されました。
「おい、護衛が一方に固まっていたら意味がないだろうが!」
フェルアランを見上げながら文句を言います。
いつも思いますが、この身長差に苛つきます。
「今はいない」
「はぁ、敵が今はいなくても、これはおかしいです」
敵意がある者が周りにいないからと言って、護衛任務をサボっていいものではありません。
まぁ、いいでしょう。
取り敢えず、後でしようと思っていた情報共有をしておきましょうか。
「今回の巡礼は、国王陛下の無能の結果でした。王妃殿下の身辺警護をすればいいということなので、シレッと王妃殿下に結界を張っておきました。だから、間違っても触れないでください」
「わかった」
フェルアランにはこう言っておけば、大丈夫でしょう。
さて、私は召喚獣に騎獣しようと手を掲げて召喚魔法の陣を描きます。
が、何故かその腕をフェルアランに下げられてしまいました。
え? 何ですか?
「あの者が陛下の側を離れている理由は?」
ああ、影武者のことですか。フードを被っているとはいえ、あの容姿は目立つのですよね。
「私なら、アレは囮で、王妃殿下も偽物という策を使うのですが、さて私は国王陛下のご意向など汲み取れませんよ」
王妃殿下は本物でした。ただ単に、信用がおけるものをつけたというだけと考えるのが普通です。
が、フェルアランも気になりますか。
「次の休憩時間に、しばいてみますか?」
「ああ」
「ほどほどにしておけよ」
トラにゃんの呆れた声が耳に入ってきたのでした。




