デジャブのような感覚
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
順調だな、と。
俺が心の中でほくそ笑んでいると、
「おい。A組の連中が何の用だ」
B組の教室の前に差し掛かったところで、一人の男子生徒がしかめ面で話し掛けてきた。
「A組だからって威張ってんじゃねーぞ。お前らと俺たちの差なんて、すぐに埋められる程度のものなんだからな」
口ぶりから察するに、この男子生徒はB組なのだろう。随分と喧嘩腰の物言いだ。
恐らく、自分がA組になれなかったことで、A組の俺とアミに嫉妬や対抗心を燃やしているのだろう。
(……あれ? なんか、こいつ、会ったことがあるような気がする)
存在するはずの無い記憶……というか、ループして時間が巻き戻った際に失われてしまった記憶の残滓が、デジャブのような違和感を訴えかけてくる。
「――――お前、もしかして、ラップか?」
「は? お前、なんで、俺の名前を知っているんだ?」
名前を言い当てられたラップは、怪訝そうな顔をして俺を睨み付けた。
(やっぱり)
一方、予感が的中した俺は、テンション爆上がりになっていた。
これも、現状を維持する能力「強くてニューゲーム」の恩恵なのだろうか?
反復練習で体に覚えさせた剣の技術が、ループした後の周回でも経験値として体に染みついているように、ループする度に知り合って交流を深めた相手のことは、既視感になって記憶に訴えかけてくるようだ。
それを初めて実感した相手が男のラップだったことは、誠に遺憾であるが。
何にはともあれ、相手がラップであるならば、俺の対応は決まっている。
「お前、B組なんだよな?」
「だったら、どうした?」
「俺はA組なんだ」
「……」
「よろしく!」
「うるせぇ!」
馬鹿にされたと感じたのか、眉間にシワを寄せて突っ掛かってくるラップの肩を、俺は落ち着けと言わんばかりに押し留めた。
A組になった後も、ラップとの交友関係は維持する必要がある。活動の拠点がアセビの町である以上、ラップの「町長の息子」という肩書きには利用価値があるからだ。特にラップの口利きがあれば、衛兵や役人を動かしやすくなるのは大きい。
ただ、親交を深めるために、俺の方から足しげくラップに会いに行くのでは、正直、時間と労力を浪費している感が否めないので、もっと手っ取り早い方法として、俺はラップのやる気スイッチを、さっさと入れてしまうことにしたのである。
「まあ、聞けよ。文句ばかり言っていても、何も変わらないぞ? 他人を妬んだり、羨んだりする暇があるのなら、一回でも多く剣を振るんだ」
「は?」
「お前が愚痴を言っている間にも、A組の生徒は黙々と剣を振っているんだぞ」
「……ちっ」
正論を言われて、ラップはふて腐れたように黙り込んだ。
ラップの言うように、もし、A組とB組の差がほんの少しのものだったとしても、その差を埋めるには、質や量でA組を上回る努力を積み重ねるしかない。それができなければ、ほんの少しの差は、アキレスと亀のごとく永遠に埋まることはないのだ。
「もっとやる気を出すんだ。お前にならできる!」
「な、何なんだよ、お前は……!」
唐突に始まったガチの説教とガチの激励に、ラップは恐れおののいているようだ。
「そんなこと、言われなくても分かってんだよ!」
「そうか……。なら、いいんだ」
そう言って、俺はぽんぽんとラップの肩を叩いた。
「頑張れよ。――――上のステージで待ってるぞ」
「うっせぇ! さっさとA組の教室に行け!」
そして、俺は突き飛ばされるようにしながら、A組の教室に向かった。
これで、ラップは俺に対抗心を燃やして、事あるごとにウザ絡みしてくるはずだ。後は俺も追い抜かれないように努力しながら、互いに切磋琢磨していけばいい。
「もー、何やってるの……? あんな言い方したら、怒らせるに決まってるでしょ?」
「成長するためには、良いライバルが必要なんだよ。ぎりぎり勝てるくらいの、ちょうど良い強さのライバルがね」
「シノブ……」
それは志が低いよ、と。
アミは呆れていたが、モチベーションを高く維持し続けるための噛ませ犬としては、ラップはかなりの強敵だ。油断していたら、本当に追い抜かれてしまう恐れがある。
(ラップには負けないようにしつつ――――本命はエスタだな)
ラップの存在を、受験でいうところの保険や滑り止めにして、俺はA組の剣のエースであるエスタ・レントに勝つことを、密かに目標に定めた。
こうして、俺のA組の一員としての新生活が幕を開けたのである。
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