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第十八話 今後の方針

ノロはみんなに説明した。把握しきれていない現状と、これからの方針について。

 ある程度、襲撃の理由を説明し終えたノロ。ちらちらとシオンを見ながら静かに言った。


「で、それに勝つにはまずはギルドとの協力は必須。皆さん、前向きに考えてくださっているみたいなので安心している。次に、今残っている光属性はあまり期待できない。勇者はまだしも、一つ使えるか、使えないかぐらいだ。だから、シオン。」


 そう、今度こそシオンをみた。みんなの視線が彼に刺さる。ノロはごくりと息をのみ、頭を下げた。


「無理を承知で頼む。本戦が始まる前に、光属性魔法を極めてほしい。いや、思い出してほしい。」

「……光属性魔法を思い出す?」


 ノロはまっすぐシオンを見て言う。


「主は、世界で類を見ない、光属性を極めた人だった。それしか使えなかったともいっていた。貴方がいれば、この戦いを終わらせられると思う。実際、三年前に犯人を突き止めるまでに至ったのだから。」


 それを聞いていた使用人、キュラが声を漏らす。


「つまり、記憶を失った原因?」


 それを聞いたノロはこくりとうなずく。つまり、過去のシオンは、犯人を見つけて止めようとし、記憶を失ったということになる。点と点がつながるようで、その線はまだあいまいだった。何かをためらうように口を開く。


「その時は、運悪く孤立してしまった。間に合わなかった。……いや、今ここで話してもつらいだけだ。あとで話す。」


 一呼吸おいて、ノロは言う。

「とにかく、みなさんにはシオンの光属性魔法の特訓を支援していただきたい。記憶の管理者である以上、普段の仕事に訓練だと体がもたない。そのサポートを引き続き頼みたい。教師はこちらで用意する。よろしくお願いします。」

 ノロはそういうなり深々と頭を下げた。本当にうわさの悪魔なのかと疑うほど、とても丁寧なしぐさだった。


 アヤメは小さくうなずく。もとよりそうするつもりだ。その当事者であって、記憶喪失であったとしても彼らにとってはたった一人の主なのだから。


 ふと、気になったというようにマリーが手をぶんぶん振る。

「はいはーい。ノロ様はこれからどうするの?ここにいる?それとも犯人さんの行方を探すのかな?」

 ノロはハッとしたように目を見開く。ここにいるという選択肢に驚いているようだった。


「記憶の管理者って、家族だとしても立ち入りが禁止されているのではないのか?俺が出入りしても構わない……ということだろうか。」


 マリーが口を開くと、割り込むようにアヤメが説明した。

「ああ。理由があれば大丈夫。それに今回に関しては、主を守るという名目のもと、実行可能だ。我々は過去に王族の主人を受け入れたことがある。その際、子孫を残すために夫婦ともどもここにいた経歴もある。理由がはっきりしているのならそういうことも可能だ。」

「すごいんだな、記憶の管理者って。」

 先ほどまで、冷静に淡々と言葉を紡いでいたとは思えないほど、ノロは素直にそういった。空気が一段ほど明るくなった気がする。


 それはノロの発言に限らず、キッチンから漂う夕食によるものでもあるだろう。


「ご飯できました。一旦、休みましょう。」


 ブルーが持ってきたのは色とりどりのごちそうだ。あの戦闘をみんなで乗り越えられたという安堵と、ノロというシオンの記憶、追憶蝶アスターの記憶を思い出す鍵がやってきたという喜びを表しているようだった。




 食事が終わると、今日は一旦寝ることになった。使用人たちはあの戦闘でかなり体力を消耗しており、不老不死でも疲れる。痛みを感じる。

 主人よりも先に部屋に戻った。


 残ったのは二人。記憶を失ったシオンと、その元使い魔であるノロ。シオンの自室で、二人夜空を見上げていた。


「不思議な方ですね。ノロ様。」

「……ノロでいい。」

「はい、ノロ。」


 二人とも変に話さず、静かな夜の時間を過ごしているようだった。ノロは先ほどの言葉を理解したように静かに言う。


「俺は、変だ。他の悪魔は主を持ちながら、新たなよりどころを探すっていうのに。俺は、記憶がなくてもあんたといたい。なんていうか、魔法がきれいなんだよ。」

「ありがとうございます。でも、私はまだまだ未熟です。」


 キラキラと輝く星々は二人を照らすように見下ろしている。雲一つない星空。それを異なる思いで見上げる彼らは確かに同じ場所にいたような雰囲気があった。


「未熟だからいいんだ。完璧すぎると、かえって狙われる。俺はあんたを応援しているよ。」


 ノロは黒い髪を揺らしながら、赤い瞳をちらりと向ける。


「そういえば、一つ気になっていたんだが。もう一人、記憶喪失の魂?があるんだろう?名前をなんていうんだ。」


 ノロがなぜ把握しているのかをシオンは疑問には思ったが、静かに答えた。


「彼も名前を憶えていないとのことだったので、皆さんで”アスター”という名前を付けました。追憶蝶と呼ばれる、記憶の書の亡霊あるいは魂そのものです。」

「アスター……ねえ。あのさ、その人とは話せるの?」


 ノロが首を傾げる。純粋な疑問だったらしい。シオンは小さく微笑んで言う。

「今は難しいです。なぜだか、調子が悪く外に出るなり動きが鈍くなってしまうようで。その部屋には記憶の管理者しか入れないので厳しいです。」

「そうなのか。」


 ノロはどこか寂しそうに眉を顰める。それでも文句ひとつ言わなかった。


「シオン。もう、痛い思いさせないから安心して。」


 そういうと、空き部屋へ向かう。そこが今日からノロの住処になるらしい。返事を待たずに向かうノロの背中を見ながら、ようやく長い長い戦いの終わりを感じていた。

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