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第二十四話 過去と未来

ついに始まった、光殺し事件の解決に向けた作戦の一環として、シオンの光属性魔法の訓練に向かう。そこで告げられたのは、教師は一冊の魔導書だということだ。

 白い訓練所にぽつりと佇む一冊の魔導書。シオンはぺらりとページをめくる。とても丁寧に、図形等を使って書かれてある魔導書。この世界の魔導書は記憶の書と同様だといわれるほど、その人の思いが詰まっている。


 記憶の書を扱う、シオンだからこそその中身から伝わる熱量を手のひら越しに感じ取っていた。


「この方は、どんな方だったんですか。」


 シオンは静かに尋ねる。壁によりかかっていたリンが、髪をいじりながら考えるように唸った。「んー。」と、やる気があるのかないのかあいまいなものだ。

 シオンは首を傾げた。


 しぶしぶという風に、リンはシオンを見ていう。


「あいつはとにかく、無理をする奴だった。いっつもへらへらしててさ。頼んだら、すぐこなすし。頼れっていっても倒れるまで進み続ける……まるで線路が敷かれた電車みたいに。」


 どこか詩的に言いきった。同じく壁によりかかっていたノロが付け足す。


「こいつ、そいつに何度も勧誘して全然振り向いてくれなくて萎えてたぞ。」

「おいっ、それを言うな!!」


 この人は本当に声のボリュームがバグっていると、シオンはひそかに思いつつ再度視線を戻した。


 世界に一冊だけの魔導書。それがわかるように、何度も書き直した後、ページが何度もめくられた跡が残っている。


「では、なぜこれを書いたんですか?線路に乗っているのなら、何というか自分だけの人生、みんなを支える人生にすると思うのですが。」


 確かにそうかもしれない。シオンなら間違いなくそうする。何も残さず消える方が、なんとなく気が楽だ。今の自分がどういう存在かもわからない。しいて言えば、過去の自分は残ってほしいと願う。矛盾しているかもしれないが、それがシオンだった。


「ま。それはさておいて、今日と明日で詰め込むぞ。シオン、頑張ろうな。」

「え、二日間でですか……」

「おう。時間との勝負だからな。」


 今更ながら自分の体力のなさに頭を抱えた。基礎訓練を始めたとはいえ、まだまだ息が切れる。筋肉痛もきっと。それが二日間に圧縮されるのだから相当こたえるだろう。


「が、頑張ります……。」 


 シオンはぎゅっと拳に力を入れて、やる気を出した。




 それから、シオンは魔導書をひたすら読んだ。ところどころで休憩を挟みながら。


 そんな様子をリンとノロは二人で見守っていた。


「なあ。あれ、本当に元主なの?」


 リンがノロにだけ聞こえるように声を小さくしながら、ボソッと尋ねる。隣の部屋の訓練の音に耳を傾けながら、ノロは腕を組んで答えた。


「……側はな。」

「……え?」


 ノロはじっとシオンを見て言う。


「中身が全然違う。シオンが思い出そうとしているのは、”体の記憶”であって、主の記憶じゃないんだ。」

「じゃあ、あの人は……」


 嫌な予感がしたのか、リンはその言葉を濁して口元に手を当てる。それを察したのはノロだけだったかもしれない。


 リンは何かをのみこむようにしばらくそのままだったが、ノロがボソッという。


「だが、魂の匂いを記憶の図書館で感じた。……追憶蝶を知っているか?」


 追憶蝶。シオンが今仲良くしているアスターの種族名のようなもの。記憶の書の魂の権化ともいわれているし、その人本来の姿なんて呼ばれていたりする。彼らを追えば、また亡き人にも会えるという逸話もあるほどだ。


 ノロはもちろんあくまで、知識が豊富。そんな情報や逸話はもう耳に入れているだろう。


「そういや、俺が突撃したとき、記憶の管理者みんなでその蝶を探してたんだ。なんだか、そいつも記憶喪失だとか。」

「あー……。」


 ノロはガシガシと頭をかいて、ため息をつく。そして赤い瞳をシオンに向けた。


「おそらく。その蝶こそ、主の魂。でも、器が生きてる状態で、仮死みたいな状態だからあいまいな存在になってるんじゃないか?追憶蝶って、記憶の管理者のそれも使用人しか詳しく知らないみたいだしな。」


「てか、それに気づいてんなら、まずその蝶に話を聞きたいな。どんな蝶なんだろう。」


 リンはにこっと微笑んで再度壁によりかかった。この二人は、過去のシオンの背中をよく見てきた人たち、悪魔たちだ。勝手に自分より右に彼のことを知る人はいないと豪語している。まあ、実際そうかもしれないから何とも言えないが。


 遠くでは、シオンが手を前に出し何度か光属性魔法を出そうと苦闘している姿があった。


「まあ、主が生きているなら、完全に破壊されていないならまだやり直せる。」


 そういうノロの拳は白くなるほど強く握られていた。


 たしかに、主のことは大事だ。今すぐ復活でもさせて、声をかけたい。戦いたい。そばにいたい。だが、主にだめだといわれた。


 その命令が、最初で最後。とても短い、契約だった。


「俺は、シオンも主も大事にしたい。だけど、記憶を思い出したら確実にどちらかの魂はその器に保てないと思う。……それだけが気がかりだ。」


 ノロの切実な思いに、訓練所の温度は低くなったような気がした。今、魔導書に苦戦しているシオン。あるいは、本来の器の持ち主。


 もし、記憶を取り戻すことで片方を失うのなら。

 それは本当に望ましい結末なのだろうかと。

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