終章01
無残に弦が引き千切られ、傷を負ったテーデがうめき声を上げる。
ヒラーヌは、私にすべてを託し、崩れ落ちてしまっていた。
強い風に煽られて、ヒラーヌの躰からすべての羽根が抜け落ち、あっという間の出来事だった。ひとひらの羽根を残し、その姿を消し去ってしまっていた。
天使でいられなくなるくらいならば、この矢で一突きして欲しいと頼まれ、最後のとどめをさしたのは、まぎれもないこの私だった。
「穢れを知ってしまった矢は、もはや愛のためには使えぬ。堕天使として生き抜くことは、望まぬ」
その直後、茫然としている私の目の前に、よろよろと茶々丸に戻った、ギルバードが姿を現す。
「ユウさん」
弱弱しい声に、私は顔を上げる。
見れば、片目ずつ瞳の色が違っていた。
「茶々丸。大丈夫なの?」
よろけながら、私の腕の中へと倒れ込んできた茶々丸が、寂しく笑う。
「兄上は」
「……」
「天にましましたか」
私は何も答えることが出来ずにいた。
「ユウさんは、相変わらず、孤独が見えますな。小生は、きっとそれが良くて惹かれたんでしょうな」
「茶々丸」
急に苦しみだした茶々丸が、私を突き飛ばす。
着流しがちぎれ、黒い翼が背に大きく広がる。
瞳の色が赤く、鈍い光を放っていた。
まるで獲物を吟味するように、その鋭い目が、私を睨みつける。
その恐ろしさに、私は足をすくませてしまう。
「茶々丸」
急にじたばたし始める茶々丸に、私は目を瞠る。
翼をばたつかせ、変わってしまう自分と戦っているようだった。
「待って」
苦しみながら、翼を広げ大空へと飛び立とうとしている茶々丸を、私は必死で呼び止める。
「見つけましたよ」
その声に、ギョッとしながら私は振り返る。
凛と立つ松浦である。
その場に凍り付いた私の目の前で、姿を変えた松浦は茶々丸へ向かって行く。
「逃げて」
私の叫び声が、松浦があげた風圧に掻き消されていく。
二人の羽が乱舞し、私は強くぺんぎんを握りしめる。
「これは願い事を叶えてくれるんだ」
友暉が眩しそうに目を細めて言う。
「バカな弟を助ける手立ては、たった一つだけある」
苦し紛れにウヒラーヌのエメラルドグリーンの瞳が、じっと見つめる。
「ユウさん」
青空を見上げていた茶々丸が振り返り、微笑む。
白いブランコに二人揺られ、小鳥たちの調べに笑いあった記憶が、私の手を震わせた。




