第二章 弁護人05
数回、人の入れ替えを繰り返しながら、最寄駅に着いた電車から降りた私は、目を大きくして立ち止まる。
「ショウ?」
ニコニコしたショウが、私に向かって手を振っているのだ。
見間違いではないかと、袖で目を擦り見直すが、間違いない。
ショウはそのまま、私に向かって歩いて来る。
「よっ」
半瞬遅れて、私は、どうしたのと驚きを隠せないまま訊き返す。
「これ、返そうと思って」
手にしていた袋を押し付けるように渡され、中身を見て再び驚いてしまう。
「これ?」
「返したから」
そう言うと、私の横をすり抜けて行こうとする、ショウの腕を掴んだ。
「返されても困る」
「じゃあ捨てれば」
「そういう問題じゃないでしょ。親は、親は何て言っているの?」
そんなやり取りをしている私たちを、好奇な目をした人たちが割れるように流れて行く。
ポケットに手を突っ込み、訝しがるように見上げてくるショウ。
電車の発着ベルが鳴り響く。
ショウは私の手を振り切って、電車に飛び乗ってしまった。
いったいどうなっているのだろう。
布団に包まるショウの姿が、脳裏をかすめて行く。
考えれば考えるほど、辻褄が合わない。
私は、電車が走り去ってしまったホームを、いつまでもいつまでも見つめていた。
まんじりも出来ず、私は朝を迎えると、部屋を飛び出す。
どうしても解明したい。解明しなければならない。
でも、その前にやらなければならないことがある。こんな中途半端な気持ちでいられる方も困るだろう。私は営業などさらさらする気などない。人と話すことすら、今は煩わしいのだから。
上司が驚きを隠せない表情で、引き留めようと言葉を並べる。
社交辞令的で、何の感情移入などされていない言葉。
私にとってどうでもいいことだった。
これで私は自由だ。
踊り出したい気分で、私は茶々丸に会うため、駅に向った。
花吹雪が私を歓迎しているようだった。
リコーダーの音が聞こえ、私は足を止める。
茶々丸? それにショウ。
吹き終わった茶々丸は、透き通るような青い空を見上げる。
私はドキッとしていた。
前にもどこかでこんな光景を見た気がする。
ショウも同じように、空を見上げていた。
その姿は、話しかけていいものかどんなものか、私は固唾を飲みこむ。
ふっと表情が和らいだ茶々丸と、目が合う。
「なんだよ。来ているな来ているって言えよな」
ショウが生意気な口をたたく。
私の中にある疑問符は、この瞬間、消滅していた。
私も二人の横に並び、空を見上げる。
「綺麗」
舞い散る花弁と空。
そして、茶々丸は心地の良い音色で聞いたこともない曲を奏で始める。
それにショウが、言葉を乗せる。
すべてが、どうでも良く思えてくる。
ずっとこのままでいたいと思う私に、水を差すように、ずっと忘れていた友暉の言葉が頭の中に蘇る。
「どんなものにも副作用はつきものさ。何かを得れば何かを失う」
ふと、二人を私は見てしまう。
この幸福な気持ちは、いつまでも続かないってこと?
そんなこと、絶対にある訳ない。
私は、頭に浮かんでしまったん言葉を打ち消すように頭を振り、二人と並び、満面の笑みを向ける。
今は今だけはすべてを忘れたい。
曲が鳴り止み、茶々丸の柔らかな髪が風に吹かれ、青空のよう瞳が私をじっと見る。
「私……、あなたが好き。愛しています」
思わず口にした自分の言葉を噛みしめ、茶々丸の瞳をじっと覗き込む。
「小生もです」
心が震えていた。
ショウが舌打ちをしたことも、桜の木に大きな鳥がそんな二人を見下ろしていたことも、その時の私には気が付くことが出来なかった。




