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第六話 光の矢

いきなりよばれて、シオンはキュラに武器を作ってもらうことになった。そしてできた弓を持って洞窟の奥深くにある訓練所に訪れることとなった。シオンは弓を扱うことができるのだろうか。

 弓を手に、シオンは訓練所の中央に立つ。空気が静まり返っていた。

 キュラはニコッと微笑むと腰に手を当てて言う。

「まずは、矢の出し方をマスターしよう。魔法は使えるのはルーくんから聞いた。」

「……それってかなり難しいのでは?聞きました。ものを想像しながら作るのは大変だと。」

 キュラは「確かにそうだね」と言いながらトコトコとマネキンの前に向かう。何度も的として使われたのだろうか。ボロボロで何モチーフだったのか、原形をとどめていなかった。それに、キュラはそっと触れる。


「いや、シオン様ならできるよ。制限魔法のやり方を覚えてる?」


 予想外のフォローに少し驚きながらも、「はい」と答えた。制限魔法は、記憶の書の読める範囲を狭めて、漏洩や安全を守るために行う魔法。シオンの役目でそれを三年も続けている。

 キュラはその回答に安堵したようにうなずきながら言う。


「あれは、どこからどこまで記憶の書を見ていいよって指示を出すでしょ?それを、ここからこの長さまでの矢を出すっていうイメージを持てれば自然と矢が作れるんだ。」


 すると、キュラは魔法を込めてマネキンに触れる。その時だった。あんなにボロボロだったマネキンがみるみる姿をもとに戻していくではないか。藁人形のようなマネキンが数分後、新品同様のようにそこにたたずんでいる。

 シオンは目を丸くした。

「一瞬でできるんですね。さすがです、キュラさん。」

 その時間は一分にも満たなかった。それほど、キュラのイメージ力、そして魔法制御もすさまじいということだ。

「ありがと~。シオン様もきっとできるようになるよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 キュラは再度シオンのそばに行くと、持ってきていた木製の弓を構えた。


「まずはポーズだよ。重心はこっちの足で、手の形はこう。やってみよ。」


 キュラの姿を見ながら、シオンは見様見真似で構える。その姿はまるで母親の動きを見ながら物事を覚える子供の陽だった。


「こうですか?」


 まだ、堅苦しいが形にはなっているようだ。キュラはこくりとうなずくと、手の先に魔法を込め始めた。桃色の光を話しながら、手の内に一本の矢を作り上げる。そしてそれを構えた。


「矢を出したらこうやって弓を弾く。エアーでいいから試してみようか。」

「は、はい!」


 シオンは再びキュラの頭からつま先までをじっくり見て体の形を整えていく。足に重心を置き、力いっぱい弓を弾くそぶりをした。その構えは先ほどよりもましになっている。キュラは小さくうなずいた。


