第55話 なぜだか既視感のある街だ
運転者の持つ魔力を動力源にして走行する魔力機動車。V6のエンジンの豪快な音を辺りに轟かせながら、勲章のような泥を付けているものの、元の色であるオレンジとマットブラックはまるで泥なんて関係ないと言わんばかりに輝いたいる、PRVと名前をつけられたSUVな形をした車は、綺麗に整備された道をぐんぐんと進んでいた。
「じゅんき。これどこ向かってるの?」
「え?知らん」
「えぇ〜。そんな雑にゃ〜」
「兄貴らしいな!」
「だな!」
「そうだな!」
「貴方達ね…適当すぎないかしら」
そんな勇ましく走るPRVの車内はその勇ましさがきえてしまいそうな位わちゃわちゃとしており、この車の運転者であり、この車を作成した張本人である日本から来た異世界人、お気に入り(結構ぼろい)とある悲しい事件(第46話参照)服が破けてしまったので、自分に似合わないかつ結構浮きそうなタキシードを着た王混じゅんきを始めとして、彼の恋人第一号、人間と吸血鬼のハーフダンピール族の元お姫様だった魔女の格好をしたシストリエス、じゅんきの恋人第二号で、猫耳しっぽを生やした猫又、獣人の国デミズの現お姫様のガタル・メリアーヌ。
獅子族という獣王の元で生活をしていた獣人の中でもちょっとだけ特別な獣人だったが、じゅんきの強さを理解したことでじゅんきに着いていくことを決意したライオンのように毛並みの美しいワイルドを体現したような男である元ナンパ3人衆1人、ライガ・レオ、白熊族で体の大きく、白く美しい毛並みを持つ元ナンパ3人衆の1人、お調子者のベアサ・ホワイトそして、そんなお調子者を諌めたりする立場のベアフ・ポーラー(ちなみに。じゅんき、シストリエス、ガタルは彼らの下の名前を知らない)の6人が、PRVに乗っている。
そんな彼らを乗せたPRVは、じゅんきの気まぐれで、整備された道路を走ってゆく。目的はあるものの、目的地はない。そんな不思議な旅は、今日もじゅんきの目的を達成する為、そして、新たな発見などを求めて行くのだった。
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「Japanese 江戸時代!?」
「?」
「お、王混様?」
「え、…なんだって?兄貴…あの街は…」
「江戸時代っすよライガ。…江戸時代ってなんすか?」
「ベアサお前そんなことも知らないのか?江戸時代ってのは…あれだ…なんていうのか…知らん!」
「ベアフ…失望したっす」
「ええええ!?」
じゅんきの一声をきっかけに場は一気に混沌と化した。(主にベアフとベアサのせいで)
「…おほん。皆落ち着け、発端は俺なのだが。江戸時代ってのは、この新しく来た街の風景を見て思ったんだ。俺の居た日本の昔あった時代を指すんだがな?あのような木造建築に、立派な石垣が支える城に…俺はその時代を経験したわけではないが、本で見たり、残っている城と全く同じでな…ついつい」
「な、なるほどね」
「理解したにゃ」
「「「なるほど!!」」」
「ちなみにあの街はなんて名前なんだ?」
「ドエラっていう国ですよ。遥かに昔に転生者が造った街と言われてます」
「なるほど、だから既視感があったのか…状況まで同じような感じじゃないといいが…取り敢えず行ってみようぜ」
じゅんきの一言で、皆で車から降り、車をじゅんきが収納した後に、皆で少し歩いて街への入り口まで向かうのだった。
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「なんか、監査官にも変な目で見られたし、周りの人からの視線もすごいのだけど」
「…当たり前にゃ。だって…」
ガタルは困った顔でシストリエスの質問に答えながら、自身の格好、そして他の皆の格好を見ていった。
「私は一応隠さないといけないところは隠してるだけだし、シストリエスは魔女にゃし、王混様はこれからパーティにでもいくのかってくらいのタキシードを着ているのにゃよ?」
「あ、あ〜」
ドエラに入って数十分、ライガ、ベアフ、ベアサが用があると離れたのを不意に見つけた茶屋で3人が帰ってくるのを菓子を食べて待っているじゅんき、ガタル、シストリエスは、自身達が人々の注目の的になっていることを不思議がっていた。
辺りの人はTHE・冒険者という見た目のやつもいるものの、大抵は男性は袴だったり、女性は着物という和装と呼ばれるものをしている。
そんな中でパーティで着た服しか持ち合わせていなかったじゅんき、魔女の服装のシストリエス、大事な部分のみしか隠していないガタルは当然だが、人々からは注目されていた。
「兄貴〜」
