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第二十五話 道しるべ

光属性魔法を魔導書を読んで学ぶシオン。しかし、どんなに読んでもあの時のような光属性魔法が発現することはなかった。

 シオンは手を前にかざして使おうと試みる。しかし、一向に見える気配はなかった。疲れているのか、肩で息をしている。


「どう……して。」


 どうして。昨年度の出張所でドラゴンを癒したような魔法が発現しないのだろうか。


 どうして。光の矢のように見ただけでは何もできないのか。


 記憶喪失の彼はわからない。経験を積んで覚えることの難しさを。教えられたらすぐ覚えられるのだから。というより、覚えることが職業というもので、自分の特技を伸ばすわけでもなかったから。言い訳ならたくさんできる。


 だが、それだけだった。今回はかなり手こずっているようだ。


「今まで、どうやって光属性魔法を……?」


 思えば、あの瞬間は全て思いが詰まっていた気がした。

「ドラゴンを癒すとき。傷が消えてほしいという願いが強かったような。」

 シオンは思い出していた。いつもはあいまいだった記憶を思い起こすように。


 二人もそんなシオンに気づいたのか、互いに顔を見合わせた。


「なんか、シオン悩んでるな。」


 リンがジト目でシオンを見始めた。ノロはずっと見ていたが。「ああ」と適当に反応する。


 先ほどまで、何度も手を前にして使おうと試みていた。あまり進展がなかったのを二人も理解している。


 だが、光属性魔法は教えられる人が限られている。使える人がいないのだから。そんな時間を数分過ごしていた。




 数分後。軽く休憩をしていた三人。コンコンと扉がノックされた。


「はーい。入っていいよ。」


 リンがそういうと、入ってきたのは一人の青年だった。リンは目を丸くして口をポカンと開ける。ノロもその青年を知っているのか、どこか姿勢を正した。


 その青年はじっと壁際に休んでいるシオンを見た。


「ちょ、ちょ!勇者さん。具合は大丈夫ですか!?」


 かなりのボリュームで反応したリンをよそに、その勇者はシオンの前に立った。


 白髪で、金色の瞳。シオンを見て不安そうに眉をひそめた。リンが言うには勇者で、以前聞いていた話だと名をルドアというのだろうか。


 視線を合わせるように跪き、小さく微笑んだ。

「体調は、大丈夫。……初めまして。僕はルドア。この人が言うように、勇者です。」


「初めまして。記憶の管理者のシオンです。」


 互いに挨拶を交わすと、ルドアはゆっくり立ち上がる。背丈がほとんど同じだ。目が自然とあう。しばらく互いに見つめあっていると、ルドアが小さく微笑んだ。


「それより、光属性魔法の取得に……苦戦していると聞きました。一番、どこがわからない?」


 シオンはハッとした。そうだ、勇者はかなりの光属性魔法の使い手だ。魔導書に書き記してはいないものの、知恵が豊富である。


 シオンは何を話すか考えたのちに、口を開いた。


「あの、その知識としては入るのですが、いざ使おうとすると何も出なくて……。」

「ああ、なるほど。初歩的なものです。大丈夫。きっとできます。軽くその原因を説明しますね。」


 ルドアは小さくこくりとうなずくと、ようやく立ち上がった。


「さて、まずは僕の魔法を見てください。貴方はおそらく、見て覚える方ができると思います。文字だと、イメージがつかみづらいですからね。」


「分かりました、お願いします。」


 ルドアはシオンに背中を向けて、訓練所の中央で立ち止まった。白髪の髪をなびかせながら、手を天にあげる。すると、あたりの空気がガラッと変わった。


 温かく、心地のいい。光の空気が彼らがいる訓練所をそっと包み込んでいく。まるで、日向ぼっこをするかのような柔らかな光。布団に包まれているような、抱擁感。


 シオンは目を丸くした。自分が使っていた時とは桁違いの精密さ。それから、制限力もすさまじい。すべてを操るように、手を動かしている。舞うように、踊るように。とにかく、その場その場で乗り越えてきたシオンとは全く別の系統の魔法だった。


 数分後。見せ終えたルドアは小さく頭を下げた。


「以上です。」

「とても、素敵な魔法でした。見せてくださり、ありがとうございました。」

「いえいえ。これは、魔法を使う上での基礎です。光属性魔法は少し特殊で。攻撃力をつけるには精度を高める必要があります。それまでは、治癒魔法等に応用します。」


 ルドアは手のひらに、小さく光のオーブを出した。淡いそれはほんのり温かい。


「まずは、これを作れるようになりましょう。」

「はい、お願いします。」


 こうして、短期間ではあるが勇者という教師を得ることができた。シオンはようやく光属性魔法を取得することができるかもしれない。


 過去の自分ほどは使えないのはシオンも重々承知である。だからこそ、その中でどれだけ使いこなせるかは、練習が必要になるだろう。


 シオンはルドアに目線を向けて、小さく微笑んだ。よろしくお願いしますという、挨拶と。小さな懐かしさを覚えながら。

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