「それで、こうやって放つ。とうっ!」


 ヒュンと、矢が風を切る音が聞こえる。それは弧を描くように飛び、マネキンの胸に突き刺さった。シオンが拍手をする前に「おお」と気の抜けた声を漏らす。


「よし、当たったね。とりあえず、構えは覚えたかな?」


 キュラがひらひらと手を振りながら言うと、シオンは小さくうなずいた。

「はい。わかりやすかったです。ありがとうございます。」

「いいってこと。それじゃあ次は矢の作り方を教えるよ。」

 こうして、第一劇”弓の構え方”をシオンはマスターした。まだ、湿った空気があたり溶け込んでいる。




 数十分の休憩を終え、今度は魔法の矢を作る実践が始まった。

「まず、魔法使ってみようか。」

「はい。」

 シオンは手のひらを胸の前に持ってきて、以前ドラゴンを癒すときに使った光属性魔法を発動した。


 始めは手のひらよりも小さかった。あの頃は”ドラゴンを癒す”という明確な目的があったからよかったものの、今はない。

 だからこそ、自分が何がしたいのかを確かめていたのだ。手探りで。


 すると、じわじわと一回り二回りと大きくなっていく。それは手のひらにとどまらず光を増幅させた。薄暗い洞窟の中の研究所を照らしていく。それはひどく美しかった。

「いいね。そのまま形を変えることはできるかな?」

 キュラがそう尋ねると、シオンは首を傾げた。出すことはできるが形を整えるというイメージがまだできていないようだ。

 キュラは少しシオンに近づくと、そっと手を添えた。すると、シオンの光属性魔法が乱れ始める。

「キュラさん、一体何を?」

「魔力干渉っていう技術だよ。他人が干渉することでイメージしやすくなるんだ。」

 魔力干渉。それは、二人以上で行うことができる魔法の共鳴に近いようだ。キュラの別属性魔法が加わることで光属性魔法の余計な部分が消えていく。残るのは自分がどうしたいかという思考回路だ。だから、よりイメージが形になりやすい、とキュラは踏んだのだろう。


「シオン様。やってみて。」

「はい……。」


 シオンは深く呼吸をすると、イメージし始めた。的を、マネキンを射抜ける矢を。鋭い矢じり。風をまとえる羽。シオンは実物こそ見たことないが、先ほどのキュラの矢を見ていた。

 彼は銃を基本使う。だから少しだけ曲射というよりもまっすぐ射抜けるような挙動だった。それを参考にして形をイメージしていく。


 すると、手の中にある光が円球ではなく、いびつな形に変化し始めた。

「お、そろそろだね。もっと具体的にやってみよう。」

「はい……!」

 いびつな形はさらに複雑になっていき、棒状に変わりつつある。その間もキュラはじっとそばにいた。


 数分後。試行錯誤の末、シオンの手の上に一本の長い矢ができた。シオンは目をキラキラとさせてそれを見る。

「できました……キュラさん!」

「おお、綺麗だね。金ぴかだ。」

 シオンは嬉しそうに目を細めた。キュラもじーっと矢を見ている。

「あとはこれを放てるようになるだけだね。今やる?」

「はい、やりたいです。」

 シオンは弓を手に取った。いつにもましてやる気満々だ。キュラはその姿にクスッと笑い、その背中を追う。

「じゃあ、やってみようか。さっき言った形でね。」

「はい。」


 キュラから教わった弓の構え方をそのまま実践する。顎を引き、足に重点を当てて、弓を構える。そして先ほど作った光の矢を装填した。そのままマネキンを狙う。


 次の瞬間。ビュンという鋭い音とともに、シオンが矢を放った。その挙動はキュラの矢よりも直線的で速かった。その矢はがさっと音を立てて、マネキンの頭に突き刺さる。


 攻撃力のない属性といわれているとは思えない、光の矢だった。

【第三話 ザ・マイペース】

使用人の中でマイペースといえばこの二人という認識がある。それはマリーとキュラだった。

「ルーくん!」

「なんだよ。」

料理中のブルーに、元気いっぱいなマリーが話しかける。にこりと微笑む彼女の後ろに影が差した。

「ルーくん。」

「今度はキュラかよ。何だお前ら、つまみ食いか?」

「うん!」

マリーがキュラの分も元気よく返事した。キュラも目をキラキラさせている。ブルーはカレーをかき混ぜながら渋い顔をした。

「あのなあ、毎回言うが、本来主様よりも先に食べたらあんまりよくないんだ。」

そういうと、マリーはとコトコトどこかへ行った。ブルーは何事かと首をかしげたが気にせず続ける。


数分後。連れてきたのはシオンだった。

「ええと、ブルーさん……?」

「え。シオン様?」

二人は困惑しながら目線を交わす。マリーはにやにやしながら言う。

「シオン様も味見したいんだって~。」

嘘か真かはシオンにしかわからない。だが、つまみ食いのためなら主もつれてくる存在のようだ。シオンは眉をひそめながら言う。

「少しだけ食べたいです。」

その言葉を聞いたブルーはピクリと耳を動かした。そしてため息をつく。

「シオン様、二人に騙されないでくださいね。いいですけど。」

結局、あきらめたのはブルーだった。

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