視線が…辛いぜとじゅんきが心の中で思っていると、ライガの呼ぶ声がしたので、じゅんきは声の方を向いた。
「…ら、ライガ?」
「どうすか?兄貴」
「…ベアサもベアフも、まさかおみゃーら」
「そうっす!俺たちは!」
「ここにたびたび遊びに来ていたんですよ!」
ライガ達がそう言いながらどやっと自慢をするかの様に服を見せびらかす。ライガは長着の袖口に手を入れず、羽織る感じで白色に青色の火焔文様の長着、ベアサとベアフはしっかりと袖口に手を通すしっかりとした着こなしだが、ベアサのは抹茶のような緑色に黄色の鱗文様、ベアフのは赤色に白色の市松文様の長着を着ていた。ライガはまだしも、ベアフとベアサは白熊の体を少し人間らしくしただけであるような見た目の為、体が白く、結構浮いた感じになっているが、本人達は気にしてなさそうなのでじゅんき達も気にしないでおいた。
「…獅子族、白熊族の誇りは…」
「シストリエスの姉御…俺たちはあそこでは街一番の情報通だったんですよ?」
「遊び人…おみゃー達はそれでも獅子族と白熊族なのかにゃ?」
「ガタルの姉御…当たり前じゃないですか!!」
「そうっすよ?」
「あ、そうなのにゃね」
獅子族、白熊族の誇りがないのかよこいつらと頭を抱えたシストリエス、ガタルの横で、獅子族と白熊族のことをなんとなく触りしか知らないじゅんきは「???」という顔を浮かべていた。
「そんなことよりも、兄貴も姉御達も服!買いに行きましょうぜ!」
「そうっすよ!今の格好では浮きすぎっすよ!俺たち良いところ知ってるんで!」
「…それもそうだな。行こう。トリエス、ガタル?」
「…そうね。そうしましょう」
「…そうするにゃ」
2人は考えるのをやめた。そんな2人と、なにもわからないじゅんきは、ライガ達に連れられるまま、歩くのだった。
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「おおおおお!軽いし、綺麗し、良い感じだし!…これからこの服を普段使いしようっと」
「兄貴!すげぇ似合ってますぜ!」
ライガ達のおすすめする店に来て数十分、じゅんきはシストリエスとガタルと別れ、ライガと共に新たに普段使いできる長着を見つけた。紺色で模様はないものの、伸縮性の高く、実用性の高い服だったので、自分にも馴染みのあって軽く、その長着を気に入ったじゅんきは普段使いする為、複数購入し、ついでに革靴だと変なので、下駄も購入して、ライガと共にウキウキで店を出た。
「兄貴!兄貴はシンプルな模様なしにしたんすね!」
「兄貴!いけてます!」
「まぁな。俺はあのタキシードをずっと着てるわけにもいかんからな。シストリエスから貰ったとは言え重たいし、なんせ似合わんからな。普段使いも兼ねて複数買った!…ま、稼いだ金の4分の1の金がこれで消えたんですがね」
「それは仕方ないですよ…兄貴」
「まぁ、兄貴も服を手に入れられてよかったじゃないっすか?」
「まぁ、それもそうか」
「じゅんき〜」
「王混様〜」
新たな服を買えたことについての話をじゅんき達男衆がしていると、シストリエスと、ガタルの声が聞こえたので、じゅんきたちは声のした方へと向いた。
「…wow」
「…おおぉお」
「…な、なんっすか?」
「…あね、あねねねね姉御達!?」
通り行く人たち全員が2度見…いや、3度見してしまうくらいの美しい着物と整えられた髪で現れたシストリエスとガタル。
シストリエスは紫色をベースとして、ピンクや赤色の花の模様の描かれた着物を着ており、さらさらで綺麗な紫色のロングの髪の毛は綺麗に編み込まれたりして短くなっており、自身の美貌もあってかなり大人びた雰囲気を醸し出している。ガタルは黄色の着物に猫の肉球になっている黒い模様が点々とあり、わんぱくな感じが出て良い感じになっている。
「どう…かしら?」
「…重たいにゃ」
「…ああ。可愛すぎて昇天しそうだ」
「…ちちちょっと!じゅんきー!」
「あわあわわ…王混様〜!」
じゅんきは2人の可愛さを見てなんか口から白く薄くなったじゅんきの魂的な奴が出てきたのを見て、大慌てでシストリエスとガタルは魂を戻した。そうしてじゅんきが昇天することを阻止した後、じゅんき一向は街を散策し始めるのだった。
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「…あぁ。染みる」
「おいしいわね。これ」
「サクサクで…おいしいにゃー!」
「ふっふっふ〜」
街中のとある食事処にて、周りの視線を集める6人の集団がご飯を食べていた。
「天ぷら…ではなく、テンフラってな…」
「じゅんきの世界にもあったのー?」
