第四章 鑑定士07
「ユウ、私よ。分かる?」
顔を覗き込んでいた美和子と目が合う。
ぼんやりと思考を巡らす。
「大丈夫?」
瀕死状態になった美和子が、唇を動かす。
「全部、あなたのせいよ」
私は目を見開く。
「……ユウ?」
ようやく、のろのろと頷く私を見て、美和子がホッとした顔を見せる。
「ここは?」
「病院よ。あなた、倒れちゃったのよ」
小さくドアがノックされ、金森が入って来る。
「気が付かれましたか。驚かさないでください」
壁際から椅子を持って来た金森が、笑いながらそう言うのを、私は小さくなって謝る。
「しかし」
嘆息を漏らした金森は、美和子と顔を見合す。
真顔の金森が、口を開きかけるのと同時に、私はドアの前に立つ茶々丸の姿を見つけ、起き上がる。
「茶々丸」
「ユウさん、迎えに来ました」
顔を綻ばし、ベッドから抜け出そうとする私を、ユウが引きとめる。
「待って」
「今、先生と話してきました。もう帰っていいそうです」
いつの間にか傍までやって来ていた茶々丸に手を差し伸べられ、私は躊躇うことなくその手を握る。
病院を出ると、もうすっかり、夜のとばりがおりていた。
夜風が、すそに纏わり付くのを眺めながら、私は腕を捕まえ茶々丸の隣を歩く。
「ユウさん」
改まった声で名前を呼ばれ、私は目を上げる。
至って真面目な顔をした茶々丸は、真っ直ぐ前を向いたままだった。
「小生、あの二人のこと、あまり好きになれません」
唐突に言われた言葉の意味を理解するのに、私はしばらくかかってしまう。
「ユウさん、小生のこと、好きですか」
今日の茶々丸は、どうしたのだろう。頬を赤くする私を見て、茶々丸の瞳が一瞬、青空に変わる。
「じゃあ、小生の言うこと、訊いて貰えますね」
「あの二人の言葉は、信じないで欲しい。あの二人はかどわかしです」
「かどわかしって」
ふと立ち止まった茶々丸が、私の髪を撫で、口付ける。
躰から力が抜け落ち、立っているのがやっとの私は、茶々丸が動かす唇にコクンの頷く。
足元を、枯葉が転がって行く夜道を、私は一人歩いて行く。
踵を返した茶々丸は、忽然と現れた青年に一瞬、動きを止めるがすぐ、何もなかったかのように、その横をすり抜けて行く。
闇に同化する翼を広げ、一羽の烏が飛び立つ。
部屋に一人戻った私は、青光りしているぺんぎんを手にして、寝転がる。
「お前は俺の物。さぁ心を開いて」
茶々丸に囁かれた言葉が、耳から離れなかった。
掲げたぺんぎんの腹に、渦巻きが見え、私の中に眠っている何かが目を覚まそうとしていた。
目の前が眩しくなり、無数に放たれる閃光。
窓ガラスが、ガタガタ音をたてだす。
「願い事を叶えるには、鍵がなくっちゃね」
ふと友暉の顔と言葉が、頭の中に蘇る。
シュルシュルとしぼまる光に、ハッとなった私は明かりをつける。
転がっているぺんぎんに、照明が映されていた。
外で物音が聞こえた気がした私は、ベランダに出てみる。
何もなかった。
戻ろうとして、足元に落ちている真っ黒な羽根を拾い上げる。
酷く嫌な気分になり、すぐに手を放してしまった私を、闇にまぎれるように一羽の烏が眺めていた




