第11話 指令! 謝罪とお茶
「えっと……その……研究に没頭……してしまい、お約束を……忘れてしまい……申し訳ございませんでした?」
今回の母からの命令に、謝罪があったので、フェルアランに謝罪をしました。
ここは、中庭のガゼボです。
目の前には、お茶とお茶請けが置かれています。向かい側の席は空席……。
何故に、フェルアランが隣に座っているのですか!
「あの……何故にとなりに?」
普通は向かい側ですよねという意味を込めて尋ねてみます。
「……」
無言!
はぁ、どうでもいいですけど。
トラにゃんを解放するためには、会話と庭の散歩と残り時間一時間!
なんという無理難題!
そもそも会話とは何でしたか? から入っていいですかね。
言葉のキャッチボールが困難な時点で、難易度が跳ね上がっていると、母は知っているのでしょうか?
しかし、トラにゃんのためなら、これぐらい乗り越えてみせます。
「そのほうがいいと思いまして」
何の話ですか!
突然のフェルアランの言葉に困惑してしまいます。
ん? 私の隣に座っている理由ですか。
はぁ、そう言えばフェルアランと出会った頃は、このような感じでした。
私が回答を急くので、簡単に返答ができるように質問をするようになっていたのを思い出しました。
しかし、騎士と魔導師で組まされた任務のときに、悠長に返答を待っている時間などありませんからね。
もう少し、返答を早く返して欲しいものです。
「そうですか」
何がいいのかわかりませんが、適当に返しておきます。
そして、紅茶を飲み、出されているお菓子をもぐもぐし、綺麗に彩られた庭の上を雲が流れて行くのをぼーっと視界に収めます。
……フェルアランから食事に誘われているときと変わらないような気がしてきました。
そう、ハイツ亭のカウンター席でお酒を飲んでいる位置!
一度、フェルアランの右側に立ったときに凄く怒られたのです。それから左側にいるようになったので、必然的に席もフェルアランの左側に……。
確か、後衛が前に出るなとか、剣を持っているほうに立つなとか、あのときは凄く饒舌に喋っていましたね。
そのとき、怒られているというよりも、こいつ喋れるのかという驚きのほうが勝っていました。まぁ、昔のことです。
「カサランドラ伯爵令嬢は何の研究をされておられるのですか?」
「え? ……研究のことですか?」
ぼーっとしていたので、一瞬フェルアランから話しかけられたことに、驚いてしまいました。
「はい」
「そうですわね。最近だと……」
母から若返りの薬とかはないのかという、無茶振りをされた話でもいいのでしょうか?
流石に、魔導師団長の話はできませんのでね。
「お母様から、若返りの妙薬はないのかと言われましたので、それっぽいものを作って渡したら、味が悪いと返品されてしまいました」
「若返り!」
ん? 女性の声が聞こえてきたのは、気の所為でしょうか?
「仕方がないので、味はそこまでごまかせないため、匂いで誤魔化したものを弟に毒味をさせると、香水を入れたのかと怒られてしまって、頓挫しているところですね」
母が好みそうな、香りの強い紅茶を連想させるものを作ってみたのです。
私は飲みたくないので、弟が飲む紅茶とすり替えてみたのですが、一口飲んだところで口から液体が流れでていました。
私と同じで、飲み込み拒否反応がでたのでしょう。
その後、ものすごく怒られました。
「ねぇ? その若返りの妙薬とはどれほどの効果があるのかしら?」
すっとガゼボに入ってきた人影が、私の両手をとって隣に座っています。
この方は!
思わず席を立って、挨拶をしようとしたところで、横に引っ張られてしまいました。
「何故、母上がここにいるのです」
はい、私の隣に座っているのは、ディロメルデ公爵夫人です。金髪を高く結い、海のような深い青い瞳を細めている四十半ばの女性です。
で、何故に私はフェルアランの膝の上に抱えられているのですか! 意味がわからないのですけど!
「あらあらあら?」
目を細めて笑みを浮べるディロメルデ公爵夫人。
この状況、絶対におかしいと思われていますよね!
私もおかしいと思っていますから! しかしトラにゃんを使い魔質にされている私は、ノルマを達成できない状況を作るわけにもいかないのです。
「母を睨むぐらいなら、気の利いた話ぐらいしなさい。それでリュメリアちゃん?」
「はい!」
リュメリアちゃん呼びに、思ったより大きな声で返事をしてしまいました。
その様な呼び方をされたのは、子供のとき以来です。
「我が家の番犬たちと遊びたくないかしら?」
その言葉に私を抱えている手を振りほどいて、ディロメルデ公爵夫人の手を取ります。
「ぜひ!」
「ねぇ? フェルアラン。婚約者の好みぐらい把握しておくべきよねぇ?」
クスクスと笑うディロメルデ公爵夫人。
これがまさか! 庭を散歩するという指令の内容は、ディロメルデ公爵邸の番犬たちをモフりまくっていいということだったのですか!
*
「その前にその……若返りの妙薬という物を知りたいわ」
ディロメルデ公爵夫人は気になる情報を得るために、番犬を餌にしたという事実だが、餌に食いついた本人は理解していない。
頭の中では番犬をモフりたいでいっぱいだ。
「フェルアラン様。この後お庭を散策される予定ですが、如何なさいますか?」
老執事が、フェルアランに公爵夫人が口にした番犬をここに連れてくるべきかと、判断を仰ごうとしていた。
だが、フェルアランの視線は、番犬という餌に食いつき目をキラキラさせているリュメリアに釘付けだった。
「アーガス。一目惚れというのは何度も起こるというのは、本当だった」
「さようでございますか」
これは以前、老執事が言った言葉だ。
意味合いは多少違うが、フェルアランとしては今日再確認できたということなのだろう。
「しかし、どうしてこうも彼女を見ていると、リュクシオンが脳裏にチラつく。これは彼女を通してリュクシオンを見てしまっているからなのだろうか」
「さようでございますか」
その本人だとは口にしない老執事は、その代わりと言わんばかり孫を見るような視線を、フェルアランに向けているのだった。




