終章04
「茶々丸、聞こえる、目を覚まして」
天使たちが、墜落して行く茶々丸の翼を押さえようとしていた。
一瞬、何が起こったのかユウにはわからなかった。
天使たちが弾き飛ばされ、目をぎらつかせた茶々丸が襲い掛かる。
「ユウさんには無理だ。それを私に」
「大丈夫。私がしなければ、意味がないの」
奇声を発しながら、大きく裂けた口をユウへ向けてくる茶々丸へ力いっぱい剣を振り落す。
鈍い感触が手に伝わってきて、ユウは剣を落としそうになる。
「ユウさん大丈夫」
黒い羽が飛び散る。
「松浦さん、彼を、茶々丸を助けて」
「ユウさんの頼みでもそれはできません。これが彼への裁き」
「違います。彼は、罪なき者。裁きなど受ける必要はないのです」
「これは」
羽を失ったと思われた茶々丸の背に、白い翼が生え出していた。
「黄泉に参り、花を積んでまいりました」
「生命の源をか。しかし、生きた者は参れぬはず」
草花たちが優しく茶々丸の躰を受け止める。
鳥や虫たちが心配そうに、囁きあう。
そっと降り立った松浦が、ユウの目を覗く。
「ヒラーヌはどうされました」
ユウは居た堪れず、目を伏せてしまう。
「何て愚かな」
懐へ忍ばせてあった花を手に、ユウは松浦から離れて行く。
髪の色が、黄金色に戻っている茶々丸を見て、ユウが小さく微笑む。
「やっと会えた」
今にも笑い出しそうな口元へ、指を這わす。
「あなたの本当の名前はギルバードて言うのね。ちょっとやんちゃな天使さん。あなたには、弟思いの兄がいたのよ。エメラルドグリーンの瞳を持った、優しい天使だったわ。あなたを守るためにね、命をね」
私はそっと唇を合わす。
小さく息を吹き返す茶々丸を見て、ユウは大きく息を吸い込む。
そして、ヒラーヌに教わった通り主の祈りをささげ、ぺんぎんを茶々丸の胸へ押し当てる。
「これはあなたのもの、すべてを返すことを、我、ここに願う」
花弁で集めておいた朝露を、私は茶々丸の口へと流し込む。
「ユウさん」
肩にそっと手を置いてくる松浦を、ユウは顧みる。
小さなうめき声を上げて、茶々丸が目を覚ます。
その拍子に、胸から何かが落ちる。
「これは、私が預かってもいいね」
松浦が拾い上げ、優しく訪ねる。
ユウは小さく頷く。
何もなかったように、茶々丸が起き上がり、私の存在などまるで気が付く様子もなく翼を広げる。
松浦の胸に引き寄せられ、温かいものを頭上に感じながら、目の前が真っ白になる。
ゆっくり瞼を上げ、しばらくぼうぜっとしていたユウは飛び起きる。
いつの間にか、私はベンチでウトウトしてしまっていたらしい。
えっ? 何で涙?
すごく悲しい夢を見ていたような気がするけど、大きく伸びをしたユウは肩を窄め歩き出す。
カバンの中に入れてあった携帯を開く。
状からの着歴に、嫌気を感じながら駅へと急ぐ。
ユウは、誰かに名前を呼ばれた気がして、ふと足を止める。
真っ青の空が広がり、気持ちがいい春の日。
桜が散り、まるで絨毯でも敷いたかのように、一面が淡いピンク色に染められていた。




