第二十一話 新たな出会いへの旅路
木々が色とりどりに紅葉が見え始めたころ。記憶の管理者の数名は戦闘服を身に包み、玄関ホールに立っていた。ノロが来たおかげで、使用人は三人が待機。二人がシオンの護衛という形で落ち着いたようだ。
選抜メンバーは二人。
アヤメとブルーだ。
料理人と監視人。そして元使い魔のノロがシオンを守るようだ。荷物をまとめて準備を終えたようだ。
「アヤメさん、ルーくん。主様をよろしくね。それと、気を付けて。ちゃんとご飯食べるんだよ?」
マリーがウルウルと瞳を揺るがせてそういった。二人とも眉を顰める。
「もちろんだ、マリー殿。私たちは大丈夫。問題はみんなの食事だ。」
残る、アイカ、マリー、キュラはあまり料理を得意としない。簡単な食事であれば、アイカは作れなくもないがブルーほど上手ではない。
「私がどうにかしますが……まあ、期待しないでいただけると。」
アイカが申し訳なさそうにそういった。ブルーは困ったように眉を顰める。
「困ったら、外食にでも行ってくれ。」
「ええ、考えておきます。とにかく、お気をつけて言ってください。」
アイカはぺこりと頭を下げた。みんなもそこそこに挨拶をする。
「アスター様のことは、任せてね~。」
「はい、よろしくお願いします。」
挨拶を済ませ、ブルーが運転する馬車にみんな乗った。待機組のみんなは手を振って見送ってくれる。それをシオンはしっかり目に焼き付けていた。
「それでは出発します。」
ブルーがそう宣言すると、トントンと馬に触れて指示を送る。彼ら四人は出発した。
流れゆく景色を横目に、三人が車内に、一人が外で馬車を動かしていた。
ふと、アヤメはノロをじっと見る。いまだ、名前しか知らないが、元シオンの使い魔である彼。
元の主はどんな人だったのだろうか、そう思ったのだろう。彼女は口を開いた。
「そういえば、ノロ殿。どうして姿形の変わった主を見つけられたんだい?やはり、魂とやらが関係しているんだろうか。」
頬杖をつき、外を見ていたノロがゆっくりめせんを合わせた。そして、質問の意図を理解しようとするように耳をピクリと動かす。
「ああ……まあ、その変わる瞬間を見ていたってのが正しいな。」
「……ん?」
アヤメは聞き間違いだっただろうかといわんばかりにノロを再度じっと見た。
「つまり、記憶喪失になる前にすでに姿が変わっていたと?」
ノロは違うというように首を小さく振る。
「記憶喪失になる瞬間もそこにいた。」
「……なぜ放置した。」
ノロは気まずそうに口を閉じる。シオンもそれは初耳だったのか、目を丸くしていた。アヤメはそんな様子のノロに静かに言う。
「……もしかして、頼まれたのか?」
「ああ。主に、先に犯人をつぶせって。だからそれを追いに行った。主の指示は絶対だからな。……で、戻ったら消えてた。」
アヤメは何かを思い出すように、瞼を下ろした。ガタンガタンと馬車が揺れる音だけが彼らの耳には届いている。静かな旅路だった。
数分後。ようやく思い出したように、顔を上げる。
「それは私が保護したからだな。」
「……そうなのか。」
ノロは少し安心したような、ほっとしたような笑みを浮かべる。アヤメはゆっくりシオンを見た。
「主殿を見つけたのは、道端。それは、主殿は覚えているだろうか?」
「い、いえ、そのころの記憶は曖昧でして。」
シオンはいきなり話を吹っ掛けられたのに驚いたのか、目線をノロとアヤメ、交互に向ける。それに気づいたアヤメがにこっと微笑んだ。
「主のことは、記憶の神ニウム様が見つけてくれた。道端に倒れて今にも死にそうだが、記憶の管理者にふさわしい器を持っていると。」
「そうだったんだ。」
ノロはさらにほっとしたように胸をなでおろす。よほど心配していたのだろう。置き去りにしたとはいえ、跡形もなく消えていた主人のことを。
「話を戻そう。姿を知っていたとして、なぜ記憶の図書館にいると分かったんだ?」
アヤメが再度尋ねると、ノロは答える。
「俺の妹が見つけたらしくてさ。」
ノロの妹の名前はユリ。光殺し事件に手を貸している悪魔だというが……。
「つい先月。拘束が緩み、脱獄したといわれてね。追ってみたら、こういってたんだ。”やっと見つけた”って。だから何事かと追っていたんだ。」
「それで、シオン殿を見つけたと。」
「ああ。」
ノロはゆっくりシオンを見る。
「魂の色は全く分からなかったが、器自体は同じだ。だから迷わなかったよ。」
「魂の色……。」
シオンはノロの言葉を繰り返すようにそういった。悪魔は人とは違う視点を持っているらしい。シオンが見ている世界も、ほかの人が見ている世界とも同じとは限らないようだ。
「ああ。人にはそれぞれ魂の色や形があるんだ。種族は関係ない。シオンの魂は元は緑色だったんだが、今は紫みたいだな。」
「緑……?」
全く自覚がないらしい。そもそも見れないのだから当然か。ノロはそれ以上語ることはなかったが、疑念が残るばかりだった。
運転していたブルーがふと、振り返り、声をかけてくる。
「そろそろつきます!」
三人はそれに気づくと、ほぼ同時に外を見た。そこには記憶の図書館とは比べほどにもならない大きな白い壁がそびえたっていた。




