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第二十七話 ひとときの休憩

勇者ルドアから、ざっくりと自分のやるべきことを把握した。その後少し運動したのち、今日の終わりを迎える。その前に、アヤメとブルーと合流して、夕食を食べることとなった。

 ひとつのテーブルを、四人で囲んでいる。シオン、ノロ、そして合流したアヤメとブルー。二人とも、どこかへとへとだった。そんな姿を見たのは、初めてだったかもしれない。


「お疲れ様です、アヤメさん。ブルーさん。ちなみに、二人はどんな訓練を?」


 アヤメは小さく息を吐くと、水を飲みながら言う。


「そりゃもう、大変だったよ。私たちの訓練とは全く違ったね。」

「俺らの訓練は、なんというか基礎が多めだ。体力をつけるため、悪く言うとマニュアル通りの訓練。でも、ここは型破りだった。」


 普段、上の立場の人やシオンの前では敬語のはずのブルーも、素のまま話し出した。アヤメも帽子を外して扇いでいる。


「何というか。弱点ばかりを改善しろと言われたよ。俺は武器がもてない。だったらもてるような武器を作れって。キュラじゃないんだから、構造理解できないっての。」


「まあ、ブルー殿。そっちはまだいいよ。こっちなんて、床の重さのハンマーまでもてるかって、どんどん重いハンマーを持てって言われたよ。腕がちぎれると思った。」


 どちらも、かなりきつそうな内容だった。シオンはただ魔導書を読み、光属性魔法を発動させようと頑張ってみたり、ルドアから基礎知識をもらっただけだ。結論、まだ何も変わっていない。


 そのことを、思い出し少し肩を落とす。もし明日までに修得しなくてはいけない。現状はかなり厳しい。


 そう思い悩んでいると、ノロはそっとシオンの肩に手を置いた。


「大丈夫だ。シオンならできる。」


 シオンはびくっとしたが、安堵するようにコクリとうなずく。


 安心する。

 胸のなかがぽかぽかする。


 何だろうか。その感覚をシオンは知らなかった。そんなシオンとノロの様子をアヤメとブルーはじっと見て、ほぼ同時に言う。


「ノロ殿は変わった悪魔だな。」

「なんていうか、優しい?いや、面倒見がいいというべきか。前からずっと疑問だったんだ。元からそういう性格か?」


 ノロは、特に食事もせず頬杖をついていたが、眉をひそめた。


「……なんだ。何が言いたい?」


 怒っているわけではなさそうだが、少しだけ不機嫌そうだ。なんだかその様子が、悪魔にはやはり見えない。どちらかというと、餌をもらえず、拗ねているペットのような。本人に言ったら、二度と口をきいてくれなくなるかもしれない。


 二人はしばらく黙ったのちブルーが言う。


「主様が、大事にされているなと、安心しただけだ。悪魔と契約しているお客さんが来た時、暴言ばかり吐いていて、勝手にそういうイメージが我々に根付いてしまったようだ。不快な思いをさせてしまったのなら、申し訳ない。」


 ブルーが頭を下げると、ノロは手を振る。


「い、いや、謝らなくとも。まあ、おかしな悪魔とはよく言われる。兄妹にも、あいつにも。これは素だ。紛れもない。」


「……あいつ?」


 アヤメはすかさず口をはさんだ。二人は、めったに悪魔と会話をする機会がない。なぜなら、どちらかというとブルーもアヤメも裏方担当であるためだ。接客は主にアイカやマリーが担当している。


 だからこそ、こういう経験が少ない。


 ノロは困惑する。悪魔側としてもほとんど顔見知り程度の人間と話をする機会はあまり多くはない。ましてや、自分語りをするなど。


 ノロは頭をかきながら言う。


「まあ……。あいつとは、俺とよく行動を共にする悪魔。名前はスキル。あいつもあいつで変わってるが、敵ではない。むしろ味方だ。俺がシオンを守っている間、事件の全貌を調べてくれてる。」


 腕を組んで、頭をかく。悪魔も、人も魔族も巻き込んだ大きな争いのようだ。アヤメとブルーはやはり既視感がある。


 アヤメは静かにノロに尋ねた。


「なあ、ノロ殿。一ついいか?」


「……かなり聞いている気がするが。」


「ああ、すまない。これで最後だ。」


 アヤメは、手つかずの夕食。シチューとパンをそのままに帆手を組んで尋ねた。


「この事件。千年前のあれに似ているんだが、どう思う?」


 千年前。アヤメが差しているのは記憶の管理者が丁度設立したての頃に起きた、世界を巻き込む大きな争いのこと。ノロは赤い瞳を揺るがせながら、既視感があるといわんばかりに顎に手を当てた。ブルーも体験者なのか目を伏せた。


「あれも、あれで、多くの犠牲者を出した。初代記憶の管理者もそこで――。」


 ブルーが何かを言いかけたが、隣に座っていたアヤメが止める。


「暗い話はよしておこう。エル様もそれを望んでおられない。」


「ああ。すまん。」


 シオンは知らない。いや、知る由もない。千年前の人のことなど。千年前の争いのことなど。記憶の管理者と務めるうえで、大事なことは人の記憶を扱う事であり、世界の記憶はどちらかというと記憶の神ニウムの管轄である。


 見ることもできたはずだ。だが、その前に自分のことで手一杯で。全て言い訳になるかもしれないが、記憶の管理者は業務はシンプルだが責任感と、魔力と精神力が問われる。


 それでも、知りたかった。

 改めて知ったのだ。自分は無知だと。知ろうとして、中身まで見ることがほとんどなかったということを。


 シオンはぎゅっとこぶしを握るとアヤメに尋ねた。


「あの。アヤメさん。千年前に何があったのですか?」


 アヤメがシオンをじっと見た。


 聞きたいのか?


 そんな声が聞こえてくる。シオンはその声を聞く前に小さくうなずいた。アヤメは額に手を当てた。


「主殿は、本当に鋭いな。まあ、良いかなノロ殿。」


「ああ、俺も共通点については把握している。話し合うことで、明確にできるはずだ。」


 妙に冷静な悪魔ノロ。やっぱり普通の悪魔とは違う。それが彼らしく、いいところだった。

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