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第九話 頼み事

久しぶりに会った、ミツバ所属のリンまさかのシオンをスカウトするという話が始まった。後ろに控えていたボタンも同意見だといわんばかりにうなずいている。さて、どうなるだろうか。

 マリーとブルーはほぼ同タイミングで立ち上がった。二人とも目を丸くして互いを見た後、ブルーが声をかける。


「ボタン様。それは理解しましたが、我々で判断してはなりません。もちろん、ほかの使用人が承諾してもむりです。許可を得るには記憶の神ニウム様に確認を取らなくてはなりません。」


 助言するようにマリーがぐっと胸の前でこぶしを作って言う。


「そうそう。たとえ他の人たちが了承してても難しい話もあるんだ。第一、ほかの人たちに主様を見せちゃいけないんだ。」


 二人がそうなんとか伝えようとしていると、シオンが尋ねた。


「あのブルーさん、マリーさん。ニウム様と直接お話ってできるんですか?」

 彼の言葉に二人の言葉はぴたりと止まった。図星か、あるいは今この場でとんでもない発言をしたのか。それは彼女らにしかわからなかった。


 ごくりと息をのむ音が聞こえる。

 そしてあっさりと答えが聞こえた。


「……できるよ。でも基本イエスかノーかしか聞けないらしいよ。まあ、今回はそれでいいんだけどさ。」


 マリーは眉をひそめながら言う。

「うちは通信できないんだ。資格があるのはアイカちゃんかアヤメさん。だからもし話したいことがあるなら間接的に伝えないといけない。」


 困ったような彼女はいつものような元気さを削り落としている。ブルーもいつもの冷静さを削り、目が泳いでいる。シオンもつられて眉をひそめた。

 それを見ていたのは客として目の前にいるリンとボタン。ボタンはぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて言う。


「あと、一つ言えることがあるの。これに加入すれば、みんなで光属性使いを守れるの。互いに互いを助け合うみたいな。許可が出ても難しそうなら、見学だけでもいいの。だから、前向きに考えてくれるとうれしいの。」


 ボタンはにこっと微笑んだ。先ほどまでの無表情とは全く違う、年相当の笑顔だった。

 困惑していたマリーが少しずつ正気を取り戻した。そうだ。迷っていられない。自分たちはシオンを導く役目がある。それをこの大掛かりな作戦に気を取られてすっかり忘れていた。マリーはこくりとうなずくと、ブルーの肩に手をのせる。ブルーはピクリと長い耳を動かし、彼女を見た。

「ルーくん。私たちが困惑してちゃだめだよ。覚悟を決めよ。無理だといわれても、ニウム様に話だけでもしてみよ?」

 マリーの顔をじっとブルーは見つめる。ブルーは知っていた。


 マリーは決めたら後に引かない。二言は絶対にない人物だと。


 深くため息をつくと、ブルーもこくりとうなずいた。言い訳をして逃げるのはここまでだ。

「わかりました。相談してみます。ただ、今すぐ結果が出るわけではないので本日は帰っていただけませんか?」

 ブルーが静かにそういうと、リンは「ああ、いいぞ。」とあっさり返事をした。こころは広いようだ。


「もし、いいって話になったらここに来てくれ。その日がみんなの顔合わせだから。」


 小さな名刺を渡された。それをブルーが受け取る。マリーとしばらくぼんやり眺めていたシオンとで見る。そこにはリンの名前と場所の場前が書かれていた。


「ああ、隣国なんだね。」

 地図に詳しいマリーがそういうと、リンがこくりとうなずく。

「時間的に厳しい場合も連絡くれると、対応する。別に断ってくれてもかまわないからな。」

「うん。無理しなくていいの。お誘いってだけだから。」

 二人してこちらを気遣っている様子をみると、先ほどまでの警戒心がゆっくり消えていく。マリーは小さく微笑むと「うん、お気遣いありがとう。」とようやく元気を取り戻した。


 ブルーも深々と会釈をしてドアまで足を運ぶ。

「出口まで案内します。本日はありがとうございました。」

 こうして、急な来客ではあったものの、一日を終えた。




 夜。シオンは一人で廊下を歩いていた。脳裏には今日のことがぐるぐると駆け回っている。


 光殺し事件。

 それに、自分たちが対抗する力がある。

 もちろん記憶喪失である自分も含められていると。


 そんなの、言われてもパッと信じることはできなかった。記憶の神ニウムに関しては使用人がアポを取ってみるといったっきり音沙汰がない。


「一体どうなるのでしょうか。」


 頭がパンクするという感覚に陥っている。ここ数日に思いだしたり、知る真実があまりにも大きすぎた。

「アスターさんにも後で伝えなくては。」

 そう思いながら、コツコツと革靴の音を廊下に響かせた。記憶の神ニウムとアポは取れるのだろうか。また、自分はこれからどうなるのだろうか。


 自分にも使用人にもわからない未来が確実に進んでいる気がした。




 同時刻。話を聞いたアイカとアヤメが同室で水晶の前に立ち尽くしていた。

「ニウム様に、例の件をお尋ねしろとのことだが。アイカ。どちらが連絡を取る?」

 アヤメは腕を組みアイカを見ている。アイカは困ったように眉をひそめた。

「それ、聞く話ですか?」

「はは、その言い方だと私にお願いしたいんだな。わかった。内容だけまとめてくれると助かる。」

 アイカは小さくうなずくとさっそく作業に移った。

 何を尋ねるのか。

 何を聞くのか。

 より簡潔に伝わるような文章をさらさらと手馴れたように書き綴っていく。まもなく、神との連絡が始まるだろう。

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