第53話 過去の話
「じゅんきって、この世界で産まれた人じゃないのよね?」
「え?あ、あぁ」
はちゃめちゃ(にした)結婚式が終わり、じゅんき達一行は先に戻ったユイイトや、ライガ達3人衆。そして獣人達が待つデミズへといつも通りにじゅんきの運転する車で帰還する途中。シストリエスが唐突に聞いてきた。
「会場に来ていたあのクソ男達と知り合いなんでしょ?私、あいつの言ってた「裏切り者」って言葉の意味と、じゅんきがどう言うところから来たのかを知りたいの」
「にゃ!私も気になるにゃ!」
「…俺も気になりますね」
「みんな…はぁ。あいつらとはなんでもない。裏切り者って言うのも当てつけだし、戻る意味の感じられない世界のことは話しても無駄だから言わない」
戦闘する時のような冷酷な雰囲気を出しながら、じゅんきは言った。
「…なんでもないってのは嘘ね。何かあったのでしょう?あいつらと。戻る意味のないって言われたのなら、私は尚のこと気になるわ。じゅんきが元いた世界ではどのように過ごしていたのか、そして、なぜ帰りたくないのかということをね」
そう言うシストリエスの目はキリッとした目をしており、真剣に自分の想い人のことを知りたいと言う心からきている言葉だとじゅんきは察した。
真っ直ぐと真剣に見ているシストリエスを横目に見たじゅんきはすごく話したく無さそうな雰囲気を出しつつも、ゆっくり、ゆっくりと口を開いた。
「…俺の元いた世界…日本と呼ばれる場所は…」
日本。俺の元いた世界。俺自身がその国の産まれであり、同時に育った場所でもある。
俺はそんな日本に聳え立つビル群…ではなく、そこから離れた一軒家の多い住宅街に住んでいた。
父、母、そして俺を含め5人の兄弟達と共に住んでいた。
父親、母親共に忙しく、基本的には兄弟達だけで生活しているようなものだった。
そんな中で俺は一部兄弟から嫌われていたので、たくさんの嫌がらせをされた。
理由は単純。俺自身には特筆した才能が無かったからだと言うありふれた奴。
俺以外の兄弟は全員なにかしらの部分が秀でていた。テストで100を取ることなんて当たり前というくらい頭が良かったり、世界でも覇権を取れるくらい運動神経が良かったり、音楽ができたり…などなど。しかし、俺にはそんな才能なんてなかった。
テストも平均点くらい…なんなら赤点の時も多くあった。運動だって苦手。音楽の才能もなければゲームや料理などの才能があるわけでもない。
そんな俺は才能を持っている兄弟達からすれば無能で、何やっても中途半端なお荷物と思われていたのだろう。来る日も来る日も、両親や唯一俺に優しかった一番上の姉のいない所で殴る蹴るの暴行は当たり前、物を壊される、嫌味、暴言を吐かれるなど、数え出したらキリがないくらいまでの嫌がらせをされた。
だからこそ、家に帰るのは嫌いだった。両親は優しかったし、一番上の姉(頭もいいし運動神経もなにもかもできる完璧超人のような人)は、俺に優しく、俺が他兄弟から嫌がらせされているのを見つけたら、それを止めてくれたりなどなど、何かと姉には助けてもらった。
しかし、嫌なことは続くもので、嫌がらせは家のみならず、学校でも沢山経験した。
原因は愛川 瑞姫という女の子にあった。
俺の中学時代からの同級生であるが、瑞姫は顔が超絶いい美人…なんなら、校内でトップとも言っていいくらいだった。
誰に対しても優しく品行方正で頭のいい彼女がモテない訳もなく、毎日のように男子から告白されたりしていた。
…玉砕していたけど。そんな彼女が毎日毎日地味な俺に話しかけてくる。
その話に混ざるかのように瑞姫の幼馴染である馬童 沙羅も、天野 勇樹もまた校内でトップクラスの美人、イケメンであった。2人も性格も良く人当たりもいい、そんな3人の中にいつもいつも、何故か場違いかつ地味な俺が紛れている。
じゅんき自身は紛れたくはなかったのだが、離れても意味はないし、嫌がるそぶりしてもそんなことお構いもしなかった愛川からの寵愛を受ける俺のことを妬ましく思った男子(特に佐藤達)、天野から心配されたりなどされていたことを気に入らない女子から嫌がらせのオンパレード。
