第13話 妹の説得
「トラにゃん! ただいま! それから、私がいなくて寂しかったよね!」
カサランドラ伯爵邸に戻ってきた私は、母からトラにゃんを救出した。正確には、侍女長からトラにゃんを渡されました。
そのトラにゃんをぎゅうぎゅうに抱きしめる。
「苦しい!」
猫パンチをいただきました。
さっさとトラにゃんと共に宿舎へ帰ろうとしたところで、妹が立ちはだかってきます。
夕食は一緒に取りませんよ。今日のことを根掘り葉掘り聞かれても、もふもふしていたとしか答えられませんからね。
「お姉様、何故ディロメルデ公爵子息様では、駄目なのですか! お兄様が仕事の邪魔だと嘆いております」
ギルバートが妹のエレノーラに愚痴を言ったということですか。
言っておきますが、私はギルバートの仕事の邪魔は何一つしていません。
「エレノーラ、うさぴょんを散歩に誘ったりとか、牧草を献上したりとか、もふもふしたりとかはしましたけど、ギルバートの仕事の邪魔は何一つしていません! それよりも、ぴよちゃんはどこにいるのですか。来るならぴよちゃんと一緒に、来て欲しいわね」
エレノーラの使い魔の姿がないことが、とても残念でなりません。ぴよちゃん。
もふもふと違った柔らかさがいいのです。
「お姉様と話をするときは、ジェスがいないほうが話ができます。あと、ぴよちゃんではないですからね」
ぴよちゃんは、黄色い小鳥の使い魔です。ぴよぴよと鳴いていたので、ぴよちゃんなのですよ。
「お姉様の使い魔好きには、困ったものです」
十歳の妹に、困ったと言われる姉ですが、私は昔からメラにゃんと結婚すると決めているのでいいと思います。
「話が終わったようなので、私は帰るから」
トラにゃんを抱えたまま転移で戻ろうとすると、エレノーラがガシりと私を掴んできました。
何ですか?
「だから! 何故ディロメルデ公爵子息様では、駄目なのですか! 容姿端麗、英才抜群、そして次期公爵という地位! どれをとっても、非の打ちどころがないですよね! お姉様は、何が不満なのですか!」
これは、エレノーラがフェルアランの婚約者になりたいと!
それならそうと、早く言ってください。
「エレノーラ、フェルアランの婚約者になりたいのだったら……」
「そういうことを言っているのではありません」
被せて否定してきました。あれだけ褒めたのでしたら、好意があるということですよね。
しかしエレノーラの言うことは一理あるでしょう。
フェルアラン個人のことを知らなければ、騎士団団長であり、次期公爵という地位。それが結婚相手となれば、扇片手に何不自由なく暮らししていけるでしょうね。
ですが、私はそれでは困るのです。
「エレノーラ。魔導師団に所属している特権というものは、公爵夫人というものを天秤にかけることもなく、魅惑的なのです。私は死ぬまで魔法の研究をして、もふもふに囲まれて暮らしたいのです」
「お姉様の本音は最後の1行だけだと思いますけど?」
失礼ですね。もふもふは私の幸せなのです。
もふもふがあれば世界は平和だと思います。
「それに、お父様もお母様も、魔道師団長を辞めるようにとは言っていないと、おっしゃっていました。だったら、ディロメルデ公爵子息様と結婚してもよろしいのではないのですか?」
確かにそのように母は言っていましたが、そもそもそれがおかしいと思わないのですか?
はぁ、エレノーラは母から私を説得するようにと、言わされているのですね。
やはり、十歳の妹ではここの矛盾に気が付かないですよね。
私はほぼ容姿を変えていませんので、魔導師団長として、いろんなところに顔を出している現在。
公爵夫人として表に出た場合、絶対にバレバレだということです。
リュメリア・カサランドラ伯爵令嬢は社交界はおろか、国王陛下主催のパーティーにすらボイコットしている引きこもり令嬢です。
だから、バレないのです。
しかし、公爵夫人となればそうもいかないでしょう。
リュクシオン・ヴァスディスが、リュメリア・カサランドラだったとバレバレです。
男社会のいち組織のトップが女だとばれたら、いろんなところから、やっかみを言われ、団長を退いたあと魔導師団に在籍できなくなると予想できます。
団長を退いても組織の幹部として、残れないではないですか。
まだまだ研究したいことがたくさんありますのに!
まぁ、あとはフェルアランとの意思の疎通が困難というところですか。
今日のように、ぼーっとしている時間があるのなら、フェルアランのペースで話をしてもらってもいいですけどね。
ん?あれ?
そういえば、フェルアランにはバレていないですよね?
髪と目の色しか変えていませんのに?
「お姉様! 今度のお約束は絶対にお休みを取って、ディロメルデ公爵子息様とデートしてきてくださいませ!」
そう言い残して、エレノーラは去っていきました。
「主、次はデートだってよ」
トラにゃんの言葉に、私は駆け出します。
「お母様! デートはないです! どんな苦行ですか!」
エレノーラを追い越し、母の部屋に押しかけて行ったのでした。




