第54話 そうだ。ここは異世界だった。
「…着いたな」
「…ええ」
「…帰ってこれたにゃ」
「…やりましたね!ボス!」
じゅんきの過去の話で少し暗い雰囲気になった時もあったが、同時に今が幸せであることを改めて知ることが出来たじゅんきとその仲間達はとうとう、デミズへと戻ってきた。
デミズには先に戻って奴隷となっていた獣人達、そして、デミズの獣人達がおいしく温かいご飯を食べたり、家族との再会で一家で喜んでいたりしていた。
「「「「ボス!!!」」」」
「「「ガタル!それに族長も!!」」」
「奥様も帰ってきたってことは!」
「…ああ。無事に成功したぞ!」
じゅんきのその一言により、デミズ中の獣人達は歓喜した。これで帝国とのいざこざも、侵略や、拉致によって家族と別れる事になることなんてないということを、皆は特に嬉しそうに語っていた。
奴隷の身になっていたもの達は、その事柄から救ってくれたじゅんき達に改めての感謝をした。
この光景を見て、じゅんきはやっと終わったのだと思うと同時に、疲れがやってきたので、皆が建物の倒壊等で拡大されてしまった広場を使ってパーティを始める準備を手伝った後に、静かにパーティを初め、騒ぐ皆の元を離れ、休息を取る事にした。
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「ここにいたのかにゃ王混様」
「んあ?…あぁ、ガタルか」
広場の隅の方の家だったものの壁に身を預けるように眠りかけていたじゅんきは、結婚式の綺麗なドレスのままのガタルに声をかけられた。
「どうしたんだ?ガタル」
「…今回もにゃけど、今まで色々と助けてもらったことに感謝したくてにゃ。本当にありがとうにゃ」
そう言って、ガタルは深々とお辞儀をした。
「…いいさ。俺が助けると決めたんだ。無事に皆と、お前が帰ってきて良かったよ」
「…王混様…やっぱり大好きにゃ」
そういうと、ガタルはふぅっと息を整え、改まった姿勢と顔になった。睡魔と格闘していたじゅんきも、ガタルの真面目な表情を見たことで、睡魔は消し飛び、じゅんきも少し姿勢を正した。
「王混様に恋人がいるのはわかってるにゃ。でも、それでも!初めて出会った時から、見ず知らずの私達獣人達を帝国から助けてくれたのを始めとして、帝国で強制的に働かされている獣人達を。そして、帝国にこの身を差し出そうとした私さえも救ってくれたにゃ。そんな王混様に、私は惚れたにゃ。…結婚してほしいにゃ!!」
「…すまんが…」
「ごめんだけど、こいつは私の男なのよ?泥棒猫」
「…トリエス」
「…紫女」
頬を赤らめつつも、じゅんきに告白したガタル。じゅんきは愛すべき恋人シストリエスが居るので、それを断ろうとした矢先に、シストリエスが割って入って来た。
「全く。1番の功労者が何処かに行っていると思えば、こんな所で寝ているし、ここの国のお姫様はその功労者にすり寄るし、ほんと、隅に置けないわね。さて、そんなことは置いておくにしても、泥棒猫…いえ、ガタル?人の男に告白するとはいい度胸してるわね」
「…王混様に私の好意が、伝わらないなんてわかっているにゃ。王混様にはむらさ…シストリエスが既に居て、私の入る隙間なんてないことなんて。でも、それでも、私は好きになってしまったにゃ。だから、せめて好意だけでも…伝えたかったのにゃ」
ガタルの耳も、尻尾をしなしなとなっていった。顔も何処か諦めたような、悲しいような顔だった。
「じゅんき。ガタルのこと好き?」
「はっ?…なんだよ急に…まぁ、好き…ではあるな」
「私ね。最近ずっとずぅっと考えていたことがあるのよね」
そう言いながら、少しじゅんきの元を離れたシストリエスは驚愕のことを言った。
「ガタル。貴方もじゅんきの恋人になればいいじゃない」
「…にゃ?」
「…ぶっふぉ!?何言ってんだ!?」
あまりにも唐突な物言いにより、ガタルとじゅんきは驚いた。
「…王混様大好き。王混様こそ私の全て。他の女が彼に近づこうなら排除すると言わんばかりの独占欲丸出しのシストリエスが…!?…私は嬉しいにゃけどね」
「お前気は確かなのかよ!?」
