第六章 探究者04
火が弾ける音で私は目を覚ましていた。
ぼんやりとした視界に、大柄な男性の背中が入る。
躰に強い衝撃を受け、私は気を失った。そこまでに記憶はある。しかしその先も前もほぼ真っ白で、何も思い出せずにいた。
霧が晴れるように、視界がはっきりしていた私は、見たことがない部屋の様相に、私は慌てて飛び上る。
レンガ作りの部屋。
「あの」
無造作に振り向いた男に睨まれ、私は目を見開く。
全然別人に思えたのだが、どこをどう見間違えてしまったのだろう……。
口元を少しだけ上げた笑みを浮かべた松浦だった。
「松浦さん、どうして、ここはどこなんです」
私の質問に、松浦は首をすくめて見せる。
瞳が炎を吸い取ったかのように赤く燃えて見えてしまうのは、気の性なのだろうか。
私は後ずさり、その場から逃げ出そうとするが、恐怖のあまり、ピクリとも動こうとしてくれなかった。
松浦がじわじわと近づいて来ていた。
「ユウさん、私だけを信じてくれますよね」
「あなたは誰?」
「私はあなたの思い人ですよ」
「違う、私が愛しているのは」
私は言葉を詰まらせてしまう。
「さあどちらです?」
空を物憂げに見上げる茶々丸が振り返り、微笑む。
桜の花びらが舞い散り、ショウが得意げにハーモニカを吹く。
「君は待っていればいい。鍵は必ず君を見つけ出す」
不意に友暉の声が割り込み、辺りを照らしていた白い光は無くなり、闇が覆い尽くす。
自分の身に、何が起こっているのかさっぱりわからなかった。
やたら長い、悪い夢でも見ているのだろう。なら、早く目覚めさせて。
私はこの恐怖から逃れたい一心で、強く願う。
胸に抱いていたぺんぎんがはじけ飛び、四方八方へ破片を飛ばす。
光が乱反射し、天へ延びて行く。
ぽっかり空が割れ、大きな穴がそこにはあった。
「愚かな娘よ。もう二度と愛する者は戻らないであろう」
地響きをも感じさせる湧きあがった声だった。
ぽっかり空いた穴が塞がれ、一面の青空を仰ぐように、私は目を覚ます。
公園のベンチで、私はいつの間にか眠ってしまったらしい。
カバンの中で携帯が鳴り出す。
上司からの電話だった。
電話を取り出した時、一枚の紙片が落ちる。
時計の修理預かり書だった。
今日の仕上がりになっていることに気が付き、私は駅に向かってノロノロと歩き出す。
人の群れにまぎれ、流されていく私に、もう茶々丸と過ごした記憶はなかった。
ダメだ。復旧しようとすればするほど崩壊していく。




