第六章 探究者06
応対に出てきたのは、髪がボサボサで野暮ったい男だった。
話の感じだと、寺田と、この宗像と名乗る男は知り合いらしい。
親しげに話しながら中へ入っていく寺田をしばし傍観してしまっていた私は、名前を呼ばれハッとなる。
どうしてか分からなかった。
一瞬、宗像と目があった時、フワッと青空が見えた気がしたのだ。
仕事道具を広げながら、ソファーに所在なく座る宗像のことを、寺田が話し始める。
「こいつとは、古くからの知り合いで」
「客に対して、こいつはないだろう」
「ああそうでした。この方はこのマンションのオーナーであるご子息。宗像孝之。父親の資産に甘んじて、今ものうのうと仕事もせずにのんびりと暮らしている」
「おい、どういう言われ方だよ。俺様は、画家。アーティストなんだよ」
「はいはい。じゃあユウはキッチンの掃除しちゃって、俺、風呂場やっつけて来るから」
ふてくされるように身を沈める宗像を、私はチラッと見る。
なぜだろう。
喉の奥が急に切なさで締め付けられてしまうのは……。
あまり料理などしないのだろう。
換気扇もガス台も目立った汚れもなく、新品に近かった。
「あんた、名前、何て言うの?」
いつの間にかやって来ていた宗像に話しかけられ、私はドキッとなる。
「フーン、箕輪ユウキって言うんだ」
胸のネームプレートを目敏く見つけた宗像が、一人納得するように頷く。
「ね、あんた、彼氏とか居るの?」
「い、いませんけど」
目を除かれるように聞かれ、私の顔が火照ってしまう。
「もしかして、あいつとできてたりする?」
目配せさせながら聞かれ、私は俯いたまま、首を大きく振り否定した。
寺田とは、一度もそういう仲になったことがないかと聞かれれば、断言できないのだ。酔った勢いとはいえ、キスをしてしまった経緯がある。付き合ってくれとは言われてはいないが、気が付くと、軽作業はほぼ二人っきりで動いていることが多い。
そういえばふと、私は二人に似たものを感じていた。
一度目が合ってしまうと、なかなか話せないのだ。
好きとか嫌いとかそういうのを通り超え、一瞬、時間が止まったかのように、動けなくなってしまう。
「そんなのいいからさ、ちょっとこっちに来てよ」
無理やり手を引かれ、寝室へと私は連れていかれてしまう。
「あのこういうのは」
反論する暇もなく、私はベッドに押し倒されてしまっていた。
「雌豚。俺に従え。今日からお前は俺様の奴隷だ」
「嫌、放して」
「寺田も、分かっていて俺とお前を二人っきりにしたんだ」
「ウソです」
「ウソじゃない、その証拠に、いくらお前が大声をあげても、奴は助けに来ない」
「嫌っ。止めて。誰にも言わないから」
前髪が乱れ、鋭い眼差しが私の目を覗いていた。
どんどん宗像の瞳の奥へ吸い込まれ感覚に襲われ、私の躰がぽっかりと宙を漂う。
「君は待つだけ。鍵が勝手に、見つけてくれる」
目の前に一面の青空が広がっていた。
見えない誰かの手に包まれるように私は、引き戻される。
壁際に追いやられた宗像が、苦々しく私たちを見ていた。
「寺田さん?」
無言で私を抱き上げた寺田が、宗像に向かい言い放つ。
「最悪だ。この役立たず」
しばらく、震えが止まらずにいた私に、寺田は平謝りをし、今まで以上に優しくなったのは言うまでもない。