「ええ。最初は勿論嫌だったわ。隙あればじゅんきに擦り寄って来て、腹が立っていたわ。でも、恋人が居るとわかっていながらも諦めずにアタックする姿勢。そして、自身も守られるだけではなくどうにかしようと試みた姿勢を見て私はガタルのことを認めたわ。…帝国の糞王子の元へと嫁ごうとしていたのは驚いたけどね」
「あ、あれは…にゃあ…」
「わかっているわよ。国を守るためだなんてことは。でもそんな大胆な真似事をするなんてねと思っただけよ」
「…シストリエス」
「でも勘違いしないでね!あくまでも正妻は私よ?貴方は側室!側室よ!」
「それでもいいにゃ!…嬉しいにゃ」
ガタルが涙を浮かべつつ感謝を述べる。同じ男を愛して女同士の熱い友情の芽生えた瞬間!2人でぐっと握手を交わしたシーンで感動の展開!と言う雰囲気だが…
「ち、ちょっと待ってくれよ!」
「なに?じゅんき」
「ふ、2人も恋人ってさ?…ね」
「…王混様は私のこと嫌いなのかにゃ」
「ちげぇよ!そんなこと一言も言ってねぇだろうがよ!」
「なら問題ないじゃない。私も許可したのよ?」
「…そうだが…モラルというか…なんというか…二股っていうのはね…良くないっていうか…」
「モラル?何を気にしているのかは知らないけど、1人の男、女に複数の恋人がいるなんて良く聞く話じゃない」
「よく聞かん…ってそうだ。ここ日本じゃなくて異世界だ…俺からすればだけど」
「日本ではダメなの?」
「駄目」
「…不便な所ね」
「…言うな」
「でも、これにて問題は解決よ。私も認めたし、ガタルも認めてる。それにこの国で何人も恋人を作っても問題ないこともわかったわよね?それに、じゅんきもガタルのこと嫌いじゃない…むしろ好きなのよね?」
「…そ、そうだな…うん。そうだね」
じゅんきは、考えることを辞めた。ここは異世界。別に恋人を何人も作ろうが捕まることなんてない。片方は最初にお互いに惚れ合った半分吸血鬼のクールな美人さん。もう1人は異世界ならではの獣人であり、わんぱく感のある可愛い顔の元気いっぱいな女性。そんな2人が自分のことを異性として好いてくれている現状を男であるじゅんきが1人に絞るなんてことできるはずもなく…
「これからよろしくなガタル」
その一言と共に、じゅんきは思った。
〜拝啓、母さん、父さん、そして俺に優しかった姉貴へ〜
元気ですか?俺は元気です。異世界に来て、クラスの皆とは違う場所に転送されたと思えば、急にマンガであるいきなり最強展開を自分が経験するかと思えば、この異世界で新たな目標が複数できたりしました。道中で封印されていた美人な人を救ったと思えばその人と恋人になり、獣人の国を助けたと思えばその国のお姫様とも恋人になり、見事な二股をすることになりました。だけどよ、思ってもみて欲しい。あんな可愛い顔で迫られて無理って言えるやつはいるのでしょうか?ここが日本なら、自制できたかもしれませんが、異世界で、好きになってくれた女性を女性を全員受け入れることができるとか言われたら、やるしかないでしょう。…そんな異世界でもそんなことを思わない奴が居たら、そいつは多分興味がないか、心が無いです。大人しいところで暮らしやがれください。
…話がずれましたが、俺はきっと、元の世界には戻らないでしょう。この世界でできた彼女と共に幸せに暮らします。お元気で。
誰に届くわけでもないが、心の中でそんなことを思うじゅんきなのであった。
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「ボス…」
「ご、ごくん…」
「に、にゃあ…」
じゅんきとガタルが恋人になって数分もしないうちに、シストリエスに連れられ、ガタルがじゅんきの彼女第2号となったこと、そして、これからの旅に同行させることになる旨を伝えるため、3人はガタルの父親であるユウラの元へと来ていた。
パーティ会場がガタルがじゅんきと恋人になったと言う宣言をすると、どんちゃん騒ぎだったパーティは鎮まり返った。
ユウラの顔はムスッとした顔をしており、3人は息を殺し、ユウラの返事を待っていた。
「…ボス…そんなのはな…」
「ごくん」
「……」
「にゃ…にゃあ」
「いいに決まってるぜ!ぜひ貰ってやってくれ!!!俺の娘をよろしく頼んだ!」
