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第四話 みられるということ

 三年目の記念日から、数日が過ぎた。シオンは自分が警備隊副隊長だということを金髪の使用人マリーに伝えた。

 マリーは言葉を失ったが、いつもの調子で声を上げる。

「すごーい!やっぱりそうだったんだ!」

 だが、その声はひどく棒読みで、目が泳いでいる。シオンは腕の中にあるバインダーをぎゅっと抱きしめながら、首を傾げた。

「もしかして、私の名前も判明するのではないでしょうか?」

 シオンがそう質問すると、マリーは腕を組んでうなった。


「いや、それはその通りなんだけど、警備隊ってちょっと厳しいんだよね。しきたり?ルール?みたいな。」

「一体、どういうことですか?」


 マリーはなんて表現すればいいかと、頭を悩ませる。そしてどうにか答えを出した。


「二つ名みたいな感じで、一般人にはで呼ばれるんだ。」


 マリーは自分を指さして言う。


「主様ってうちのことなんて言う?」

「ええと、マリーさん。」

「うんうん。それで、うちは主様の主様だったりシオン様って呼ぶでしょ?でも、ほかの人は違う。」

 シオンはそれを聞いてハッとした。客は自分の名前を知らない。だから、こう呼ぶ。


 記憶の管理者と。


 シオンは自覚したのか、目線を落とした。

「記憶の管理者……。」

「うん。警備隊さんも警備隊って呼ばれているから、個人名を知っている人って内部の方しかいないんだよね。さすがにうちら記憶の管理者と接点のある警備隊はいない。」

 マリーは困ったように眉を顰める。

「だから、直接は探れない。でも、もうすでに分かっていることがあるよね。」

 マリーは、近くに立てかけていた会議室で使う黒板を机の上においてチョークを握る。力を込めて黒板をなぞった。

「一つ。ええと、魔眼使いだってこと。」

 丸い白い字が、黒板をなぞっていく。


 ・魔眼使い


「次は……何だっけ?」

「光属性使い……の前にニア町にいたというシーンを見ました。」

「そうだったね。」

 マリーの手がせわしなく動いていく。次から次へと文字を紡いでいった。


 ・光属性使い

 ・ニア町にいた


「あとは?」

「赤髪の男性と、金髪の女性がいました。」

 シオンは顎に手を当てながら、思い出す。悪夢も時々見たワンシーンも、パズルを完成させるように欠片を拾っていく。

 そして数分後、黒板にはこんな文字が刻まれた。


 ・赤髪の男性

 ・金髪の女性

 ・リンの営むギルドに誘われていた。

 ・警備隊副隊長

 ・光属性使い失踪事件関係者?

 ・兄妹悪魔と何らかの関係がある


 そして、マリーは手を止めた。

「こんなものかな。うーん、結構絞れてきたけどこれ以上進むと思い出しすぎてパニックになる。」

 マリーは頭をガシガシと書いて背伸びした。ここまで行くのに約三十分。二人とも頭をフル回転させていたからか、余計疲れてしまった。

 ふと、シオンは尋ねる。

「あの、マリーさん。」

「ん?なに、主様。」

 シオンは過去の自分の日記と、今の自分の日記を交互に見つめながら静かに言った。

「アスターさんとは、ある程度考えていたのですが……一つ質問です。”魂が分裂することってありますか”?」

「……魂が分裂?」

 マリーは目をぱちくりさせた後、すうっと表情が消えた。そして口元に手を添えて何かを飲み込む。


「それって、アスター様とシオン様がってこと?」


 鋭い質問だった。シオンが何かを言う前にマリーが彼の言葉の意図を理解したようだ。シオンはこくりとうなずく。

「……それ話すのうちでよかったね。うん。可能性としてはあるよ。双子の原理と同じだね。」

「双子の原理?」

 マリーは、別の黒板を取り出すと白以外のチョークをつかって絵をかきだした。シンメトリーで人の横顔の絵をかく。その手つきは慣れている。

「双子は、魂の分裂から生まれるんだ。お母さんからもらった一つの魂が、何らかの影響から二つに割れる。性格が似て居たり、似ていなくとも顔がそっくりだったり、いろいろあるね。」

 そして、マリーは人の横顔の近くに六角形を書く。それを水色のチョークで塗りつぶした。


「あと、魂は人によって違う形みたい。よく専門家が言うのがこの水晶みたいなの。それでさ、兄妹悪魔さんと仲がいいのか悪いのかは知らないけど、魂は悪魔のほうが詳しかったりする。主に主食にしてるとかしてないとか。」


 マリーは黒板の絵を消しながら言う。「でも、ぶっちゃけ危険だから会ってほしくないな~」と。その部屋には彼女が黒板の文字を消す際に擦れる布の音と、窓から差し込む陽ざしが包み込んでいた。確かに、確信に近い記憶は思い出した。だが、どれもぎりぎりを攻めすぎており危うい。そうシオンは実感した。




 時は過ぎて夜中。今日のご飯はハンバーグで、食堂に行くと香ばしい香りが漂っていた。じゅうと余熱でまだ焼かれている音がする。

 使用人がシオンが来たことに気づくと声をかけてきた。


「シオン様、お疲れ様。」

「お疲れ様です。」


 銀髪の使用人キュラと、赤髪の使用人アイカだ。

「お二人もお疲れ様です。」

 シオンがそう挨拶をすると二人は小さく会釈をした。

「食事ができております。召し上がってください。」

「ありがとうございます。」

 席に着き、手を合わせた。

「いただきます。」

「どうぞ~。」

 キュラののんきな声を小耳に挟みながら、シオンはハンバーグにナイフを入れた。切れ目から肉汁があふれだして流れている。それよりも湯気とともに漂う、デミグラスソースの香りが食欲を湧きたてる。そんな平和な食事会が続いた。

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