第三話 自分の日記
誕生日、記念パーティを終えてシオンは自室に戻る。今日もなんだか疲れてしまった。
パーティーが終わり、館内には静けさが残った。カツカツと革靴の足音を響かせながら、シオンは自室に戻る。イヤリングを外し、ジャケットを脱ぎワイシャツ一枚になった。
サプライズを受けた彼は、少しだけ表情が柔らかい。目を細めながら、椅子に座った。
「ケーキおいしかったです。」
誰に言うわけでもなくシオンはぽつりとつぶやく。甘い、ショートケーキ。ブルーの手作りだと聞いて、シオンは目を丸くしたのを今でも覚えている。
「あんなものも作れるのですね。」
しばらく余韻に浸っていると、ふとポケットのふくらみに目が行く。
アヤメから受け取った、過去の自分の日記。汚れないようにと袋に入れてくれた。泥だらけのそれはずっと主の帰りをなっていたのだろうか。
「私はいったいここに何を書いていたのでしょうか。」
触れるたびに土がパラパラと落ちる。中身が見れるかどうかも怪しかった。だが、見ないという選択肢はない。
「さすがに、すべてここに書いているというわけでもありませんし……一ページだけ見ましょう。」
シオンは恐る恐る一ページ目を開いた。シオンは紫色の目を丸くする。そこにはこんなことが書かれていた。
ところどころ見えない。
〇月✕日
今日はーーの日だ。人が多くて緊張する。
確か、一万人もいるらしい。みんなを守れるだろうか。
〇月✕日
今日は誕生会。僕の誕生日は冬がよく降っているのだけど、今日は快晴だった。みんながよそよそしくてサプライズには気づいてしまったけど、それを用意してくれただけで救われるな。
〇月✕日
ーーにこの日記を見られてしまった。そしたらなんていわれたと思う?「一日に書く内容すくなすぎだろ」ってさ。確かにそうだね。でも、書かないよりはいいと僕は思うよ。
その言葉を最後に一ページ目が終わった。シオンはぼんやりそれを見て閉じる。
「守る……何を?」
しかし、確実な情報はまだなかった。シオンはごくりと息をのむ。
「もう少し見ても大丈夫でしょうか。」
無理は禁物だ。自分が夢を見ると、時々まだ不調子の追憶蝶アスターが被害を受ける。だが、今の情報だけで自分が何者だったかを理解できない。
「あと一ページだけ。」
おいしいお菓子を食べる手が止まらないように、シオンはあと一ページを読むことにした。計二ページである。
もう一ページを開くと、雰囲気がガラッと変わった。まだまだかすれて見えない部分もある。
〇月✕日
どうやら、光属性使いの人間が狙われているという報告を受けた。僕も使い手。今後は単独行動を避けよという指示だったが、困ったものだ。来週もともと予定していたパトロールを一人でやらなくてはならない。あいつにでも頼んでおこうか。
〇月✕日
仲間の一人が行方不明になった。彼女は光属性使いだ。もし関係があるのなら、警備体制を強化しないといけない。いや、それよりも早く見つけ出してあげなければ。
〇月✕日
また一人。今度は民間人だった。命に別状はないみたいだがかなりの大けがだったようだ。この件にかかわる、闇属性のーーが増えた。それでも被害者は後がたたない。
〇月✕日
ーーにーーーがきた。ーーが担当になることになった。言われたのは「君が死ぬかもしれない」ということだ。不吉なことを言わないでと言いたかったけれど、事実である。だから、出発前に遺書を書けと言われてしまった。急に現実味がこみあげてきて悲しくなったよ。
でも、僕は死なない。たとえ、この身が闇にむしばまれようとも。
そこで、二ページ目が終わった。
「警備体制……?確かに、前のページでも守るといっていました。警備隊?」
シオンはその言葉を言った瞬間、脳裏に何かが流れ出した。懐かしいのか、初めて見るのかあいまいなそんな記憶。自分の体は確かに覚えているようだ。
どこかの施設の中。自分は背筋を伸ばして歩いている。カツカツと、革靴とは違う音が響き渡っていた。シオンは夢うつつにそれをじっと眺めている。
しばらく歩くと人がいた。
「副隊長!お疲れ様っす!」
明るい男性が声をかけてきた。自分のことを副隊長とよんでいる。自分はニコッと笑みを浮かべた。
「お疲れ様。今から任務かな?」
そう訪ねると男性はニコッと微笑む。
「そうっす!いやぁ、あの光属性殺し事件大変っすね。副隊長も使い手っすよね?」
明るく振る舞っているが、話している内容は全く笑い事ではない。自分はこくりと頷いた。
「大変というよりも尻尾が掴めない。僕らはまず犯人を突き止めないと何も始まらないんだ。これから忙しくなるよ。君も頑張ってね。」
自分がそう言うと、男性は若干顔を引きつらせながら返事した。
「は、はいっす……。」
しょんぼりと肩を落としながら踵を返していった。自分はそれを見ながらポツリという。
「もしも次のターゲットが僕なら。共倒れでも突き止めてやる。」
自分はそういい切るとどこかに歩き出した。自分の目的のため、みんなのため。あるいは世界のために。
シオンが気がついたのは数分後だった。目をこすり体を起こす。いつの間にか寝ていたようだ。
「……警備隊副隊長。ならそれなりに知名度があるはずですね。」
それにさえ気づけたのなら、進歩したのだろうか。窓の外では星々が光り輝いている。