途端、顔をぱあっと輝かせながら、ユウラは持っていた酒の入った木製のコップをバン!と言う音と共に置きつつ、立ち上がった。ちなみに3人はそのコップを置く音にびっくりした。
「ガタルにあんなクズ野郎みたいな男じゃなくてボスのような男が恋人になってくれるなんてな!夢みてぇだぜ!!!お前ら聞いたか!今日は飲みまくるぞ!!」
刹那、獣人達(大人)はうおおお!と歓声をあげ、各々の持っている酒を飲んだ。子供達はその光景に少々ビビっていた。
「な、なぁ、ユウラ。俺、トリエスっていう恋人がいるんだ。それでもいいのか?」
「なぁに気にしねぇ!むしろボスのような男が女複数人居ないの不思議でしゃあないぜ!…ただでさえ、母親を小さくして無くし、変な男と婚姻関係を国の為とはいえ結んでしまいかけた、そんな辛い思いばかりしていたガタルがボスとシストリエスさん達と出会ったことで、あんなにも幸せそうな顔をしているんだ。正妻になろうが側室になろうが、俺にとっては本人がそれでいいならいいさ」
「そう、なのか」
やはり、二股しても、別に気にしないのかとじゅんきは思った。てかこいつも過去可哀想なことになってるな。…その分幸せにしようとじゅんきは思った。
「旅立つのは親としては寂しくもある反面、その旅立ちの仲間がボス達ちなら安心できるという反面もある。だが、いくらボスでも、俺の可愛い娘を嫌な今で悲しませる真似をしたらその時は俺は怒るぜ?」
「…ああ。そんなことはしないさ」
「…頼もしいですぜ。ボス。それでこそ!俺の認めたボス!困った時はいつでも頼ってくれ!力になるからよ!」
そう言って、熱い、今度は男の友情の握手をした。そうして、パーティは最高潮を見せ、じゅんき、シストリエス、そしてガタルはその中で思いっきり楽しむのだった。
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「…さぁ、行くぜ。新たな王を探しに!」
「おおー!」
「にゃー!」
騒がしかったパーティから一夜明け、沢山あった料理も、酒も空となり、辺りでは酔い潰れた獣人達が寝転がっている中、じゅんき、シストリエス、ガタル、そしてライガ、ベアフ、ベアサは目標である王探しを再開するために、ここを旅立つ準備をしていた。
「ガタルよ。いよいよだな…」
「父様…はい!」
「別れは悲しくなるが、旅を共にするのはボス達だから、これほどにまで安心して娘を送り出せるなんてことはない!…だが、あまり皆を困らせてはいけないよ」
「わかってるにゃよ」
「困らせないでねぇ〜?」
すごーく腹立つような…メスガキのような顔でシストリエスはガタルを煽った。ガタルはもちろんキレた。
「…ぶっ飛ばすにゃ!!」
「やれるものならやってみなさーい!」
「うにゃー!今日という今日はやってやるにゃー!」
「…相変わらず、なかがいいですね。兄貴」
「…はぁ…見てる分には楽しいからいいけど」
「…それでいいんだ。てかよく寝転がっている奴らを踏まないな…ほんと」
「ま、でも流石にそろそろ辞めてもらうか…おーい!お前ら置いてくぞー」
「にゃ、それはまずいにゃ」
「やめてぇ〜じゅんき〜」
2人がそう言いながら追いかけっこをやめ、こちらに走ってくる。その光景を見て、じゅんきは自身の空間収納からPRVを出した。
各々がPRVに乗り込んでゆく、その光景を見つつ、じゅんきはユウラと向き合った。
「ユウラ。今まで沢山の苦難があっただろう。しかし、これからもその苦難は続いてゆく。この国で俺が出来ることはやった。その苦難を少なく出来るか、変わらず今までの再来を引き起こすことになるのか、それはお前達次第だ」
「わかっています、ボス。今ありがとうございました」
「よせよ、深々と頭を下げるなんて、俺たちはそういう関係ではないだろ?」
「ボス…はい!」
「お前の娘のことはまかせておけ、しっかりと大切にすると約束する」
「頼みましたよ!ボス!」
男同士の熱い握手が、朝日に照らされる。多くの獣人が寝転んでいる中という少々締まらない構図ではあるが。
そんなこんながあった後、じゅんきはPRVの方へ行き、乗り込んだ後に、PRVを発進させた。
ブロロロロロという豪快なエンジン音が響く。そうして離れてゆくPRVを見て、ユウラは静かに笑顔のまま、涙を流すのだった。




