第二十八話 千年前の大戦争
光殺し事件は、どうやら千年前に起きた大きな争いに酷似しているようだ。それについて、シオンは休憩の合間に聞くことになった。記憶の管理者初代もかかわったといわれる戦争。一体、何があったのだろうか。
アヤメがゆっくりと話し始めた。千年前のあの出来事を。
夏が終わる、秋ごろの話だったようだ。初代記憶の管理者エル。茶髪で、糸目の彼女が静かに言った。
「もう少しで、この世界が荒れるらしいよ。」
始めは、使用人たちは何を言い出すんだと思ったらしい。なぜなら、そのころは彼らはまだそこまで仲が良くなかったようだ。誰も信用できない。そんな中、彼女の言葉を受けても信じられないのは仕方がないことだ。ただ、彼らは知らなかった。それは現実で、自分たちの無力さを知るきっかけになったのだから。
アヤメは静かに言った。
「私たちは、何を言っているんだって互いに、確認した。エル様はそれ以上何も話さず、微笑んで窓の外を見ていたんだ。」
「それから数日後、俺たちが目にしたのは――。」
ブルーとアヤメが交互に言葉を紡いでいく。
空一面を飛び回る、魔族翼をもつ。空は赤く、月は丸いそんな光景が一面に広がっていたらしい。
「おぞましい。何をしたらいいかわからなかった。困惑しているうちに、何度も何度も攻撃が降ってきた。」
それはまさしく、シオンたちも体験したものだ。状況を少しだけ理解していたものの、対応にやや遅れてしまった。
千年前はもっと、何もできなかったと二人は語る。焼けていく記憶の図書館。避難を誘導する際、何名か怪我を負わせてしまった。
悲鳴、怒号。そして絶え間なく降り注ぐ火の粉。人を導くのも、それを守るのも彼らは初めてだった。
アヤメはようやく食事を口にしながら、のんびりとしながら話す。
「私たちは、実戦経験のあるものは数名しかいなかった。それも、守るというよりも殺すというか。そのほかは訓練をしただけ。よくもわからず武器を振り回していた。みんな不老不死になるまえだ、満身創痍だったね。」
今、シオンを支えている彼らも元は白紙の人間。シオンと違う点は、あらかじめ補助線があったノートだった。
同じ環境で彼らは今を生き続けている。
シオンは深くうなずいた。
「……その事件は結局?」
「あとでわかったのは、記憶の管理者が成立したてで、人々の記憶を奪えるとかうたったやつがいたらしい。それを狙ってきたから、今回の光殺し事件よりも狙われたよ。でも、敵はほぼ一直線。頭はよくなかったさ。」
アヤメが言うに、その時の魔物や魔族は力はかなり強かった。だが、その代わりに知能が低かったようだ。だから、人がどんどんと狩り、数を減らしていったらしい。
だが、その代わり今は知能を付けた。さらにターゲットを一人に絞るのではなく、全体的。いや、全人類を敵に回したといっても過言ではない。これを、過去よりも惨い事件なのか。過去よりも解決できそうなものなのかは、誰にもわからない。
「……それでも、数はとても多く、苦戦した。あそこは立地が悪いだろう?森の中。今でも警備隊は頑張っても最短一時間。テレポート魔法は、障壁で使えないからほぼ変わらない。」
「そんな中で昔の俺らも戦った。これってすごく似ていないか?」
アヤメもブルーも。そこに集っているシオンとノロも、少しだけ違和感が残っていた。いや、そもそもその違和感には気づいていたが、こんなに酷似しているとは思わなかった。
魔物の特徴が違うにしろ、誰かが狙われてそれが最終的にたくさんの人を巻き込んでいる。
過去は”記憶”が。
現在は”勇者”が。
そのどちらにも記憶の管理者が関係している。記憶を守るために体を張った初代記憶の管理者エル。勇者と同じ光属性を扱う十七代目記憶の管理者であり、記憶喪失のシオン。
もしかしたら、二人にも何かしら共通点があるのかもしれない。
「ま、話は以上だ。主殿。これで満足かな?」
ざっくりではあったが、シオンは聞けた。それをかみしめるように静かにうなずく。
「貴重なお話、ありがとうございました。」
「いいってこと。私たちもまだまだ話していないことが多いからな。」
「まあ、いずれ。てかたぶん、話す機会は来ると思う。」
ブルーは少し、眉をひそめて手を振る。いつの間にかご飯はなくなっていた。時刻はすでに休憩時間とまもなく就寝時間を迎える。明日にすべてを覚えなくてはならない。そう思いながら、シオンは席を立った。
その日の夜。ひそかに集まっている人たちがいた。真ん丸の月は静かに訓練所を照らしていて、静かにそれを見つめていた。ノロは一時的にシオンのもとを離れ、隣の空き部屋にいた。彼の控室に座って窓の外を見ている。その赤い瞳はゆっくりと部屋の中央に向かった。
「で。スキル。なんか入手したんだって?」
音もなく現れたのは白髪の青年。目までも白く、ノロが言っていた”悪魔”とは思えない容姿をしたスキル。のんびりと口元に手を当てながら言う。
「ん~。そうなの。手に入れたの。君の妹ちゃん、発見しちゃった。でもね、もっと敵をつれて歩き回ってる。時期にこっちに来るかもね~。」
スキルはのんきにそういうと、窓のふちに座っていった。
「ねえ、ノロくん。いつ、記憶戻す気?あの子。ええっと……」
「おい、今名前言おうとしたな。やめろ。絶対に。」
「ええ~?いいじゃん。みんな先延ばししすぎて欠伸しちゃう。ぼくもねむくなってきた。ふわあ。」
ノロはスキルを睨みながら必死に彼の本名を言わせまいと、構える。スキルはじっと見ていた。
「でも、なんで隠すの?名前教えてもなんも思い出せないのに。」
スキルが言った言葉に、ノロは口を閉ざす。ノロは拳を握って言う。
「主とシオンは別ものだ。本名じゃない。」
「でも、彼は知りたがっている、本当の体の持ち主の名を。」
「でもだ。」
二人の悪魔はこれ以上はまずいと思ったのか同時に言葉を留めた。シオンも、使用人も、警備隊も知らない。この事件が、どのような結末を迎えるかを。だが、この悪魔二人は知っているのかもしれない。その証拠に、二人は全く焦っていなかった。




