第14話 悪徳商人に根こそぎ持っていかれるパターンですね
デートはなくなりました。
私がボイコットする以前に、フェルアランから急用ができたという手紙が、メラにゃん経由で届いたのです。
「主よ。よかったな」
「よくない!」
デートがなくなったのはいいのです。
しかし、フェルアランが急用で断ってきた急用が、私の前にあるのです。
「そもそも団長というのは、組織を管理する立場であって、現場は部下を采配すべきです。これは却下です」
私は急用を持ってきた官吏に突き返します。
そもそも、それであれば、一ヶ月前ぐらいには言っておいてください。
「しかし今回の王妃殿下の巡礼は数日前に決まりまして、国王陛下から魔導師団長の同行をと」
「そこがおかしいのです。見た目だけはいい近衛騎士を連れていけばいいだけの話です。私が行く必要は全くありません。強いていうのであれば、護衛専門の第三部隊をこちらから出します。それで手を打ちましょう」
何のために近衛騎士という者たちが存在しているのです。王族の護衛をしなくていいのであれば、存在そのものを抹消してもいいのではないのですか?
剣術もそこそこ、魔法もそこそこ、見た目だけはいい者たちなど、他にどこで役に立つのですか?
「団長、国王陛下からの勅命ですよ。それはサインして渡すだけで、つき返すものではないですよ」
書記官が何か言っていますが、従兄妹殿の命令が何ですか! 私は今やりかけの研究のほうが重要なのです。
「魔導師団長、この度の巡礼は急遽決定されたため、行程も短縮しております。少人数での行動となると、魔導師団長直々に護衛をお願いしたいとのことです」
「では騎士団団長で大丈夫です。私がいなくても全く問題ありません」
「魔導師団長がおられなければ、騎士団団長殿だけでは困難を極めます」
……それは私は伝言係で必要だと言っています?
「騎士団の中でも団長殿と意思の疎通が取れるものがいるはずです。その者の同行でよろしいかと思われます」
すると官吏はため息を吐きながら、部屋を出ていきました。
ちょっと! 国王陛下のサインがされた紙などいりませんよ。持って帰ってください。
これは、あとで国王陛下の直行便に混ぜ込んでおきましょう。
さて、私は今日確認する書類を見終わったら、薬草畑に行って採取して、実験の続きをやるのですから!
さっさと書類を片付けるべく、目を通していると、魔法の気配を感じて視線を上げました。
床に転移の魔法陣が現れています。
いったい誰が執務室に転移などしてくるのですか?
「魔導師団長様」
「うさぴょん!」
魔法陣から現れた大きなピンクのうさぎに、執務机を飛び越えて抱きつきます。
「うさぴょん、どうしたのかな? 一緒に散歩する?」
「またですか。団長がダメ人間化するので、使い魔をよこさないで欲しいですね」
「まぁ、使い魔の使い方は間違ってはいるが、これは正解だろうな」
書記官とトラにゃんが何か言っていますが、私はうさぴょんのご機嫌伺いが最優先です。
「それとも何か食べる? 欲しいものがあるなら用意するよ」
「魔導師団長様、これにサインをして欲しいです」
「いいよ!」
私はうさぴょんの持つ紙にサインをする。ん?あれ?これさっき机の上にあった従兄妹殿のサインがされてある紙……。
「ありがとうございました。主様もお喜びになると思います」
そう言って再び転移で帰るうさぴょん。
え……サインしちゃったよ。
そんな何日もかかる仕事に行きたくないよ。
「これ悪徳商人に捕まると、団長の全財産を取られてしまうやつですね」
「いや、そうなる前に俺が止めるからな」
男前のことを言ってくれるトラにゃんだけど、なぜにさっきは止めてくれなかったの!
「トラにゃん、サインしちゃったよー! 何日も無駄な時間を過ごすなんて、なんて無意味」
「いや、魔導師団長としての仕事だからな」
窓際の定位置で寝そべっているトラにゃんに泣きつくのでした。
翌朝、王妃殿下の巡礼とかいう旅の同行につきあわされるため、王城に向かいました。
指定された場所は王城の裏門。
何故か人目を避けるように、朝日が昇る前の4時に集合という鬼畜具合。
なに? 朝4時って、まだ鳥も寝ているよ。
裏門には、王家の紋がついているものの、微妙に質素な馬車がありました。
そして、いつもは白い隊服か白銀の鎧ぐらいしか着ていないフェルアランが、汚れが目立たないようにか黒色の外套をまとって、馬型の騎獣を連れてきていました。
ちっ! なんだかお揃いみたいになっています。
目立たない服装という指定がありましたが、黒い魔導師のローブをダボッと着ているので、いつもと同じです。
「騎士団団長殿。おはようございます。長い仕事になりますが、よろしくお願いします」
「ああ」
いつも通りの感じで返事をするフェルアラン。
「フェルアラン殿は、今回の巡礼の理由をお聞きになっておいでですか?」
王妃殿下の突然の巡礼。それもお忍びのように護衛は、本当にフェルアランと私のみ。あとは馬車を操縦する御者がこの場にいるだけです。
集合時間にこの三人だけということは、何か理由があるはずなのです。
「いや」
フェルアランも聞いていないと。
トラにゃんにシレッと王妃殿下の周りをあのあと探ってもらったのです。しかし、巡礼の旅支度に忙しそうだったとしかわかりませんでした。
従兄妹殿に突撃したものの、うさぴょんと雑用係の弟が立ちはだかり、サインの撤回ができなかったのです。
結局なにもわからないまま、翌日の集合時間になってしまったのでした。
「リュクシオン。魔犬は好きか?」
「は? 突然なにの話をしているのです」
何ですか? どこから魔犬の話になったのですか?
道中で魔犬の群れが出るとか情報があるのですか?
「……いや」
何か考え込むように眉間に手を当てているフェルアラン。
その前に、前フリもなく魔犬の話をされて困っているのは私のほうなのですけど?