「ああ。というより、この街って転生者が作った街なんだろ?それならこの風景に、このテンフラと、納得がいくぜ。この街は日本からの転生者の作った街だとな」
「なふほどっふ!あにひはこんなおいひいものをひっふへへっへ」
「口にものが無くなったから喋ろうなベアサ。汚い」
美人2人。その美人の真ん中に座る髪の白く、身長のある男。その向かい側にはそれと同格くらいの背丈でありながら、体のごつい獣人3人。なんとも歪な光景であり、全てにおいての偏差値の高そうな6人を周りの席の人や店員が気に留めないわけもなく、皆がじろじろと見ていた。
「…にしてもみんな見てくるよなぁ」
「…俺たちもここでよく遊んでましたからね。顔見知りの獅子族や白熊族の俺たちが兄貴のような高身長イケメンや、姉御達の様な美人さん連れてきていたら驚かれますよ…てか顔面偏差値がたけぇんですよ!」
「…シストリエスとガタルはそうとしても、俺そんなだと思うけどな」
「…兄貴…自分では気づかないものっす」
「そうですな」
「そうなのか」
自身がイケメンであるなんて思っても見なかった(だって自分の周りには遥かに自身を凌駕する人たちがいたから)じゅんきは周りのことのなんて気にしないでおこうと思い、飯を食べるのだった。
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「…ライガ?ライガ達じゃねぇかよ!」
「…おぉ!!」
「お前らー!」
「よう!ライガ、ベアフとベアサ!アイス・フォレストに帰ったんじゃないのか?」
「いやー!急に帰ってきたと思ったら、こんな美女2人にイケメンの男を連れてきて…どうしたそいつら?」
「…ライガ?」
天ぷら、もといテンフラを食べ終わったじゅんき達はライガ達の案内の元、色々な場所に行っていた。八百屋や肉屋などの食料品、生活用品や武器などの必要物資系を見たりしていた。
そんな中で、じゅんきの2、3くらい年上で、背丈はじゅんきと同じくらいだろうが、体がライガ達並に大きな男衆にライガ達が話しかけられた。
「兄貴!紹介するぜ!こいつらはドエラ建築で働く職人達だ!俺たちがここへ遊びにきた時によく色々な場所を紹介してくれたりしてくれた奴らなんだ!そしてこいつはドエラ建築を束ねるシビルっていうんだ!」
「どうも!俺はシビル・ウッド!ドエラ建築の大黒柱とは俺のことよ!」
部下であろう人たちはシビルがムキッと自慢の筋肉に力を入れた時、大拍手をした。…なんかライガ達がこいつらと仲良くできたのがなんとなく想像がついたじゅんきである。
「シビル!この人が俺らの兄貴!王混 じゅんきの兄貴だぜ!」
「…兄貴?舎弟じゃなくて?」
シビルのその一言に、シストリエスとガタルは明らかな殺気を放った。
「…!?!?ち、ちちちがいますよ!俺たちが舎弟の立場なんだよ!」
ライガとベアフ、ベアサは顔を真っ青にしながら全力否定をした。
「そ、そうなのか?…そいつはすまなかった…だが、ライガ達を倒すってことは相当な実力を持っているんだな?」
「ああ!獣王様も認めて力を譲ってやれるくらいの…な」
「な、なんだと!?獣王様って!!こいつが?」
「…ちょっと!貴方さっきから何?私たちのダーリンのことを随分と悪く言ってくれるじゃない」
「…だー…りん?」
「そうよ。私、シストリエスとそこの猫耳の子ガタルが愛し、愛してくれる人なのよ?悪く言わないで貰えるかしら」
うんうんとガタルが頷く。シビルは見知りあった相手の恋人ではなく、目の前にいる細っこい白髪の男の恋人という事実に驚いていた。
「す、すまない…王混さん」
「まぁ、普通は逆だと思うよなぁ。仕方ないさ」
「…ははっ。ライガ達のような荒くれ者がお前達に付き従う理由がよくわかったぜ」
「兄さん!仕事っす!」
「わかった!…ライガ、ベアフにベアサ。久しぶりに出会えて良かったぜ。…王混様達も元気にしていろよ」
「ああ!また会える時をたのしみにしてるぜ!シビル!」
「…またな」
「…あ、言い忘れていた。王混様、将軍様には気をつけてください」
「…?」
「最近、ここの将軍が入れ替わったんだ。噂に聞くと、かなりの暴君でな、女癖と浪費癖には酷い。この前もこの街に来た美人な冒険者を無理矢理自分の女にしたりとかしていたからな。そこのお嬢さん2人、かなりのべっぴんさんだからな。見つかればめんどくさいことになると思う。…ライガ達が認める奴らだから、只者ではないのは分かるが…一応…な」
「ふん。私達がそんな下劣な男に捕まったりしないわよ」
「…一応は気をつける。ありがとう」
「ああ!ではな!」
そう言って、シビルは慌ただしく行ってしまった。
…暴君ってな。嫌な予感がするとじゅんきは思ったのだった。




