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第二十九話 唐突な目覚め

時間は彼らを待ってくれない。次の日。この日でシオンは、光属性魔法を修得しなくてはいけない。光の矢よりも鋭く。癒しの力よりもみんなを支える魔法を。朝から彼は訓練所に足を運んだ。

 太陽が昇りたての室内は、まだ暗く人の気配が少なかった。ルドアは今日は不在のようで、ノロとリン。そしてシオンの三人がここに集った。


「武器を作る。みんなにバフを与える。」


 シオンはやるべきことを理解するかのように、そうつぶやいた。あの後、一度だけルドアが実践してくれた。剣に光属性を纏うやり方を。


 弱いと聞いていたから除外していた。光属性魔法も戦えるということを。それを実感したような気がした。


 シオンは静かに呼吸をして、模擬戦用の剣に触れる。まずは、見たものをできるようにならないと。


「イメージを強くしなくてはいけないんですよね。」


 静かに目を閉じる。指先で剣に触れながら、どうしたいを考えた。


 そんな時だった。いつものように魔法を使うため集中したその瞬間。ぐらりと、体が揺れる。体調は何も問題なかったはずだ。昨日はぐっすり寝て、今日は朝食も食べた。


 なのに。また、倒れてしまう。


 シオンの体が揺れたのを感知したノロが、冷静に受け止める。そしてその様子をみて小さく息を吐いた。


「魔力暴走気味だ。無理をしている。」


「は……はい?」


 魔力なんて、今ほとんど使っていない。なのに、魔力暴走気味なのか?シオンは紫色の瞳を揺らしながら尋ねた。


「あの、僕今日ほとんど使ってないんですけど。」


 その言葉に、ノロが固まった。


「確かにそうだな……?」


 ノロは眉をひそめてリンをみる。謎に。リンはなぜ見られているんだろうと思いつつ、近づいた。


「どうしたんだシオン。無意識に魔法を使っていたとか?」


「い、いえ……ただ考えていただけで。」


 そういっている間にも、ふらりと意識が遠のいていく。これは、記憶喪失になってから、記憶の管理者になってからというもの、初めての物だった。


「うう……」


 シオンはノロに支えてもらいながら、目を隠すように手で覆った。


 頭が痛い。視界がぐるぐると回っている感覚がする。


「魔力酔いか?」


 リンがそういうが、ノロは小さく首を振る。シオンの症状はたしかに酔いに近いものだが、違うらしい。


「魔力酔いは、他者が使ったものでなりやすい。この場で使っている者は一人もいないはずだ。」


 原因不明の体調不良。記憶の管理者の仕事での疲労とはまた違う、苦しみ。体中が重い。ひたすらに、重い。


 こんなの知らない。と、何度目かの感覚に陥っていた。


「とりあえず、一旦中断。シオン君、休憩所に行こうな。」


 ノロがシオンを運び、リンが案内する。自然と体制が整っているようだ。まだ、人の少ない早朝。すんなりと廊下を進むことができた。




 ついた休憩所には、あの人がいた。金髪の女性、シラである。シオンが来たことに気が付くと、パッと立ち上がった。


「ささ、こちらのベッドに。……おかしいわね、魔力の残骸がないのに、魔力暴走気味。」


 ノロと同じ診断結果を告げた。彼女にもシオンの身に何が起こっているかをぱっと見で判断することはできなかったようだ。


「シオン君。具合はどんな感じ?全体的にだるそうだけど……。」


「はい……そんな感じです。」


 隣の部屋から使用人たちもやってきた。シオンの体調不良には意外と敏感らしい。


「シオン様。……いつもの発熱ではありませんね。」


 ブルーが、原因不明のシオンの体調不良に眉をひそめながら、手帳を開いた。ヒントがあるかもしれないと思いながら。アヤメもそこに立っていたが、様子をうかがっている。彼女はあまりシオンと会話する機会がなかったから、詳しくは知らないらしい。


 ここにいる全員が、シオンの状態を知らなかった。異常事態である。警備隊も、悪魔も、ギルド長も、不老不死もいるというのに。


 すると、シオンが限界だったのかそのまま意識を手放した。みんな一瞬焦ったが、ただ眠っただけのようだ。少し様子を見て肩を落とす。


「ルドアさんに聞いてきます。光属性持ち特有の体調不良や病があるかもしれないので。」


 リンがそういうと、残された四人がシオンを見る形となった。


「あの、シオンは普段から発熱しているのか?」


 ノロが恐る恐るといった様子で、アヤメとブルーに尋ねた。元主だからとはいえ、三年間ほどの区間が空いた今、どういう生活を送っていたかはわかっていないようだ。


「時々な。特に一年目はひどかった。記憶喪失になったお客様はよく体調を崩していた。その一種だろうが、どうも質が違う。気が付けば消えてなくなりそうな……」


「まあ、最近はよくなっているんだよね。私はあまり把握できてはいないが、起きれないほどの熱は出していなかったはずだ。だから、今回の様子はますますわからない。」


 小さな呼吸を繰り返すシオン。一向に起きる気配はない。ちくたくと時計の針が回っている音が聞こえる。一人も何も発さず、ただそこにいた。




 しばらく黙っていたシラがぼんやりシオンを眺めていた時だ。不意に、シオンの体が持ち上がる。シラはパッと微笑んで声をかける。


「おはよう、シオン君。体調はどうか……な……?」


 しかし、話している途中に気づいた。シラの視線の先は、シオンの瞳。そこは紫色の瞳ではなかった。


 緑色。エメラルドのような、キラキラと光る瞳がそこにあったのだ。近くにいたノロも、使用人のアヤメもブルーもそれに気が付く。


「……シオン君?」


 皆が戸惑っていると、シオンが目線を上げた。そして、小さく尋ねる。


「おはよう……ちなみにここはどこかな?」


 その声は紛れもなくシオン。だが、口調がどうも彼とは思えなかった。

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