…こいつらは自分勝手だなとじゅんきは思った。
そのせいで当たり前だが、友達も呼べる人物なんて出来やしなかった。
前世でどれだけの罪を犯したのかってくらいの嫌がらせを家でも、学校でもされた。
女子からは天野とお近づきになりたいと願望まるだしの媚びている姿を何度も見せられ、男子たちからはそんな媚びを売ってくる女子に好意を持っていた者、愛川に好意を持つ男子達からのものを隠されるに始まって暴言を吐かれるなどの嫌がらせを受けた。
兄弟もそうだが、嫌がらせしてくる奴らは全員、拳まではあげてこないので、先生にも嫌がらせされているなんて信用なんてされないし、両親、姉に相談なんてできやしないという地獄を来る日も来る日も受け続けた。
自分でもこれらによく耐えたなぁと思う。
そんな俺の自分勝手な奴らの関わりによって腐りかけた人生に転機が訪れた。そう、あの異世界召喚の魔法陣の一件である。
皆が何故か動けなくなっている間、俺自身は何故か動けたと同時に、皆を助けることなく、自分1人のみでここから抜け出さないとと考え、それを気づいたら実行していた。
学校という地獄からは解放されたと思ったが、同時に家が残っている事に気づいたり、俺自身がハマって読んでいた異世界物のマンガなどでよくある展開のことから逃げてしまった事に対しての後悔が産まれた。
しかし、そんなことは杞憂に過ぎなかった。この事象を先生に伝えるべく職員室に行こうとした矢先、自分の後ろが光っていることに気づいた。
さっきのクラスの皆を巻き込んだ奴とは色が異なっていた転移門を見て、俺はこの門逃げることは出来ない、飲み込まれるしかないと悟った。
異世界に行ける。この地獄から解放される。そう思うと、体は自然と逃げることも、先生にこの事象を伝えに行くこともやめ、その門が近づいてくることをただただ待つしか無かった。
その後、俺は門を潜って…
「地球での旅は終わり、ここ、オーライという異世界で、俺は新たな旅が始まったってことさ」
禁断王「ブラック•フォービドュン」との出会いや、自信がその禁断の力を宿したこと、そして、俺自身の目標である、まったりとした生活を送るべく、12の王の力を集める旅をする反面、六王の力も集め、いつかこの世界を欲のままに支配しようとする神の野望を打ち砕こうとしていることなど、まだまだ隠していることは多いことを心の中で俺は謝罪した。
「…そんな過去が…」
「…あり得ないにゃあ」
「……あの瑞姫って女…今度あったら絶対に息の根を止めてやる」
力が強く、解決できない問題なんてないと言わんばかりのじゅんきの姿しか見てなかったシストリエス達は、じゅんきの過去が自分自身ではどうにもならない問題と戦っていたのだという事に気付かされた。
「だが、今は違う。一番上の姉と、両親に別れを言えなかったり、嫌がらせをされていたことをしっかりと言えていたら…という後悔などはあるが、それでもそのことを伝えるためだけに戻りたくなんてないし、もう2度と御免だね。当たり前だが、今の方が楽しいし」
「…そうだったのね。…佐藤…そして愛川瑞姫だったかしら?あいつ、分かりきっていたけど、最低な奴ね。私。あいつらのこと大嫌いだわ」
「…私もにゃ…あいつの目、なんか怖かったのにゃ。それに、愛川?とかいう女も自分勝手な酷いやつにゃ」
「…なんか、すごく重い話にはなったが、今は楽しいぜ。物理的に強くもなったし恋人も出来て、素晴らしい出会いも沢山あった。これからもそんな経験をするのだと思うとワクワクするな」
「…なら、良かった」
「…これからも、いい出会いがあるといいにゃね」
「ボスはこれからもきっと!素晴らしい出会いがありますよ!」
「…俺は今、幸せだな!…目標に向かって進むぜ!」
この世界でまったりライフを送るため、課題はまだまだあるが、これからも出来た最高の仲間と共に旅をしたい、そう思うじゅんきなのであった。




