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第二十三話 その場所に残る記憶

ようやく、ミツバというギルド本部にたどり着いた。そこで出会ったのは、以前会ったリンともう一人。警備隊のシラという女性だ。

 ざわざわと騒がしい、ギルド本部。その中心で六人集っていた。


「そろそろ、荷物まとめて勇者さんに会いに行かない?今日来てるんだ。」


 シラが、ふんわり笑みを浮かべてそういうと、隣にいるリンがぶんぶんと首を振った。


「だめだ!!」


 意外に大声だったのかまた、周囲の目線がこちらに向く。シラは首を傾げた。


「何がいけないの?リンくん。」

「あの人、ちょっとこじれちゃってさ……あんまり人と話したくなさそうなんだ。なんていうかね……。」


 要するに、勇者の調子がすぐれないらしい。それは仕方がない話だ。自分を倒すために動いたはずの魔物が、今度は世界を敵に回したのだから。それで犠牲者も出ている。自分が隠れていた間に。


 それを引きずっている。今もなお、下手に動けば被害を大きくしてしまう事を恐れている。まるで、記憶の管理者として記憶喪失であることを隠しながら働くシオンと同じだ。彼は幾度も考えてきた。


 シオンは考える。


 もしも、記憶の管理者が記憶喪失であると知られたらどうなるかを。


 失望されるだけでなく、支えてくれている仲間たちもを巻き込んでいくだろう。それは一番避けたい話である。勇者もきっと同じだ。自分が犠牲になったほうがいいのではと、自分が前に出なくてはいけないと考えているのではないだろうか。


 もやもやする。


 こんなに生きるのは難しいんだ。


 改めて、シオンは気づかされた気がした。


 シラは話を切り替えるように、パンと手を打ち、みんなに微笑む。


「じゃあ、普通に訓練所に行きましょ。話の通り、アヤメさんとブルーくんはこちらに。ノロくんとシオンくんはこちらに。危険があったらシオンくんを積極的に守るよ。」


「……確か、訓練所は隣何ですよね?」


「ええ。だから問題はないよ。勇者様も気持ちこそ落ち込んでるけど、戦力を失ったわけじゃないと思うからさ。少しだけ休ませてあげようね。」


 柔らかな笑みを浮かべながら、案内を始めた。本来ならリンがするべきだろう。だが彼はブツブツと何かを考えているようだ。前のような襲撃は勘弁してほしいと誰かは思ったかもしれない。




 廊下で二つに分かれ、リンについていく形で、シオンとノロは歩いていた。二人ともなんだかそわそわしている。リンはそれに気づくと、振り返った。


「どうしたんだ、二人とも。まさか、初めてでわくわくしすぎて寝れなかった口か?」


 不思議そうに首をかしげるリンをよそに、二人は慌てて否定する。息がぴったりだった。


 シオンは首を小さく振って、前のめり気味に話す。


「そ、そんなことはないです!おそらく、ぐっすり寝ました!」


 声が上ずっている。本当なのだろうが、その調子がまるで嘘をついているようなそんなトーンだった。


 一方ノロはそっぽを向いて耳を動かす。


「……主の魔法楽しみ。」


 ちょっとだけご機嫌そうにそうつぶやく。わかりやすい悪魔だった。リンは目を丸くして交互に見た後、ため息をつく。


「もう、二人とも正直じゃないっすね。いや、一人は正直か。とりあえず、この扉の先にいる人が誰でも驚かないでくださいよ?」


 リンは謎に前振りをして、扉に手をかけた。その先にいるのは、光属性魔法を扱う人らしい。ノロはボソッという。


「……あの人か?」

「やめてください!?ネタバレNGなんで!!」


 またもやオーバーリアクションで反応して、廊下に声が響いた。ノロは耳をふさぐ。


「うっせ。」

「す、すんません。」


 しぶしぶ彼らはその部屋に入った。




 訓練所は、記憶の図書館にある手入れがあまりされていない場所とは比べほどにもならないほど、きれいだった。新築なのだろうか。あるいは、環境の問題だろうか。隅々までピカピカで、白一色で染まっていた。その中央には寂しげに書見台が置かれている。


 しかし、リンが言っていた人がいない。


「リンさん、教える方はどちらに?」


 見渡しても誰もいない。ノロもキョロキョロしているが肩をすくめた。嘘をついているのか、はたまた違う目的があるのか。


 数分経ってようやくリンは言う。


「……教師は本の中にいる。」

「……はい?」


 リンは何を言っているのだろうか、と言わんばかりシオンは目を丸くした。彼は何も言わずに中央に歩き、そこにある書見台を叩く。


「てことで、君の先生はこの魔導書だ。」


 見えなかっただけで、そこに一冊の魔導書があったようだ。分厚く、表紙に"光属性指導書"と書かれている。教科書しかない授業のような感じでだいぶ特殊だった。


「見てもよろしいのですか?」

「もちろん。どぞ。」 


 リンに諭されるままシオンは近づく。近くには記念看板のようなものが添えられていた。


 光属性指導書


 著者……トモシビ


 光属性魔法に関する知識を一冊にまとめた魔導書である。ここには、今まで開示された光属性魔法についての使用方法と、発現方法。注意点等をまとめている。実際にこれに触れれば魔法を使用できるが、諸事情により使用不可である。ご了承願う。


 看板設立者より


「トモシビ……。」

 そっと一枚、ページをめくってみる。そこにはこう書いていた。




 光は闇を照らす。

 けれど、闇は光を消すとは違う。

 光と闇は共存するべきだ。

 闇は悪ではない。光は正義でもない。


 それだけを覚えておいて。




 シオンはその文字をじっと目で追っていた。静かに、そして、何かを探すように。

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